第47話。獲物は没収します。
チュートリアル後。
名前…モルガーナ
種族…【ドラゴニュート】
性別…女性
年齢…15歳
職種…【騎士見習い】
魔法…【闘気】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】
特性…飛行、【才能…鼓舞】
レベル…9
異世界転移10日目。
私とソフィアと弟子達は、ホテルで朝食を食べていました。
昨日、大騒動を引き起こした犯人のソフィアは、大反省中なので、いつもの元気がなく朝食を少しずつモソモソと食べています。
他のメンバーも、ソフィアの様子を気にして静かでした。
「ソフィア。取り返しが付かない事をクヨクヨしても仕方がありません。次に同じ失敗を繰り返さないように努力する。それしか出来ませんよ」
「わかったのじゃ。しかし、ノヒトよ。あのような仕様が何故この我に知らされておらなんだのじゃ?守護竜には【創造主】から知識が与えられていて然るべしなのじゃ」
「必要ないからでしょう。まさか、守護竜が用もなく【スポーン・エリア】にノコノコと探検に出掛けて行くなんて、ゲーム会社は想定していませんからね」
「ぬぐっ……それは、ごめんなさいなのじゃ」
「まあ、済んだ事です。幸にして今回の騒動の被害は軽微。亡くなった人は居ません。迷惑を掛けた人達には、2人で謝りましょう」
「うむ……」
今日は、この後【冒険者ギルド】に向かい昨日倒した【竜】と【翼竜】の死体を売却します。
今回は、スピード重視で倒した為に、全部首を斬り飛ばしてしまいました。
なので、完全な美品としてコレクションで【収納】に収蔵しておく意味もありません。
【冒険者ギルド】の後は、【センチュリオン】の【闘技場】を貸し切りにして、弟子達に魔力の扱い方の指導と、【チュートリアル】を経て魔法が使えるようになったメンバーへの指導。
昼食を食べてから竜都【ドラゴニーア】に【転移】して帰還の予定です。
高級鉄板焼きフル・コースが食べられなかったのは残念ですが、また機会はあるでしょう。
「ソフィア様。【青の淵】は、どんな場所なのですか?」
ハリエットが訊ねました。
「うむ。木々が生い茂る谷底では大地が裂け、地下深くへと切り立った断崖になっておったのじゃ」
ソフィアは多少口が重い感じです。
「それで、それで、中は?」
ハリエットはソフィアを促します。
「うむ……」
ソフィアが私の方をチラチラと見て来ます。
ソフィアは反省キャンペーン中なので……あまり武勇伝を自慢する雰囲気でもない……という事なのでしょう。
「ソフィア様。教えて下さい。アタシ、いつか家族の仇を討つ時に【青の淵】に行かなくちゃだから、中の様子を知っておきたいんです」
ハリエットはソフィアに頼みました。
「ソフィア。教えてあげなさい」
私は許可を与えます。
「うむ。断崖は光も射し込まぬ地下深くまで続いておっての、最深部には沢山の魔物が蠢いておったのじゃ。まあ、雑魚ばかりじゃったがな。我はブレスで魔物を蹴散らしながら淵の最深部を飛行して奥に進んだのじゃ。すると何やら竜の彫像があったのじゃ」
「神殿の礼拝堂にあるようなの?」
ハリエットは訊ねます。
「礼拝堂にある彫像は我の姿を模った物じゃから荘厳・華麗にして小粋、しかも高貴じゃが……【竜の淵】の彫像は下賎な【青竜】を象った物じゃった」
ソフィア……大して変わらないですよ。
「へえ、それで?」
ハリエットは訊ねます。
「うむ、その彫像に近付くと……刹那【儀式魔法】が発動し、我は【バトル・フィールド】に閉じ込められられたのじゃ。そこに20頭の【青竜】が出現したのじゃ。我は勇壮果敢に戦い見事勝利したのじゃ」
ソフィアは少し自慢気に言いました。
しかし、私がキッと睨むと、ソフィアはシュンとします。
「あの【青竜】が20頭も……。ソフィア様は凄い……」
ハリエットは目を剥いて言いました。
「うむ、まあ、大した事はないのじゃ。其方達は危険故、ノヒトの許可なく、そのような場所に勝手に行ってはならぬぞ。良いな?」
ソフィアは、私の方をチラチラ見ながら言います。
「わかりました。今のアタシじゃ絶対に敵わない。でも、いつかは……」
ハリエットは、決意も新たに拳を握り締めました。
「ソフィア。【青竜】の死体は回収しましたか?」
雑魚はともかく、【古代竜】の死体は価値があります。
「うむ。大半は【神竜の咆哮】で消滅させたが、残っていた骸は回収したのじゃ。7頭分じゃな」
ソフィアは左腕の【宝物庫】を指差しました。
【青の淵】などの特定【スポーン・エリア】は、一度入り強制戦闘イベントを終えると、一定期間は同じプレイヤー・キャラがエリアに入っても【強制遭遇】は発動しません。
なので、もしもソフィアが【古代竜】の死体を放置して離脱していた場合、私はソフィアに【古代竜】の死体を回収させるつもりでした。
私が行くと、当然また新たな【強制遭遇】が起こってしまい面倒ですので。
「ボス個体は?」
「消滅したのじゃ」
くっ、勿体ない。
一口に【古代竜】と言っても素材の価値はピンからキリまでありました。
【超位】の魔物は【高位】を上回る位階の魔物全てを指す為、非常に幅広いのです。
そもそも【超位】という位階は、その強さの比較として人種の尺度や分類の枠を超えた存在であるので、【超位】と呼ばれる訳ですからね。
【スポーン・エリア】の魔物の強さや数は、それに挑むプレイヤー・キャラの強さや人数によって変動するという仕様でした。
なので、【青の淵】の【スポーン・エリア】でボスとして出現し、尚且つその【強制遭遇】を発動させたキーが、現世最高神のソフィアだとすると、そのボス個体は設定上限目一杯の強力な魔物となる筈です。
名持ちの魔物である【ダンジョン・ボス】には劣るとはいえ、件のボス個体【青竜】の素材価値は計り知れません。
売れば最低でも15万金貨(150億円相当)以上になったと思われます。
そして【古代竜】は【超位】の魔物。
【超位】の魔物の【コア】は、当然【超級】でした。
【超位】の魔物は幅広いと言いましたが、【超級】の【コア】も品質として幅広いのです。
今回【青の淵】でソフィアが消滅させた【スポーン・エリア】のボス個体が持っていた【コア】は、たぶん【超級】の中でも更に高品質。
【ダンジョン・ボス】が持つ【コア】の品質には及ばないとはいえ、もしかしたら【神の遺物】の【自動人形】の【メイン・コア】にだって使えたのではないでしょうか?
まあ、消滅してしまった物は仕方がありません。
因みにボス個体以外の【古代竜】の買取相場は、1頭12万金貨(120億円相当)。
【竜】の買取相場は、1頭5千金貨(5億円相当)。
【翼竜】の買取相場は、1頭1千金貨(1億円相当)。
……というところ。
いずれも傷などがない完全な美品という扱いなら……です。
更に生きたまま捕獲すれば、その数倍の価値にはなるでしょう。
とんでもなく高いですが、地球でも最高レベルのサラブレッドは軽く1億円以上はしました。
また、竜騎士団は【竜】に乗って戦います。
超音速で飛び高機動・高火力の【竜】を最新鋭戦闘機だと考えるなら、地球なら数百億円単位はザラでしょう。
そう考えれば、そんなに法外な価格設定という訳でもありません。
「ソフィア。その【青竜】の死体は全て供出して下さい」
「む、何故じゃ?これは我が1人で倒した獲物じゃ。我の物じゃ」
「ほ〜う、この騒動の原因を作っておきながら、そういう姿勢ですか?私が迎撃に出なければ確実に人的被害が出ていたのですよ?」
「ノヒトよ。我も心から反省はしておる。じゃが、それとこれとは話が別なのじゃ。我はこれを売り、そのお金で美味しい物をたくさん食べ……あ、いや、孤児院出身者の支援事業に回すのじゃ」
ソフィアは慌てて言い直しました。
もう、遅い。
欲望がダダ漏れでしたよ。
「【青竜】の肉は竜騎士団に贈与します。そして竜騎士団が繁用している【竜】達の餌とします。今回ソフィアの所為で不必要な出動を強いられた竜騎士団への、せめてもの謝罪です。良いですね?」
「そんな、酷いのじゃ……」
竜騎士団が繁用する【竜】の内、幼生竜や妊娠している母竜には餌に強力な魔物の肉を与えるという方針が決められました。
これは、繁用している【竜】から【古代竜】を産ませ育てようという長期計画の一環です。
「皮、歯、爪、骨、内臓、血液などは売却して、パーティの予算とします。私はパーティの移動用に飛空船を建造する予定です。その費用に充当します。これは【センチュリオン】の被害を食い止めた私への報酬とさせてもらいます」
「我の食費が……あ、いや、孤児院出身者の支援事業予算が……」
「【青竜】の【コア】は私が造った【自動人形】の【メイン・コア】とします。これはソフィアへのペナルティですね」
【ダンジョン・ボス】には劣るとはいえ、【超位】の【古代竜】の【コア】は【超級】の品質。
おそらく、私が造った【自動人形】の方になら問題なく使えるでしょう。
「あんまりじゃ。せめて、1頭分は残して欲しいのじゃ」
「ソフィアの食事の面倒は私がみます。【古代竜】の買取相場は12万金貨(120億円相当)ですよ。12万金貨分も一体何を食べる気なのですか?」
「色々とじゃ……」
ソフィアは、もはや孤児院出身者の支援事業の為という言い訳を忘れてしまっています。
「とにかく、これは決定事項です。その代わり供出に応じれば、今後ソフィアに対して今回の騒動を引き起こした事を持ち出して責任云々を問う事はしません」
「本当か?」
「本当です」
「なら……全部渡すのじゃ……」
ソフィアは渋々取引に応じました。
・・・
【冒険者ギルド】・【センチュリオン】支部。
私が倒した【竜】8頭と【翼竜】60頭は【コア】と肉に関しては私が引き取ります。
肉は、こちらも竜騎士団に贈与する予定。
後の雑多な部位素材は【センチュリオン】の【冒険者ギルド】で買取ってもらう事にしました。
ソフィアの所為で迷惑をかけた償いという意味もあり、多少【センチュリオン】の経済に貢献しようという訳です。
査定金額がわかるのは、昼頃。
あまりにも量が多いので一度には保管出来ないとの事。
なので、私は【収納】から【宝物庫】を取り出し、そこに【竜】と【翼竜】の死体を移し、【冒険者ギルド】・【センチュリオン】支部ギルマスのウィルバーさんに【宝物庫】ごと預けました。
ウィルバーさんは、私やソフィアの素性を知っていますので、【宝物庫】を盗むような心配はないでしょう。
因みに、ソフィアが倒した【青竜】7頭は、設備の整った【ドラゴニーア】の【冒険者ギルド】に持ち込みます。
こちらは、既に大量の【竜】と【翼竜】を買い取った【センチュリオン】では、買取も解体も大変だと思いますので。
私達は【冒険者ギルド】を後にしました。
・・・
【センチュリオン】の【闘技場】。
私は弟子達に魔力の扱い方の指導を始めました。
まず、全員に……身体の中の魔力を圧縮して空いたスペースに自然回復した魔力を充当させる……という魔力増幅訓練法を指導します。
こちらは全く問題なし。
次に魔力に混ざる不純物を排除して魔力の純度を上げる訓練法を指導します。
こちらも簡単に全員がクリアしました。
どうやら、【チュートリアル】で開花した弟子達の能力は、NPC生来の魔法適性よりも【上方補正】が掛かっているように感じます。
弟子達は、かなり上手に魔力を扱っていました。
NPCの基準で言えば、ちょっとした天才レベルです。
直ぐにハリエットやアイリスやモルガーナは武器に魔力を流す技を覚えてしまいました。
他のメンバーも習得に時間はかからないでしょう。
普通NPCが、ここまで行くのには10年掛かると云われているのにです。
う〜む、【チュートリアル】……チートですね。
取り敢えず弟子達には武器や道具に魔力を流す訓練を続けさせ、私は雑用を片付けてしまいます。
まず、ソフィアから【青竜】を引き取りました。
その時に【コア】だけは先に抜き取ります。
【青竜】の口を開き、私はその中に潜り込みました。
【コア】のある場所は胸部上方。
外側から見ると、丁度……逆鱗……と呼ばれる場所の内側に【コア】があります。
逆鱗に触れる……などと言いますが、逆鱗は脳や脊椎と並ぶ最重要器官であり急所でもある【コア】を外部刺激から保護する役割もあるので、逆鱗に触れられれば【竜】は激怒しますよね。
胸部上方にある【コア】を体の内側から切除し回収しました。
切開した部分は、一応細胞を癒着させておきます。
【コア】を抜き取った【青竜】の死体は、そのまま私の【収納】に保管。
この方法は価値のある【古代竜】の外皮を、なるべく傷付けずに解体する技術です。
こうして私は、次々に7頭の【青竜】の【コア】を抜き取りました。
ソフィアは恨めしそうにその様子を眺めています。
私は【青竜】の【コア】……つまりバレー・ボール大の【魔法石】に【積層型魔法陣】を構築しました。
私の持つ工学魔法と魔法物理学の技術と知識の全てを注ぎ込んだモノです。
気が付くと、ロルフとリスベットが私の作業を食い入るように凝視していました。
「訓練は如何したのですか?」
「ごめんなさい。どうしても近くで見たくて……」
ロルフは言います。
「あまりにも凄まじい技術だったものですから、つい……」
リスベットが言いました。
まあ見ても、今の2人には真似出来ないと思いますが好奇心に勝てなかったのでしょう。
【収納】から私が造った方の【自動人形】を取り出しました。
後は【メイン・コア】を装填すれば動くという半完成品です。
7体分の【コア】が手に入ったので、昨晩は3体を急いで仕上げました。
「なら……2人とも手伝って下さい」
「「はい」」
ロルフとリスベットは嬉しそうに言います。
手伝うと言っても、私が【積層型魔法陣】を組み上げた【メイン・コア】を外身に装填するだけですが……。
【自動人形】を立たせ前屈させて背中のハッチを開きます。
その内部の空間に【青竜】から採取した【コア】に【積層型魔法陣】を組み上げた【メイン・コア】を装填。
ピタリと納まりました。
【自動人形】の背中のハッチ・カバーを閉じ【加工】で完全に密閉固着させて製造全工程完了。
非【神の遺物】としては歴史上最高性能の【自動人形】が、完成しました。
お読み頂き、ありがとうございます。
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