第45話。自由時間。
チュートリアル後。
名前…アイリス
種族…【猫人】
性別…女性
年齢…16歳
職種…【斥候】
魔法…【闘気】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】
特性…【才能…潜伏、索敵】
レベル…10
【ホテル・センチュリオン】のロビー。
午後……私は弟子達に1人あたり銀貨3枚(3万円相当)のお小遣いを渡して自由時間に送り出しました。
【チュートリアル】で得た金貨1枚(10万円相当)があるので小遣いはいらない……と遠慮する弟子達に私は言います。
「私と行動を共にしている時は、私金を使う事は許可しません。何か必要な物がある時には私に言いなさい」
これはノヒト・ナカ一門としての決定事項なので弟子達には従ってもらいますよ。
また私は……【チュートリアル】で開花した能力を早速試したい……と言う弟子達に……自由時間をのんびりと過ごす事も訓練の内だ……などと言って丸め込みました。
仕事中毒という物は一度発症すると自分の意志では抑えられない恐ろしい不治の病なのです。
かつての私のように……。
都市の中なら危険はないと思いますが、一応女性チームや男性チームというふうに、ある程度纏まって行動するように指示しました。
念の為、緊急信号を発報させる魔道具を各自に持たせます。
簡易的な魔法通信機器……一種の【ビーコン】でした。
この【ビーコン】を発動させると、その位置座標が私に報されて【ビーコン】を目掛けて、私が【転移】するという訳です。
なので、私の弟子達に手を出したら酷いですよ。
さてと、そろそろソフィアを【ドラゴニーア】の【竜城】に送り届けなければいけません。
ソフィアは……【チュートリアル】で【転移】の能力を得たので、もう1人で帰れる……と言いますが、そうは問屋が卸しませんよ。
あなたは逃亡未遂の前科三犯なのですから。
私は、キッチリと【竜城】にソフィアを連れ帰り、アルフォンシーナさんに引き渡しました。
ソフィアは公務が終わり次第【センチュリオン】の【神竜神殿】に【転移】で戻って来る予定です。
弟子達の女性チームは幼馴染に会いに行くハリエットとアイリスに同行して、その後は、みんなでウィンドー・ショッピングをするつもりなのだとか。
男性チームは武器屋や魔道具屋などを物色するそうです。
私はというと。
ホテルの部屋に戻り内職。
少し【魔法装置】でも製作しようと思います。
毎晩【メイン・コア】がない【自動人形】を1体ずつ造っていますが、その他にも雑多な機器は色々と必要を感じるようになって来ていました。
例えば魔法通信機。
900年前魔法通信機はユーザーなら大体持っていました。
スマホのような形状でメールと通話とチャットが行える物です。
魔法通信は電波通信と違って出力の高い【魔法障壁】や【結界】が張られていない限り、遮蔽物を貫通して何処まででも光速で届きますので惑星軌道上に人工衛星を飛ばす必要もなし。
ソフィアなど守護竜が展開する【神位結界】などを通す場合は【結界】の両側にアンテナ基地局を建て【結界】を有線で跨がせていました。
しかし、現在この携帯型魔法通信機は廃れてしまっています。
魔法通信機自体はあるのですが、NPC企業が生産している魔法通信機は家庭用冷蔵庫くらいの大きさがありました。
デカ過ぎて携帯不可能なのです。
ここにも魔法衰退の余波が……。
大き過ぎる事に加えて高額な事もあって、軍を始めとする公官庁、ギルド、大企業などに設置してあるだけで個人や世帯には普及していません。
リアル・タイムで情報伝達が出来ないのは、現代人にとって想像以上に不便を感じさせるモノなのです。
ともかく私は、せめて弟子達には携帯型魔法通信機を持たせたいと考えていました。
なので……なければ自分で造ってしまえ……という訳です。
因みにアルフォンシーナさんや、エズメラルダさんクラスの高位の【魔法使い】は【念話】が使えるので、携帯型魔法通信機を必要としません。
さてと外装はミスリルで良いか。
魔法伝導率が高いミスリル外装なら本体そのものが高感度のアンテナとなりますしね。
【コア】をどうするか?
この【コア】の小型化が出来ない事が、現代において携帯サイズの通信機を造れない最大の要因。
クズのような小さな【魔法石】では高度なコマンドを遂行させる【魔法公式】を刻めませんし出力も不足します。
私は【ドラゴニーア】の魔道具屋街で買い占めてあった市販品としては最高品質の【魔法石】を20個ほど取り出し、それを【加工】で、スマホサイズの直方体に成型しました。
【魔法石】の体積がソフトボール大なので、厚みは相当ですが……。
冷蔵庫サイズと比較すれば十分に携帯出来るレベルでしょう。
角の当たりが良いように丸みを持たせましょうか。
良し、完璧。
これがミスリル外装に包まれた内部機構の全てとなります。
つまり、半導体も、バッテリーも、回路基板も、モニターも、スピーカーも、マイクも、あれやこれやも……全て【魔法石】がその役割を果たすという事。
【魔法石】の汎用性の高さはヤバいですね……さすがはゲームの仕様。
簡単にやっていますが【魔法石】の形状を変える事は【超位】クラスの【名匠】でなければ不可能です。
スマホの形になった【魔法石】に【魔法公式】を組んで……と。
出来た。
ここまで精緻な【魔法公式】を組んで刻めるのは私だけでしょうね。
その精度は物質の分子構成を1つ1つ並べ直すレベル。
おそらく【神位】級の難易度でしょう。
ふふふ、自画自賛。
【魔法公式】を刻んだ【魔法石】をミスリルで覆って……と。
うん、ミスリルの緑銀色の光沢が渋い。
この携帯型魔法通信機の【魔法公式】自体は、ゲーム時代のユーザーは普通に使用していたので秘匿技術ではありませんし、仮に内部を調べられても技術的に再現出来るとは思えませんが、一応外装を剥がそうとしたら内部の【コア】情報が全て自壊するようにしておきましょう。
仕上げに【耐久力】向上、【防御力】向上、【対魔法防御力】力向上を最大限【バフ】して出来上がり。
私は、こうして20台の携帯型魔法通信機を完成させました。
取り敢えず、動作確認を……。
「もしもし、ハロハロー、プロント……」
うん、問題なし。
メールなど全ての機能に異常なし。
もちろん、私の携帯型魔法通信機は【竜城】などにある大型の魔法通信機との間でも通信が出来ます。
さて、正式名……携帯型魔法通信機……では呼称が長すぎますね。
何か商品名的なモノを考えますか……。
900年前のゲーム時代、携帯型魔法通信機の事をユーザーは……スマホ……と呼んでいました。
う〜む……。
面倒臭さっ。
もう、そのまま【スマホ】で良いや。
ス魔法……なんちゃって。
私は【スマホ】20台を【収納】にしまいました。
さて、お次は、と。
私は、もう1つ不便を感じた事がありました。
それは弟子達を連れての移動です。
私とソフィアの2人だけなら大概は超音速飛行で事足りますし、ソフィアが【転移】を覚えた事で、今後の活動範囲はドンドン広がって行くでしょう。
【転移座標】が設置されている場所に移動するのなら、弟子達と一緒でも【転移】すれば良い訳ですから簡単です。
しかし、【転移座標】がない場所に向かうには?
その時に、いちいちソフィアの背中に弟子達を乗っけてというのも面倒です。
ハリエットのような頭の中の危険感知機能が多少おバカになっている娘もいますしね。
私自身は不死身ですが弟子達は違うので、落っこちやしないかと移動中ずっとヒヤヒヤしました。
私は移動中はリラックスしたいタイプなのです。
眠さを感じないので必要ありませんが、本来なら寝ていたいくらいですよ。
まあ、ソフィアを旅客機代わりに飛ばせておいて自分だけ寝るのも如何かと思いますが……。
それで、何らかの移動手段を持つべきだと考えました。
この世界では、各大陸・各都市を結ぶ【航路ギルド】の定期飛空船が運営されています。
【航路ギルド】とは定期運航の飛空船による旅客や貨物輸送を担う世界組織でした。
【航路ギルド】が運営する大型飛空船は東西南北の各大陸を日夜運行し続けています。
また各大陸にある東西南北の各主要都市と中心都市間でも、それぞれ運行されていました。
主要都市内を巡回する乗り合い飛空船に関しては仕様は同じですが、こちらを管轄するのは各国や各都市の担当の役所であり【航路ギルド】ではありません。
この世界航路のハブである事が世界の中心【ドラゴニーア】が繁栄する理由の1つです。
しかし、この定期運航飛空船には1つ問題がありました。
その理由を説明する前に、まずは何故【航路ギルド】は航空ギルドではないのか、という核心に触れる疑問を呈しましょう。
【航路ギルド】の発足は、900年より更に昔という設定でした。
実は、この航路も定期運航飛空船もデザインされた世界の世界観の一部なのです。
航路はゲーム製作サイドが設定したモノ。
世界中を飛び交う沢山の定期運航飛空船は、【初期構造オブジェクト】の1つでした。
つまり、定期運航飛空船は破壊不可能で、プレイヤーが航路を変えるなど他の目的への流用も出来ません。
また、その航行や離着陸は、全て何者かによる自動制御でした。
何者かとは、もちろんゲームのプログラムです。
ある一定以上の大きさと品質の【魔法石】は魔力を少しづつ回復するという不思議設定があるので燃料補給の必要はありませんが……。
操縦は?
メンテナンスは?
などなどの疑問は……ゲームの仕様だから……という理不尽ワードで片付けられてしまう不思議現象なのです。
つまり、【航路ギルド】は何故だかわからないけれど勝手に世界中を飛んでくれている全自動の定期運航飛空船を使わせてもらっているだけの存在。
文字通り……航路……という世界のインフラを管轄しているだけの組織という訳です。
【航路ギルド】の定期運航飛空船の建造自体もロスト・テクノロジー。
現在の技術では再現不可能でした。
まあ、未来の技術でも完全に同じモノは造れませんけれどね。
【ドラゴニーア艦隊】のように操舵が可能な多数の飛空船を持つ国家は【ドラゴニーア】の他に存在しないのです。
【ドラゴニーア】の飛空艦隊は900年前の生産系の天才ユーザー達が総力を結集した巨大プロジェクトでした。
彼らは実社会では本物の戦闘機やロケットを設計していたエンジニアや、航空工学や流体力学や物理学などの学者さん達だったのです。
しかし、彼ら天才達の最高傑作【ドラゴニーア艦隊】旗艦【グレート・ディバイン・ドラゴン】でさえ、【航路ギルド】が運営している定期運航飛空船には性能的に及びませんでした。
閑話休題。
という事は、航路を外れた場所に移動する為には、当然自力で移動手段を確保しなければいけません。
なので私はプライベート・船を造ろうと思います。
空を飛ぶ訳ですから、形状は別に船型に拘る必要はありませんが、既存の港やドックを使おう思えば規格が違うと不具合が生じるでしょう。
やはり船型で。
大きさは移動だけならヨット程で事足りますが……。
例えば、先々モルガーナやティベリオに竜騎を準備してやると想定するなら、【竜】を艦載出来る程度の大きさは必要です。
駆逐艦か巡航艦くらいは……デカイな。
一般騎兵志望のティベリオは、おそらく馬か陸上騎獣か、精々が【翼竜】で済む筈ですが、モルガーナは竜騎士団志望。
つまり【竜】に騎乗します。
船内に【竜】を格納出来る巨大な厩房が必要。
もし万が一【古代竜】なんかだとすると、【竜】の3倍の大きさ。
やはり、最低でも【巡航艦】サイズにはなりますね。
【竜】を船から飛翔させる為の巨大なハッチも必要です。
【グレート・ディバイン・ドラゴン】のような飛行甲板を持つ航空母艦タイプも選択肢の一つですが……。
う〜む、無難に強襲揚陸艦タイプですかね?
何が無難なのかはわかりませんが……。
陸上戦力として複数の【ゴーレム】を配備したりして……いや、【収納】があるので船内に格納するのは無意味です。
しかし、船のクルーとして【小型ゴーレム】を使うという考え方は、あり得ますね。
しかし、今私が造っている【自動人形】にコアが入れば、それで賄えます。
あちらの方が性能も汎用性も高いですからね。
クルーは【自動人形】達にしましょう。
そうだ!
【神の遺物】の【自動人形】を船長にして……。
いやいや、あの【自動人形】に関しては用途を制限するのは勿体無い。
知性と自我がありますからね。
私やソフィアの秘書として使いましょうか。
話がズレました。
取り敢えず、大きな強襲揚陸艦を設計しましょう。
面倒な造船は今回も外注。
軍用を兼ねる飛空艦なら【ニュートン・エンジニアリング】辺りに発注するのが良いですね。
あそこは【ドラゴニーア艦隊】の修理・整備などメンテナンス業務の一部を受注している実績もあります。
良し、決定。
機関部とコンピューターに類する【コア】の部分は、もちろん私が造ります。
炸薬式の火砲はいりませんね。
弾薬の補給が面倒ですし、砲手が必要になりますので。
武装は個艦防御用に【魔導機関砲】だけにしましょう。
【マッピング】機能と連動させたファランクス・システムです。
これを艦首と艦尾と両舷……甲板上と艦底の両面に設置して合計8門。
居住空間は、なるべく快適に……。
基本設計は、こんな感じかな。
後は【ニュートン・エンジニアリング】に丸投げしちゃえば良いや。
問題は費用をどうやって捻出するか……。
高機動な装甲艦の体裁を整えて【魔導砲】などの火器類を搭載させたフル・スペックの新造巡航艦は1隻100万金貨(1千億円相当)。
しかし、私が【メイン・コア】などの基幹部を自作すれば【ダビンチ・メッカニカ】に50mの【アイアン・ゴーレム】を発注した時と同様に半額にはなりそうです。
ただ、それでも50万金貨(500億円相当)……バカ高いですね。
軍用艦は高価です。
操舵・管制と機関員は【自動人形】で賄えば人件費コストは浮きますが……。
現在の私の保有現金は、約15万金貨(150億円相当)。
お金を稼がなくては……。
【竜】を100頭単位で狩る必要がありますね。
ここは【センチュリオン】。
【神竜】の庇護による【結界】の外に出て東に進めば【青の淵】があります。
【青の淵】は【古代竜】である【青竜】の生息地。
現在は竜騎士団や軍が巡回・討伐を行っていて、【青竜】は【スポーン】し次第討伐されています。
現在【青の淵】に【周期スポーン】で生まれた【青竜】はいないでしょう。
しかし……ゲームの仕様で【周期スポーン・エリア】の中枢に、こちらから侵入して【強制遭遇】してしまう方法もありますが……。
いや、ダメですね。
【センチュリオン】の都市住民に迷惑が掛かりますので。
私がやれば【スポーン】した【青竜】を討ち漏らし都市に被害を出すようなミスはしないと思いますが、万が一はあり得ますし、第一実害がないとしても都市近郊に【古代竜】が【スポーン】するだけで騒動や混乱は生じます。
避難などで子供が転んだり、お年寄りが心臓発作を起こしたりという二次被害は十分にあり得ますからね。
やはり、魔物の狩は、防衛などで致し方ない場合を除き、周辺に騒動や混乱を発生させない【遺跡】など隔絶された【マップ】や、人口密集地を避けて行うべきでしょう。
お読み頂き、ありがとうございます。
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