第44話。ステータス確認。
チュートリアル後。
名前…ハリエット
種族…【兎人】
性別…女性
年齢…16歳
職種…【刀士】
魔法…【闘気】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】
特性…【才能…刀技】
レベル…10
【センチュリオン】の【神竜神殿】。
「【転移】は、とても楽しいのじゃーっ!」
ソフィアは数千km彼方の【竜都ドラゴニーア】の【竜城】礼拝堂と、現在地【センチュリオン】の礼拝堂の間を覚えたての【転移】で行ったり来たりして燥いでいました。
あれは、放置、放置……。
「では、みんなのステータスを確認します。その後お昼ご飯を食べて、午後は夕食の時間まで自由行動です」
遊んでいる駄竜以外の一同は全員頷きます。
「まずは全員に共通して魔力を制御する能力が発現していますね。【闘気】という【任意発動能力】が使えるようになっていると思いますが、これは魔力を自身の身体や武器・防具などに流す事で身体能力、耐久力、攻撃力、防御力などを上げる事が出来ます。因みに私やソフィアは【闘気】を使い、素手で【古代竜】を殴り殺せます。みんなも訓練を積めば、そういう事が出来るようになります。もうグロリア達4人には教えてありますが、魔力を高める訓練法、魔力の純度を高めて【器】の能力を高める訓練法などがありますので、明日これは再度指導します。魔法詠唱が行えない者も、この訓練を繰り返せば強力な戦闘力を身に付けられますし、また魔法詠唱が出来なくても魔力を自由に扱えるようになれば【魔法石】などに【魔法公式】を刻んだり出来ます。また、ヒヒイロカネ、オリハルコン、アダマンタイト、ミスリルなど超硬度を誇る鋼材を【加工】する際にも必須の能力ですので、戦闘職の【魔法使い】だけでなく、生産職にも役に立ちます。なので一生懸命に訓練をして下さい」
一同は返事をしました。
「次に【収納】と【鑑定】と【マッピング】ですが、これを英雄達は……三種の神器……などと呼称していました。英雄は、この3つを必ず持っているのです。どうやら【チュートリアル】をクリアした、あなた達の三種の神器は、NPC……つまり、この世界の人種のそれではなく、英雄と同じ性能のモノとなっています。例えばモルガーナ、あなたの【収納】は以前より容量が増えているでしょう?」
「はっ!容量限界の100kg、20品目に増えていますっ!」
「つまり、英雄の使う三種の神器を、【チュートリアル】をクリアした事で、あなた達も使えている訳です。【鑑定】も然り。通常の【鑑定】は卓越した目利きの範疇にありますが、英雄と同様あなた達が使う【鑑定】は、より高性能のモノです。物品に使えば、その性能がわかりますし、物質に使えば、その素性や構造がわかる筈です。戦闘の場合、相手が持つ武器の性能や特殊効果が瞬時にわかるという事は大変に有利ですし、ロルフとリスベットのように生産、開発、研究に携わる者にとっては、物質の素性が測定機器より正確にわかるという事は大変に有用でしょう」
一同は頷きながら真剣に傾聴しています。
「【マッピング】についても、この世界の住人は原則として【マッパー】という特別な【職種】に就いていなければ【マッピング】の【能力】が発現しません。しかし、あなた達は全員【マッピング】能力を持っていますね。試しに【マッピング】の機能を発動してみて下さい。今あなた達のいる場所が示されていますね?現在地が【センチュリオン】の【神竜神殿】と表示されている筈です。中心にある緑色の光点が、あなた達を示します。あなた達の半径100mが表示範囲ですが、縮尺を変えると都市サイズ地図、大陸サイズ地図、世界サイズ地図にもなります。ただし行った事のない場所は黒くて何も表示されません。それぞれの場所に行く事によって【マップ】が表示されるようになります。青い光点は味方を表します。ここにいるメンバーそれぞれの名前が青い光点と一緒に表示されている筈です。ここにいるメンバー、そして神殿の【女神官】であるオフィーリアさんや【修道女】のみなさんが青い光点になっていますよね?つまり、オフィーリアさん達は、あなた達を味方と認識してくれているという事です。今は範囲内に表示はないと思いますが、白い光点は中立の個体、赤い光点は【敵性個体】を、それぞれ表します。【敵性個体】とは魔物や、あなた達の事を害そうとする誰かです。訓練すれば、この【マップ】の表示を頼りに遠距離から魔法で敵を倒す事も可能です。任意の場所にピンを打つと、そこが黄色い光点となります。それは自宅や拠点、または目的地などの目印として活用します。【転移】を覚えると、ピンを打った場所を、そのまま【転移座標】として登録する事も出来ます」
一同は色々と【マップ】機能を弄っているようですね。
「では個人のステータスを見ていきましょう。まずはグロリア。あなたは半覚醒状態になっている【回復・治癒】の魔法を覚えましょう。【才能】がありますから、すぐ覚えられます。しかし、より精度を上げて、その効果を高めるには努力が必要です。医学、生理学、解剖学、分子生物学……などといった知識を身に付ければ、【回復】も【治癒】も劇的に効果が高まりますし魔法効率も良くなります。【ドラゴニーア】に戻ったら私が医学書などを買い揃えてあげますので、それで勉強をして下さい」
「わかりました。ありがとうございます」
グロリアは言いました。
「ハリエットは【刀技】。これは刀を使う能力に秀で、また、その熟練値が伸び易いという【才能】です。訓練次第でドンドン技術が上達する筈です」
「はい。頑張ります」
「アイリス。【潜伏】は森林や暗闇に紛れる能力で隠密行動に秀でます。【索敵】は敵を一早く見つける事が出来ます。およそ1kmやそこいらは、先程の【マップ】上に表示出来ますよ。訓練を積めば更に遠くの状況も克明にわかるようになり、敵の兵種や戦闘力、魔物の種類などもわかるようになる筈です」
「はい。修業します」
「ジェシカ。【潜入】はアイリスの能力と同様に隠密行動に長けますが、更に建物などに進入する能力が秀でています。【解錠】は鍵を開けられます。訓練次第で魔法錠を開けたり【罠】を解除したり出来るようになります。ただし絶対に悪用はしないように」
「わかりました」
ジェシカは神妙な顔で頷きます。
「モルガーナ。【鼓舞】は味方の士気を上げる効果があります。一見単純で効果が見え難いのですが、その効果範囲は周辺の味方全員という広範に及ぶ為、軍や騎士団などで集団戦を行う場合は極めて強力な【才能】となり得ます」
「はっ!」
「サイラス。【無痛】は戦闘中に一切の痛みを感じなくなります。しかし防御力が高まる訳ではないので、気付かない内に致命傷を負っていたなどという事になります。注意が必要ですよ」
「わかりました」
「ティベリオ。【統率】は味方に指示を出し一糸乱れず指揮出来るという強力な【才能】です。しかし指揮官が戦術を間違えれば味方を危機に曝すという諸刃の刃ともなり得ます。あなたは戦術論、用兵、兵站など高度な軍事理論を学ぶ必要があります。【ドラゴニーア】に戻ったら、私がそういった書籍を買い揃えてあげますので勉強して下さい」
「このティベリオ。粉骨砕身努力致します。ご指導ご鞭撻の程、何卒よろしくお願い致します」
「ロルフ。あなたの【加工】は全生産職垂涎の【才能】です。しかし知識や熟練値が伴わなければ宝の持ち腐れともなります。【ドラゴニーア】に戻ったら、私が物質素性、鉱物特性、工学技術などの書籍を買い揃えてあげますので一生懸命に勉強して下さい」
「はい。頑張ります」
「リスベット。研究職にとっての【防御魔法】の有用性は先程説明しました。【才能】がある【防御魔法】は、かなり上達が見込めますが、あなたは元々高い魔法適性があります。まずは【低位魔法】を覚え、【中位】、【高位】と高めて行けば薬学の研究にも役立つ筈です」
「はい。勉強します」
弟子達は【贈物】としてもらった初期装備は記念品として保管しておく事にしたそうです。
【収納】の能力が開花したので、そのくらいは良いでしょう。
・・・
「【転移】は楽しいのじゃ〜……」
ゴンッ!
私は何十回目かの【転移】をして来たソフィアに拳骨を落としました。
「くぉーーっ!痛いのじゃっ!」
ソフィアは両手で頭を抱えて抗議します。
「いつまでも遊んでいないで下さい」
「うう、わかったのじゃ……」
私とソフィアはオフィーリアさんに許可をもらい【センチュリオン】の神竜神殿の使われていない部屋に【転移座標】を設置させてもらいました。
これで、いつでも【センチュリオン】には一飛びで来られます。
もちろんソフィアが遊び半分で構築した【転移魔法陣】は消させました。
【転移座標】は管理を杜撰にすると、【マップ】上に表示が溢れて訳が分からなくなるのです。
ユーザーの【転移能力者】は、基本的に自分が本拠地とする都市以外には、各都市に1つ、それも各都市の中央にある神殿に【転移座標】を設置する事が通例でした。
近距離で複数の【転移座標】を持つと【マップ】の縮尺によっては幾つもの光点が重なり意図した場所に上手く【転移】出来なくなりますからね。
・・・
私達は【センチュリオン】の神殿長であるオフィーリアさんに挨拶をして丘を下り、少し早目の昼食を摂る事にしました。
「ハリエット、アイリス。何か食べたい物はありますか?せっかくの故郷です多少のワガママは聞いてあげますよ」
「う〜ん、あたしは外食のお店は良く知らないです」
ハリエットは言いました。
「私もです」
アイリスが言います。
そうですか……。
900年前のゲームの時代は【青の淵】で狩った【竜】の肉を使った料理などが名物でしたが、現在は【青の淵】は竜騎士団と軍が討伐にあたり、その素材は殆ど大型冷蔵輸送船で竜都【ドラゴニーア】に運ばれてしまっていました。
なので【竜】の肉は【センチュリオン】では、中々口に入らなくなっているそうです。
「【冒険者ギルド】に行ってみましょう。美味しい料理屋の情報は人の噂が集まる場所で聞いてみるのが一番です」
私達は【センチュリオン】の【神竜神殿】参道から、そのまま西に向かって真っ直ぐ伸びる目抜き通りを歩き【冒険者ギルド】に入りました。
・・・
【冒険者ギルド】の【センチュリオン】支部。
私達が【センチュリオン】に訪問する予定が報されていたのか、ギルド職員が私達を見付けて奥からギルド・マスターがやって来ました。
「ノヒト様。ようこそ、いらっしゃいませ。【冒険者ギルド】・【センチュリオン】支部ギルド・マスターのウィルバーと申します」
ウィルバーさんは七三分けに眼鏡という公務員然とした容貌で、スマートで生真面目そうな印象です。
しかし、【鑑定】によるとウィルバーさんの【職種】は【重装剣闘士】。
腰には分厚い刀身の【グラディウス】を帯剣していました。
厳つい剣です……。
「ノヒト・ナカです。こちらはソフィア。あとの者は弟子達です」
「お弟子さんですか?ノヒト様の門人ならば、さぞや優秀な方々なのでしょうね?」
「いいえ。最近弟子に取ったばかりの子達です。【銅級】が数人。他は、それ以下の実力しかありません。昨日行われた【ドラゴニーア】の武道大会予選では、2人が予選会の2回戦負け。他は予選会1回戦負けです」
「なるほど、修行を始めたばかりという事ですか。しかし10年後には、きっと皆さん有名になられるのでしょうね?」
「どうでしょうかね?本人達次第でしょう」
「昨日の予選会と仰いましたが、夜を徹して飛空舟を飛ばして来られたのですか?それとも騎竜で?お疲れでしょう?」
【竜都ドラゴニーア】と【センチュリオン】の距離は4千km以上。
アメリカが横断出来る距離でした。
普通に考えれば、そういう計算になりますよね……。
「いいえ。特別な移動手段があるのです」
「なるほど……。長々と立話をしてしまいまして申し訳ありません。さあ、奥へどうぞ……」
「お気遣いなく。用件を済ませたら、すぐ食事に行く予定なのです」
「そうですか。ご用件をお伺い致します」
「では……ロルフ、リスベット、こちらに来て下さい」
私は2人を呼びました。
「「はい」」
2人がやって来ます。
「この2人を私のパーティに加えます。登録をお願い致します」
「畏まりました」
「それから、ウィルバーさんがご存知のお店で、何か美味しい物を食べさせるお店はありませんか?出来れば【センチュリオン】ならでは、という物が良いのですが」
「食事処ですね。でしたら、この先にある【ホテル・センチュリオン】の鉄板焼きが有名です」
「ははは、実は、そこに今夜宿泊する予定なのです」
「そうでしたか。そうすると……多少庶民的な田舎料理なのですが、この裏の路地にある川魚料理の店などはいかがでしょうか?【タカマガハラ皇国】の料理でウナギをライスに乗せた料理を食べさせる店ですが、中々滋味深い味わいですよ」
「うな丼ですか?それは良いですね。そこに行ってみます」
「ウナギをご存知でしたか?ああ、ノヒト様は世界を股にかけて職務を遂行なさっておられるのですよね」
「いいえ。うな丼は好物ですが、こちらでは見掛けなかったので、とても有益な情報です。ありがとうございます」
私はロルフとリスベットのパーティメンバー登録を済ませ【冒険者ギルド】を後にしました。
・・・
ウィルバーさんに教えてもらった、うな丼の店。
店名は……【ハママツ】。
鰻の養殖産地として有名な浜松と何か関係が?
だとしたら、この店の創業者は日本人のユーザーでしょうか?
私達は特上うな丼を人数分プラスアルファと、白焼き、鰻巻き、肝焼き、肝吸いなどを注文しました。
私、アイリス、ジェシカ、ティベリオ、ロルフ、リスベットは、うな丼1人前。
グロリア、ハリエット、モルガーナは2人前。
サイラスは3人前。
そしてソフィアは……10人前。
馬鹿者。
張り合うんじゃない。
まあ、良いですけれどね……。
うな丼の味は……くーーっ、美味い!
凄い。
日本の鰻より、やや柔らかく身が厚い。
聞けば、こちらの鰻は2m以上の大物。
日本人に馴染みがある30cm大の鰻は、こちらでは生息していないのだとか。
うん、異世界鰻……素晴らしい。
「モルガーナ。我の鰻巻きを返すのじゃ」
10人前のうな丼を既に食べ終えたソフィアが何やら騒いでいます。
「ソフィア様。私も卵が好物なのです。これは私の分です。ソフィア様は、もう鰻巻きを5皿も食べてしまわれたではないですか。ソフィア様といえど、これはお譲り出来ません」
鰻巻き……鰻を卵焼きで包んだ物ですね。
私は、まだ食べていないのに……え〜い、追加だ。
お読み頂き、ありがとうございます。
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