第43話。チュートリアル。
チュートリアル後。
名前…グロリア
種族…【狼人】
性別…女性
年齢…16歳
職種…【武道家】
魔法…【闘気】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】、【回復・治癒】(未習得)
特性…獣化、【才能…回復・治癒魔法】
レベル…10
【センチュリオン】の【神竜神殿】。
私達が参道を登って門を潜ると、神殿の前に1人の【女神官】と大勢の【修道女】達が整列していました。
「ソフィア様、ノヒト様。本日は、良くお越し下さいました。私は【センチュリオン】の神殿長を拝命しております、オフィーリアと申します」
神殿長のオフィーリアさんは、恭しく礼を執ります。
「今日は要望を聞き届けて頂きありがとうございます」
私は、オフィーリアさんにお礼を言いました。
「ありがとうなのじゃ」
ソフィアも手を上げて礼を述べます。
【センチュリオン】の【神竜神殿】には、今日の一般礼拝を全て断ってもらっていました。
外部の人に見られると色々と面倒な事になりそうですので。
「あ、あのう……神殿長様、私達を覚えていますか?」
ハリエットがオフィーリアさんに声を掛けました。
アイリスもハリエットの横で静かに佇んでいます。
「まあ、あの時の子達ね。確かハリエットとアイリス……2人とも、こんなに大きくなって」
オフィーリアさんが言いました。
「覚えててくれたのですか?」
アイリスが訊ねます。
「ええ、もちろん。私達【女神官】は出会った子供の顔と名前は忘れないのよ」
オフィーリアさんは言いました。
ハリエットとアイリスは、オフィーリアさんに抱きしめられます。
【女神官】の記憶力に関して、そんな設定はなかった筈ですが、それを言うほど私は野暮ではありません。
ハリエットとアイリスは、この【センチュリオン】の出身です。
2人は昔、家族と共に隊商を組んで【センチュリオン】の東にある【青の淵】付近を進んでいる時、【青竜】に襲撃されました。
幼いハリエットとアイリスを残して2人の家族は全員【青竜】に食べられてしまったのです。
生き残ったハリエットとアイリスを保護したのが【センチュリオン】の【神竜神殿】。
彼女達は治療と養生の為、数か月をこの神殿で過ごし、その後【竜都】の孤児院に移ったという過去がありました。
その時にオフィーリアさんが、ハリエットとアイリスを慈愛を持って看護したそうです。
「さあ、2人ともソフィア様とノヒト様のお弟子さんになったのでしょう。今日は大切な試練を受けに来たとか。ならば時間を無駄にしてはいけませんよ」
オフィーリアさんが言いました。
「「わかりました」」
ハリエットとアイリスは素直に従います。
そうですね。
旧交を温めさせてあげたいのは山々ですが、やるべき事があります。
それを先に片付けてしまいましょう。
・・・
私達は、全員で礼拝堂に入りました。
オフィーリアさんに頼み、礼拝堂には誰も近付けないようにしてもらっています。
「先ずはソフィア。ここに立って下さい」
「わかったのじゃ」
私はソフィアを礼拝堂の祭壇の正面に立たせ、祭壇に置かれた竜の彫像をグルリと一回転回しました。
これは本来ユーザー自ら動かすのですが、設定上NPCは【チュートリアル】を発動させる【キー・オブジェクト】が動かせない為、私が代わりに動かします。
すると、ソフィアの足下に【転移魔法陣】が浮かび……一瞬にしてソフィアの姿が掻き消えました。
お、行った、行った。
つまり、NPCでも【チュートリアル】に挑戦出来るという事ですね。
・・・
数秒後……ソフィアが【転移魔法陣】に出現しました。
手には【鋼のブロード・ソード】が握られています。
「アヤツめ……【神竜の咆哮】を吐きおった……くっ、おのれ……」
ソフィアは口から煙を吐き出しながら言います。
ここに帰還したという事は、ソフィアは【チュートリアル】をクリアしたという事。
「おかえり、ソフィア」
私はソフィアを労いました。
【チュートリアル】では、どんな攻撃を受けても装備品の類が壊れる事はありませんし、中で傷を負っても外に戻ると全て完治します。
しかし、ソフィアの様子から、中で激闘が繰り広げられた事が窺えますね。
「何じゃ?あれから、ずっと待っておったのか?」
ソフィアが訊ねました。
「【チュートリアル】の中は、時間の流れが外の世界とは違うのですよ。なので、ソフィアが中に入ってから此方では3秒程しか経っていません」
「そうか。我は丸3日程、彼奴めと戦っておったのじゃ。強敵じゃった……」
ソフィアは言います。
まあ、自分のダミー……つまり【神竜】と対戦した訳ですからね……。
「ソフィアは、どんな【贈物】を貰いましたか?」
「うむ。まずは、この剣じゃ。大した性能の剣ではないが、これは記念品としてとっておくのじゃ。それから金貨を貰ったのじゃ。初めて自分でお金を稼げて嬉しいのじゃ。それから【鑑定】と【マッピング】をもらったのじゃ。【チュートリアル】では、その2つに加え【収納】も貰えるそうじゃが、我は既に最大容量の【収納】を持っておるから二重には貰えぬとの事じゃった。最後は【才能】じゃが……【天意】と【天運】と【転移】をもらったのじゃ。これで我も自由に【転移】が使えるようになったのじゃ」
ソフィアは興奮気味に喋りました。
なるほど。
【転移】と、【交渉】系【常時発動能力】最高位の【天意】と、【幸運】系【常時発動能力】最高位の【天運】ですか……。
超絶レアが一気に3個も付くとか……ありえん。
まあゲームマスターの私は全部持っていますけれどね。
それがプライベート・キャラの時に付いていれば……何か悔しい。
ソフィアは、元来魔法に関しては殆ど全てを使えた筈です。
しかし、【転移】に関しては、以前は【竜城】に帰還する際の一方通行でしか使えませんでした。
それが今回【マッピング】機能が【贈物】で貰えた事で、緯度経度などが正確に認識出来るようになり【転移座標】の設定と登録が可能となって、本来の【転移】が使えるようになったのでしょう。
「ソフィアの【職種】は……【領域守護者】で変わりなし……まあ、当然ですね。ともかく、ご苦労様でした。では次に挑戦するのは……」
「はいはい、アタシ、アタシ」
ハリエットが手を挙げてアピールしました。
私は、ハリエットを祭壇の前に立たせて、また【キー・オブジェクト】である竜の彫像をグルリと一回転。
ハリエットは掻き消えました。
・・・
一瞬でハリエットは出現します。
帰還したハリエットの手には【鋼の太刀】が握られていました。
剣ではなく太刀ですか?
「ひゃ〜、大変だった。2回も死んじゃった……」
ハリエットは言いました。
「ハリエット。太刀を貰ったのですね?」
「はい。何か【泉の妖精】様が、アタシには、こっちの方が向いてるって」
なるほど。
【チュートリアル】の【泉の妖精】は、【世界の理】からデータを受け取って、【チュートリアル】参加者に最適な【贈物】を与えます。
なので、如何なる時も【チュートリアル】の【泉の妖精】の判断は正確で……ハリエットには太刀が合う……という事なのでしょう。
「で、その他の【贈物】は?」
「そうだ。やりましたよ、先生。【収納】が使えるようになりました。それで【鑑定】と【マッピング】でしょう。金貨1枚でしょう。それから【刀技】の【才能】がもらえました」
ハリエットは飛び跳ねて喜んでいます。
「良かったですね。しかし【才能】は磨かなければ路傍の石のような物。鍛錬してこそ光るのですよ」
「はい。わかりました、ノヒト先生」
ハリエットは望み通りの【才能】が付きました。
因みに、彼女の【職種】は【刀士】です。
・・・
次はグロリアが挑戦。
彼女も一瞬で帰還。
グロリアの武器……というか防具を兼ねる扱いになるのでしょうか、両手に拳部分が強化された【ナックルダスター】が嵌められていました。
なるほど。
【狼人】のグロリアの場合、爪も強力な武器になりますので、私が支給した【ガントレット】のように手全体を覆ってしまう武器よりも指先が露出した形状の方が良いのかもしれません。
グロリアの【職種】は【武道家】ですね。
【収納】、【鑑定】、【マッピング】、金貨1枚は設定通り。
「あのぅ、何故か【回復】と【治癒】の【才能】を貰いました……。まだ何も習得していないので使えませんが……」
グロリアは困惑気味に言いました。
ほう、【武道家】で【回復・治癒職】を兼ねるという事は……上位職になれば【修道士】……いいえ、彼女は女性ですから【修道女】になりますね。
グロリアを育成する方向性が見えました。
・・・
次はアイリス。
【職種】は【斥候】で、武器は【短刀】と、何か他にも持っていますね……それは【クナイ】ですね。
つまり、上位職は【暗殺者】系統ではなく、あれです。
なるほど、寡黙な性格でハリエットに忠実に付き従うアイリスに合っているかもしれません。
【収納】、【鑑定】、【マッピング】、金貨1枚は同様。
「【潜伏】と【索敵】という【才能】をもらいました」
アイリスは報告しました。
完璧にあれです……アイリスが目指すべきは【忍者】……いえ、彼女も女性なので【女忍者】でしょう。
・・・
次はジェシカです。
【収納】、【鑑定】、【マッピング】、金貨1枚は同じ。
ジェシカの【職種】は……やっぱりというか何というか【盗賊】です。
既に【コソ泥】の職種持ちでしたからね……。
【盗賊】は、様々な【能力】を取得出来る使い勝手が良い【職種】なのですが、平たく言えば泥棒です。
やはり、イメージが良くありません。
まあ、ジェシカ自身の過去の誤ちに起因するので仕方ありませんね。
ジェシカの武器は【ナイフ】と【吹き矢】。
なるほど、非力な彼女の特性に合っています。
「【潜入】と【解錠】の【才能】をもらいました」
ジェシカが報告しました。
【盗賊】ですからね……然もありなんという感じです。
・・・
モルガーナの【職種】は【騎士見習い】で、武器は【投槍】。
【収納】、【鑑定】、【マッピング】、金貨1枚は同じ。
「【才能】は【鼓舞】でした」
なるほど。
指揮官特性が生えましたか……。
ふむふむ、竜騎士団志望なら悪くない【才能】ですね。
・・・
サイラスは【戦士】で、武器は【大剣】です。
【収納】、【鑑定】、【マッピング】、金貨1枚は同じ。
しかし……戦士職でも【戦士】ではなく【戦士】の方ですか。
【オーガ】の種族特性が反映されたのか、あるいは元の【職種】であった【暴れ者】の要素が反映されたのか……とにかく適切に育成しないと制御が困難な【狂戦士】になってしまいますね。
要注意です。
「【才能】は【無痛】でした」
【無痛】……これも要注意。
痛みを感じないので無茶をしがちになります。
私は、彼に【大盾】を支給しましたが、【泉の妖精】の判断では【盾】はなし。
なるほど、バランスよりも攻撃偏重型ですか。
まさか……【無痛】で痛みは無視しろ……という訳ではないでしょうね?
う〜む、まあ良いでしょう。
・・・
ティベリオの【職種】は【騎士見習い】で、武器は【ロング・ソード】です。
【収納】、【鑑定】、【マッピング】、金貨1枚は同じ。
【ロング・ソード】ですか?
そして彼も【盾】はなし。
私は彼の腕力では【ロング・ソード】や【槍】は扱えないだろうと考えて【サーベル】を支給したのですが……。
これも【泉の妖精】の思召です。
きっと、ベスト・チョイスなのでしょうね。
「【統率】という【才能】を頂戴致しました」
え!?
【統率】は超絶レアの【才能】です。
指導者特性という大枠で言えば【王権】という【才能】が、より上位にありますが、軍の前線指揮能力では【統率】が最上位。
この……青瓢箪……のようなティベリオが指揮官ですか……解せぬ。
・・・
ロルフの【職種】は【鍛治士】で、武器……もとい道具は【ハンマー】。
【収納】、【鑑定】、【マッピング】、金貨1枚は同じ。
【ドワーフ】の【鍛治士】ですか……ハマりすぎですね。
「やりました。【加工】の【才能】がもらえました。【ドワーフ】にとっては最高の【才能】です」
【加工】は激レアの生産系万能スキル。
【加工】は、どんなに硬い鉱物でも自在に成型出来ます。
ただし、レベルと熟練値が上がらなければ、その域には到達しません。
修業あるのみです。
・・・
最後はリスベット。
彼女の【職種】は【化学者】で、武器……いや道具は【杖】。
【収納】、【鑑定】、【マッピング】、金貨1枚は同じ。
「【才能】は……【防御魔法】でした……」
リスベットは、少しガッカリしたように言いました。
どうやら、彼女は研究職系の【才能】が欲しかった様子。
「リスベット。あなたは薬学を極めたいのですよね?」
「はい。なので【調合】などが欲しかったのですが……」
「いいえ。薬学研究に【防御魔法】は最適だと思いますよ。例えば薬学の研究では劇物、毒物、細菌など取り扱いが危険な物質を扱う事もあります。そういう物質を扱う時、研究室を【結界】で隔離したり、自らを【防御】で保護したり、物質や薬剤などを魔法で反応させる場合などでは【魔法障壁】を使える事は、この上なく役立つ筈です」
途端リスベットの表情がパアッと明るくなりました。
「そうですね。【防御魔法】が上達するように頑張ります」
リスベットは、笑顔で言います。
こうして全員の【チュートリアル】が終わりました。
私?
私は【チュートリアル】なんかしません。
というか必要がありませんよ。
元来、私は【チュートリアル】で得られる可能性があるモノを全てを持っていますので、これ以上【贈物】をもらう必要がありませんし、そもそも私は【チュートリアル】を絶対にクリア出来ないのです。
何故なら【チュートリアル】の私の最後の対戦相手は、私自身の【ダミー】。
【ダミー】は【オリジナル】の能力を完全にトレースした自分の分身。
ゲームマスターは……当たり判定なしで、ダメージ不透過……つまり無敵です。
なので、私と【ダミー】の戦闘は、お互いに全くダメージを与える事が出来ず永久に決着は付きません。
【転移】で【チュートリアル】から脱出する事は出来ますが、クリアは絶対に出来ないのです。
お読み頂き、ありがとうございます。
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