第42話。東の都市センチュリオン。
名前…ティベリオ
種族…【狐人】
性別…男性
年齢…15歳
職種…【小姓】
魔法…なし
特性…なし
レベル…5
異世界転移9日目。
早朝。
私とソフィアと獣人娘達は、【竜都】にある孤児院を併設した【神竜神殿】に【転移】して孤児院組の3人と合流しました。
「忘れ物はありませんか?」
3人は防具フル装備に武器を携え、肩から【不思議な鞄】を下げた出で立ちで頷きます。
「3人共。とりあえず武器と【兜】は【不思議な鞄】にしまっておきましょうか……。戦に向かう訳ではないので」
私的には鎧も脱がせたいのですが、弟子達は……都市外で行動する際は装備を身に着けていたい……と言いました。
確かに有事の際に悠長に何分もかかって鎧を着ていては身を守れませんからね。
それが冒険者の常識と言われてしまえば、仕方がありません。
如何でも良いのですが、装備がビッカビカに輝いていますね。
【神の遺物】ですから仕方ありませんが目立ち過ぎです。
獣人娘達の装備も輝いていました。
ゲーム時代のユーザー達は、隠密行動をする必要がある時に鎧の艶消しや汚し塗装加工をする場合もあります。
私は【収納】から【紺色のマント】を取り出して各自に支給しました。
これで多少は景観に紛れるでしょう。
「ソフィア。少し待っていて下さい。私は神殿長と話がありますので」
「わかったのじゃ」
神殿長のクリスタさんと来年の【マリオネッタ工房】への孤児院生の受け入れ予定について話をしていると執務室をノックする音が……。
【ドワーフ】のロルフと、【ダーク・エルフ】のリスベットでした。
2人は私の起業する会社【マリオネッタ工房】の幹部候補生です。
「モルガーナ達から聞きました。【チュートリアル】という試練に挑むとか?」
ロルフが言いました。
「【才能】が開花する可能性があるのですよね?」
リスベットが言います。
モルガーナ達が喋ったのですね……。
まあ、別に構わないのですけれど。
【チュートリアル】の件は別に【契約】で口外無用とはしていませんでした。
恐らく私が協力しなければ、NPC独力では【チュートリアル】には挑めない筈なので。
一応これ以上の情報拡散はしないように弟子達には移動中にでも【契約】をさせておきましょう。
「そうですが、何か?」
「僕も「私も、連れて行ってはもらえないでしょうか?」」
2人は言いました。
まあ、そういう話になりますよね……。
う〜ん、確かに【チュートリアル】は別に戦闘職だけが対象となる訳ではありません。
生産職系だって【チュートリアル】で得られる恩恵は大きいですし、ユーザーにとってはゲーム開始時点の強制参加イベントです。
「わかりました。良いでしょう」
私は許可をしました。
・・・
急遽2人の参加者が増えましたが、私達は総勢11人で東の都市【センチュリオン】に向かって出発しました。
先ずはソフィアが【飛行】で上空高高度まで飛び、そこで衣服を脱ぎ【神竜】形態に現身。
私が上空で待機するソフィアのところまで飛び、ソフィアの背中に昨夜の内職で製作しておいたベンチを【収納】から取り出して固定……同時に【転移魔法陣】を設置。
それから私だけ地上に降りて、弟子達を連れてソフィアの背中に全員で【転移】するという段取りです。
何故こんな回りくどい方法をとるのかというと、3つの理由がありました。
1つ、地上でソフィアが【神竜】形態に現身すると騒ぎになる為。
2つ、ソフィアが人化している事は基本的に機密としている為。
3つ、ソフィアが【神竜】形態に現身する時、裸にならなくてはならない為。
どうやら……一度私の【収納】に仕舞った装備品が自動的に使う者のサイズに合う……というギミックは、人種の身体にしか効果を発揮しないようなのです。
ソフィアが服を着たまま【神竜】形態に現身した結果、サイズが変わる筈の衣類が破れてしまいました。
私は……幼女サイズのソフィアに、ヒヒイロカネ製やオリハルコン製の高価な装備品を着せて【神竜】形態になってもらい装備品を巨大化させて、それを小分けに分解してから鋳潰し貴重な鋼材を無限増殖すれば、ソフィアを鉱山代わりに出来る……などと企んでいたのですが、それは無理という訳です。
おそらくゲームの仕様なのでしょうね。
これは私の【収納】に入った事により付加されたギミックに限る現象のようで、ソフィアの左手首にはめられた【宝物庫】などの【神の遺物】のアイテムは、ちゃんとサイズが変わって壊れたり破けたりはしません。
しかし【神の遺物】の価値は素材の希少性云々ではありませんからね。
素材を取る為などという理由で【神の遺物】を破壊してしまうような愚かな者はいません。
上空で待機する【神竜】形態のソフィアの背中に【転移】した弟子達は、座席に座ってシートベルトで体を固定しました。
私はシートベルトはしません。
もしも、弟子達が落下するような事態になったら、私が飛行して救助に向かう為です。
ソフィアが張る【神位】の【防御】の効果で風圧も重力加速度も発生しなくなるので、殆ど危険はないと思いますが、念の為準備だけはしておいた方が良いですからね。
さあ、ソフィアのスピードなら【センチュリオン】までは、たったの1時間。
空の旅を楽しみましょう。
・・・
【センチュリオン】の街並みが雲の切れ間から見えました。
都市住民を驚かせないように街の外れに着陸して、そこでソフィアは人化します。
私はベンチを【収納】にしまいました。
ソフィアは左手首の【宝物庫】の腕輪から【神官】のコスプレを取り出して着ます。
「ぢ、地面だ……」
1時間の移動で幾分かゲンナリとしたグロリアが言いました。
他のみんなも顔色が青褪めています。
高所恐怖症、あるいはスピード恐怖症かもしれません。
飛行していたのは成層圏ですからね。
翼で空を飛べるモルガーナでさえ、あの高高度をあの速度で飛行するのは未経験の世界で、かなりの恐怖を感じた様子。
竜騎士団に入っても、あんな高度を、あんなに高速で飛ぶ事はないので大丈夫ですよ。
ハリエットだけは高さも速さも全く平気でした。
単に感覚がお馬鹿なだけなのかもしれませんが……。
ただしソフィアの背中から身を乗り出して地上を覗くのは危ないのでやめましょう。
次やったら、デコピンしますよ。
さてと【センチュリオン】に入街しましょう。
都市に入るには【ギルド・カード】が必要なので、各自準備をします。
ジェシカは不安気な様子で私を見上げて来ました。
彼女の【ギルド・カード】には……保護観察処分中……という文字が大きく浮かび上がっています。
大丈夫。
私と行動を共にしている限り不利益を受けるような事はありませんので。
私達は都市城壁の入街手続きの列に並びました。
ゲームマスターの権威を使えば手続きなどは無視出来ますが今回のツアーは私用。
公私の区別は付けなくてはいけません。
私達の順番が来ました。
税関職員を兼ねる衛士達に挨拶をします。
「ソフィア様、それからノヒト様。【センチュリオン】にようこそ。【竜都】より指示は受けております。どうぞ、お入り下さい」
責任者と思われる衛士が敬礼しました。
【センチュリオン】でも公務員には私とソフィアの素性が報されているようです。
良いのですか?
税関では【魔法石】に手を置いて【契約】を発動させながら……違法行為は行わない。違法な物は持ち込まない……などと宣誓しなければならない筈ですが?
まあノーチェックで良いならば、このまま通りますが……。
・・・
【センチュリオン】。
【センチュリオン】は【ドラゴニーア】の東側に位置する城塞都市です。
国家としての【ドラゴニーア】内で【センチュリオン】は、西の都市【ラウレンティア】に次ぐ第三の都市でした。
技術立国【グリフォニーア】と竜都【ドラゴニーア】を結ぶ要衝である為、空路・陸上輸送の中継地として栄えています。
都市としての規模は【竜都】より一回り小さく、また都市城壁の外は、すぐ農地や林が広がっていました。
都市城壁の外側にも広範に都市圏が広がる【ドラゴニーア】よりは、ややローカルな印象でしょうか。
何となく田舎の街という風情で、観光地に来た感がありますね。
【センチュリオン】の中心には小高い丘があり、そこに【神竜神殿】が建っていました。
丘の中腹に主要な官庁が建ち並び、平地部分に人々が営みを築いています。
姫路や熊本の城下町というような趣きがありました。
気の所為か、往来する【センチュリオン】住民の歩調は、【竜都】の人々より少しユックリしているように感じます。
うん、嫌いじゃない雰囲気ですね。
私達は都市内を巡回している乗り合い飛空舟で中心部を目指します。
しばらくして目的の駅に着きました。
さてと、まずは宿にチェック・インしましょう。
事前に良さげな宿屋を見繕って予約しておきました。
【チュートリアル】を行う事になる神殿の近くにある宿へ向かいました。
この宿は【ホテル・センチュリオン】。
基本的に都市名を冠した名前のホテルは、その都市最高のホテルという意味があります。
なので【ホテル・センチュリオン】は部屋も食事もサービスも一流。
特に食事が有名でした。
ディナーでは鉄板焼きのフル・コースを食べさせてくれます。
やはり旅の楽しみは何と言っても食事でしょう。
・・・
ホテルのエントランスを歩きフロントで【ギルド・カード】を提示します。
「ノヒト・ナカ様と御一同様ですね。お待ち申し上げておりました」
フロント・クラークが恭しく挨拶しました。
私はチェック・インの手続きをします。
部屋割りは私とソフィア、グロリアとジェシカとリスベット、ハリエットとアイリスとモルガーナ、ロルフとサイラスとティベリオの4部屋となりました。
部屋を覗いて荷解きをする必要もありませんので、直ぐロビーに再集合します。
「さてと、まだ約束の時間に早いですが向かいましょうか……」
「ノヒトよ。我は何か食べたいのじゃ」
「朝食は2時間前ですよ」
「さっき、上からハンバーガーなる店を見たのじゃ」
ああ、空腹という訳ではなく食べ物の興味に負けたのですね。
仕方のない神様です。
私達はフロントに部屋のキーを預けて、近くのハンバーガー・ショップに向かいました。
ソフィアはカウンターに届かないので私が抱き上げます。
「この月見バーガーというものを3個欲しいのじゃ」
ソフィアはメニューを指差しました。
卵好きのソフィアは迷わず注文します。
「月見バーガーですね。ご一緒に、お飲物とポテトは如何ですか?」
「欲しいのじゃ」
「お飲物は、何を召し上がりますか?」
「オレンジ・ジュースが良いのじゃ」
「オレンジ・ジュースのサイズは、S、M、Lとございますが、如何致しますか?」
「大きいのが良いのじゃ」
「オレンジ・ジュースLサイズですね。ポテトのサイズは、S、M、Lとございますが、如何致しますか?」
「大きいのが良いのじゃ」
「月見バーガー3個に、オレンジ・ジュースLサイズ1つ、ポテトLサイズ1つですね?お会計は……」
「あ、会計はまとめて支払います」
私は言いました。
後は順番にカウンターで注文して行きます。
私はチーズ・バーガーとアイス・コーヒー。
後のメンバーも好きなモノを頼みます。
店内の階段を上り2階の喫食スペースへ移動。
チーズ・バーガーをひとかじり……。
美味っ!
何これ?
地球のマク○ナルドより数段美味い。
異世界はファスト・フードも侮れん。
「あの、ノヒト先生。【チュートリアル】って、どんな事をやるの?」
ハリエットが訊ねました。
「戦い方の基本を覚えたり、【贈物】をもらったりですね。全部あいつが教えてくれるので言う通りにしていれば大丈夫ですよ」
「誰ですか?」
あ〜、ややこしいので一応説明しておいた方が良いですね……。
「みんな、ちょっと聞いて下さい。【チュートリアル】に挑戦すると、とある【マップ】に飛ばされます。そこは現実の世界ではありません。そこで死んでも、また何度でも生き返ります。まあ【闘技場】の中みたいな場所だと思って良いでしょう。そこで、あなた達に色々と教える人物が居ます。彼は、私と同じ姿形をしていますが、私ではありません。まあ、【幻影】……みたいな物だと思えば良いですね。私の姿をした【幻影】に色々教わって試練をクリアして、最後に【泉の妖精】から【贈物】をもらうのです」
みんなは真剣な表情で聴いています。
まあ、死なないですし大して難しい事をする訳でもないので、ぶっつけ本番でも問題ないのですが……。
「戦うのですか?」
グロリアが言いました。
「ええ。簡単な戦闘があります。初めは【ボール】という空飛ぶ玉と戦います。すばしっこいです。次は【クレイ・ゴーレム】。今のあなた達にとっては、かなり硬い相手ですね。ただし動きは鈍重なので隙を見つけて攻撃すれば基本的には雑魚な【敵性個体】です。最後は、あなた達自身の【ダミー】と戦います。【ダミー】は今のあなた達自身をそっくりトレースした、もう1人の自分。ただしステータスが同じというだけで、連中に戦術という思考はないに等しいですから、知恵を働かせて対処すれば倒すのは比較的簡単です。その後【泉の妖精】に出会えます。【泉の妖精】は味方なので攻撃しないように」
弟子達は声を揃えて返事をします。
若干1名、関係ない子の声も聞こえました。
「ソフィア。あなたは【チュートリアル】に参加しませんよ。それに午後から公務があるのでしょう?」
「急いでやれば良いのじゃ。我もやりたいのじゃ」
ソフィアは駄々をこねます。
仕方ありませんね。
ソフィアは戦闘に関わるステータスは限界値を突き抜けてカンストしていますが、生産職系などのステータスが低い分野の【才能】が生えれば面白いかもしれません。
【転移】で【竜都】まで送り届ければ、時間的にも問題ないでしょうしね。
「わかりました。ならば何か有用な【才能】を覚えて来て下さいね」
「わかったのじゃ。至高の叡智を持つ天空の支配者たる我に相応しいモノをもらうのじゃ」
こうして私達は【チュートリアル】が行われる神殿に向かいました。
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