第41話。武道大会予選。
名前…サイラス
種族…【オーガ】
性別…男性
年齢…15歳
職種…【暴れ者】
魔法…なし
特性…なし
レベル…8
予選会が始まりました。
【闘技場】は沢山のスペースに区切られ、そこで一斉に試合が行われます。
弟子達の中でトップ・バッターはグロリア。
グロリアは私の言い付け通り初めから全力全開……【獣化】して戦います。
【狼人】は【獣化】する事で、身体能力を引き上げる種族特性を持っていました。
グロリアの身体は2m程に大きくなっています。
対戦相手は槍使いですね。
【鑑定】の結果、レベル差は歴然。
グロリアが勝つ見込みは殆どありません。
一撃入れば、もしかしたら……というところでしょうか……。
「始め!」
審判が合図しました。
グロリアは地面を蹴って躍りかかりましたが、見切られて脇下の鎧の隙間を魔力を込めた槍で貫かれます。
相手が強い。
鎧の【バフ】で致命傷には至りませんでしたが、グロリアは今の一撃で深傷を負いました。
参った……をしても、おかしくありません。
しかし、グロリアは痛みを堪えて再び襲い掛かります。
……が、今度も見切られて、カウンターの一突き。
グロリアは負けました。
グロリアの対戦相手は魔法を使えません。
しかし、魔力を身体や武器に込める事で強力な攻撃力を発揮する事が出来ます。
これをゲームでは【闘気】と呼びました。
グロリアの対戦相手だった槍使いの攻撃は込められた魔力と相まって、一撃でグロリアの鎧の【バフ】を貫通しています。
槍使いが槍の穂先に収束した【闘気】は、魔法の威力値に換算すると【中位】を遥かに上回る威力で、先端の刺突部に限れば【高位】に達していました。
この世界の設定では、詠唱魔法を使って戦う【魔法使い】より、詠唱魔法を使わない近接戦闘職の方が【闘気】を上手く扱えるように設定されています。
強力な戦闘職である【竜騎士】も魔法詠唱に頼らず戦います。
彼らの攻撃手段は魔力を込めた槍。
つまり、魔法が使えないからといって弱いとは限りません。
・・・
別の場所でジェシカの試合が始まりました。
ジェシカは種族的長所である【敏捷性】で撹乱しながらヒット・アンド・アウェー戦法でチクチク攻撃します。
相手は大柄な【オーク】の【組み技格闘家】。
組み技主体の相手に対する戦法として、ジェシカの戦い方は正解です。
……が、如何せん、レベル差がありますね。
ジェシカは、正方形の試合スペースの角へ巧みに追い込まれてしまいました。
予選会の特別ルールとして、試合スペースの場外に出ると失格になります。
ジェシカは、とうとう捕まえられて頭突き一発……【バフ】で耐えましたが……もう、一発……おまけの、一発。
うわ〜……。
ジェシカも負けました。
・・・
次はティベリオ。
相手は【黒魔法使い】
相手は【中位魔法】の【炎】で攻撃して来ます。
ティベリオは【ラウンド・シールド】で受けて【バフ】で耐えました。
ティベリオは距離を詰めて【サーベル】を振るいますが、相手は距離を置いて再び【炎】。
ティベリオは、今度は鎧の【バフ】で堪えます。
相手は魔力的に【中位魔法】は、もう使えません。
ティベリオ、今がチャンスですよ。
……が、ティベリオも【バフ】が剥がれて……。
相手は【低位】の【火】を連発して飽和攻撃です。
ティベリオは火達磨になりました。
あ〜……。
ティベリオの負け。
・・・
同時進行でアイリスの試合が始まっています。
相手は【モーニングスター】と【スパイク・シールド】を持つゴリゴリの【戦士】。
【モーニングスター】の一閃を、アイリスはヒラリと躱しますが……。
それは誘い罠です。
本命の攻撃は【スパイク・シールド】での【シールド・バッシュ】。
アイリスは吹き飛ばされました。
【バフ】が剥がされましたがダメージはなし。
アイリスは、場外反則負けをギリギリ堪えて起き上がります。
相手は距離を詰めて【モーニングスター】で殴打。
アイリスは肩をやられてしまいました。
アイリスの左腕はブランとしています。
あれは骨までイッてしまいましたね。
再びの【モーニングスター】の殴打……アイリスは躱しますが、それは先程と同じ【シールド・バッシュ】の餌食に……。
アイリスは飛び上がって盾を躱しレッグシザース・ホイップで相手を投げ飛ばします。
おお!
倒れた相手の顔面に【ショートソード】を突き刺して……アイリスが勝ちました。
素晴らしい。
・・・
サイラスの試合です。
相手は【暗殺者】の女性ですか。
上位職、尚且つ高レベル。
これは厳しい相手に当たりました。
サイラスの重い【メイス】の一撃を躱して、相手は擦れ違い様にサイラスの膝裏を【ショートソード】で一突き。
サイラスが倒れたところを、相手は兜と頸部甲冑の隙間から……。
ザクッ!
サイラスは【バフ】で耐えましたが、相手は冷徹に全く同じ箇所をもう一突き。
これで勝負あり。
サイラスは負けました。
「ちっ!硬っ。ミスリルが刃こぼれしちまった」
【暗殺者】の女性は言います。
・・・
次はハリエット。
相手は【半月刀】の二刀流ですか。
ハリエットが突き込みました。
ハリエットは全く躊躇がないですね……渾身の一突きです。
相手は片方の【半月刀】で、ハリエットの剣を受けて、もう片方で斬りつけました。
ハリエットは全く防御せず腹に斬撃をもらいます。
しかし【バフ】で耐え切って、返す剣で相手の手首を斬り飛ばしました。
ハリエットは、そのまま踏み込んで【ロング・ソード】を振り下ろします。
相手はハリエットの剣を【半月刀】で受けましたが、ここで参ったを宣言しました。
【神の遺物】装備頼みの突貫攻撃ですが、とにかくハリエットの勝ちです。
・・・
モルガーナの試合が始まりました。
相手は【剣士】。
モルガーナは魔力全開で【スピア】を投擲します。
モルガーナの槍は当たれば必殺……という威力の投擲でした。
ただし、それは幾ら何でもモーションが大き過ぎますよ。
相手に躱されましたが、モルガーナは投擲と同時に飛び込んで間合いを詰めています。
なるほど、必殺の一撃を囮りに使った二段構えの戦法ですね。
モルガーナは【グラディウス】を抜刀して完璧なタイミングで……相手のカウンターをもらいました。
【バフ】で耐えましたが追い討ちを食らいます。
モルガーナは負けました。
・・・
弟子達が戻って来ました。
勝ったハリエットとアイリスは誇らしげな様子。
負けた者達はガックリと肩を落としています。
私は全員に【回復】をかけ、ハリエットとアイリスには加えて【治癒】も掛けました。
出場選手は大会運営側の【女神官】による治療が受けられますが、私の【回復】と【治癒】の方が効果が高いですし即効性があります。
さて、反省会です。
「グロリア。あなたは、もう少し工夫があればと思います。しかし可能性を感じさせる戦いぶりでしたよ」
「ジェシカ。良くやりました。現状自分に出来る事を全てやりました。それで負けたなら止むを得ません」
「ティベリオ。現状のあなたでは、どうする事も出来ませんでしたね。シンプルに相手の力が上でした。一歩ずつ前進して行きましょう」
「サイラス。対人戦闘では相手は必ずあなたの弱点を突いて来ます。しかし、その弱点を突かせない戦い方をすれば良いとも言えます。悲観するような結果ではありません。それに、あなたの対戦相手は予選参加者の中でも上位に入る強者だったと思いますよ」
「モルガーナ。結果はともかく良くやりました。初めての実戦で臆せず主導権を握って自分から仕掛けていましたし、戦闘に合理的な意図が見えました。しかし対戦相手にも、その意図が見え見えでしたね」
「ハリエット。格上に勝ちましたから称賛に値します。ただし装備品の性能を過信してはいけませんよ。装備の性能が同等なら、あなたは何も出来ず斬られていた筈です」
「アイリス。今回の試合では、あなたが最も素晴らしい戦いぶりでした。腕をダメにされて、にも関わらず諦めずに活路を見出して勝利を収めました。現状のあなたの力量を鑑みれば文句の付けようがありません。パーフェクトです」
・・・
短いインターバルがあり予選二回戦が始まりました。
ハリエットが登場。
相手は【短槍】と【スパルタン・シールド】を持つ典型的な【スパルタン・戦士】。
ハリエットが踏み込み袈裟斬りに【ロング・ソード】を振り抜きました。
ハリエットは先程もそうでしたが、全く躊躇というモノがありません。
必殺の一撃に全力を込めるのは、必ずしも悪い事ではありませんが……。
相手はハリエットの剣を盾で受けて、【短槍】を突き立てます。
【バフ】が発動してハリエットにダメージはありません。
ハリエットは、またしても防御を捨てて【ロング・ソード】を逆袈裟斬りで振るいました。
……が、またも盾で防がれ打ち終わりの隙を突かれて……。
グサリッ。
今回は【バフ】がないので致命傷。
ハリエットは負けました。
・・・
アイリスの二回戦。
相手は【魔法使い】ふうの男。
アイリスは対【魔法使い】戦の定石……魔力の収束と詠唱を妨害する為に距離を詰めて戦います。
アイリスの巧みなフェイントから回し蹴り。
相手は、それを【杖】で受けて【放電】で迎撃。
【低位魔法】では、アイリスの防具の【バフ】は剥がせません。
アイリスは【ショート・ソード】で相手の手首を狙います。
相手は【杖】で防ぎ【放電】。
アイリスは魔法の打ち終わりの隙を狙っていました。
身体を投げ出してのニール・キック……。
相手は【収納】から、もう一本の【杖】を取り出し【中位魔法】の【氷結】を放ちました。
【バフ】が剥がされるのもお構いなしに、アイリスは【ショート・ソード】を突き立てます。
間断ない連続攻撃。
相手に強力な魔法詠唱を許さない意図でしょうが……。
アイリスの剣が突き立てられた瞬間、相手の首飾りの宝玉が弾けて【迎撃魔法】が発動。
至近距離から【地槍】がアイリスの身体を貫きました。
深傷を負ったアイリスは距離を取りますが、相手は手をかざして指にはめた指輪から【炎】を発動。
アイリスの身体を炎が直撃。
アイリスは負けました。
アイリスの相手は【付与術師】。
彼は、全て【効果付与】された魔道具の力で魔法を行使していました。
彼自身、【中位魔法】を一発撃つだけの魔力量しかありませんが、予め触媒に【効果付与】しておいた魔法を発動させて戦えば、魔力を使わず多数の魔法を放てる訳です。
【効果付与】を使えば強力な魔法を詠唱する為に魔力を収束する必要もありません。
魔力を収束する為にクーリング・タイムによるラグが起きないので、【効果付与】された魔道具などの数さえ揃えればノー・タイムで魔法が連発可能なのです。
つまり、アイリスの……相手に魔力収束と詠唱を行わせない……という戦い方は、初めから目的を達する事は出来なかったという訳です。
相手が上手でしたね。
・・・
ハリエットとアイリスが戻って来ました。
ガックリと肩を落としています。
私は弟子達7人に試合の総評を行いました。
技術的な事をクドクド言っても仕方がありません。
「私が想定するあなた達の1年後は今日戦ったクラス相手に……勝った、負けた……などと一喜一憂するようなレベルではありません。なので今日の結果は気にせず、今後の訓練に取り組んで下さい」
「「「「「「「はい」」」」」」」
7人は力強く返事をしました。
「夕食を食べに行きましょう」
「ノヒト先生。残りの試合を観ないのですか?」
グロリアが訊ねます。
「観たいのですか?この大会に出場している選手達の力量は、あなた達が目標にするようなレベルではありません。観る意味がないと思います」
私は言いました。
試合を観るのも訓練の内などと言いますが、それは達人名手の試合の場合。
軍や竜騎士団や衛士の訓練、あるいは武道大会本戦ならば観せたいですが、このレベルの試合を観ても……という感じです。
「おい、兄ちゃん。そいつは聞き捨てならねえな……」
1人の大会参加選手が私に食ってかかって来ました。
あ〜、お馴染みの寓意的な……絡まれイベント……の発生です。
時間があれば受けて立つのは吝かではありません。
しかし不味いですね……。
この入場ゲート奥のエリアは復活ギミックの効果範囲外。
ここで彼が死ぬと復活出来ません。
ゲームマスターは、あらゆる法規の外にある存在なので、仮に私が手を下した結果、彼が如何にかなったとしても私が罪を負わされる事はありませんが、死なれたら良い気分ではありません。
私なら相手を殺さず無傷で制圧出来ますが、それでは単に……相手に恥を掻かせるだけ……という結果になってしまいます。
恥を掻かせると、相手から恨まれるかもしれません。
う〜ん、面倒な状況ですね。
仕方がありません。
「【闘技場】で、お相手しましょう」
私は、絡んで来た大会参加選手を促しました。
・・・
私は、弟子達を連れて食事に向かいます。
絡まれ案件?
ああ、【神位魔法】の【煉獄】1発ですよ。
アルフォンシーナさんに【念話】で許可を取り予選会を一時中断させ、私に挑んだ大会参加選手と【闘技場】で向き合い、正々堂々瞬殺しました。
こういう絡まれイベントは、後腐れがないよう完膚なきまでに叩いておきます。
後で私の弟子達に報復を企図されでもしたら嫌ですからね。
力の差という物を骨身に染みさせておきました。
私は絡んで来た相手を……あり得ないほど過剰にブチのめして行くスタイル……なのです。
・・・
私と弟子達に公務を終えたソフィアと私の起業する会社で働いてもらう事になった孤児院生32人がが合流しました。
今日は大決起集会です。
予約しておいた中心街の高級ホテルのバンケット・ルームには大量の豪華な食事が用意されていました。
「さあ、お腹いっぱい召し上がれ。それでバリバリ働いて下さいね」
私の挨拶を合図に、皆一斉に料理に挑み掛かりました。
「ところで、ノヒトよ。武道大会予選で派手に暴れたらしいの?」
ソフィアが訊ねます。
暴れた……などとは人聞きの悪い。
「あれは説得です」
「しかしのう……ノヒトの所為で武道大会の価値が軽くなってしまったのじゃ。あんな馬鹿気た威力の魔法を見せられてしまった後では、武道大会の意義が強さの証明ではなく、単なる賭けの対象でしかなくなってしまったのじゃ」
「そんな事は今更です。竜騎士団や軍や衛士機構の精鋭が不参加なのですから、元より武道大会は最強を決める大会などではありません」
「まあ、そうじゃが。一応の建前という物があるのじゃ」
「平気ですよ。元来スポーツ競技とは、そういう物なのですから」
ボクシングの世界チャンピオンとブローニングM2重機関銃の銃手が戦ったらどちらが強いのか?……などという問いは全くの無意味です。
比較とは比較する意味がある事象に限って意味が生じるモノなのですからね。
宴会の料理を堪能して英気を養った孤児院組は満足して孤児院に戻って行きました。
・・・
私とソフィアと獣人娘達は【竜城】に帰還。
獣人娘達は、【女神官】達が寝起きする寝室の空き部屋に泊まります。
さて、明日は早朝に【センチュリオン】へ向かい弟子達を【チュートリアル】に挑ませる予定でした。
NPCにユーザー用のイベントが行えるのかはわかりません。
さて、どうなる事やら。
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