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第40話。訴訟の顛末。

名前…モルガーナ

種族…【ドラゴニュート】

性別…女性

年齢…15歳

職種…【小姓(ペイジ)

魔法…【闘気】、【収納】

特性…飛行

レベル…9

【冒険者ギルド】の小会議室。


 私は7人の弟子達に渡した武器・防具を【不思議な鞄】に仕舞わせました。

 装備類は各自で管理してもらいますが、これは貸与扱いです。


「モルガーナ、サイラス、ティベリオ。私の方に向かって真っ直ぐに腕を伸ばして下さい。サイラスは半歩後ろに退がって下さい。はい、そこ。ティベリオは半歩前に、はいオッケー。そのまま動かないように……」

 私は孤児院生3人組にも【転移(テレポート)】適応を調べました。


 3人も【転移(テレポート)】適応は問題なし。


 私は今いる場所に転移座標を設定して、その場【転移(テレポート)】をしました。

 3人の亜空間適応を調べたのです。


 3人とエミリアーノさんとドナテッロさんは……一体何をしているのか?……という表情。

 ソフィアと、既に亜空間適応検査を受けた獣人娘達は……ああ、あれね……という表情です。


「はい。もう手を下ろして結構。これから【転移(テレポート)】しますよ。なので、もう少し私の周りに近付いて下さい」

 私は指示しました。


 構築した足元の転移魔法陣を消去します。

 それから人数が増えたので【転移(テレポート)】の効果範囲を半径3メートルから半径5メートルに拡大しました。

 エミリアーノさんとドナテッロさんには効果範囲外の壁際まで下がってもらいます。


 私とソフィア、そして弟子達7人はエミリアーノさんとドナテッロさんに挨拶して、東側外縁部歓楽街の壁塔に【転移(テレポート)】しました。


 ・・・


 私達は歓楽街の大通りをゾロゾロと歩きます。

 女子組は普段通りの様子でしたが、男子2人は何となくソワソワ、キョロキョロしていました。


 ここは多少大人向けのお店などもある歓楽街です。

 私も10代の頃に歌舞伎町などを歩く時は、そんな感じでしたよ。


 昼食は【ジャガイモ亭】。


 おや?

 店先に……おとぎ話のクラリッサ王妃の実家……と書かれた立て看板が出ています。

 という事は、例の訴訟沙汰は【ジャガイモ亭】にとって良い形の判決が出たのでしょうね。


「ノヒト様、ソフィアちゃん。ようこそ、いらっしゃいませ」

 ジャガイモ亭の奥さんのダフネさんが言いました。


 今日は事前にテーブル席を予約してあります。


「さあ、好きな物を食べなさい」

 私はメニューを開いて弟子達に手渡しました。


 弟子達は少し戸惑いながらメニューを読み始めます。


「これから試合なのに食事をしても平気でしょうか?」

 グロリアが訊ねました。


 戦の時には胃に食べ物が入っていると槍などで突き刺された場合に胃の内容物によって傷の状態が悪化して生命を落とす可能性が高くなる……などと言って忌避する習慣があるそうです。

 また……満腹になると身体の動きのキレが失われる……という理由もあるのだとか。


 私は全く気にしません。

 私の【完全(コンプリートリー)治癒(・ヒール)】なら生きてさえいれば致命傷でも治せますし、武道大会が行われる【闘技場(コロッセオ)】は死亡しても復活出来るギミックがある場所です。


 満腹では身体のキレが失われる?


 それこそ良くわかりませんね。


 私は、この言説自体に生理学的根拠があるのか疑わしいとさえ思っています。

 私は学生時代バスケットボールをしていましたが、試合前でも平気でお腹いっぱい食事をしていました。

 それでパフォーマンスが低下した事は12年のキャリアで一度も経験がありません。

 むしろ空腹だったり食事の量が十分でない方が、持久力の面でパフォーマンスが著しく低下しました。

 きっと……運動中に水分を飲むとバテる……などという説と同じ類の非科学的なデタラメなのでしょう。


「食事は食べてられる時に、しっかりと食べておきなさい。有事の際は満腹だろうが空腹だろうが何だろうが、否が応でも戦わなければいけないのですからね」


 私は、こういう考え方です。


「「「「「「「わかりました」」」」」」」

 弟子達は元気良く言いました。


「今日のランチはメンチカツかオムライスですよ」

 注文を取りに来たダフネさんが言います。


 私はメンチカツ定食の、ご飯大盛り。

 ソフィアはランチ・メニューを両方と目玉焼きハンバーグ定食を、全てご飯大盛りで。

 弟子達は各々(おのおの)好きな物を注文しました。


「「頂きます」のじゃ」

 私とソフィアが言います。


「ソフィア様、ノヒト先生。その聖句は?」

 近くにいたモルガーナが訊ねました。


 ああ、こちらの世界では……いただきます、ごちそうさま……は特に決まり事として定着していないのですね。

 ユーザーの持ち込んだ文化として使われる場合もありますが、孤児院では食事の前に【神竜(ディバイン・ドラゴン)】……つまりソフィアに祈りを捧げる習慣だったとの事。


「これは、この食事が私達の元へ届くまでに携わった全ての人々の労力に感謝をする意味が込められている言葉です。農家、畜産家、漁師、卸売業、流通業、小売業、そして料理して下さった方々。こういう人々に感謝をする訳です。また私達が生きる糧を得る為に止むを得ず殺した……生き物の生命を頂く……という意味も含まれていますね」


「なるほど……」

 モルガーナは何やら神妙な面持ちで聞いていました。


「「「「「「「いただきます」」」」」」」

 7人の弟子達は私とソフィアを真似て唱和します。


 さてとメンチカツを……。


 ナイフを入れて割ると。

 おお、肉汁がジュワーッと溢れ出しました。


 私はソースを絡めて一口。


「熱っ。美味い」


 何の肉でしょうか?

 豚肉に近いようですが、より上品で柔らかく、しかも旨味が強い。


「ダフネさん。この肉は?」


「【パイア】の肉です。お嫌いですか?」


「いいえ、とても美味しいです」


【パイア】って都市城壁街の自然の中では割と何処(どこ)にでもいる猪の魔物ですね。

 なるほど、あれは、こんなに上質で美味しい肉なのですか……。

 今までは【コア】と毛皮くらいしか目ぼしい素材が取れない雑魚モンスターと(あなど)って遠目に見掛けても大抵は無視していましたが、今後は遭遇(エンカウント)したら積極的に狩って行きましょう。

 この肉は狩る価値がありますよ。


「げっふ……美味しかったのじゃ」

 ソフィアは、あっという間に完食してしまいました。


 ソフィアには敵いませんが、弟子達も、さすがは【獣人(セリアンスロープ)】と【オーガ】……気持ち良くなるくらいの食べっぷりです。


「量が足りなければ追加注文をしなさいね。遠慮は無用です」


 みんな追加注文をしました。


 ソフィアまで追加注文ですか?

 まあ良いですけれど……。


「オムライスなるものは恐るべしじゃな。卵を薄焼きにしてライスに巻くとは、正に至高と呼ぶに相応しい食べ物なのじゃ……」

 オムライスは卵好きのソフィアに刺さったようです。


 ソフィア……もう、この際、あなたは卵を食べておけば良いじゃない。


 ・・・


 食後。


「ノヒト様。先日書いて頂いた文書のおかげで裁判に勝訴しました。ありがとうございます」

 ベニートさんとダフネさん夫婦がお礼を言いました。


「そうですか。それは良かった」


「どうやら表通りのレストランは、自分達の言い分が正しいとする根拠の古文書を偽造していたそうです」

 ベニートさんが言います。


 裁判の顛末はと言うと。


 900年前【ドラゴニーア】の東側外縁部の歓楽街には一軒の定食屋がありました。

 その定食屋には夫妻と年頃の娘がいて、店の2階に住んでいました。

 娘の名前はクラリッサ。

 彼女は【ドラゴニーア】に遊学中だった【リーシア大公国】の皇太子に見初められ、結婚し【リーシア大公国】の正大公妃となりました。


 ……という事実を元にした有名な、おとぎ話があります。


 この、おとぎ話の定食屋は現在【ジャガイモ亭】が営業している場所です。

 私からその事実を聞いたベニートさんとダフネさん夫婦は、そのおとぎ話をお店で宣伝しました。


 ところが歓楽街表通りのレストランは……おとぎ話で有名なクラリッサ王妃の実家は自分の店だ……と強弁し……その証拠を示す古文書がある……として【ジャガイモ亭】を訴え謝罪と損害賠償を要求しました。

【ジャガイモ亭】を訴えたレストランの経営者一族は……自分達はクラリッサ王妃の親族筋に当たる……と日頃から宣伝していたらしいのです。


 私は……【ジャガイモ亭】の主張が正しい……とする魔法署名が入ったメモを、ベニートさんとダフネさん夫婦に渡し、裁判に証拠として提出するように言いました。

 そのクラリッサ王妃のサブ・シナリオを作ったのは私のチームなのですから間違いありません。


 結果【ジャガイモ亭】が勝訴しました。


 裁判の争点となったのは【ジャガイモ亭】の夫妻と、表通りのレストラン経営者一族の双方が裁判所に提出した証拠物件の信憑性。


 私が書いたメモと、表通りのレストラン経営者一族が持って来た古文書の、どちらに信憑性があるか?


【ドラゴニーア】の公的機関は私がゲームマスターだと知っていました。

 つまり、裁判所は個体識別が可能な魔法署名が入ったメモを書いたのが【神格者】の私だと理解した訳です。


 神が書いたメモは、即ち神託でした。

 世界(ゲーム)の人種NPCは……神託が嘘である筈がない……と考えます。


 当然、この世界(ゲーム)を創った【創造主(クリエイター)】の御使(みつかい)である、私の言い分の方が証拠能力が高いと見做されるのは明らかでした。

 そもそも、私はゲームの中ではありますが、おとぎ話の時代である900年前に生きていて、実際に定食屋の看板娘のクラリッサに会っていたのですから。


 もちろん、裁判所は私のメモを証拠採用して……ベニートさんとダフネさんの主張が正しい……と判断しました。


 そうなると、当然の帰結として……歓楽街表通りのレストラン経営者一族が裁判所に証拠として提出した古文書は何だ?……という話になります。

【神格者】が提出した文書が偽物である筈がないのですから、相反する内容の古文書は偽物だという事になりますよね。


 裁判所が古文書を【鑑定(アプライザル)】したところ。

 確かに紙は900年前頃と推定される物でしたが、インクの方が新しい物だったそうです。

 つまり全くの偽物でした。


 問題は表通りのレストランの経営者一族が、その偽造に関与していたのかどうか?


 第三者が持ち込んだ出所不明な古文書を、表通りのレストラン経営者一族は騙されて買った可能性もある訳です。

 当初、表通りのレストランの経営者一族は古文書の偽造への関与を否定していました。


 しかし、古文書の出所など、どうでも良くなるような大事件が起こります。


神竜(ソフィア)】復活に祝う為に【ドラゴニーア】を公式訪問していた【リーシア大公国】当代の大公……ヴィットーリオ・リーシアが……この表通りのレストランの経営者一族とクラリッサ王妃は一切の血縁関係はない。当該のレストランの経営者一族がクラリッサ王妃の親族を(かた)っている欺瞞を【リーシア大公国】として正式に抗議する……と明言しました。

 古文書の真贋などに関係なく、そもそも表通りのレストラン経営者一族が……自分達はクラリッサ王妃の親族筋だ……と吹聴している事自体が嘘だという事を、本物のクラリッサ王妃の直系子孫であるヴィットーリオ大公が断言して正式に抗議する旨宣言したのです。


 どうやら、ソフィアからヴィットーリオ大公に話が伝わったみたいですね。


 現在表通りのレストランは営業停止。

 詐欺罪と虚偽告訴と他国の王族の親戚を騙った不敬罪で逮捕。

 どうやら、財産没収の上【ドラゴニーア】を追放される事になるそうです。


 その経営者一族は、裁判所の詰問によって金儲けの為に故意に嘘を吐いていた事を自白したのだとか。

 この世界(ゲーム)には嘘を見破る(たぐい)のアイテムがありますからね。


 私には一切関係のない出来事ですが馬鹿な嘘を吐いた報い。

 自業自得です。


 もう1つ【ジャガイモ亭】にとっては朗報があります。

 それはヴィットーリオ大公が……先祖であるクラリッサ王妃の生家を見てみたい……との要望をしたらしく、近日大公は大公家のメンバーを引き連れて【ジャガイモ亭】を表敬訪問し食事をする予定なのだとか。

 一国の君主がワザワザ足を運んで食事をしに来るなどという事になれば、【ジャガイモ亭】は世界的な有名店になるでしょう。


 これもソフィアの差し金みたいですね。


 う〜む……お気に入りの【ジャガイモ亭】が有名になり過ぎると、お店が混雑して私が食事を出来なくなるかもしれません。

 それは少し困ります……。


 私は支払いを済ませ【ジャガイモ亭】を後にしました。


 ・・・


転移(テレポート)】で【竜城】に帰還。

 ソフィアは今日も午後から謁見です。


「応援に行けぬが頑張るのじゃぞ」

 ソフィアが弟子達を激励しました。


 ソフィアはアルフォンシーナさんにドナドナされて行きます。


 私と弟子達は【闘技場(コロッセオ)】に移動しました。

 弟子達は、もちろん【神の遺物(アーティファクト)】の装備に身を包んでいます。


 事前に出場選手登録を済ませておいたので、事務局で人数分のゼッケンを受け取りました。

 入場ゲートから【闘技場(コロッセオ)】内の様子を窺うと……。

 おお、すごい熱気です。

 予選会も賭けの対象となっていますからね。


 今回、私は賭けには不参加。

 仮に賭けるとするなら弟子達の負けに張る事になってしまいますので。

 もちろん弟子達には私の予想を裏切って勝って欲しいと思います。


 私は、弟子達に入念なウォーミング・アップをさせました。

 それが終わると、私は弟子達に薫陶をします。


「勝ち負けに拘らず、現在の力を全て出し切れば良いのです。相手は全員あなた達より格上です。負けて当然。胸を借りるつもりで初めから全開で挑みなさい」


「緊張します……」

 グロリアが言いました。


 この大観衆ですからね。


「緊張とは脳が身体により高いパフォーマンスを発揮させる為に行う暖機運転(アイドリング)です。それは正常な反応です。全く問題ありませんよ」


「ノヒト先生。何か作戦は?」

 ハリエットが訊ねました。


「ありません。ただ一生懸命考えて思い切りやりなさい」


 彼らは、まだ技術的な事をあれこれ言うような段階ではありません。


「う〜ん、考えてかぁ……」

 ハリエットは言いました。


「そうです。モフ太郎氏は初めての武道大会の時は一回戦負けだったそうですよ。なので勝ち負けは気にせず一生懸命やれば良いのです」


「はい、わかりました。よ〜し、頑張るぞーーっ!」

 ハリエットは気合いを入れます。


 弟子達の中では攻撃力が高いグロリア、モルガーナ、サイラスは……攻撃が当たりさえすれば……という期待がありますが、相手は格上ですので簡単には当てさせてもらえないでしょう。


 他のメンバーも武器の性能は悪くありませんので、急所に当たれば効かせられる筈ですが、如何(どう)でしょうか……。


 私は弟子達を予選会場に送り出しました。

お読み頂き、ありがとうございます。


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