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第37話。浄水場。

本日、8話目の投稿です。

 私の魔法講義は続きました。


「魔力を井戸水、【器】を釣瓶、運用を利水に(たと)えました。魔力は訓練で多少の底上げは可能ですが、【器】は生まれ付いての素質や【才能(タレント)】に左右されるというのが定説です。しかし【(ウォーター)】の魔法1発で【古代(エンシェント)(・ドラゴン)】を即死させられる事がわかったように、利水……つまり、運用や実践において魔法を応用させれば、【低位】の魔法でも劇的な効果を生む事はあり得ます。ですから、魔法には知識や知恵や創意工夫が重要なのです。既存の魔法を、こういうふうに使ったら如何(どう)だろう……あるいは、こうしたら、目的に適うかもしれない……と日夜探求する姿勢が全ての【魔法使い(マジック・キャスター)】にとって必要となる訳ですね」


 一同は深く頷きます。


「さて、私は先ほど……魔法は生まれ付いての素質や【才能(タレント)】に左右されるというのが定説……と言いました。井戸水である魔力はレベルに応じて、かなり増えるでしょう。しかし【器】の能力向上は、精々が2倍までと()()()()()()()()?しかし、それは事実ではありません。もしも、【器】の能力……つまり魔法の制御を数百倍以上に引き上げる方法があるとしたら如何(どう)でしょう?」


「そんな事が出来るのですか?定説では個人が持つ【器】は各人にとって先天的なモノで、その能力は大人になった時点からは不変のモノと断定されていますが?」

 アルフォンシーナさんが質問しました?


 800年以上生きていて尚且つ人種の中では最高クラスの【魔法使い(マジック・キャスター)】である筈の大神官が、そういう認識なのですから、それが、この世界(ゲーム)の常識なのでしょうね。

 しかし、【器】の能力は高められます。

 それは、もう劇的に……。


「【器】の能力は高められます。では……【器】の能力が後天的に高まるのだ……という前提に立って想像してみて下さい。つまり私が今言った、知恵を働かせて探究してみる訳です。どうやったら【器】の能力は高められると思いますか?」


「鍛錬します」

兎人バイペッド・ラガモーフ】のハリエットが元気良く答えます。


「その通り。しかし、ただ闇雲に鍛錬を繰り返しても五里霧中。暗闇の中を手探りで歩くように取りとめもありません。ここで【器】……即ち、魔法の制御を高める訓練法を教えます。これが魔力というモノを井戸水に例えた場合の魔法上達の4つ目の鍵……水質……に関わって来ます」


 一同は大きく身を乗り出しました。


 これは、おそらくNPCの【魔法使い(マジック・キャスター)】にとって、正に魔法の真髄、あるいは奥義とも呼べるモノ。

 きっと、どんな事をしても知りたい知識だと想像出来ます。


 一応、ここにいる全員には【契約(コントラクト)】で口外無用を約束させていますが、実は、これを教える事は……ゲームマスターの遵守条項……には全く抵触しません。

誓約(プレッジ)】ではなく【契約(コントラクト)】なのは、獣人娘達は魔法が使えなかったからです。


 魔法制御を高める訓練法は一部のユーザー達は知っていました。

 元は900年前の、()()()1人のユーザーが編み出したモノ。


 とあるユーザー……つまり私です。


 私はゲームマスターとしてはプログラムによって初めから魔力最大、魔法効果最大、魔法制御最大……などというチートを付与された存在なので、全く訓練などは必要ありませんでしたし、実際した事もありません。

 しかし私は、この世界(ゲーム)に、もう1人のプレイヤー・キャラを作っていました。


 私は、プライベートの時間では運営側のゲームマスターではなく、一個人のユーザーとして、このゲームを遊んでいたのです。

 その時に持っていた私の個人アカウントのユーザーとしてのキャラ・メイクは【死霊術士(ネクロマンサー)】。

 私は艱難辛苦(かんなんしんく)を乗り越え、膨大なプライベートの時間を費やし、給料の大部分を課金し、ゲーム廃人化し、何とかかんとかレベル・カンストして、【聖格】を得て【ハイ・ヒューマン】に昇華し、最高位の【(グランド)死霊術(・ネクロマンシー・)(マスター)】にまでマイ・キャラを育て上げました。


 そして、(いささ)かハッチャケたプレイをしていましたね〜。

 他のユーザーにプレイヤー・キル(PK)を仕掛けまくったり、NPC国家と戦争をしたり、などなど……。


 いやぁ、仕事では公明正大・公正中立のゲームマスターですから、プライベートではダーク・サイドのロールプレイを楽しみたかったのですよ……。


 黒歴史?


 いいえ、私のキャラは、ユーザー界隈や、この世界(ゲーム)のNPC達の間では相当に有名人だったのですよ。

 私のキャラは……不死者の(アンデッド・)添乗員(コンダクター)……という二つ名持ちでした。


 各地のダンジョンを膨大な数のゾンビで埋め尽くして攻略したり、50体の【エルダー・リッチ】軍団と共に南西の島【マグメール】に上陸して、【神格】の守護獣【ベヒモス】を屠殺したり、冒険者ギルドから要注意人物指定されたり……。


 十分に黒歴史ですね……。


 因みに、私のプライベート・キャラの二つ名は正確には……不死者の(アンデッド)指揮者(コンダクター)……だったのですが……私が、いつも大勢の【ゾンビ】や【スケルトン】や【リッチ】達をゾロゾロと連れて歩いていたので、私の姿が旅行会社の添乗員(ツアー・コンダクター)のように見えたことから、添乗員(コンダクター)だと誤解され、そちらが有名になり定着してしまいました。


 いや、当時は、まだ【宝物庫(トレジャー・ハウス)】が実装前だった為に【収納(ストレージ)】が常に満杯で【ゾンビ】達を仕舞う方法がなかったのです。

死霊術士(ネクロマンサー)】は【妖精】を使役する【召喚士(サモナー)】や、【精霊】を使役する【精霊魔法使い(メイジ)】などのように【霊体(アストラル)】を召喚して味方ユニットにする訳ではなく、死体という【物質(マテリアル)】を操作しますので必要がない時も死体は消えてくれません。

 また【調伏士(テイマー)】のように生き物を手懐ける場合は、生き物は自分で歩いたりしてくれますが、死体は勝手に歩きませんしね。


 多数の死体の管理には物凄く苦労しました。


 なので【死霊術士(ネクロマンサー)】は強力な戦闘職だったにも拘らず、ユーザーのキャラ・メイクとしては超絶不人気職だった訳です。

 単に死体を操るという特性が気持ち悪がられていただけかもしれませんが……。


 この世界(ゲーム)では【ゾンビ】や【スケルトン】や【リッチ】が【遺跡(ダンジョン)】のモンスターとしても良く登場しますので【敵性個体(エネミー)】の分類に含まれる場合もありますが、【不死者(アンデッド)】は魔物ではありません。

不死者(アンデッド)】は、あくまでも死体……つまり自我を持たない、ただの()という扱いです。


 従って【不死者(アンデッド)】は【死霊術士(ネクロマンサー)】が操作しない限り動きません。

遺跡(ダンジョン)】などに出現するモンスターやクリーチャーとして登場する【不死者(アンデッド)】は、全て【ダンジョン・コア】が操作している、言わばリモコン・ロボットなのです。

 なので、この世界(ゲーム)では噛まれたら次々に【ゾンビ】化するなどというメタ設定もありません。


 この、噛まれた者も【ゾンビ】化する説は、この世界(ゲーム)でも、NPC達には真実として語り継がれていました。

 それは、おそらく代謝機能や免疫系統を喪失している単なる死体の【ゾンビ】が不衛生な状態や疫学的に問題がある状態になっていて、何らかの細菌の温床になっていたり感染症を媒介した為だと思います。

 例えば食中毒菌や狂犬病などのような……。


 普通【死霊術士(ネクロマンサー)】は自分の支配下にある【ゾンビ】を使い捨てにしますから、結構不衛生な状態なのです。

 コスト的に【ゾンビ】をメンテナンスするより、ボロボロになるまで使い倒して、使えなくなれば新しい死体を確保した方が安上がりですからね。


 しかし、私が管理する【不死身(アンデッド)】達は基本的に汚損防止や腐敗防止の【効果付与(エンチャント)】がされていましたし、傷付けば修復を行っていましたので死体とは思えないほどに衛生的でした。

 なので、もちろん病気などは媒介しません。


 私は、()()()の福利厚生には気を配るタイプの【死霊術士(ネクロマンサー)】だったのです。

 そういう気遣いが出来なければ【(グランド)死霊術(・ネクロマンシー・)(マスター)】などにはなれませんよ。

 如何(どう)でも良い話ですが……。


 私は、そのプライベートのキャラの癖がゲームマスターの時も現れてしまい、ついつい良い【不死者(アンデッド)】に出来そうな【エルフ】などの人種の死体を【収納(ストレージ)】に保管したり、また素材として売れば莫大な収入をもたらす【青竜(ブルー・ドラゴン)】なども売らずに【収納(ストレージ)】に貯め込んでいました。


 魔法適性の高い【エルフ】の死体は【リッチ】にする事が出来ますし、【(ドラゴン)】の死体は強力な【腐竜(アンデッド・ドラゴン)】にする事が出来ますからねぇ〜……。


 ウヒヒヒヒ……。


 おっと危ない、またダーク・サイドに堕ちかけました。


 あ、いえ、ダーク・サイドに堕ちるとか、そんな設定は、この世界(ゲーム)にはありませんよ……雰囲気、雰囲気……。


 それはともかく……私は魔法に関しては相当に研究をして膨大なデータを蓄積しているのです。


 ・・・


「はい、皆さん。身体の中にある魔力をイメージして下さい。皆さんの身体中に魔力が充たされています。その魔力を身体の中心に圧し集めるようにイメージして〜……」

 私はヨガ教室の教師役になったつもりで言いました。


 これは900年前から普通にある、ごく一般的な魔力強化法。

 魔力を圧縮させると身体の中に圧縮された魔力と、その魔力がなくなったスペースがイメージ出来ます。

 その余剰スペースに時間経過で自然回復する魔力が充填され結果的に魔力総量が増えるという訳ですね。


 これは魔法制御を司る【器】強化の訓練法ではありません。

 これは【器】強化の訓練法に至る前段階として魔法を発動させずに身体の中で魔力を扱う事を明確にイメージしてもらう為に行います。


「さて、次は魔力の質を高めますよ。先ほどアルフォンシーナさんが言いましたね。【ドラゴニーア】では用水は浄水場で行われていると。そうです、魔力は井戸の水のようなモノです。つまり、浄水すれば純度を高められるのです。純度が高い魔力は余剰分が体外に漏れ出すと、オーラとして視認出来たり、またオーラに触れると微かに圧力を感じたりします。【神竜(ディバイン・ドラゴン)】形態に()()して降臨した直後のソフィアが、正にそういう状態でしたよね?私やソフィアの魔力は純粋な魔力そのものです。しかし、皆さんの魔力には不純物が混ざっています。この不純物こそが魔法の制御を狂わす元凶なのです。不純物を取り去った純粋な魔力なら魔法の制御は【魔法使い(マジック・キャスター)】のイメージ通りに扱えるようになりますよ。これが即ち【器】を強化するという意味です。さあ、魔力を純化して行きます。イメージは浄水場……」


 一同は集中力を高めて魔力の純化に取り掛かりました。

 私が確認したところアルフォンシーナさんは、かなり魔力の純化が進んでいます。

 さすがは大神官。

 他の【高位女神官(ハイ・プリーステス)】も、ボチボチという感じでしょうか……。


「くっ、上手く出来ません……」

 エズメラルダさんが魔力の純化に四苦八苦しながら言いました。


 確認するとエズメラルダさんの魔力は不純物が舞ってしまっていますね。


「力任せにしてはいけません。逆効果です。水の浄化をイメージして下さい。まずは静謐な水面のように魔力を穏やかな状態にします。それが出来たら不純物が水の底にユックリと沈み溜まって行く様子をイメージするのです。水底に不純物が溜まってドロドロになったら、それを体外に排出……」


「出来た!」

 エズメラルダさんは言いました。


「はい。コツは掴みましたね。それを繰り返して体内魔力の純度をドンドン高めます。やがて意識しなくても不純物を体外に自動的に排出するレベルまで行けば及第点。それを、もっと、もっと、突き詰めて行けば、やがて私やソフィアのように体内魔力が純粋な魔力だけになりますよ。そうなれば皆さんが日常的に使う【回復(リカバリー)】や【治癒(ヒール)】の効果が劇的に高まりますし、魔法を行使する際の魔力効率も高まり、余剰魔力が生まれ【完全(コンプリートリー)回復(・リカバリー)】や【完全(コンプリートリー)治癒(・ヒール)】が使えるようになります」


「何と!私共にも【超位魔法】が使えるのですか?」

 エズメラルダさんが声を上げます。


「はい、使えます。なので【女神官(プリーステス)】の日頃の修行項目の中に、是非この訓練法を取り入れて下さい」


「このような魔法の真髄を、他の者に教えても宜しいのですか?」

 アルフォンシーナさんが意外そうに訊ねました。


「はい。【ドラゴニーア】の【神竜神殿】に仕える【女神官(プリーステス)】達には教えても構いません。しかし、きちんと情報統制はして下さいね。無軌道に情報が拡散すると問題が起きた時に終息に苦労しますからね」

 私は、一応制約をかけておきます。


 この訓練法は、900年前一部のユーザー達には知られていたものでした。

 なので、情報を公開してもゲームマスターの遵守条項には違反しません。

 ただし、魔法が衰退してしまった現状、世界中のNPCに無差別に流布するには時期尚早だとも思います。

 世の中には、力を悪用しようとする性質(たち)が悪い者が一定数いますからね。


「畏まりました。必ず【誓約(プレッジ)】をさせ、無制限の情報拡散はさせません」

 アルフォンシーナさんが言いました。


 大神官のアルフォンシーナさんは、以前から【超位魔法】が使えていましたが、しかし1日に1回が限界だったそうです。【器】が強化されれば、その回数が増えますし、純度が高い魔力は魔法効果が高いので、個々の魔法の消費魔力も以前より格段に少なくて済みます。


 今後【ドラゴニーア】の【神竜神殿】は更に……いいえ、900年前のような強力な組織になるでしょう。


 グウゥゥ〜……。


「ノヒト。我はお腹が減ったのじゃ」


 朝ご飯の時間ですか……。

 予定より時間を取り過ぎました。


「では、今日の講義はこれまで。後は各自で訓練をして下さい。継続は力です」


「なのじゃ」


 たった数時間の講義で劇的に魔法の制御能力が向上した【高位女神官(ハイ・プリーステス)】は、多少足取りも軽く各自の持ち場に戻って行きました。

お読み頂き、ありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[一言] この話以前から気になってたんですが、 1話の描写で“自キャラの視点になっているのはありえない”というような発言がありますし、その時にマウスやキーボードを探すような描写と合わせて考えるとこのゲ…
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