第347話。月にかかる虹…7…観光。
【ドミニア】
竜都【ドラゴニーア】と北東の国境の街【ミレニア】との中間に位置する街。
牧歌的な田園風景が広がる【ドラゴニーア】国民の心の故郷と呼ばれている。
主産業は、農業と牧畜と観光。
キトリーが家族旅行で訪れた事がある。
竜都【ドラゴニーア】。
午前9時に【ルガーニ】を出発して、竜都到着が午後3時。
移動時間6時間ピッタリ……1秒たりとも誤差がありません。
さすが定期運行都市間飛空船……速くて正確です。
ほぼ等距離である【ミレニア】→【ルガーニ】間は、12時間かかりましたからね。
【ミレニア】を早朝に出発して、また時差もあったので、【ルガーニ】に到着した時は辛うじて夕方でしたが、私は眠くて【ルガーニ】の夜景を見に行くどころではありませんでした。
食事をして、ベッドにダウンでしたよ。
他の皆は、船内で適当に昼寝をしていたので、夜に【ルガーニ】の街を少し散策したそうです。
私は移動中、ずっと勉強していましたからね。
月明かりに照らされた【ルガーニ湖】の様子は、綺麗だった……と両親から聞かされました。
【ルガーニ】→竜都間は移動時間が短かったので、竜都では夕食まで数時間は観光出来るはずです。
今回は、私も観光に繰り出しますよ。
竜都【ドラゴニーア】。
船の上から見た景色は、圧巻でした。
本当に地平線の彼方まで都市が続いていたのです。
よくも、まあ、これだけの人種が集まったモノだ……と感心しましたよ。
竜都の風景として有名なのは空中に幾つもある浮遊島。
その中でも圧倒的な存在感を示す、竜城。
竜城は、竜都のランドマークであるばかりでなく、国家【ドラゴニーア】のシンボル。
船の甲板から、外見を眺めただけでしたが、竜城はとてつもない巨大さでした。
事前に予約してあるので、この後、竜城内の見学ツアーに参加します。
楽しみですね。
荷物は、ルフィナの家のボーイさん達が、今晩、私達が宿泊する宿屋パデッラまで運んでおいてくれます。
宿屋パデッラは、ペネロペが冒険者の仕事で竜都に訪れる際には、いつも利用するという比較的リーズナブルで食事とサービスが良いというオススメの宿。
ウチの家族と、ペネロペの家族は、今晩、宿屋パデッラに宿泊します。
まあ、竜都は物価が高いので、リーズナブルの意味合いが【ミレニア】のそれとは大分違いますけどね。
ルフィナの家族は、常宿【ホテル・ドラゴニーア】に宿泊します。
こちらは、全室スイートルームで料金も超高額なので、我が家は泊まれません。
・・・
竜城は、凄かったです。
凄い……としか形容出来ません。
思わずボキャブラリーが貧困になるくらい、ただただスケールが大きかったのです。
竜城の内部は、まるで街でした……それも空中に浮かんでいる……。
私と弟は口を開けて見上げたり、見下ろしたり……。
官庁街の巨大な吹き抜け空間を縦横無尽に飛ぶ、魔導・エレベーターにも乗りました。
人種には再現が不可能な技術です。
無数のエレベーターがケーブルもダクトもない空中を上下左右に高速で入り乱れて飛び交っているのに、よくぶつからないものだ……と感心しました。
ペネロペ家とルフィナ家は、何度か竜城には来た事があるそうです。
礼拝堂に上がりました。
巨大な空間に、数十mもある8体の竜の彫像が周囲を威圧するように立っていました。
礼拝堂の中心には、柵があって行く事は出来ません。
あの中心に降臨の【神位魔法陣】があり、大神官様が儀式をなさると、【神竜】様が顕現なさるのです。
その儀式をなさると、大神官様の生命は【神竜】様に捧げられる触媒として消えてしまうのだとか。
それにしても天井が高い。
竜城の礼拝堂は、私が今まで生きて来て見たモノの中で一番荘厳な雰囲気の場所です。
現世最高神である【神竜】様に祈りを捧げるに相応しい静謐な空間でした。
見学コースの向こう側を、【ドラゴニュート】の【女神官】様達が、静かに歩いていらっしゃいます。
私達、子供が手を振ると、ニッコリと微笑んで下さいました。
シャッターチャンス。
おっ、バッチリ撮影出来ました。
私は、【神竜】様に、お祈りを捧げました。
いつか学年順位で3位以内になれますように……。
何故1位ではないのか?
いや、どう考えても、それは無理でしょう。
ペネロペがいるのですから。
900年近く、世界中の賢者や哲人や大学者の誰にも証明出来なかった……グレモリー・グリモワールの不可能予想……を証明してしまうような、ペネロペの頭脳に敵う訳がありません。
ルフィナにだって勝てる気がしませんよ。
生まれて初めて、本物の【竜】も見ました。
見学ツアーの最後に、【竜騎士】の皆さんが、サービスで、行列で歩く私達ツアー客に向かって敬礼をしながら低空を通り過ぎてくれたのです。
風圧が凄い。
私は急いでカメラを構えたのですが、あまりにも通過が速過ぎてブレブレでした。
竜城見学の興奮も冷めやらぬ内に、私達は、宿泊先の宿屋パデッラに向かいます。
美味しい夕食を食べて眠りました。
・・・
翌朝早く、私達は【ドラゴニーア】を出発します。
今日の目的地は、【アルバロンガ】。
移動中、私は、もちろん勉強です。
途中、お昼ご飯を食べた以外は、全く手を休めずに勉強をして午後……。
「キトリー。【アルバロンガ】の管制空域に入ったから、甲板に上がって景色を見ようぜ」
ペネロペが私達の船室に来て言いました。
「私はパス」
私は勉強の途中なので断ります。
私達の家族がいる船室は二等船室なので狭くて窓もありません。
経費節約の為です。
因みに、ペネロペの家族は一等船室、ルフィナの家族は特等船室でした。
定期飛空船の運賃は、各家族持ちというのは、事前の取り決め通り。
我が家の部屋が一番貧相になるのは、世帯収入が違うので仕方がありません。
定期運行飛空船には、個室ですらないエコノミー・クラスやビジネス・クラスという椅子が並んだだけの区画もあるので、二等船室でも贅沢なくらいです。
私は、参考書を広げて勉強出来るスペースがあれば、問題ありませんので。
弟は、ほとんどの時間、ペネロペの下の弟と妹達と一緒に、大きな窓から外が見られる広々としたルフィナ家の特等船室に行っていますが、私を呼びに来たペネロペの後ろから部屋に入って来ました。
「お姉ちゃん。行こうよ〜」
弟は、私の手を引いて言います。
仕方がありませんね……。
私は、参考書をしまって、弟とペネロペに両手を引かれて甲板に上がります。
・・・
甲板に上がると、眼下に【アルバロンガ】の街が広がっていました。
【アルバロンガ】の街の背景に白い噴煙を上げる赤土の山までも一望の下に見えます。
あの山が地理で習った【サルバトーレ火山】でしょう。
人々の営みと、雄大な自然が隣接する【アルバロンガ】……絶景です。
私達は、しばらく高度を下げて行く飛空船の甲板からの眺望を楽しみ、やがて客室に戻って、下船の準備をしました。
・・・
【アルバロンガ】の一帯は広大な農地が広がる土地です。
【サルバトーレ火山】から降下する灰が土を肥やす作用があるのだとか。
【アルバロンガ】料理が発展した理由は、このような肥沃な土地から収穫される豊富な農作物と、それを餌とする多数の家畜が【アルバロンガ】で生産されているからなのです。
私達は、すぐに予約していた有名店に向かい、心行くまで【アルバロンガ】料理を味わいました。
美味しかったです。
ピッツァやパスタは、もう世界的に有名なので、どこででも食べられますが、やはり本場の味は違いますね。
そして、どれもこれも安い。
安いので、あれもこれもと注文していたらテーブルが、お皿でいっぱいになってしまいました。
庶民の料理として発展して来た【アルバロンガ】料理は……料理は芸術などではない、食料だ……という格言を大切にしているそうです。
美味しい料理こそ評価され……美しく飾り立てられていても味がイマイチならば、その店は激しくこき下ろされるのだとか。
私は、職人の家の娘なので、その気持ちは、とても良く分かります。
目的に叶うスペックこそが重要。
見た目の素晴らしさが第一ならば絵画や彫刻を観れば良し、食材や調理法の逸話が第一ならば本を読めば良し、料理を食べるなら評価の基準は何をおいても一番は味であるべきです。
私達は、【アルバロンガ】料理に満足してホテルへと向かい宿泊しました。
・・・
翌朝早く、私達は【アルバロンガ】を出発します。
目的地は、セントラル大陸の南方国家【パダーナ】の旧都【ロムルス】。
いよいよ、初めての外国です。
船上では、もちろん勉強タイム。
もはや、皆、呆れていましたが、関係ありません。
私は、勉強の合間に食事をしたり睡眠を取ったりしているのです。
勉強のついでに人生があるようなモノなのですよ。
「そんなに勉強して何になるつもりなんだ?」
ペネロペが訊ねました。
「将来の目標は決まっていないけど、目標が決まってから勉強を始めても遅いかもしれない」
「ふーん。ま、キトリーが楽しければ良いんだけどさ」
ペネロペは言います。
楽しいですよ。
いや、まあ……厳密に言えば、勉強そのものが楽しい訳ではありません。
勉強をして、努力が成果として現れ、良い成績を取り、自己肯定が出来て、周囲の人達から褒められる。
それが楽しいのです。
勉強自体は、どちらかと言えば習慣でやっているだけでした。
勉強しなくても良い成績を取れる、天才のペネロペには、わからない感性なのでしょうけれどね。
「お客様に、船長より、ご案内致します。当船は、ただいま【ドラゴニーア】と【パダーナ】間の国境を越えました。ようこそ【パダーナ】へ……あるいは、お帰りなさいませ」
船内にアナウンスが流れました。
つまり、もう、ここは外国です。
まあ、特に何かが変わった訳でもありませんでしたね。
・・・
私達は、船内で昼食を食べました。
昼食後、私は勉強に戻ります。
弟やペネロペの家のチビちゃん達は、さすがに船旅に飽きて来た様子。
勉強する私を邪魔しに来ます。
「ねえねえ、お姉ちゃん、カードゲームしよう」
弟が言いました。
「後でね」
「いーまっ!」
弟は言います。
あー、もう、煩いな。
「わかったよ」
私は、止むを得ず、参考書をしまってチビ達とカードゲームを始めました。
子供相手に本気を出して無双します。
チビちゃん達は、何度やっても勝てないので、ペネロペとルフィナを呼んで来ました。
勝負!
くっ……勝てない。
ペネロペの演算能力と、ルフィナの心理戦に、歯が立ちません。
「キトリーは素直過ぎるよ。このゲームは、最初に配られた手札は確率だけれど、その後は必勝法……っていうか、負けない方法があるんだよ」
ペネロペは言いました。
へっ?
負けない方法?
このゲームは、多少、手札の読み合いはあるものの、基本的に運勝負でしょう。
「アタシとルフィナは、カードの合計値が一定以上ない場合、または、誰か1人の手札が明らかに自分より強いと想定される場合。初めから、2位を狙いに行くんだ。強い相手に正面から戦って弱ったキトリーを、余力がある自分の手札で潰す。キトリーが正攻法の正直過ぎる戦略だから、2位を狙うのは難しくない。結果、アタシとルフィナは大負けしない」
ペネロペは言いました。
くっ、卑怯な……。
けれども、ルールで認められている以上、それは正当な戦略。
馬鹿正直に常に全力を尽くして戦い、結果、狡猾に立ち回る2人にカモられる私が悪いだけなのです。
そうこうしていると、飛空船は【パダーナ】の旧都【ロムルス】に到着しました。
・・・
私達は、【ロムルス】の港で税関手続きをします。
とはいえ、【ドラゴニーア】と【パダーナ】は緊密な間柄の同盟国。
実質、連邦制国家と言っても差し支えありません。
セントラル大陸の国家間では、人種の往来、就労、交易は基本的に自由です。
なので……違法なモノの持ち込みをしない……と【契約】すれば、すんなり通関出来ました。
【ロムルス】の主要産業は観光。
観光都市として経済を回しています。
主要都市として【創造主】様が創った都市の景観を維持する為、建築物を増築したり外装を変えたりする事が法令で禁止されていました。
なので歴史を感じさせる街並みが今でも残っています。
つまり、【ロムルス】は、有史以来、全く変わらない街並みなのですよね。
旧都の名は伊達ではありません。
観光の呼び物としては、年間を通して【闘技場】で試合が毎日行われていました。
オープン・エントリーの武道大会などではなく、【剣闘士】と呼ばれるプロがショーとして戦いを見せるのです。
賭けも行われているので、一応真剣に戦っているという建前なのですが、いかに派手に戦うか、いかにドラマチックに勝敗が決まるか、が重要視されていて、戦略で相手を騙したり、地味な試合をするような選手は、プロの【剣闘士】としては試合に出場する事が出来ません。
ペネロペ曰く……連中は見た目ほど強くない……との事。
もっとも【闘技場】での試合観戦には15歳以上という年齢制限があるので、私達は観る事は出来ませんが……。
私達は、旧都【ロムルス】を巡回する観光遊覧船に乗り、街並みを観て回った後、ホテルで食事をします。
大人達は、夕食後【闘技場】に試合を観に行きました。
子供達は、部屋に集まって、カードゲームをして過ごします。
弟やチビちゃん達が、舟を漕ぎはじめたので、お開き。
大人達の帰りを待たずに、私達は、各自の部屋に戻ってベッドに入りました。
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