第300話。念願のクラーケン。
名前…パトリシア・アトランティーデ
種族…【人】
性別…女性
年齢…享年80歳
職種…【女王】
魔法…なし
特性…【才能…王威、王権】、【経営】
レベル…36
故人。
名君と誉れ高い女王だったが、晩年は、認知症の発症が疑われ、無謀な【大密林】侵攻作戦を命令するなど判断を誤った。
剣聖クインシー・クインと相思相愛だったが、プラトニックな関係を貫き、コンスタンティンと結婚した。
【ラドーン遺跡】深層階。
私達は、61階層に足を踏み入れました。
ソフィアとウルスラが先頭……ファヴとリントが両翼を務め……オラクル、トリニティ、ヴィクトーリア、ティファニーが中衛……私が後方からパーティ全体を守ります。
遺跡の様相は、30階層までが洞窟状の迷宮で、60階層までがトンネル状の迷宮……そして、61階層から下は、亜空間フィールドでした。
亜空間フィールドでは、10階層ごとに、特定の環境や地形がランダムで生成されます。
61〜69階層は渓谷でした。
61階層から先は、雑魚敵も【高位】になります。
NPCの冒険者では、この辺りからが壁となって、致死率が跳ね上がりました。
なので、遺跡の攻略を目的としない、稼ぐ事を主眼とする冒険者パーティは、大体、50階層の近辺を拠点にウロウロし、魔物とのエンカウントを繰り返すのです。
「ウルスラ。さあ、吹くのじゃっ!」
ソフィアが号令をかけました。
「は〜い」
ブワッ、ブワブワッ、ブワーーッ!
ウルスラが魔物を引き寄せる【神の遺物】の【誘引の角笛】を吹き鳴らします。
さながら、進軍ラッパのような節回しでした。
まあ、進軍して来るのは、魔物の方なのですが……。
途端、全方位から魔物が襲いかかって来ました。
瞬く間に、ソフィア、ファヴ、リントが、魔物の群を撃破して行きます。
まるでバターの塊が熱せられたフライパンの上で溶けるように、魔物の群はなくなりました。
つ、強い。
レジョーネは、リントが加わって、とんでもなく強くなっています。
私の出る幕はありませんね。
私は、裏方に徹して、ひたすら魔物の死体の回収に勤しみました。
程なくして、魔物の攻撃がピタリと止みます。
つまり、ソフィア、ファヴ、リントの3守護竜が、魔物を全滅させてしまったのでしょう。
亜空間フィールドのエリアでは、1階層に概ね100個体の魔物がいると設定されています。
ソフィアとファヴとリントにかかれば、たった100体やそこいらの魔物など路傍の石が如く、まるで障害にもなりません。
私達は、渓谷エリアを次々に踏破して行きます。
やがて70階層のボス部屋に到着しました。
・・・
70階層のボスは、【ヴァースキ】。
【ヴァースキ】は眷属として、5頭の【ワーム】を率いていました。
【ワーム】と呼ばれる魔物には、生物学上、全く種が違う2系統の魔物がいます。
【サンド・ワーム】に代表されるミミズの化け物のような系統と……グレモリー・グリモワールの従魔である【ヴイーヴル】のキブリと同種である、脚がない【竜】のような系統。
【ヴァースキ】と、その眷属の【ワーム】は、後者の脚なし竜のタイプでした。
余談ですが、グレモリー・グリモワールの従魔のキブリは、エラと肺の両方を持つ【ヴイーヴル】という種類で、水・陸・空の環境適応がありますが……エラを持たない【ヴァースキ】は水中では呼吸が出来ません。
「ニョロニョロめ。輪切りに刻んでやるのじゃーーっ!」
ソフィアは、言います。
「ソフィア。買取金額が下がるから、なるべく綺麗に倒して下さい」
「ぐぬっ。ならば、一刀のもとに斬り伏せてやるのじゃーーっ!」
ソフィアは、当然のようにボス個体の【ヴァースキ】目掛けて、突撃しました。
【ヴァースキ】が必殺の意思を込めて吐いたブレスを、ソフィアは、スパッと、斬り割りして肉薄し……返す刀を振り抜くと、【ヴァースキ】の頭部が胴体から切り離されて宙を舞います。
いとも簡単に、【ヴァースキ】を倒してしまいました。
【ヴァースキ】の眷属達は、ファヴとリントが2頭ずつ、トリニティが1頭を倒します。
私は、やる事がないので死体回収係。
【宝箱チェスト】の中身は……。
【アダマンタイトの兜】と【コンティニュー・ストーン】が3つ。
【コンティニュー・ストーン】は、遺跡内で死んでも復活出来るという極めて有用なアイテムでした。
全ての冒険者達が欲しがる為、とても換金率が高いアイテムです。
しかし、私達はファミリアーレのレベル上げに必要で、幾つあっても困らないので、売却はしません。
私達は、階下に続く階段を降りて行きました。
・・・
71〜79階層は、山脈。
雪山や森林山脈帯ではなく、ゴツゴツとした岩肌が露わになった岩山が連なっています。
ブワ〜ッ、ブワ〜ッ、ブワブワ〜ッ!
ウルスラが【誘引の角笛】を吹きました。
襲い来る魔物の群を蹴散らしながら、ソフィア、ファヴ、リントが進み、その背後で、私、トリニティ、オラクル、ヴィクトーリア、ティファニーが魔物の死体を回収します。
あっという間に、80階層のボス部屋に到達しました。
・・・
80階層のボスは、【ガルーダ】。
【ガルーダ】は眷属として、7頭の【ロック鳥】を率いていました。
【ガルーダ】より【ロック鳥】の方が巨大ですが、位階も戦闘力も【ガルーダ】の方が上です。
【ガルーダ】は【超位】の魔物で魔法を駆使する難敵ですが、【ロック鳥】は【高位】の魔物で魔法は使えず専ら巨体を利してゴリ押しで攻撃して来ました。
【宝箱】の中身は……。
【深海のローブ】と【コンティニュー・ストーン】が3つ。
ふむふむ。
【深海のローブ】ですね……。
こういう特殊環境用の装備が、これ見よがしに出る場合、次のエリア環境に即している事があるのです。
つまり、次のエリアは、深海に関係する環境なのではないのでしょうか?
まあ、行けばわかるのですが……。
「ソフィア。予定では、午前中は、ここまでにして、この下の階層は、午後からにするつもりだったのですが……どうしますか?」
まだ、正午には、だいぶ早いのです。
「もちろん進むのじゃ」
ソフィアは、言いました。
あ、そう。
ならば、そうしましょう。
私達は、階下に続く階段を下りて行きました。
・・・
81〜89階層は、海洋。
ほら、やっぱり。
【深海のローブ】は、この海洋エリアを予告していたのです。
海洋エリアには、岩礁のような陸地がポツポツと点在していました。
【飛行】を持たないユーザーやNPCは、この、わずかな陸地を足場にして戦うのです。
陸地と陸地との間の移動は?
もちろん、事前に船などを準備していないのであれば、泳ぐか、海底を歩くしかありません。
海中の魔物達から狙われ放題ですよ。
なので、海洋エリアは、【飛行】や飛行アイテムを持たないユーザーやNPCのパーティにとっては、前進が困難な領域でしょうね。
「ノヒトよ。ここは海じゃな?」
ソフィアは、何故か、フルフルと武者震いをしながら訊ねました。
「海ですね」
「海という事は、アレがおるのではないか?」
「アレとは?」
「もちろん、【クラーケン】じゃ。我の大好物じゃ。卵の次くらいに好きな食べ物じゃ」
ソフィアは、言います。
【クラーケン】とは、船に抱き着き、沈める事もある巨大なイカの魔物。
位階は【高位】。
大変な美味で、食用として人気があり、ソフィアの好物です。
「海洋エリアですから、たぶん、【クラーケン】も探せばいるのではないでしょうかね?」
「探して欲しいのじゃ〜」
ソフィアは、猫撫で声で懇願しました。
「はいはい、わかりました」
私は海中のサーチを開始します。
【クラーケン】、【クラーケン】……。
おっ、深い場所に結構います。
たまたまランダム生成された海底の地形が入り組んでいて、【クラーケン】が、スポーンし易いマップだったようですね。
これは、ソフィアにとっては幸運です。
こうして、秋の【クラーケン】祭が開催されました。
私が、【クラーケン】を海中から引きずり出して、ソフィアがバッタバッタと仕留めて行きます。
【クラーケン】以外にも海洋エリアには、海洋生の魔物がたくさんいるのですが、ソフィアは【クラーケン】しか目に入らないようですね。
ソフィアがスルーして行った魔物は、討ち漏らしがないように他のメンバーが倒して進みました。
私達は、90階層のボス部屋に到達しました。
・・・
90階層のボス部屋は……部屋ではありません。
海洋エリアですので、基本的に地上構造物の類は、ないのです。
ボスが現れる海域に侵入すると、バトルフィールドが形成され……ボスを倒すと、突如、空中に床が出現して、【宝箱】と転移魔法陣部屋に繋がる扉が出現するというギミックでした。
いかにもゲームっぽい、不思議設定ですね。
90階層のボスは、巨大な魔海獣【ケートス】。
【ケートス】は眷属として、9頭の【シー・サーペント】を率いていました。
【ケートス】は全長100mにも及ぶ巨体を持つ海洋生の魔物。
フォルムは、アザラシとイルカの合いの子のような姿をしています。
アザラシにイルカの背ビレと尾ビレを持たせたような奇怪な形状でした。
多少、滑稽とも思えるような姿に似つかわしくなく、【ケートス】は、強力な自己再生能力と、圧倒的な巨体を利して破壊的な攻撃力とダメージ耐性を併せ持つ難敵。
さらに、知性も高く、攻撃では魔法を駆使し……防御では海中に潜って攻撃を躱したり、魔法を減衰させたりするので、相当に厄介な敵でした。
「そいやーーっ!ん?な、なぬっ!我の【神竜の斬撃】10連撃を受けて、なお、まだ死なぬのか?」
ソフィアは、【ケートス】の硬さに驚愕します。
【ケートス】は、肉体をズッタズタに斬り裂かれながらも、まだ生存しており、瞬く間に自己再生してしまいました。
「ソフィア。【ケートス】は【石化】に特効があるのです。オラクル、【アイギス】を使って下さい」
「畏まりました」
オラクルは、大盾【アイギス】に埋め込まれた【メデューサ】の眼を開かせ、【石化】を発動させました。
オラクルが【ケートス】の尾ビレの方から【石化】を放っていたので、私は頭の方から【石化】を発動。
【ケートス】の巨体は、徐々に石化して行き、やがて全身が石に変わり海中に没して行きました。
私は、石に変わり果てた【ケートス】を【理力魔法】でサルベージして、空中に浮かび上がらせます。
ソフィアが、【ケートス】の額に【クワイタス】を突き立ててトドメを刺しました。
私は、絶命した【ケートス】を【石化】から解いて【収納】に回収します。
さてと、ファヴとリントの方は?
ファヴは、【シー・サーペント】の攻撃を巧みに躱しながら、カウンターで【クルセイダー】を突き込み的確に仕留めて行きます。
リントは、1頭の【シー・サーペント】目掛けて、【アキレウスの槍】を投擲。
【アキレウスの槍】は、【シー・サーペント】の頭部に深々と突き刺さりました。
これは致命傷でしょう。
リントは、間髪を容れず、別の【シー・サーペント】に【アキレウスの盾】も投擲。
ふぁ?
盾を投げた?
魔力を込めて投擲された、【アキレウスの盾】は、フリスビーのように、シュルルルーーッ、と飛んで、【シー・サーペント】の長い鎌首を切断しました。
両手に武器も盾もなくなったリントは、ブレスで攻撃。
程なくして、敵を絶命せしめた槍と盾が、リントの手元に自動的に戻りました。
リントは、再び【アキレウスの槍】を投げ、【アキレウスの盾】を投げ、ブレスを吐く……というループ。
なるほど。
独特過ぎる戦い方ですが、殺傷効率は高いですね。
しかし、まさか盾を全く防御に使わないとは……。
いや、何も盾は防具と決まった訳ではないのです。
武器・防具とは、如何にして効率良く敵を打ち破るか……という工夫から生み出されているモノ。
その目的に適うならば、どんな使い方をしても良いはずです。
例えば、盾や鎧で攻撃し、槍や剣で守っても……弓矢で、弓の方を飛ばしたって良い訳です。
私は戦闘では、固定観念に囚われてはいけないのだ、と再認識しました。
【宝箱】の中身は……。
【神蜜】と、【コンティニュー・ストーン】が3つ。
うーむ。
もはや、超絶レアの【神蜜】が出ても、驚かなくなっている自分がいますね。
過去にレジョーネが踏破した【オピオン遺跡】と【アペプ遺跡】でも、90階層のボスを倒して出現した【宝箱】からは、全て【神蜜】が出ました。
【神蜜】は、超絶レアの希少アイテムなのですが、レジョーネは、【運】系最高の能力である【天運】持ちが複数(現在4人)います。
だからこその高ドロップ率なのでしょう。
普通は、遺跡に潜る度に手に入るようなアイテムではないのです。
まあ、良いでしょう。
私は【神蜜】を【収納】にしまいました。
「ノヒトよ。【クラーケン】の皮を剥いで欲しいのじゃ」
ソフィアが、自分で回収していた【クラーケン】が入った【宝物庫】を差し出して言います。
「わかりました。【掘削車】で解体してしまいましょう」
「頼むのじゃ」
私は、海洋エリアでソフィアが仕留めた20頭ほどの【クラーケン】を【掘削車】の選別ギミックを使って、部位毎に分けて行きました。
食べられる部分は、全てソフィアに渡します。
ソフィアは、早速、巨大な塊に噛り付き、モキュモキュと食べ始めました。
「美味しいのじゃっ!この味じゃ」
ソフィアは至福の表情を浮かべます。
「ソフィア。私も一切れ味見をしたいのですが」
「一切れじゃぞ……。ほれ」
ソフィアは、本当に、お刺身一切れ分しかくれませんでした。
ケチですね〜。
【クラーケン】を初めて食べてみます。
ゲーム時代は食べた事がありましたが、あの時は味覚がありませんでしたからね。
おおっ!
確かに美味い。
あれだけ巨大な【クラーケン】ですから、ブヨブヨと水っぽくて大味だったり、あるいは硬くて筋張っているようなイメージでしたが、全く違います。
まるで上質な高級カマボコを食べているように、プリッとして歯切れがよく、肉質はきめ細やかで柔らかで、濃厚なイカの旨味が凝縮されていますが、後味はスッキリと爽やかですね。
醤油がなくても美味い。
刺身でも美味いですが、焼いたりボイルしたモノも食べてみたいですね。
「ソフィア。【クラーケン】を昼食でバーベキューにして、皆で食べましょう」
「嫌じゃ。コレは、我の【クラーケン】じゃぞ」
ソフィアは、【クラーケン】肉をしまった【宝物庫】を背中に隠して言いました。
「あ、そう。なら、今度、【ガレリア海】に行く時は、ソフィアは、留守番ね。【ガレリア海】は世界有数の【クラーケン】の漁場なんだよね。きっと、100や、200の【クラーケン】は獲れるだろうな〜」
私は、近い内に、アルフォンシーナさんから頼まれて、【ガレリア海】に出没する謎のクジラの魔物……アドム・イラル・シャムル・オックと、その配下のクジラの魔物の群を討伐に行きます。
「ぐぬっ。ノヒトよ。我は、この【クラーケン】を皆で、仲良く分ける事にしたのじゃ。じゃから、我も【ガレリア海】に連れて行ってくれ〜、後生じゃ〜」
ソフィアは、情けない声を出して懇願しました。
「わかりました。その代わり、今日の昼は、【クラーケン】をメインにしたバーベキュー・パーティですよ」
「わかったのじゃ」
ソフィアは、頷きます。
【クラーケン】の皮は素材として有用でした。
鉄より軽く強いのです。
また、皮を剥いでからしばらくは柔らかいので、その間になら自由に形状を変えられました。
身体にフィットした鎧などが簡単に作れます。
乾燥すると形状が固定され、強固な鎧となりました。
私は【クラーケンの鎧】は、着ませんけれどね。
何故ならスルメみたいな匂いがしますので。
その時、リマインダーのアラームが鳴りました。
時間ですね。
「さあ、お昼ご飯を食べに行きましょう」
「「おーーっ!」」
ソフィアとウルスラは、気勢を上げます。
私達は、90階層のボス部屋の扉を開けて、奥に出現した転移魔法陣部屋に向かい、転移座標を設置してから、カティサークを目掛けて【転移】しました。
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・・・
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