第299話。安物の銅のメダル。
本日、2話目の投稿です。
異世界転移、42日目(10月12日)。
【サンタ・グレモリア】。
マリオネッタ工房【自動人形】製造工場。
私は、徹夜内職で、50体の【自動人形】・シグニチャー・エディションを完成させました。
また、最高記録更新です。
ソフィアとリントが、オラクルとティファニーを私の作業助手に貸してくれたからこその成果でした。
2人は、【超位】の【工学魔法】使い。
なので、作業が捗りました。
早速、先に完成していた10体と合わせて、60体の【自動人形】・シグニチャー・エディションを、【サンタ・グレモリア】のマリオネッタ工房、アブラメイリン・アルケミー、イーヴァルディ&サンズ、【サンタ・グレモリア・スクエア】に配属します。
これで、現状、喫緊に必要だった【自動人形】・シグニチャー・エディションは、一応、数を揃えました。
まだ私のストックと、グレモリー・グリモワールへ譲渡する約束の【自動人形】も必要ですが、このペースなら、あと10日もあれば必要数は揃うでしょう。
【サンタ・グレモリア】のコンパーニアと、イーヴァルディ&サンズの社員・従業員は、今後【サンタ・グレモリア】と【イースタリア】の住民から雇用する事になります。
【サンタ・グレモリア】でグレモリー・グリモワールが庇護している年長の孤児達を優先採用して、他は、【ドラゴニーア】本部からハロルドやイヴェットやイアンが交代で出張して来て、順次、面接・採用が行われる予定でした。
人事関係はハロルド達経営陣に任せておけば良いですね。
また、【サンタ・グレモリア】のコンパーニア事業責任者として、本部からウエインが赴任する事になりました。
彼は、【ドラゴニーア】の孤児院出身者で、コンパーニア期待の幹部候補生6人の内の1人。
しばらく【サンタ・グレモリア】で頑張って、実地で経験を積んでもらいましょう。
私が、店開きしていた内職の後を片付けて、オラクルとティファニーを連れて、工場の外に出ると、上空をグレモリー・グリモワールとフェリシアとレイニールとディーテ・エクセルシオールがホウキに跨って飛んで行くのが見えます。
グレモリー・グリモワール達は、毎朝、街の見回りをしていると言っていました。
朝早くから、ご苦労様ですね。
グレモリー・グリモワール達は、見回りが終わったらしく、【アリス・タワー】の方へと飛んで行きました。
私も【サンタ・グレモリア】のホテルに宿泊したレジョーネと、カティサークに宿泊したファミリアーレを連れて、グレモリー・グリモワールから朝食の場所として指定された【アリス・タワー】に向かいます。
・・・
【アリス・タワー】の大広間。
レジョーネとファミリアーレが【アリス・タワー】の大広間に着くと、大勢の人達がいました。
朝食には、【サンタ・グレモリア】の首脳陣……銀行ギルドと冒険者ギルドと商業ギルドの代表……ディーテ・エクセルシオールの配下である4人の【ハイ・エルフ】の古老達も同席するようです。
「朝ご飯会議って言うんだ。毎朝、集まって色々と話し合っているんだよ。大勢いるけれど、みんな私の身内だから、気にしないで良いよ」
グレモリー・グリモワールは言いました。
朝ご飯会議ですか?
朝ご飯を食べながら懸案を討議して、情報を共有出来る、と。
なるほど、時間の節約が出来て合理的です。
私達も【ドラゴニーア】竜城の朝食では、毎朝似たような状況になっていますからね。
私とグレモリー・グリモワールの考える事は、大体同じなのです。
朝食のメニューは、餃子と野菜炒めでした。
ん?
何だか、既視感がありますね。
どうしてでしょうか?
早速、頂きましょう。
私は、餃子には、白ご飯派です。
まあ、朝からビールという訳にも行きませんけれどね。
餃子を酢醤油に付けて、白ご飯にワンバウンドさせてから口に放り込み、すかさず白ご飯をかっ込みます。
う、美味い……というか、コレは!
「グレモリー。この餃子は?」
「あー、私が何故か覚えていたレシピなんだよ。最近、白菜が手に入ってね。それで完全なレシピを再現出来たんだ」
グレモリー・グリモワールは言います。
「グレモリー。この餃子は母の味ですよ」
「やっぱり。そんな気がしてたんだよね」
グレモリー・グリモワールは笑いました。
「何じゃ。どうしてノヒトの母の味を、グレモリーが再現出来るのじゃ?」
ソフィアが訊ねます。
「あ、それは、私の母親と、ノヒトの母親は、親戚みたいなモノなんだよ。だから、家庭料理のレシピが似通っているんじゃないかな」
グレモリー・グリモワールは、話の核心部分をボヤかして説明しました。
私とグレモリー・グリモワールの母親は、親戚どころか、同一人物ですけれどね。
私とグレモリー・グリモワールは、元同一自我です。
しかし、グレモリー・グリモワールには、私の個人情報に関わる記憶が欠落していました。
にも拘わらず、私の母の味を記憶していた、と。
グレモリー・グリモワールの記憶には、何故だからわからずに記憶している、私の個人的な記憶が、まだ他にもあるのかもしれませんね。
それらは、私の個人情報とは見做されなかったのでしょうか?
まあ、私の個人的な記憶と、一般的な記憶とを、線引きするのは難しいのでしょう。
例えば、私が身に付けた知識は、私の個人的な記憶でもあり、一般的な記憶でもあります。
それらを全て失わせてしまったら、グレモリー・グリモワールは、知性や一般教養も全て失い、まともに生きてはいけないでしょう。
おそらく、ゲームマスター権限に付随した記憶……つまり、ゲーム会社の社員としての私自身に関する記憶が、グレモリー・グリモワールからは欠落しているのだと思います。
「なるほど。つまり、其方ら2人は親戚だったのじゃな。ノヒトは何も話さぬから知らなかったのじゃ。どおりで、ノヒトとグレモリーは、どことなく立ち居振る舞いが似ておるのじゃな?」
ソフィアは言いました。
「ま、そゆこと。ねえ、ノヒトの、お母さんはどんな人?」
グレモリー・グリモワールは、それ以上の追及を避ける為に、話をすり替えます。
「ピアノの先生でしたよ。家で近所の子供達にピアノを教えていました」
「へえ、自宅にピアノがあるなんて、金持ちじゃん。なら、ノヒトもピアノが弾けるの?」
「私は、バイエルで挫折しました。音楽の才能は、ありません」
「何だ、勿体ない。自宅にピアノの先生がいるんだから、タダで教えてもらえたのに」
「大人になってから、そう思うようになりましたね。母から習っておけば良かったです」
私は、グレモリー・グリモワールに訊ねられ、私の……というか、私達の家族の話をしました。
・・・
食後。
レジョーネとファミリアーレは、お茶を飲みながら、マッタリとします。
グレモリー・グリモワール達は、かなりの重要案件を話し合っていました。
提起された諸懸案を、グレモリー・グリモワールが次々に決裁して行きます。
グレモリー・グリモワールは、なかなかどうして、有能な統治者のようですね。
私は、政治は面倒なのですが……。
私とグレモリー・グリモワールは、元同一自我。
つまり、私も必要に迫られれば、グレモリー・グリモワールのように、政務を行えるのでしょうか?
いやいや、想像出来ませんね。
「ノヒト。妾は、今回が遺跡デビューなのだけれど、何か気をつける事はあるのかしら?」
リントが訊ねました。
「リントほどの戦闘力があれば特に気をつける事は、ありません。強いて言えば死なない事ですね」
「簡単ね」
「はい。それ以外には、特に気をつける事はありません」
「妾が死ぬような危険があるのかしら?」
「理論上は、あり得ます。が、油断さえしなければ、現実的には、危険な状況はないでしょうね。私達も一緒ですから、あり得ないくらいの過剰戦力ですよ」
「なら、何も問題はないわね?」
「ありませんね」
レジョーネのパーティ構成は、【神格者】が4柱、【神格】に匹敵する【妖精女王】が1人、【超位】級の戦闘職が3人、【高位】級の戦闘職が1人です。
間違いなく、私達は、史上最強のパーティでした。
全世界とでも戦えます。
なので、リントが死ぬ、などという可能性は皆無でしょう。
もちろん油断は禁物ですが……。
グレモリー・グリモワール陣営も会議が終わり、私達は、行動を開始しました。
グレモリー・グリモワール達は、時差を考慮して、普段より早めに朝食にしてくれたので、遺跡の現地時間に合わせて動き出せます。
・・・
私達は、武装してカティサークに集合しました。
「では、行きますよ」
「「「「おーーっ!」」」」
ソフィア、ウルスラ、ハリエット、レイニールが気勢を上げます。
私達は、カティサークごとサウス大陸に向かって【転移】しました。
・・・
【オピオン遺跡】。
「ファヴ、リント、ティファニー。あなた達には必要ないと思いますが、一応、【コンティニュー・ストーン】を渡しておきます」
私は、リント、ティファニーに【コンティニュー・ストーン】の仕様を説明しました。
因みに、ファヴは、【コンティニュー・ストーン】の仕様を知っています。
3人は、【収納】に【コンティニュー・ストーン】をしまいました。
「ところで、グレモリー。昨日の遺跡10階層の【宝箱】で【願いの石板】を使ったのでしょう?何をもらったのですか?」
「ああ、あれは、明日の【アペプ遺跡】の10階層に持ち越したんだよ。ファミリアーレの子達が取る初めての【宝箱】の中身だから、記念にあげようと思ってさ。【銅の鎧】が出たから、少しずつ切ってロルフ君が記念のメダルに【加工】したんだよ」
グレモリー・グリモワールが、ファミリアーレの方を指差して言います。
見ると、ファミリアーレのメンバーが、小さなメダルを【収納】から出して見せてくれました。
へえ。
各自の顔が彫り込まれているのですね。
「ノヒト先生。本当は、後で、と思っていたんですけど、もうバレちゃったので渡します。これ、ファミリアーレのみんなから、恩人のノヒト先生やソフィア様達へのプレゼントです。受け取って下さい」
ロルフが、レジョーネのメンバー全員にも、銅のメダルを渡してくれました。
「ノヒト先生やソフィア様は、お金を、たくさん持っているので、既製品をプレゼントしても、嬉しくないと思いましたので、私達が初めて遺跡で取ったアイテムを加工し直して、手作りの物をプレゼントする事にしました。デザインは、みんなで考えたんですよ」
ファミリアーレのリーダーであるグロリアが言います。
「安物の銅のメダルだけど、アタシ達の心を込めてあるからね」
ファミリアーレのサブ・リーダーであるハリエットが言いました。
ファミリアーレからもらう物ならば、既製品でも嬉しいですが、ファミリアーレが力を合わせて初めて取った遺跡の宝を素材にしての手作りの品なら、なおさら嬉しいですね。
私のメダルには、私の顔と……ノヒト先生、ありがとう……の文字が……。
く……泣けてきました。
私は、こういうサプライズに弱いのです。
安物のメダルだなんて、とんでもない。
このメダルは、私にとって、【神の遺物】の1億倍以上の価値がありますよ。
「ありがとう。大切にしますよ」
「私とディーテとウチの子供達にも、もらっちゃったんだよ」
グレモリー・グリモワールもメダルを見せてくれました。
「我は、こんな顔か?何だか、間の抜けた顔じゃ」
ソフィアが不満気に言います。
メダルに彫り込まれた顔は、横顔ですからね。
ソフィアは、見慣れないのでしょう。
そして、間の抜けた感じが、そっくりですよ。
「ソフィアお姉様の顔立ちの特徴を良く捉えていますよ」
リントが言います。
「ふむ。鏡で見られぬ角度じゃからな。しかし、我は、もっと凛々しい顔立ちをしていると思うのじゃが?」
「ソフィアお姉様の至高の叡智溢れる、お顔立ちに良く似ていますよ」
ファヴが言いました。
「ふむ、そうか?」
ソフィアは、私にメダルを見せて訊ねます。
「はい。ファヴの言う通りです」
「うむ、良く出来ておるのじゃ。ロルフ、ファミリアーレの皆、大切にするのじゃ」
ソフィアは、メダルを満足気に【収納】にしまい込みました。
「では、グレモリー。今日もファミリアーレの事を、くれぐれも、よろしく頼みます。正午にカティサークに集合して下さい」
「OK。任せておいてよ。正午に、ここ集合っと」
グレモリー・グリモワールは、リマインダーに予定を書き込みながら言います。
レジョーネは、ファミリアーレとグレモリー・グリモワール一行と別れて、【ラドーン遺跡】に向かって【転移】しました。
・・・
【ラドーン遺跡】。
60階層ボス部屋奥の転移魔法陣部屋。
「ところで、ノヒトよ。昨日から、我ら以外の冒険者に誰も遭わぬようじゃが?」
ソフィアが今更な事を訊きました。
「もちろん、冒険者ギルドに依頼して、遺跡内部の無人化をしてもらっていますよ。一般の冒険者がいると、色々と面倒ですからね」
遺跡の中では、完全自己責任。
つまり、他の冒険者が危機に陥っていたとしても、私達に助ける義務などはありません。
しかし、行きがかり上、頼まれれば手を貸さざるを得ないでしょう。
また、近くに冒険者達がウロウロしている状況では、魔法による誤爆を避ける為にも気を使わなくてはいけません。
時間が、かかって仕方がないのです。
なので、だいぶ前から世界冒険者ギルドのグランド・ギルド・マスターである剣聖クインシー・クインに頼んで、サウス大陸の4つの遺跡は、全て立ち入り禁止勧告を出してもらっていました。
勧告には強制力はありませんので、冒険者ギルドの勧告を無視して【ラドーン遺跡】に潜っている冒険者パーティがいるかもしれませんが、従わない者は仮に死んでも一切関知しません。
私達は、全く自重なしで、強力な魔法を撃ちまくりますからね。
巻き込まれてしまっても、それこそ自己責任ですよ。
「そうか。ならば、思いきり暴れられるのじゃな」
ソフィアは、腕をグルグル回して言います。
「はい、心置きなく暴れて下さい。ただし、油断はしないで下さいね」
「任せておくのじゃ。我を誰だと思っておるのじゃ?我は、至高の叡智を持つ天空の支配者なのじゃ」
あ、そう。
「わかりました。そろそろ、行きましょう」
「よ〜しっ、やってやるのじゃーーっ!」
ソフィアは、長巻【クワイタス】を鞘から抜き放ちました。
「おーーっ!」
ウルスラが、魔法触媒【テュルソス】を掲げて言います。
私達は、【ラドーン遺跡】の61階層に向かって続く階段を降りて行きました。
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・・・
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