第298話。暁の高炉。
名前…ディートマール・ターレンス
種族…【人】
性別…男性
年齢…59歳
職種…【貴人】
魔法…なし
特性…【才能…風格、指揮】
レベル…26
現【アトランティーデ海洋国】大公。
エイブラハムの息子。ゴトフリード王の従叔父に当たる。
ウエスト大陸【サンタ・グレモリア】。
私達は、グレモリー・グリモワールが庇護する自由街【サンタ・グレモリア】にやって来ました。
何だか、【サンタ・グレモリア】の街は、以前に比べて活気があります。
夕刻だと言うのに、街中を多くの人達が行き交っていました。
今日も収穫祭が行われているらしく、屋台が軒を連ねています。
屋台では、街の住民達や、グレモリー・グリモワールの【自動人形】達が、色々な食べ物や飲み物を売っていました。
活気がある理由は、祭が開催されているから、という事ばかりではありません。
人口も増えているのだそうです。
グレモリー・グリモワールによると、【サンタ・グレモリア】に移住を希望する人達が爆発的に増えているのだ、とか。
ここ最近、【ブリリア王国】では、妖精信仰の信徒数が加速度的に激減し、逆に【リントヴルム】の信徒数が急速に増えているのです。
その影響で【サンタ・グレモリア】と【イースタリア】へは、【リントヴルム】信徒の流入が多くなっているとの事。
【サンタ・グレモリア】は、【リントヴルム】に祈っても、妖精信仰教会から弾圧される心配のない安全な場所として、半ば聖地と見做されていました。
【サンタ・グレモリア】に移住を希望する人々は、一度【イースタリア】に入り、審査を経て【サンタ・グレモリア】に移住を認められるのですが、この審査は、かなり狭き門なのです。
【サンタ・グレモリア】への移住希望者は……湖畔の聖女への誓い……と呼ばれる【契約】を結ばなくていけません。
湖畔の聖女への誓い。
世界の理に違反しない事。
法律、公序良俗、倫理、公衆衛生に違反しない事。
【サンタ・グレモリア】の発展と平和に貢献する事。
ん?
どこかで聞いた事があります。
これは、敵対禁止条項と強制命令条項が省かれてはいますが、私のプリンシプルですね。
グレモリー・グリモワールに訊ねると……パクった……との事。
別に構いませんよ。
プリンシプルは、私の専売特許などではなく、普遍的な法治概念ですからね。
人口増加に伴い、私は、グレモリー・グリモワールから、【サンタ・グレモリア】の農地のさらなる拡大と住宅の増設を依頼されました。
今回は、商業ギルドを介した指名依頼として、費用を支払ってくれるそうです。
【ブリリア王国】で実質国教として位置付けられて来た、妖精信仰。
しかし、その内実は、存在しない信仰対象をでっち上げた単なる詐欺商法です。
既に、【サンタ・グレモリア】と【イースタリア】では、妖精信仰は邪教と認定され、その元信徒達は次々に【リントヴルム】信仰に改宗しており、役所の管理上、【サンタ・グレモリア】と【イースタリア】から妖精信仰教会の信徒は、完全に消えていました。
何故、妖精信仰の信徒が急に減っているのでしょうか?
どうも、ここ最近、妖精信仰の聖堂などで、妖精信仰に祈りを捧げていると、どこからともなく光の粒子に包まれた発光体が現れ……妖精信仰は、嘘だよ、詐欺だよ、偽物だよ。妖精信仰を信じていると神罰が当たるよ。【神竜】様と、【調停者】様と、【リントヴルム】様にお祈りを捧げれば良い事があるよ……と囁くという事件が頻発しているそうです。
その発光体の正体は、【妖精】。
本物の【妖精】である事は、誰の目にも明らかでした。
間違いなく、【妖精女王】のウルスラが【ブリリア王国】の地場妖精達に命じてやらせている世論誘導工作でしょうね。
本物の【妖精】達から、偽宗教、と認定されている、妖精信仰から信徒が逃げ出すのは、当然でしょう。
今のところ、妖精信仰からのリアクションは……妖精を騙る偽物が、妖精信仰を貶めるような事を触れ回っているが、絶対に騙されないように……と公式に発表する、に留まっていました。
妖精信仰教会側は、ウルスラのゲリラ工作への対応が完全に後手に回っています。
現在、妖精信仰にとっては、それどころではない騒ぎが起きているからでした。
【ブリリア王国】王……マクシミリアン・ブリリアは、突如として、聖職者の免許制、という君主立法を議会に提出したのです。
既得権を守りたい妖精信仰側は激しく反対しましたが、今のマクシミリアン王は国民支持率爆上がり中の無敵状態。
この君主立法は、圧倒的多数で議会可決されました。
マクシミリアン王は、百数十万の大軍で侵略して来た【ウトピーア法皇国】軍を、完膚なきまでに叩き潰して撃退。
余勢を駆って、敵地に艦隊を送り込み、敵の本営【トゥーレ】を陥落せしめ、莫大な賠償金と、鉱山としての価値がある【遺跡】を【ウトピーア法皇国】から得たのです。
まあ、それらは全てグレモリー・グリモワールがやった事でしたが、グレモリー・グリモワールは、その手柄を全てマクシミリアン王に譲ってあげたのだ、とか。
マクシミリアン王自身は、【ウトピーア法皇国】軍による侵略が行われていた時、【ウエスタリア】で起きた反乱を騎士団と王軍を率いて鎮圧していたのだそうです。
【ウエスタリア】で反乱を起こしたのは、バーソロミュー・ウエスタリア公爵と、その一族郎党。
当初、バーソロミュー公爵の反乱軍は、【ウトピーア法皇国】軍による侵略に対抗する為に出陣した王軍の留守を突いて、王都【アヴァロン】を急襲する計画でした。
しかし、【ウトピーア法皇国】を迎撃したのは、グレモリー・グリモワール陣営。
マクシミリアン王の騎士団と王軍の主力は、全て完全な状態で健在。
既に、マクシミリアン王の騎士団と王軍の主力は、【ウエスタリア】方面に準備万端で展開されていたのです。
つまり、バーソロミュー公爵達が反乱を起こす事は、事前にマクシミリアン王側に知られていました。
バーソロミュー公爵達の反乱軍は、挙兵と同時に、待ち構えていたマクシミリアン王の軍隊によって制圧。
バーソロミュー公爵一派は、謀叛と利敵罪で厳罰に処されるでしょう。
閑話休題。
もう間もなく、妖精信仰は、【ブリリア王国】で信仰と布教活動が出来なくなります。
妖精信仰教会の聖職者達は、湖畔の聖女への誓い、と【リントヴルム】聖堂への改宗を【契約】すれば、そのまま【リントヴルム】聖堂の聖職者としての免許を交付され、身分が守られるのだ、とか。
もちろん、犯罪に関与していた場合などは、その限りではありません。
妖精信仰の高位聖職者達の一部は、後ろ暗い方法で蓄財した金銀財宝を持って飛空船に乗り、【ウトピーア法皇国】との戦争や、【ウエスタリア】での反乱のドサクサに紛れて、東に向かって逃避行してしまいました。
目的地は、【ザナドゥ】。
亡命をするつもりのようです。
そして、昨日。
マクシミリアン王は……【ブリリア王国】の国教を【リントヴルム】聖堂に定める……と全世界に向け宣言しました。
そして、王都【アヴァロン】で、リントとティファニーから、王権神授を受けたのです。
多くの臣民が見守る前で、守護竜形態のリントからの祝福と【指名】を受け、改めて王としての権威を守護竜から与えられたマクシミリアン王の政治的立場は確固たるモノになりました。
これにより、マクシミリアン王と、対立する政治勢力は事実上、消滅。
【ブリリア王国】は、ウエスト大陸の守護竜リントが庇護する正当な国家として承認を受けたのです。
近い内に、【ブリリア王国】は、【ドラゴニーア】と安全保障協定が結ばれる予定。
最近、忙しくしていると思ったら、リントは、【サントゥアリーオ】や【ウトピーア】での仕事の他にも、そんな政治活動をしていたのですね。
まあ、そういう生臭い話は、私には関係ありません。
特段の問題がなければ、私は、知らなくても良い事です。
何はともあれ、万事が望ましい方向に前進しているのならば、なによりですよ。
・・・
【アリス・タワー】の大広間。
幾つもの長テーブルが並べられ、そこに、たくさんの卓上コンロが置かれ、大量の、おでん鍋が湯気を立てていました。
おでん鍋は、コンビニなどで見慣れた、仕切りがついた長方形のモノです。
コンビニの物より、数倍大きいですが……。
「この、おでん鍋は作ったのですか?」
「うん。【自動人形】達総出で突貫で作らせたんだよ。少し不恰好かな?」
グレモリー・グリモワールは言いました。
「いえ、大したモノです。ソフィアがワガママを言ったから、ワザワザ短時間で準備してくれたのですね?何だか申し訳ありません」
「いいや、卓上コンロは、私の工場で生産してあったし、おでん鍋の方は、ステンレスを折って魔法で溶接しただけだから、ほとんどコストはかかってないよ。ノヒトからもらった【自動人形】達のおかげで、おでん鍋製造も調理も、私は労力がかかっていないしね。問題ないよ。さあ、食べよう」
「「「「「頂きます」なのじゃ」」」」
私達は、おでんパーティーを始めました。
大根と、卵と、さつま揚げと、がんもどきと、ハンペンと、ウィンナー巻き。
カラシを少し塗って、と。
美味い。
最近、日によっては朝晩、少し肌寒さを感じるようになって来ています。
おでんが美味しい季節になって来ましたね。
「ノヒト様。どうぞ」
【サンタ・グレモリア】の実務統治者であるアリス辺境伯が、お酌をしてくれます。
おっ、熱燗ですか?
気が利いています。
「ふぁふぁほほふいふぁふふほふぁ」
ソフィアが、頬っぺたをパンパンに膨らませて言いました。
「「え、何て?」」
私とグレモリー・グリモワールの声がユニゾンします。
「ゴクン……玉子を追加するのじゃ。我の鍋には、もう玉子がないのじゃ」
ソフィアが言いました。
ああ、そう言ったのですか。
「あー、はいはい。こっちに玉子追加で」
グレモリー・グリモワールが給仕してくれている【自動人形】・シグニチャー・エディションに指示をしました。
「ソフィア。玉子以外も美味しいですよ。色々と味わってみては、どうですか?」
「そんな事は、わかっておるのじゃ。しかし、まずは、玉子を心行くまで堪能するのじゃ」
ソフィアは、言います。
あ、そう。
私は、トマト丸ごとや、キノコのベーコン巻きや、【コカトリス】のレバー串などの、変わり種を味わいます。
美味い。
「ノヒト。【ラドーン遺跡】に町を造ったんだって?」
グレモリー・グリモワールが訊ねました。
「はい。門前町ですよ」
「それを聞いて思い出したんだけれど、900年前、【ウロボロス遺跡】街に、【暁の高炉】っていう名前の職人集団がいたじゃない?」
【ウロボロス遺跡】は、セントラル大陸の北西にある遺跡です。
「ああ、【エルダー・ドワーフ】の鍛治職人達ですね?」
「あの人達、まだいるのかな?」
「いませんね。セントラル大陸の遺跡の管理は、ユーザー大消失後、【ドラゴニーア】政府の管轄となっています。【ドラゴニーア】軍が間引きを行うようになって、冒険者が遺跡に潜らなくなり、セントラル大陸の遺跡街は、どこも廃れてしまったそうです」
「そっか〜。あの人達か、あの人達の子孫がいたら、スカウトしようと思ったんだよね。私、実は、【魔道具】とか、武器・防具の工房を経営しようって思うんだよ」
「【ウロボロス遺跡】街にいた【エルダー・ドワーフ】達や、その子孫達は、現在【ドラゴニーア】の国家技師団となっておるのじゃ」
ソフィアが言います。
「マリオネッタ工房の技術部長イアン・ファヴリツィアーニも、一族が、その系譜に連なる者達なのだそうです」
「そうなんだ。さすがに国家技師はスカウト出来ないか……」
なるほど。
グレモリー・グリモワールは、武器・防具や【魔道具】を製造する工房を経営したいのですね。
その為に、【ドワーフ】を雇いたい、と。
【ドワーフ】の国【ニダヴェリール】では、腕の良い、武器職人、防具職人、【魔道具】職人は、全員、国家が管理する公務員です。
なので、基本的にスカウトは出来ません。
大金を積むなどして無理矢理引き抜いたりすれば、【ニダヴェリール】から恨まれる可能性がありますし、そもそも職人達が応じません。
【ドワーフ】にとって、【ニダヴェリール】の国家技師に登録される事は最大の名誉だからです。
なので、グレモリー・グリモワールは、【ニダヴェリール】から海外に移民した【ドワーフ】達に目をつけたのでしょう。
鍛治の腕で世界に名を知られ、【ニダヴェリール】以外に住む【ドワーフ】達の中でも著名だった【ウロボロス遺跡】街の職人集団……【暁の高炉】。
その本人や子孫を、グレモリー・グリモワールは陣営に迎えたい、という訳です。
「育てれば良いのでは?」
「【ドワーフ】の子供を?」
「はい。ファミリアーレのロルフも、出会った時は、【加工】は、おろか、魔力操作すら出来ない状態だったのですよ。それが一月半で、【鍛治師】までクラス・アップしたのです。まあ、ロルフは才能がありましたが、仮に才能に恵まれていなくても、グレモリーが指導すれば、【鍛治士】くらいなら、相当な腕利きが育てられますよ」
「なるほどね。私が保護している孤児の中にも【ドワーフ】の子は何人かいるからね。一から仕込んでみるかな」
グレモリー・グリモワールは、顎に手を当てて言いました。
・・・
食後。
私は、ファミリアーレのテーブルを回って、今日の報告を聞きます。
今日、彼らは、20階層までを踏破しました。
洞窟迷宮では、主に、フェリシアとレイニールとサブリナに活躍の機会を譲ったものの、ボスはファミリアーレが倒したそうです。
全く危なげなく勝利したのだ、とか。
それは、そうでしょう。
30階層までの浅層階は【低位】の魔物エリア。
最後の30階層のボスだけが【中位】でした。
ファミリアーレは、【静かの森】で【高位】の魔物である【地竜】の討伐実績があり、また、毎日、世界最強の【ドラゴニーア】軍や、【神竜】近衛竜騎士団と訓練をしているのです。
負荷が軽過ぎますよね。
「みんな、油断は禁物ですよ。明日からも、真剣に取り組んで下さいね」
ファミリアーレは、返事をしました。
今夜、私達は、このまま【サンタ・グレモリア】に宿泊。
そして、明日の夜明け前に、遺跡攻略を再開します。
さあ、明日も頑張りましょう。
お読み頂き、ありがとうございます。
ご感想、ご評価、レビュー、ブックマークを、お願い致します。
活動報告、登場人物紹介&設定集も、ご確認下さると幸いでございます。
・・・
【お願い】
誤字報告をして下さる皆様、いつもありがとうございます。
心より感謝申し上げます。
誤字報告には、訂正箇所以外の、ご説明ご意見などは書き込まないよう、お願い致します。
ご意見などは、ご感想の方に、お寄せ下さいませ。
何卒よろしくお願い申し上げます。




