第297話。計画とは変わるモノ。
本日2話目の投稿です。
【ラドーン遺跡】門前町。
レジョーネは、せっせこ、せっせこ、と町造りをしていました。
どうして、こうなった?
良くわかりません。
本来なら、今日1日をかけて、【ラドーン遺跡】の60階層まで到達する計画でした。
それが、【ラドーン遺跡】の中層階までが、私達が苦手とする蟲系遺跡だった為に、素材回収をすっ飛ばして進撃したので、あっという間に1日分の行程を巻いてしまったのです。
まあ、計画とは変わるモノ。
私は、計画よりも、臨機応変な対応の方に重きを置いています。
蟲が苦手な、私達……とは?
つまり、ファヴやリントも蟲が苦手だったようです。
その根拠として、ファヴとリントは……蟲エリアが終了した……と私達から報告を聞いた途端に……仕事が予定より早く完了したので、今後は私達と同道する……と言い出しました。
こいつら……。
まあ、私も、彼らの立場だったら同じ行動をしたかもしれないので、責めたりはしませんが……。
ファヴもリントも、多少、後ろめたい気持ちがあるのか、町造りを一生懸命に手伝ってくれていました。
馬車道と歩道を造り歩道橋をかけ、その両脇に建物を建てて行きます。
町役場、銀行ギルドや冒険者ギルドなどの出張所、武器・防具屋、宿屋、飲食店、酒場、町の住人の家、市場、学校、病院、神殿などなどを想定した建物を次々に建てました。
町外れに、飛空船港も造ります。
ソフィアとウルスラも、オラクルとヴィクトーリアに指示して、何やら造っていました。
まあ、ソフィア達は、私の作業の邪魔をせずに何かに集中していてくれるなら、それで良いのです。
「ノヒト。この酒場の2階と3階は娼館よね?少し個別スペースの設えが窮屈なのではなくて?」
リントが、図面を見ながら言いました。
「え?!酒場の2階はテーブル席、3階は個室席のつもりですが……」
私は、娼館を建てるつもりはありませんよ。
私は、職業に貴賎の区別をつけるつもりはありませんし、そういった大人の店も、適法で従業員が無理矢理働かせられているのでなければ、容認する姿勢です。
しかし、それは……あくまでも見て見ぬ振りをする……という意味であって、積極的に受容するのは忌避感がありました。
ましてや、ゲームマスターである私自らが、初めから娼館として使用されると想定されている店舗を設計するのは、どうなのでしょうか?
なので、私が町のフォーマットを造った後で、この町を運営する人達が勝手に娼館を営業するのは看過するとしても、私が娼館を建てたりする気はないのです。
「冒険者が集まる街区に、娼館は付き物じゃないのかしら?」
リントは、さも当然だ、というように言いました。
「まあ、町が出来上がった後に、建物をどう使おうと、それが合法なら、私は、とやかく言うつもりはありませんよ。しかし、私が、そういった商売を奨励しているように解釈されるのは避けたいと思います」
「あら、そう?妾は、別に構わないと思うのだけれど?性風俗産業は、古来からある伝統的な商売なのだし」
リントは言います。
「因みに、冒険者には女性もいますが?」
「もちろん、男娼だっているわよ」
リントは言いました。
「あ、そう。まあ、法規に則った営業がなされ、従業員が強制的に働かされているのでなければ、容認しますよ」
「もしかして、ノヒトは、性風俗産業に否定的な立場なのかしら?」
「否定、とまでは言いません。消極的容認、という程度の認識です」
「うーん。意外と……性風俗産業で働きたい……という者も少なくないのよ。キチンとした管理がされていれば、妾は、需要と供給があれば、やらせれば良いと思うけれど?」
「なるほど。そういった考え方もあるのですね?」
ともかく、初めから娼館と決まっている建物は、造らない事にしました。
宿屋や酒場の一部を、後から、改築して他の業態に変更するとしても、それは私には関係のない事。
違法営業でなければ、町の商売には関知しない、というスタンスです。
繰り返しになりますが、いかなる場合も計画とは変わるモノなのですからね。
計画の変更で思い出しましたが、サウス大陸【ムームー】王都【ラニブラ】で私が建てた【ラニブラ・スクエア】ですが、当初の計画では、ソフィア、ウルスラ、オラクル、ヴィクトーリア、クイーン、ヴァレンティーナさんは、昨日、完成した【ラニブラ・スクエア】の視察をするはずでした。
しかし、ソフィアの……面倒臭くなったのじゃ。また今度で良いのじゃ……という身も蓋もない決定により、後日順延になっています。
これは、目的の完成度を上げる為に、計画通りでなくても臨機応変に対応してブラッシュアップする……という私が大切にしている方針とは相容れない単なる怠惰でした。
「ノヒト〜。出来たのじゃ〜。こっちに来て欲しいのじゃ」
ソフィアが私達を呼びに来ます。
ソフィア達は、何やら熱心に造っていましたが、何をしていたのでしょうか?
私は、ソフィア達が造った建物に向かいました。
・・・
「ソフィア。これは?」
見ると、ソフィア達が建てていたのは、巨大な卵型のファサードを正面にした、飲食店らしき建物でした。
「卵料理専門店じゃ」
ソフィアは、晴れ晴れとした顔で言います。
「卵料理専門店ですか?つまり、この店の経営に、ソフィア・フード・コンツェルンが携わる、と?」
「いや、コンツェルンの資産からは1銅貨も使えぬ故、我の趣味でやるのじゃ。前々から、やりたかったのじゃ。しかし、ヴァレンティーナには却下されたのじゃ。ニッチ過ぎる、とな。じゃから、勝手にやるのじゃ。ここで卵料理専門店を流行らせて実績を作り、行く行くは、コンツェルンが手がけるメイン・プロジェクトに昇格させるつもりじゃ」
ソフィアは、フンスッ、と胸を張って言いました。
あ、そう。
卵料理専門店ですか……確かに、ニッチと言えば、その通りですが、やり方によっては流行りそうな気もします。
ソフィアから……一等地をくれ……と言われて、神殿や役場や各ギルドの出張所が集まるエリアの一角を与えたら、これですか?
巨大な卵型の建造物。
場違い感が半端ではありません。
まあ、良いでしょう。
この卵料理専門店は、ソフィアのイメージを聞いたオラクルが【超位】の土木・建築魔法で造り、ソフィアがオラクルに【回復】を、かけ続けて出力を上げて建てられていました。
ソフィアとオラクルがニコイチになれば、この程度の立派な(?)建物も出来る訳ですね。
「ノヒトよ。そろそろ、玉子のおでん、を食べに行く時間じゃ」
「まだ、2時間くらいしないと、夕食には早いよ」
「時差があるのじゃ」
ソフィアは、言いました。
「時差はあるよ。【サンタ・グレモリア】の方が遅れているけれどね。つまり、早過ぎる」
「早いくらいで丁度良いのじゃ。行くのじゃ」
ソフィアは、言います。
「はいはい、わかりましたよ」
町造りは、終わっています。
内装などは、この町に住んだり運営する人達がやれば良い事ですからね。
私は、神の軍団白師団の神兵達に、町の警備を任せて【転移】しました。
・・・
カティサーク船内。
私達は、カティサークに戻って来ました。
「グレモリー達がいないのじゃ」
ソフィアは言います。
「約束の時間には、まだ早いですから、当然ですよ」
「呼び出すのじゃ」
ソフィアは、スマホを取り出して、グレモリー・グリモワールを呼び出しました。
「ソフィア。邪魔をしないように」
「大丈夫なのじゃ。ああ……グレモリーか?ソフィアじゃ。早く戻って来るのじゃ。今、何階層じゃ?うむ、ならば、あと5分で終わるの?なぬっ?むむむ……わかったのじゃ。待つのじゃ。じゃが、なるべく急いで欲しいのじゃ」
ソフィアは、通話を終了します。
ソフィアの脳に共生する知性体フロネシスとパスを通じて聴いていましたが……あまり急ぐと注意力が低下して安全性を損なう……として、ソフィアは、グレモリー・グリモワールから窘められていました。
それで、ソフィアも不承不承従った訳です。
ソフィアも、さすがに、ファミリアーレの子供達の安全より自分の欲望を優先する事は出来なかったのでしょう。
大人しく待つ事にしたようです。
ソフィアとウルスラは、バケツ・プリンとアイスクリームを【宝物庫】から取り出して食べ始めました。
私とトリニティとファヴとリントも、冷たい飲み物で一服。
サウス大陸は、暑いですからね。
私は、アイス・ティーを嗜みながら、ミネルヴァと【念話】で懸案事項の打ち合わせをしています。
内容は【魔界】問題。
目下の所、ゲームマスター業務として最も優先順位が高いのは、この【魔界】情勢でしょう。
【魔界】にある5大陸の内、現在、【シエーロ】と繋がる【門】がある中央大陸と、それから東大陸については、私が【魔界】庇護者に任じたルシフェルが管理下に置いています。
しかし、西大陸、南大陸、北大陸は、全てスタンピードが発生中。
これは、暴走した【知の回廊】の人工知能と、ルシフェル陣営が長く内戦をしていた間に、管理の手が及ばなくなった【魔界】が荒廃してしまった事によって起きてしまいました。
そもそも、【魔界】の住人は、狂った【知の回廊】の人工知能に命令された、ルシフェル達、天軍による虐殺により、極端に人口が減少していたのです。
人口減少により、相対的に魔物への抵抗力が弱まっていたので、管理者である【シエーロ】の勢力が、半ば【魔界】を放置した結果……スタンピードという最悪の事態を招いてしまいました。
これを何とかしなければいけません。
私は、当初、軽く考えていました。
スタンピードを起こしている【魔界】の遺跡を攻略した後に、サウス大陸奪還作戦の時に私が【ムームー】で行ったように、【粒子崩壊】を発動させ、大陸の生物を全て全滅させてから、復興させれば良いと考えていたのです。
しかし、結論から言えば、この方法は取れません。
何故なら、スタンピードを起こしている大陸の各主要都市には、多くの人種や【魔人】が生存し、細々とした生活を維持していたからです。
これは、【魔界】の都市の仕様が関係していました。
私達が今現在いる【地上界】には守護竜がいます。
【地上界】では、人種が対処出来ない事態……つまりスタンピードなどが発生してしまった場合、究極的には守護竜が出動して人種を守る仕様でした。
しかし、【魔界】には、守護竜はいません。
【魔界】には守護竜がいない代わりに存在するのが、【都市結界】。
【魔界】には、各主要都市に、全て【都市結界】があり、魔物の侵入を許さない仕様となっているのです。
これは、【地上界】側の各大陸の中央国家で、守護竜が張る【神位結界】より、強力な【創造主】の張った【結界】なので、あらゆる魔物を侵入させません。
【魔界】の世界観は、昔懐かしいテレビゲーム的RPGをイメージしてデザインされています。
昔のテレビゲームのRPGでは、町の中ではモンスターとはエンカウントしない仕様でした。
なので、【魔界】側の主要都市にも魔物は侵入出来ないのです。
この【都市結界】の仕様のせいで……というか、おかげで、【魔界】のスタンピードを起こしている、西・南・北の各大陸でも、主要都市内では、安全が保たれていて、未だ、住人が暮らしていました。
なので、【粒子崩壊】で丸っと魔物を消滅されてしまうと、都市住人が死んでしまいます。
【超神位魔法……粒子崩壊】を【創造主】の張った【都市結界】で、防げないのか?
それが、この【創造主】の張った【都市結界】は、魔物(生物)の侵入を許さないという事に特化した【結界】なので、攻撃魔法は透過してしまうのです。
細かく地域を限定しながら【粒子崩壊】を使う、などという工夫は出来るにしても、やはり効率は悪くなりますからね。
例えば、私がスタンピードを起こしている大陸の主要都市に向かい、【転移】で住人を全員避難させ、後に【粒子崩壊】を使えば?
これも一筋縄ではいきません。
【創造主】の張った【都市結界】は、魔物(生物)の侵入を許さないのです。
つまり、【創造主】の張った【都市結界】を跨いでの【転移】は不可能。
私が【サントゥアリーオ】でやったように【超神位魔法】による強制転移をすれば?
これも不可能です。
何故なら、【サントゥアリーオ】の【結界】は、リントが張っている【神位結界】でした。
【神位結界】より、【超神位魔法】の方が強いので、その位階差によって強制転移が可能なのです。
【魔界】の主要都市に張られた【都市結界】は【創造主の魔法】。
【創造主の魔法】と【超神位魔法】では、【創造主の魔法】の方が強いので、その位階差によって、【転移】は弾かれてしまいます。
なかなか、難しい状況でした。
幸いにして、【創造主】の張った【都市結界】の内部には、魔物は侵入出来ませんので、都市内で食料自給が保たれている間は、時間的に猶予があります。
ゆっくりと、腰を据えて、スタンピードを起こしている【魔界】の遺跡を1つずつ各個攻略して、地上に溢れた魔物も、地道に処理していけば、やがて解放はなる、はずでした。
私とミネルヴァは、【魔界】問題の対応概案を纏め上げます。
そうこうしていると、ファミリアーレとグレモリー・グリモワール一行が、戻って来ました。
予定通り【オピオン遺跡】の20階層まで踏破したそうです。
「グレモリー。ゆで卵の、おでんを食べに行くのじゃ」
ソフィアは、早速、グレモリー・グリモワールに、依頼しました。
「あー、はいはい。準備は整っているはずだよ。ノヒト、行ける?」
グレモリー・グリモワールは言いました。
「では、行きましょう」
ソフィアは、30秒おきに、おでん、おでん、おでん……と言っていましたからね。
新手の拷問かと思いましたよ。
私は、カティサークごと、【サンタ・グレモリア】目掛けて、【転移】しました。
お読み頂き、ありがとうございます。
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・・・
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