第296話。ラドーン・ダンジョン門前町。
名前…エイブラハム・ターレンス
種族…【人】
性別…男性
年齢…88歳
職種…【貴人】
魔法…なし
特性…【才能…威風】、【経営】
レベル…31
元【アトランティーデ海洋国】大公で、現国王相談役。
先代パトリシア女王の弟で、現ゴトフリード王の大叔父。
ターレンスは、【アトランティーデ海洋国】王家の元来の家名。
【ラドーン遺跡】入口。
私は、【ラドーン遺跡】の入口近くに町を造ろうと考え、ステータス画面上に町のパターンを表示していました。
さてと、どんな町にしましょうかね。
一番シンプルなのは、江戸時代の寺社門前町のように、遺跡の入口から参道を伸ばして、その両脇に商店や宿屋などを並べる方式です。
多少、大きな街とするなら、格子状に道を配置して区画を造る方式もありますね。
これは【タナカ・ビレッジ】や【サンタ・グレモリア】も似たような方式を採用しています。
この世界の主要都市のデザインのように、中央から放射状に道を伸ばし、同心円状の道と交わらさせる方式もありました。
「ノヒトよ。安全の為に、遺跡の入口を堅牢な城壁で囲み、【超神位魔法】による【バフ】で強化してしまえば良いのではないか?そうすれば、仮にスタンピードが起きても、魔物を閉じ込めておけるのじゃ」
ソフィアが言いました。
確かに、そういう方法も考慮に値しますが……。
「残念ながら、それは私には出来ませんね」
「何故じゃ?」
「私はゲームマスターです。ゲームマスターは中立……人種だけの味方と言う訳ではありませんのでね」
「なるほどの……」
ソフィアは、即座に私が言わんとする事を理解してくれたようです。
人種が管理を誤れば、遺跡がスタンピードを起こす……というのは、世界の理。
運営は、それを当たり前の自然の摂理と設定しており、良い事とも悪い事とも規定してはいないのです。
例えば、サウス大陸で私がスタンピードを止める為に行った一連の行動は……ユーザー大消失……という運営側が想定していなかったイレギュラーな事態に起因してスタンピードが発生してしまったから、止むを得ずに行った事でした。
ゲーム設定上起こり得るスタンピードを、運営側の人間……つまりゲームマスターである私が全く起こらない状態にしてしまうのは……世界への過剰な介入です。
それは、ゲームマスターがやるべき仕事ではありません。
もしも、人種が独自の工夫によってスタンピードを止める手立てを考案したのなら、それが世界の理に違反するモノでない限り、私は、それを看過し容認するでしょう。
しかし現状……スタンピードは起こり得るモノ……なので、それをゲームマスター権限を用いて起こらないようにしてしまうつもりはありません。
世界の世界観を管理するのにも……さじ加減……というモノがあります。
人種の平和や安全に配慮してあげたい気持ちは、やまやまなのですが、世界の世界観を破壊する事は、私がゲームマスターである以上やるべき事ではありません。
私は、世界を意のままに創り変える全知全能たる支配者などではなく、世界を在るべき世界観に維持する単なる一介の管理者でしかないのですから。
これは、私の立場としては、なかなか辛い制約では、あります。
閑話休題。
結局、一番シンプルな門前町方式を採用しました。
私は、参道を真っ直ぐ伸ばして、その両側に店舗や宿屋を建築して行きます。
参道は、ゆったりとした二車線の馬車道が交互通行出来る合計四車線。
その脇に高さを持たせた歩道を造りました。
馬車から荷を積み降ろしする際に、高さが合っているので利便性が良いですし、交通を人種と馬車とをセパレートする事で交通事故防止にもなります。
馬車道の横断には歩道橋を用いましょう。
建材は、【サンタ・グレモリア】の地下鉄工事で出た膨大な量の土砂があるので、それを流用しました。
私が、いつも建築の基礎部材に用いるオリハルコンとアダマンタイトの複合材は、高価です。
この遺跡門前町は、完成した後、私の管理を離れますからね。
高価な建材を盗もうとする輩が現れないとも限りません。
私の【神位バフ】を抜いて、芯材のオリハルコンとアダマンタイトの複合材を、ほじくり出すのは、超難易度だとは思いますが、理論上不可能ではありません。
因みに、【超神位バフ】ならば、人種には、破壊不可能に出来ます。
しかし、これはゲームマスターの業務とは関係ない町造りなので、【超神位魔法】を使うと、ゲームマスター遵守条項に抵触するので、出来ません。
ただしミネルヴァ曰く……こちらの世界が外部と完全に途絶している現状、唯一の運営権者である私は、実質【創造主】の権限を代行する存在だ……という事なので、やろうと思えば、いつでも何でもやって良いのだそうですが……。
それをすると、私は、神・人の境界を踏み越えて、人間社会の側に帰って来れなくなりそうですからね。
私は、ゲームマスターの業務以外のプライベートでは、人種と交流しながら市井に生きていたいのです。
神様などになるのは、真っ平ごめんですよ。
いや、まあ、設定上、私は【神格者】……間違いなく神の1柱なのですが……。
プライベートも神様業をやり続けたくはありません。
私は、【サンタ・グレモリア】の地下鉄工事で回収した土砂を【圧縮】で固めて【白熱】で焼き締めます。
すると、超強度の耐火煉瓦が出来上がりました。
カチンッ、カチーンッ。
「まるで金属のような音がするのじゃ」
ソフィアが耐火煉瓦を指で弾きながら言います。
「うん、硬いですよ」
「防御力は高そうじゃな?」
「防御力よりも、空調効率の問題を考えたんだけれどね。サウス大陸は暑いから」
「うむ。それは、大事なポイントじゃ」
アラームが鳴りました。
正午です。
私は、耐火煉瓦を必要量製造したところで、作業を中断しました。
「続きは、午後にしましょう」
「うむ。昼ご飯を食べに行くのじゃ」
ソフィアは耐火煉瓦を、集積してある建材の山の上にポイッと投げて言います。
「やっほ〜い。ご飯、ご飯〜」
ウルスラが、バレルロールをしながら言いました。
さてと、カティサークに向かいましょう。
私達は、南方の【オピオン遺跡】に停泊するカティサーク目掛けて【転移】しました。
・・・
【オピオン遺跡】上空。
カティサーク。
私達が、カティサークの転移魔法陣に到着すると、ファミリアーレとグレモリー・グリモワール一行は、全員揃っていました。
「グレモリー。お疲れ様です。進捗はどうですか?」
「問題ないね。15階層まで到達した。安全地帯に転移魔法陣を設置して、早めに切り上げて来たよ」
グレモリー・グリモワールは言います。
「ファミリアーレの様子は?死亡者は出ませんでしたか?」
「ファミリアーレの子達は優秀だよ。みんな、良く鍛えられている。私の指示を無視して突出するような子もいないしね。死ぬ子もいない。そもそも、あの浅層階で死ぬようなら、30階層の若い遺跡とはいえ、潜るのは早いからね」
「そうですね」
グレモリー・グリモワールの説明によると、オリジナル・ファミリアーレの9人はレベルが、そこそこ高いので、まずはレベルが低いサブリナのレベル上げをして、クランのレベルを揃える事を主眼としているようです。
レベル差があり過ぎると共闘が難しくなりますからね。
つまり、魔物を【麻痺】や【昏睡】で無抵抗な状態にして、サブリナに攻撃させる、と。
3人が疲労したり魔力が減ったら、グレモリー・グリモワールが【回復】をかけているそうです。
なかなかのスパルタ指導ですね。
その間、オリジナル・ファミリアーレは、陣形を組んで、魔物との不意のエンカウントに備えさせているのだ、とか。
なるほど。
妥当な采配でしょう。
ロルフ君とリスベットちゃんは飛び抜けているね……あの2人には才能があるよ……あとは、ハリエットちゃんだね……あの子も化ける……他の子達も、みんな一生懸命だから、修行を積めば、それなりにはなるだろうけれど、突き抜けた存在になる可能性があるのは、その3人かな。
グレモリー・グリモワールは【念話】で伝えて来ました。
言葉で話さなかったのは、率直な評価をファミリアーレに聴かせない為。
気を使ってくれたのでしょう。
グレモリー・グリモワールの分析は正しいと思います。
ロルフとリスベットは、超一流となる素養がありました。
ハリエットは、その次点で可能性を秘めています。
しかし、他の子達は、誤解を恐れずに言えば、凡庸。
この評価は私と同様でした。
ただし、私とグレモリー・グリモワールの評価基準は、ユーザーを比較対象にしているので、相当シビアな辛口採点なのです。
ファミリアーレの能力は、NPCの中に入れば、現時点でも超人クラス。
この先、私が鍛え上げれば、NPCの勇者クラスくらいには育つでしょう。
さらに、グレモリー・グリモワールの評価は、あくまでも個体戦闘力を見てのモノ。
例えばモルガーナなどは、【古代竜騎士】ですしね。
騎竜のジャスパーと人竜一体となれば、モルガーナは将来、壁を突き抜けて超一流に届くと思います。
他の子達の将来性も、私は全く悲観などはしていません。
本人達の努力次第ではありますが……私が全ての知識とノウハウを駆使して指導すれば、全員を超一流に育て上げる事が出来る……という自信があります。
私が持つ知識には、グレモリー・グリモワールが知らない引き出しもたくさんあるのですよ。
不正な違反行為などに頼らなくても、裏技や小ネタの類は幾らでもあるのです。
私は、贔屓目なしで、ファミリアーレの数年後が楽しみですよ。
・・・
カティサークの食堂。
ファヴとリントとティファニーが、今日の仕事を終えて、合流しました。
皆で、カティサークの食堂に移動して昼食を食べ始めます。
今日のランチ・メニューは、ファミリアーレの希望でした。
トリプル・チーズ・バーガー。
フライドチキン。
フレンチフライ。
コールスローサラダ。
クラムチャウダー。
全て、ソフィア・フード・コンツェルンが運営するフードコートに出店するバーガーショップのメニューです。
ソフィアは、トリプル・チーズ・バーガーに、ゆで卵を大量にトッピングをしていました。
なるほど。
トッピングありですか。
ならば、私は、トリプル・チーズ・バーガーにレタスとトマトとピクルスを増し増しで……。
バーガー・ショップのメニューは、グレモリー・グリモワール達にも、好評。
こういったファスト・フード系のメニューで、しかも美味しいモノは、文明水準が高い地域でないと味わえません。
「くーーっ!美味い。こういう食べ物に飢えていたんだよね。【ブリリア王国】には美味いファスト・フードは、あんましないからね。時々、無性に、こういうモノが食べたくなるんだよ」
グレモリー・グリモワールは言いました。
「私は、無性にソーメンが食べたいですね。別にソーメンが好きでもなかったのですが、サウス大陸などで活動していて、照りつける陽の光を浴びていると、何故だか、口がソーメンを欲しがります」
「あー、ソーメンは、お店にないからね〜。わかるよ。ツユは、やや辛口で、生姜とミョウガとネギを刻んで、すすり込みたいね」
「後は、コンビニのピザまんとか、おでんとか……」
「あー、アンまんと、ピザまんが食べたい」
「何じゃ、そのソーメンやら、アンまんやら、ピザまんやら、おでん、とは?」
ソフィアが食い付きました。
「ソーメンは小麦粉で作った麺です。【ワールド・コア】ルームの蕎麦屋で食べられる、うどん、に似ていますが、もっと細いモノです。パスタのカッペッリーニに近いでしょうかね。私やグレモリーなど日本人は、それを水で冷やして夏に良く食べます。しかし、ソーメンは、あまり飲食店ではメニューに置いてありません。家庭の味という側面が強いので、探したのですが、こちらの世界には、ないようです。アンまんとピザまんは、【ワールド・コア】ルームの点心飲茶料理店で、包子や饅頭というモノがありますね?あれに似ていますが、あれを私達、日本人は、肉まん、や、豚まん、と呼びます。中身の具を、小豆あんに変えたモノが、アンまん。ピザソースに変えたモノがピザまんです。おでんは、魚の練り物や、大根などの野菜や、ゆで卵を昆布出汁で炊いて味を染み込ませたモノです」
「なぬーーっ!ゆで卵をか?それは食べてみなくてはならぬ」
ソフィアは、おでんの玉子のみに敏感に反応します。
「おでんは、ウチの料理長が、ほぼほぼ同じモノの再現に成功したよ。ほら、【サンタ・グレモリア】は練り物が名産だからね」
グレモリー・グリモワールは言いました。
「グレモリーよ。我は、その、おでん、なるモノを食べてみたいのじゃ」
ソフィアは、グレモリー・グリモワールに懇願します。
「良いよ」
「ならば、今晩の夕食は、グレモリーのところで、おでん、を馳走になろう。良いな、ノヒト?」
ソフィアが言いました。
「グレモリーが良いならば、構いませんよ」
「ウチは、構わないよ」
グレモリー・グリモワールは、すぐスマホを取り出し、その場で【サンタ・グレモリア】に連絡して、指示を出します。
「おーーっ!やったのじゃ。そうと決まれば、すぐに午後の仕事を片付けて、グレモリーのところに向かうのじゃ。ほれ、ノヒト、早く、ハンバーガーを食べてしまえ」
ソフィアは、言いました。
「急いだところで、夕食の時間は早く来ませんよ」
「やってみなければ、わからないのじゃ」
ああ、こうなるとソフィアは、アンストッパブルです。
私は、ソフィアに急き立てられて、食事を終わらせました。
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