第295話。ノヒトの弱点?
名前…ニーナ・アトランティーデ
種族…【人】
性別…女性
年齢…16歳
職種…【王家】
魔法…なし
特性…【才能…気品】
レベル…12
【アトランティーデ海洋国】第2王女。
【ラドーン遺跡】。
私達は、猛烈なスピードで遺跡内を飛行していました。
1階層に所用する時間、わずか3分。
私が、魔物素材の放置を決めたからです。
先頭のソフィアがブレスを吐きっぱなしで飛び、私は、ブレスが遺跡の壁に当たって跳ね返って来る余波を、範囲【防御】で防ぎながら追随。
蟲の残骸は、一切回収しなくても良い……という判断でした。
気持ち悪いので……。
まあ、ソフィアのブレスで跡形もなく消滅していますが……。
「おーーっ!アレは、カッコ良いのじゃ。ノヒトよ、【調伏】して、ペットにして、連れて帰るのじゃ」
ソフィアが、時々、奇抜なデザインの蟲を見つけて、私に【調伏】するように、せがみます。
「ソフィア。アルフォンシーナさんに聴いてごらん。アルフォンシーナさんが……飼っても良い……って許可をするなら、連れて帰っても良いよ。因みに……私は世話をしない……と伝えて下さいね」
「やったーーっ!」
ソフィアは喜んで、パスを通じてアルフォンシーナさんに、お伺いを立てました。
結論は出ていますが……。
「ぬぐぐ……ダメじゃった。あくまでも飼うというのならば、絶対に姿が見えない所に厳重に閉じ込めておくように……と言われたのじゃ」
ソフィアは、ガッカリして報告しました。
まあ、それは、そうでしょうね。
以前に、アルフォンシーナさんと一緒にいる時、蟲の話題が出た事がありました。
あの時のアルフォンシーナさんは、いつもの鉄壁の微笑みが物凄く引きつっていました。
アルフォンシーナさんが、蟲嫌い組合の一員だという事はわかっているのですよ。
アルフォンシーナさんは、私の側の人なのです。
それだけで、私のアルフォンシーナさんに対する好感度が2段階くらい上がりました。
蟲は、実は、有用な素材が取れます。
甲蟲系の外皮殻や繊維は、同じ質量の鋼鉄より強度があり、しなやかでした。
また、オリハルコンやアダマンタイトやミスリルなどと違い、甲蟲の被殻は比較的に加工が容易な為、鉱物製や皮革製の装備品よりも安価で購入出来るという利点もあります。
なので【甲蟲被殻の鎧】などは強くて軽くて安い為、NPCの冒険者達からは大変に人気がありました。
中級以下の冒険者達には、かなり広く普及しています。
しかし、黒光りするあの質感と、一見してソレとわかる形状……。
私は、率直に言って苦手でした。
ゲーム時代もユーザーには、不人気アイテムでしたね。
あの手のグロテスクな趣味を好む一部のマニアックな人達や、費用対効果優先の割り切った考え方の人達しか、蟲素材を使用するユーザーはいませんでした。
さらに、この世界では、蟲は、食材としても流通しています。
そうです、食べるのですよ。
殻を剥いて、中身の肉部分を加熱して、高級な料理に化ける事もありますが、料理によっては、ボイルしただけで、あたかもタラバガニやロブスターを食べるように、脚や胴体の殻を割って、ムシャムシャと……おえ〜っ!
一部では、飼育が容易で比較的コストもかからない優秀な食用家畜として、積極的に利用している地域もあるやに聞きます。
他所様の食の嗜好や、ローカル・コミュニティの食文化について、とやかく言うつもりはありません。
しかし、誰しも生理的に無理なモノって、あると思います。
私の場合は……本当に、ごめんなさい……でした。
なので、蟲素材は、ガン無視。
ダジャレではありません。
本当に無理なのです。
おかげで、私達は、午前中の、まだ早い時間で、60階層まで到達してしまいました。
・・・
60階層のボス部屋奥の安全地帯部屋。
一応、ここまでの踏破歴を振り返ってみます。
30階層までは、洞窟タイプの迷宮。
10階層のボスは、【芋蟲】。
一応、魔物という扱いですが、大きな芋虫というだけですね。
攻撃手段は、毒や粘糸を吐いてきます。
成虫になると【王蛾】や【女王蝶】に変態しました。
雌雄に関係なく、王や女王と呼ばれるのです。
成蟲は、飛ぶ分だけ脅威度は上がりますが、まあ、どちらにせよ雑魚敵の部類でしょう。
私に素材を回収する意思が全くないので、ソフィアのブレスで丸っと消滅させました。
【宝箱】の中身は【銅の剣】。
素材に戻して【収納】に回収します。
20階層のボスは、【巨蟻】。
こちらも大きいだけの蟻。
毒を帯びた強力な顎が武器ですが、噛まれなければ、どうという事もありません。
外界では一糸乱れぬ統制の取れた群を形成し、戦闘となると予想外に苦戦したりしますが、遺跡では、単体か、多くても数体のエンカウントなので、さほど脅威ではありません。
ソフィアのブレスで消滅させました。
【宝箱】の中身は【鋼の籠手】。
素材に戻して【収納】に回収します。
30階層のボスは、【巨クワガタ】が3匹。
ここから【中位】の魔物が現れます。
ソフィアが【巨クワガタ】を猛烈に連れて帰りたがりましたが、パスを通じてアルフォンシーナさんが即時却下。
ソフィアが泣く泣くブレスで消滅させました。
【宝箱】の中身は【魔鋼の弓】。
素材に戻して【収納】に回収しました。
31階層からは、遺跡内部の様相がトンネル形状の迷宮に変わります。
31階層からは、エンカウントする魔物も全て【中位】になりました。
40階層のボスは、【王カブト虫】の雌雄。
今回も、ソフィアが連れて帰る要望は通りません。
当然です。
雌雄を番でなんか連れ帰って、万が一、竜城内で繁殖なんかしたら、事件ですからね。
アルフォンシーナさんが職務放棄をしかねません。
私も、拠点を【エピカント】辺りへ変更する事を検討するでしょう。
【宝箱】の中身は【ミスリルの鎧】。
鋼材に戻し【収納】に回収しました。
50階層のボスは、【ローチ】。
マジか〜……そして数が多い。
出ました。
アイツらです。
体長2m以上の、ゴキ……くっ、名前を呼ぶのさえ憚られますね。
背中の辺りが、ゾワゾワします。
ある意味、コイツらが、最強ですよ。
これだけ忌避感が強いという事は、もはや、この感情は根源的なモノなのではないでしょうか?
遺伝子情報に刷り込まれた本能による何か。
おそらく人間の祖先である哺乳動物は、コイツらに、相当嫌な事をされたのではないでしょうか?
「ソフィアさん。早く消滅させちゃって下さい」
私は、ソフィアの背中を押して言いました。
「何じゃ?そんなに急ぐならば自分でやれば良かろう?」
いやいや、無理無理。
例え魔法による遠隔攻撃でも、私は、一切関与したくありません。
ソフィアがブレスで、奴らを消滅させました。
【宝箱】の中身は、【魔道具】の【光る石】。
魔力を流すと60W電球ほどの灯りとして使えます。
遺跡の中は暗いので、冒険者にとっては、それなりには有用なアイテムでした。
暗視が利く私達には、ゴミ・アイテムですけれどね。
一応、【収納】に回収しました。
60階層のボスは、【血蜘蛛】が3匹。
ここからは、【高位】の魔物が出現しました。
名前が示す通り、血のように真っ赤な色をしています。
【血蜘蛛】は、毒々しい体色に違わず、猛毒を持っていました。
蜘蛛の糸で巣をかける事はなく、専ら獲物を襲い毒で殺して狩をします。
イメージは地球のタランチュラ。
「ソフィア。【コア】を回収したいので、ブレスはなしで。私がやりますよ」
私は、【神弓】で急所を目掛けて、続けざまに3射。
瞬殺した【血蜘蛛】に【神剣】を突き刺して【高位コア】を抉り出し、死体と一緒に【収納】に回収しました。
私、クモやムカデやサソリのような脚が、たくさん生えている系の連中は、比較的、平気なのです。
カニやエビの仲間だと思えますからね。
しかし、クモやムカデやサソリは、食べませんが……。
昆虫と芋虫と毛虫が、ごめんなさい、なのです。
ミミズの化け物みたいな【ワーム】もギリ平気ですね。
あっちはヘビの仲間だ、と自分に言い聞かせて自己暗示をかけています。
【宝箱】の中身は【コンティニュー・ストーン】でした。
こんな具合で、私達は、60階層までを、あっという間に踏破したのです。
・・・
私達は、休憩がてらオヤツを食べていました。
ここから先は、蟲エリアではないとわかっているので気が楽です。
「強力な蟲は出なかったのじゃ。つまらぬ」
ソフィアが言いました。
「遺跡の60階層までは、最後のボスが【高位】、それ以外は【中位】以下だからね。この下の階層……亜空間フィールド・エリアが蟲が生息するエリアなら、場合によっては【超位】も出るよ」
「うむ。ゲームマスター本部の図書館でオラクルに調べさせたところによると、【騎士蟷螂】や【皇帝蜘蛛】や【猛毒サソリ】などは、相当に強力らしいの?戦ってみたいのじゃ」
ソフィアは、オニギリを食べながら言います。
「それに、【王ムカデ】の上位種である【皇帝ムカデ】を含めた4種が【超位】級の蟲系魔物の代表格だね。人種が遭遇したら、生存を諦めるくらいには強力な個体だよ」
「うむ。倒しがいがありそうじゃ」
「まあ、エンカウントしたら、だね」
カマキリは、出来るだけエンカウントしたくはありませんね。
他の3種は、エビカニの仲間と多足類……大丈夫です。
「ノヒトよ。この分だと、今日中に【ラドーン遺跡】は攻略出来そうじゃな?さっさと、やっつけてしまうのじゃ」
ソフィアが卵焼きを食べながら言いました。
「いや、今日はここまでだよ。61階層は予定通り、明日、ファヴとリントとティファニーが合流してからです」
「何故じゃ?我は、先に行きたいのじゃ。すぐに行くのじゃ」
ソフィアが駄々をこね始めます。
面倒臭いパターンです。
「ファヴとリントとティファニーにも、活躍の機会を与えてあげなくちゃ。それにソフィアの活躍する姿を、ソフィアの事を尊敬する彼らにも見せてあげる必要があるのでは?」
「……うむ。それは道理じゃな。リントにもソフィア流戦闘術を伝授してやる約束もあしてるしの」
ソフィアは、納得しました。
ふっ……チョロいな、ソフィア。
「ノヒト様。では、この後の予定は如何なさいますか?まだ午前中です」
トリニティが訊ねました。
「遺跡の入口に、町でも造りましょうか?冒険者が宿泊する宿屋、食事をする飲食店や酒場、素材を買い取る冒険者ギルド出張所などを誘致出来たら便利だと思うのですよね?ほら、セントラル大陸では、900年前には、4つの大きな遺跡街があったではないですか?アレをイメージしています」
「なるほどの。確かに昔は、遺跡街は、賑わっていたのじゃ。軍が遺跡を管理するようになって以降、訪れる冒険者はいなくなり、すっかり廃れてしまったがの」
ソフィアは、言います。
「はい。なので、町を造って、【パラディーゾ】政府に譲渡しましょう」
「うむ。冒険者が快適に過ごせる環境整備をすれば、たくさんの冒険者が集まり、遺跡の間引きが適切に行われ、スタンピードのリスクを低減させられるのじゃ。それは、理に適った考えじゃ」
「はい。それに遺跡町があれば、買取や補給などに、いちいち都市まで往復する手間がなくなるので、遺跡に挑む延べ人数も増えて、魔物素材の産出量も増えますし、遺跡町で雇用も生まれます。サウス大陸は復興途上ですから、有効な経済対策になると思います」
「うむ。遺跡から取れる魔物の素材が増えれば、相対的に魔物素材は値下がりして、一時的に関連産業の利幅は下がるかもしれぬが、経済全体の事を考えれば、どちらが利益が大きいかは自明じゃ。町を造るのじゃ」
ソフィアは、意外にも馬鹿ではないので、メリットとデメリットを推し量り、正しい結論を導き出しました。
「それに、【アトランティーデ海洋国】から【ラドーン遺跡】と【ピュトン遺跡】の管理権を【パラディーゾ】に移してしまいましたからね。遺跡町で雇用される人達は、おそらく隣接地の住民……つまり【アトランティーデ海洋国】の人達になるはずです。これは、埋め合わせの意味もあります」
「まあ、遺跡の所有権は、【アトランティーデ海洋国】から【パラディーゾ】への賠償としての側面があるから当然だとは言え、フォローをしてやるのは大事じゃの。件の陰謀は、愚かなイングヴェがしでかした事。【アトランティーデ海洋国】全ての責任ではないのじゃからの」
サウス大陸の北東にある【ラドーン遺跡】と、サウス大陸の北西にある【ピュトン遺跡】は、長らく【アトランティーデ海洋国】が所有し管理して来ましたが、イングヴェ元王子による陰謀で迷惑をかけた賠償として、【パラディーゾ】に譲渡されています。
遺跡の産出品の所有権は失いましたが、遺跡町で雇用が生まれ【アトランティーデ海洋国】民の働き口となれば、多少は【アトランティーデ海洋国】への損失補填となるでしょう。
私達は、60階層のボス部屋奥の安全地帯部屋に転移座標を設置して、地上に【転移】で帰還しました。
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