第292話。アサシン(暗殺者)。
本日、2話目の投稿です。
ウエスト大陸の西方国家【ブリリア王国】。
【ブリリア王国】の東【イースタリア】。
【イースタリア】の東端【サンタ・グレモリア】。
私達が【サンタ・グレモリア】中央聖堂の礼拝堂に到着すると、聖職者の皆さんが、挨拶をしてくれました。
聖職者の1人がスマホで、【サンタ・グレモリア】の統治実務を担う、アリス辺境伯に連絡を入れます。
しばらく待っていると、アリス・アップルツリー辺境伯と複数の人物と、数体の【自動人形】・シグニチャー・エディションが、やって来ました。
この【自動人形】・シグニチャー・エディション達は、私が、グリモワール艦隊のクルーとしてグレモリー・グリモワールに譲渡した139個体の一部です。
しかし、現在、グリモワール艦隊のクルーは、先の【ウトピーア法皇国】との戦争でグレモリー・グリモワールに倒された【ウトピーア法皇国】軍の兵士達の【ゾンビ】9千体によって賄われていました。
この【ゾンビ】は、グリモワール艦隊の各艦船の【メイン・コア】が管制制御しているので、グレモリー・グリモワールが【管制】に煩わされる事はありません。
なので、グレモリー・グリモワールは、【自動人形】・シグニチャー・エディション達を【サンタ・グレモリア】の防衛や、要人警護、学校教師、軍事教官、工場のオペレーター……など、として活用しているようです。
また、グレモリー・グリモワールの自宅である【マジック・カースル】や2つある別荘の管理人も【自動人形】・シグニチャー・エディション達に任せているそうですね。
うん。
汎用性の高い【自動人形】・シグニチャー・エディション達を、艦隊クルーという限定的な任務に縛っておくのは勿体ないですからね。
私達を迎えに来たのは、アリス辺境伯、グレース・シダーウッド子爵、スペンサー・サイプレス子爵……そして、【自動人形】・シグニチャー・エディション以外にも、武装した人種の護衛らしき女性が1人。
ん?
この護衛の女性……どこかで見たような……。
職種は【暗殺者】……得物はミスリルの刺突武器……。
あっ!
「あのう、護衛の方。もしかして、あなた【神竜】の復活記念武道大会で、ベスト8に勝ち上がっていませんでしたか?」
「えっ?あ、はい」
女性の護衛は、答えました。
やっぱり。
彼女は、予選会でサイラスを倒して勝ち上がり、準々決勝で、冒険者パーティ月虹のリーダーであるペネロペさんに負けていました。
招待選手枠ではなく、予選会から勝ち上がって本戦で活躍した相当の手練れだったので、良く覚えています。
護衛の女性は、ヴァネッサと名乗りました。
グレースさんの妹さんなのだそうです。
そう言われてみると、確かに面差しが似ていますね。
「そうですか。あの時の出場選手が、グレースさんの妹さんで、グレモリーの街に所属しているのですね」
「武道大会の折に、お会いしましたか?」
ヴァネッサさんは言いました。
「予選会の一回戦で、あなたと戦って簡単に負けた【オーガ】がいましたよね?」
「はい、覚えています」
「彼は、私の弟子でサイラスと言います。それから、本戦でヴァネッサさんを破って優勝した【魔法剣士】のペネロペさんは、知人なのです。その関係で、武道大会の時からヴァネッサさんの事を知っていたのですよ」
「なるほど、世間は狭いですね」
ヴァネッサさんは、冒険者として名を上げようと、世界中を武者修行の旅をして回っていたそうです。
しかし、【神竜】復活記念武道大会で、ペネロペさんに手も足も出ずに負けた事で、自分の限界を悟り、旅を止めて、姉の伝手を頼りに【サンタ・グレモリア】で仕官する道を選んだのだ、とか。
なるほど。
ヴァネッサさんは、ステータスの熟練値を見る限り、厳しい修行を積んで来た事が、良くわかります。
しかし、この世界は、非情の実力社会。
ペネロペさんは、いわば天賦の才に恵まれた、傑物の範疇に入る、類稀な能力を持つ人物なのです。
こういう天才は、アルフォンシーナさんや、ディーテ・エクセルシオールや、剣聖クインシー・クインなどと同様……神に愛された特別な者。
どんなに修行をしても、一般人には生涯届かない雲の上の存在なのです。
ヴァネッサさんが、これから一生をかけて修行しても、ペネロペさんクラスには届かないでしょう。
なので、ヴァネッサさんが個人の名声を馳せる事を目指すより、仕官してコミュニティに貢献する人生設計を選んだ事は、ある意味、正解かもしれません。
ヴァネッサさんは、どうやらチュートリアルを受けているようです。
グレモリー・グリモワールが、ヴァネッサさんにチュートリアルを受けさせたのでしょう。
チュートリアルによって強化されたのならば、生まれ持った才能の差は埋まるのでは?
いや、チュートリアルで基礎戦闘力が強化されたとしても、やはり生まれ持った潜在能力の壁というモノは、歴然と存在するのです。
アルフォンシーナさんや剣聖は、チュートリアルを受けました。
ペネロペさん達のパーティ・メンバーにも、いずれ私はチュートリアルを受けさせるつもりです。
ヴァネッサさんは、おそらくチュートリアルを経た後も、結局は……持つ者と持たざる者……の壁にぶつかり苦悩するでしょう。
そして、その壁は、地球人同士の個人能力差などよりも、はるかに圧倒的な分厚さで現実を突きつけるのです。
異世界は魔物という存在がいる弱肉強食の世界。
この世界は、それだけ生まれ持った潜在能力によって、隔絶した差が生まれてしまうのです。
特に戦闘力では、その差が顕著でした。
なので、守護竜やグレモリー・グリモワールのような、庇護者、という統治者や為政者とは、また違う、特有の権威が存在しているのです。
「では、工事を始めますね」
「はい。何卒よろしくお願い致します」
アリス辺境伯は頭を下げました。
他の【サンタ・グレモリア】の首脳陣も深々と頭を下げます。
私達は、地下鉄の駅となる予定地に向かいました。
・・・
【サンタ・グレモリア】の駅馬車ターミナル。
「グレモリー様からは……ここと、商業区画の、二か所に地下鉄の駅入口を造って頂く……と仰せつかっております。これが図面です。基本的な構造は、なるべく、この図面の通りで……との事でございますが……ディテールは、ノヒト様にお任せする……と」
アリス辺境伯が設計図を開いて説明してくれました。
乗降客の出入り口は、日本の地下鉄駅をイメージした簡素な作りですね。
貨物の方は、専用車両と積み降ろし専用の線路を造り、貨物駅は倉庫群にエレベーターで連結し、その他にも、地下に浮遊移動機を直接乗り入れられる形状です。
なるほど。
効率的ですね。
つまり線路は4本。
相当、巨大なトンネルが必要ですね。
きっと、グレモリー・グリモワールは、私の魔力無限をアテにして大風呂敷を広げたのでしょう。
望むところですよ。
「わかりました」
「あのう。質問をしても構いませんか?」
アリス辺境伯は言いました。
「何でしょう?」
「何故、わざわざ地面の下に交通機関を通すのでしょうか?」
アリス辺境伯は訊ねます。
「地上部分に影響を及ぼさない為です。地下鉄ならば、地上は、そのまま活用出来ますので、地上の交通動線や都市計画が制約を受けません。また、地下のトンネル壁面を私の【神位バフ】で固めてしまえば、魔物の脅威を受けずに済みますので、安全性が担保されます」
「なるほど」
「ノヒトよ。早く掘るのじゃ。トンネル工事は、ロマンがあるのじゃ」
ソフィアが私を急かしました。
はいはい、わかりましたよ。
私は、この先の展開が読めていますが、大人なので、それを口に出したりはしません。
「では、私がトンネルを掘り、壁面を【神位バフ】でシールドして行きますので、トリニティは線路の敷設。オラクルとヴィクトーリアは、グレモリーの指示通りセンサーや照明などの【魔法装置】を適宜製造して各所に設置して行って下さい」
「仰せのままに」
「「畏まりました」」
「我は、何をすれば良いのじゃ?」
ソフィアが訊ねます。
「ソフィアは、何が出来ますか?」
「何でも出来るのじゃ」
「では、トリニティが敷設した線路に耐久力向上の【神位バフ】をかけて行って下さい」
「うむ、わかったのじゃ」
私達は、作業を開始しました。
まず地上部分の構造物を一気に建築。
それから、【サンタ・グレモリア】駅の地下部分には、地下鉄運行の集中管理システムを造ります。
【超位魔法石】に【積層型魔法陣】を構築しました。
想定される使用方法では、まず壊れる心配はありませんが、万が一を考えて、一応、集中管理システム・コアの予備を複数準備します。
これで良し。
次に地下を掘り始め、同時に【神位バフ】で壁面を強化。
掘削で出た土砂は、アリス辺境伯から借りた【自動人形】・シグニチャー・エディション達が、私が【収納】から取り出した複数の【掘削車】を使用して選別します。
利用価値がある鉱物や希土類は、インゴットや粉末状に一次加工して、【宝物庫】に回収。
これらは、グレモリー・グリモワールに渡して、【サンタ・グレモリア】の資源として利用したり売却してもらいます。
利用価値がない大量の土砂は、私が【収納】に回収。
これは、レンガ状に固めて建材にでもしてしまいますかね。
「ノヒトよ。単調な作業で、飽きたのじゃ」
ソフィアが言いました。
「アタシも、地下は、あんまり好きくないかも〜」
ウルスラも言います。
はい、完全に予想していました。
「では、ソフィアとウルスラは、【サンタ・グレモリア】の子供達と遊んであげて下さい。きっと、喜ぶでしょう」
「わかったのじゃ。ウルスラ、行くのじゃ」
ソフィアは言います。
「おーーっ!」
ソフィアとウルスラは、トンネルを飛んで一目散に引き返して行きました。
「ヴィクトーリアは、2人に付いていて下さい」
「畏まりました」
ヴィクトーリアは、2人を追いかけます。
あの2人だけにすると、何かと心配ですからね。
さてと、ここからが工事の本番です。
私は、フルパワーで作業を始めました。
・・・
夕刻。
私は、【イースタリア】までトンネルを開通させ、グレモリー・グリモワールの指示通り、【イースタリア】港のグレモリー・グリモワール所有のターミナルに地下鉄の乗降駅と貨物駅を建築します。
【イースタリア】には領主のリーンハルト侯爵と、グレモリー・グリモワールの代理というトリスタンさんという方達がいて、私達を迎えてくれました。
私、トリニティ、オラクルは、【イースタリア】の中央聖堂に転移座標を設置させてもらいます。
【イースタリア】は初期構造オブジェクトの主要都市ではありませんが、まあ、良いでしょう。
リーンハルト侯爵とトリスタンさんと少し話をしてから、私達は、【イースタリア】駅から再び地下へ。
線路や各種【魔法装置】に【神位バフ】をかけ、点検作業をしながら引き返します。
・・・
【サンタ・グレモリア】駅に到着。
ノヒト……地下鉄工事は順調?
グレモリー・グリモワールから、【念話】がありました。
トンネル工事の方は、あらかた完成です……これから、車両などを造りますよ。
私は、【念話】で答えます。
あ、そう……チュートリアルは終わったよ……私は【シエーロ】に顔を出してから戻るから遅くなる……作業が終わったら、私を待たずに帰っちゃって良いからね……じゃ、そゆことで。
グレモリー・グリモワールは【念話】で伝えて来ました。
了解です……じゃ、また明日。
私は【念話】で伝えます。
さてと、地下鉄の車両を造らなくてはいけません。
とりあえず、客車は、記憶にある日本の電車をイメージした造り。
壁際に座席が一列に並んだ通勤電車仕様。
ちゃんと吊り革も作ります。
1両だけは、向かい合わせのボックス席タイプにしました。
こちらは、一等客室的な位置付け。
動力は各車両に【超位魔法石】を使い、10両編成を10セット。
線路2本の交互通行では、2セットでしか運用出来ませんが、グレモリー・グリモワールの図面には、あらかじめ退避線や合流線……また、それらの切替装置なども細かく設計されていたので、ダイヤグラムを組めば問題なくトラフィックを捌けますね。
オラクルが設置していた大量のセンサーは、集中管理システムや列車とリンクして、緊急ブレーキなどを働かせる運行の安全装置として機能する訳です。
【サンタ・グレモリア】駅に造った集中管理システムで運行の一元管理が行わる仕様でした。
グレモリー・グリモワールの考え方は、基本的に私と同じなので、とても良く理解出来ます。
貨車の方は、グレモリー・グリモワールの指示通りコンテナ・タイプのシンプルな形状で、20両編成。
動力は【超位魔法石】を各車両に。
貨物駅には、クレーンなども設置します。
完成しました。
悪くない出来栄えですね。
いや、グレモリー・グリモワールからは……ディテールは私に任せる……という指示がありました。
何かアレンジしますか。
良し。
私は、【サンタ・グレモリア】駅に駅地下街を造りました。
ここで、キオスクやコンビニ的な店舗や、ファストフード店などの飲食店を営業してもらえば良いでしょう。
私は【イースタリア】側にも駅地下街を造る為に、【転移】で移動しました。
・・・
【イースタリア】駅。
こちらにも駅地下街を増築。
良し。
今度こそ完成ですね。
我ながら、なかなか上手く出来たのではないでしょうか?
私とトリニティとオラクル……それから作業助手をしてくれた【自動人形】・シグニチャー・エディション達は、【サンタ・グレモリア】に【転移】で戻りました。
お読み頂き、ありがとうございます。
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・・・
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