第290話。エクセキューション(処刑)。
名前…クセルシスクス・ホールベイン
種族…【人】
性別…男性
年齢…47歳
職種…【貴人】
魔法…なし
特性…【威風】
レベル…25
【アトランティーデ海洋国】公爵。
ジュリエット王女の夫。
剣聖の頭脳フランシスクスの兄。
【シエーロ】中央都市【エンピレオ】。
【知の回廊】最深部。
私達は、【ワールド・コア】ルームのエントランスにやって来ました。
サブリナの魔力反応登録を済ませて、【ワールド・コア】ルームに入ります。
ソフィア達が、ミネルヴァに挨拶しました。
「チーフ、おかえりなさい。皆さん、いらっしゃい。サブリナさん、はじめまして、ミネルヴァです」
ミネルヴァが挨拶します。
「は、はい。はじめまして」
サブリナは、何処からともなく聞こえて来る声の主をキョロキョロと探しながら言いました。
「サブリナ。あれがミネルヴァです。視線を上げて下さい」
「ふぁっ?!大きな玉が……」
サブリナは、おかしな声を出します。
「【魔法石】です。見た事はありませんか?」
「神殿長様が、スマホというモノを使っているのを見た事があります。アレに使われているのが【魔法石】だと……。こんなに大きな【魔法石】は初めて見ました」
サブリナは、想像を絶する巨大さの【ワールド・コア】を呆然と見上げながら言いました。
サブリナが言う神殿長とは、竜都【ドラゴニーア】の神竜神殿支部の神殿長であるクリスタさんの事ですね。
クリスタさんは、竜都【ドラゴニーア】の孤児院の責任者ですので、孤児院生のサブリナが神殿長と呼ぶのは、当然クリスタさんの事。
しかし、【ドラゴニーア】の中央神殿は竜城なので、そこの長は、厳密に言えば大神官のアルフォンシーナさん、という事になります。
蛇足ですね。
「【ワールド・コア】は999mあります」
「キュウヒャク?!へっ?そんな大きな魔物が、この世界には、いるのですか?」
サブリナは、驚きました。
ああ、【魔法石】は、全て魔物の【コア】だ、という先入観による誤解ですね。
「【魔法石】は魔物から取れる【コア】ばかりではありませんよ。例えば、あなたが明日から潜る、遺跡にも【ダンジョン・コア】があります。【魔法石】は、生物の体内で生成される場合だけではなく、スポーンする事によっても存在するのです。まあ、ミネルヴァのクラスの【コア】は、規格外なので、スポーンする事はありませんけれどね」
「なるほど」
サブリナは、納得しました。
「ノヒトよ。サブリナも遺跡に向かうのか?」
ソフィアが訊ねます。
「はい。ファミリアーレのチームに帯同させます。実は、サブリナにも孤児院で遺跡学を勉強させ、テストを受けてもらっていたのです」
「何じゃ。それなら、そう言っておいて欲しかったのじゃ」
「サブリナがテストを受けたのは、ファミリアーレより前だったのです。それを知らせていて、万が一、後日テストを受ける予定だったファミリアーレと接触すると、テストの内容が流出するかもしれません。公正が担保出来ませんので、秘密にしていました」
「なるほどの。じゃが、戦闘力の面では、どうじゃ?ノヒトは、ファミリアーレには過保護なくらいに慎重に育成して、ある程度戦えるようになるまでは遺跡への挑戦を許可しなかったではないか?」
ソフィアは、訊ねました。
「状況が変わったから、としか言えませんね。現在、私達の陣営には、大量の【コンティニュー・ストーン】と、【飛空快速船】のカティサークと、神の軍団があります。子供達が死亡するリスクが減少しましたので、1人くらいならパーティに脆弱なメンバーがいても大丈夫だ、と判断しました。それに、サブリナのレベルを早急に上げる理由があります」
「それは何じゃ?」
「サブリナが希少な【空間魔法】持ちだからです。まだ未習得の状態ですが、覚醒してレベルが上がれば、サブリナは【転移能力者】になれます。私は、ファミリアーレの中に【転移能力者】を最低1人は置いておきたいと思います」
「なるほど。まあ、我は元から子供達を、もっと早く遺跡に挑ませても良いと考えていたから、反対はしないのじゃ」
「ねえ、ノヒト様。フル・パーティは9人なんですよね?サブリナっちがファミリアーレに入ったら、10人になって余りが出るよ」
ウルスラが言います。
「パーティの人数上限は、【ドラゴンスレイヤー】の称号獲得条件や、パーティの誰かが魔物を倒すと、近くにいるパーティ全員にも、わずかずつ経験値が入る、というような設定で区別されているだけで、別に人数が超過しても構わないのですよ」
「そ〜なんだ〜」
因みに、9人までをパーティ、49人までをクラン、99人までをアルト……それ以上をレイド・パーティ、などと呼んで区別する場合があります。
「さてと、お腹が空きましたね。少し遅れてしまいましたから、皆、もう、先に来ているでしょう。ミネルヴァ、皆は、どこにいますか?」
「トリニティは自分のオフィスにいます。ファミリアーレの皆さんと、フェリシアさんとレイニールさんは、アミューズメント・ビルです。ファヴさん、リントさん、ティファニーさんは、図書館で調べ物。グレモリーさん、ディーテさんは訓練場です」
ミネルヴァが答えました。
ミネルヴァが、トリニティだけを敬称を略して呼んだのは、彼女がゲームマスター代理に就任しているからです。
つまり、立場上、トリニティは、私とミネルヴァの部下という位置付けとなるから、なのだとか。
「トリニティはオフィス、子供組は遊んでいて、為政者組は調べ物……グレモリーとディーテは、何をしているのですか?」
「戦っています。ディーテさんが、チュートリアルを経て強化された全力で、グレモリーさんとの実力差を測りたいと仰ったのです」
ミネルヴァはいいます。
あ、そう。
ディーテ・エクセルシオールも、やはり【エルフ】族。
この世界の【エルフ】は、高い知性を持ちますが、やたらと好戦的な種族でもあるのですよね。
チュートリアルを経て強化された自分の力を、一度試してみたかったのかもしれません。
まあ、グレモリー・グリモワールは一種のチーターです。
グレモリー・グリモワールが【不死者】軍団を封印して戦ったとしても、多数ある【固有魔法】の類を全解放してガチンコで勝負をしたら、あのディーテ・エクセルシオールが相手でも全く歯牙にも掛けないと思いますが……。
「ソフィア。何を食べたいですか?」
「うーむ。今日は、そこはかとなく卵料理を食べたい気分なのじゃ。未だ見ぬ、卵料理を味わってみたいものじゃ」
ソフィアは言いました。
あなたは、毎日、毎食、卵が食べたいのですよね。
完全に聞く相手を間違えました。
「なら、初めて、【ワールド・コア】ルームに来たサブリナに聞きましょう。サブリナは、お昼ご飯に何を食べたいですか?」
「私も、卵料理が食べたいです」
サブリナが言います。
おっふ。
そうか……サブリナは【蛇人】。
彼女も卵好きでしたか……。
「では、ソフィアが食べた事がない系統の卵料理は?」
「【ワールド・コア】ルームの飲食店は全制覇しておるのじゃ。メニューにある卵料理は、一通り食べ尽くしておる」
ソフィアが自慢気に言いました。
「なら、裏メニューですね。中華料理店に行ってみましょう」
「裏メニューか。それは楽しみじゃ」
ソフィアは、勝手知ったる場所であるかのように、私達を先導して歩き始めます。
「ミネルヴァ。皆を、中華料理店に集合させて下さい」
「わかりました……連絡完了しました」
ミネルヴァは言いました。
【ワールド・コア】ルームには、中華料理の範疇に入る飲食店が幾つかあります。
四川料理店、それ以外の中華料理店、点心飲茶専門店です。
いわゆるラーメン屋は中華料理には含まない事にしています。
今回、私達が行くのは、中華料理店。
広東料理も上海料理も北京料理もヌーベルシノワも全て一緒くたでした。
四川料理だけは、【創造主】が好きなので、独立を許されたのです。
・・・
中華料理店。
私達が到着すると、トリニティ、ファミリアーレ、ファヴ、リント、ティファニーの順番で中華料理店にやって来ました。
少し遅れて、グレモリー・グリモワールと、彼女の養子達と、ディーテ・エクセルシオールがやって来ます。
因みに、グレモリー・グリモワールとディーテ・エクセルシオールの対決は、グレモリー・グリモワールがエゲツない魔法を駆使して圧倒したのだ、とか。
さもありなん、という話ですね。
私達は、注文をしました。
私は、青椒肉絲、ワンタンスープ、油淋鶏、フカヒレの姿煮、五目おこげ。
大盛り白ご飯も別で頼みます。
ソフィアは、ピータン、かき玉スープ、ニラ玉、カニ玉甘酢餡かけ、天津飯、の卵尽くし。
全て、5人前以上。
因みにニラ玉と天津飯が裏メニューです。
トリニティが、食べたそうにしていたので、北京ダックを丸々1羽注文してあげました。
他の皆も、思い思いに注文します。
ほほう、ファミリアーレとサブリナは、たくさん注文して、シェアする作戦ですか?
それも、良いでしょう。
この店は、最近ではあまり見かけなくなった回転テーブルのある店ですからね。
しかし、大人数で回転テーブルを利用すると、料理を取ろうとすると誰かがクルクルと回転テーブルを回してしまい……あ〜……という事があるので、私は、自分が食べたい物は、自分で確保するスタイルです。
ビールと紹興酒とウーロン茶とジュースで乾杯。
乾杯の祈念は……明日から始まる遺跡チャレンジの無事と良い宝が出るように……というモノ。
さあ、頂きましょう。
・・・
食後。
杏仁豆腐や餡入り胡麻団子を食べながら、お茶を頂きます。
ほほう、お茶は、色々と選べるのですね。
ならば、プーアル茶で。
「あの即死魔法は卑怯よ。どうして、【魔法障壁】を貫通して来るのよ」
ディーテ・エクセルシオールは……納得が行かない……という様子で抗議します。
「そういう仕様なんだよ」
グレモリー・グリモワールは、それ以上、多くを語りませんでした。
魔法職は、基本的に【固有魔法】や、魔法の運用法など、自分の手の内を明かす事はありません。
NPCが実子や弟子などに、自分の知識と技を伝授する場合などは別ですが……。
グレモリー・グリモワールの手持ちの魔法で、相手の【魔法障壁】を、すり抜けたり、無効化するモノは1つありました。
それから、相手の【魔法障壁】が、あたかも無効化させられたかのように錯覚させるトリックもあります。
今回の場合は、どちらを使ったのでしょうか?
「ディーテさん。グレモリーは、どんな事をしたのですか?」
「あっ、ノヒト、バラさないでよね。私の秘技なんだから」
グレモリー・グリモワールは、抗議します。
「バラしませんよ。ただ、何を使ったのか興味があっただけです」
「なぬっ!秘技となっ?!」
ソフィアが、何故か……秘技……の言葉に食いつきました。
「そだよ。秘技は、秘密でなくなったら、秘技じゃないからね」
グレモリー・グリモワールは、言います。
遅延型ブービートラップだよ。
グレモリー・グリモワールは、私に【念話】で教えてくれました。
ああ、そっちでしたか。
つまりグレモリー・グリモワールが使ったのは、魔法の発動を遅らせて、時限爆弾のように時間差で効果を発動させる魔法です。
例えば逃げながら後方に任意の魔法を仕掛けておき、追撃して来た相手が、そこを通過した時にタイミング良く起爆するように調節しておく事で、相手の【魔法障壁】の中で魔法を発動させる事が出来る、という原始的な仕組みでした。
この魔法の発動の瞬間に、ワザと無意味な【魔法公式】を組むなどして偽装工作をする事で、相手は、あたかも……グレモリー・グリモワールが放った魔法が自分の【魔法障壁】を、すり抜けた……ように錯覚するという訳です。
相手は、グレモリー・グリモワールの魔法詠唱のタイミングで回避行動をとろうとするので、逆にブービートラップに誘導されるという卑怯な戦術。
いやいや、戦闘には高潔も卑劣もありません。
勝たなければならない時にキッチリ勝つ。
これが出来て初めて、勝ち方に拘る事が出来るのです。
満足な戦果も上げられないのに、負けてから卑怯だ何だ、と言うのは、所詮、負犬の遠吠えですよ。
しかし、この遅延魔法は、発動の位置やタイミングを測ったり、発動保留の制御が難しいので、そう簡単には真似出来ません。
また、単純な方法で無効化出来てしまいます。
【防御】や【魔法障壁】を自分の身体にピッタリと合わせて展開すれば問題なく防げました。
【防御】や【魔法障壁】に隙間がなければ、設定上、肉体の内部で遅延魔法が炸裂するという事はありません。
種明かしをすれば単純な事なのです。
まあ、そもそもの問題として、グレモリー・グリモワールの魔法を、最低でも1発は耐えきれる【防御】や【魔法障壁】を張れなければ、【防御】や【魔法障壁】ごと、やられてしまいますが……。
【防御】や【魔法障壁】を自分の身体にピッタリと合わせて展開するのは、相当に難易度が高いのですが、ディーテ・エクセルシオールになら出来るでしょう。
また、ディーテ・エクセルシオールの【防御】や【魔法障壁】なら、グレモリー・グリモワールの通常攻撃魔法を、1発は耐えられるはずです。
つまり、私が、この原理を教えてしまえば、グレモリー・グリモワールは、二度とディーテ・エクセルシオールに対して、この遅延式ブービートラップを使えなくなります。
まあ、実戦で、2人が戦う事はないでしょうけれど。
グレモリー・グリモワールには、もう一つ、【防御】や【魔法障壁】を貫通する魔法があります。
こちらは、トリックではなく、本物。
【固有魔法……処刑】というエゲツない【超・超位魔法】でした。
これは、魔力コストの実に半分以上を使って放つグレモリー・グリモワールの究極魔法。
魔力コストが半分以上必要なので、魔力が回復しなければ2発目を続けては、放てません。
また、対個人特化魔法なので、対集団戦には、あまり向かないのです。
1対1の、ここぞという場面で使う、正に必殺技と形容してもおかしくない威力がありました。
この魔法で、グレモリー・グリモワールは遺跡の階層ボスや、【ダンジョン・ボス】をバッタバッタと倒して、10周以上も【遺跡】攻略を成し遂げて来たのです。
ボス部屋に辿り着くまでは、コソコソと立ち回り魔力を温存、ボス部屋に到着したら【処刑】でボスを瞬殺。
ボスが死んで、統率を乱した敵側の【眷属】達は、【エルダー・リッチ】と【腐竜】と協力しながら各個撃破。
これが黄金の必勝法でしたね。
なんだか、とても懐かしいボッチ時代の思い出です。
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・・・
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