第288話。支援要請。
名前…ジュリエット・アトランティーデ
種族…【人】
性別…女性
年齢…27歳
職種…【王家】
魔法…なし
特性…【才能…気品】
レベル…12
【アトランティーデ海洋国】第1王女。
異世界転移、40日目(10月10日)。
私は、【ドラゴニーア】竜城の私室に【転移】して来ました。
リマインダーを開いて、今日の予定を確認。
ファヴとリントとティファニーは、今日も、それぞれ、サウス大陸と【サントゥアリーオ】で仕事です。
トリニティとファミリアーレは、午前中、日課である竜騎士団や軍や衛士機構の人達との訓練に参加。
トリニティは、午後、私に帯同します。
ファミリアーレは、午後、明日からの遺跡攻略の準備をする予定なのだ、とか。
午前中、私は、コンパーニアの経営陣……つまり、ハロルド、イヴェット、イアン……孤児院から雇用したコンパーニアの社員・従業員の中から選抜した将来の幹部候補の6人……そして他の4人にチュートリアルを受けさせます。
午後は、グレモリー・グリモワールの庇護する【サンタ・グレモリア】と、近郊の【ブリリア王国】の都市【イースタリア】間に、地下鉄を通してあげる約束になっていました。
グレモリー・グリモワールは、今日も私の代わりに、関係者にチュートリアルを受けさせてくれます。
今日、グレモリー・グリモワールがチュートリアルを受けさせてくれるのは……。
【ドラゴニーア】の官僚達の他……。
【ムームー】の新女王チェレステさん、【ムームー】国家宰相のキアッフレードさん、【ムームー】近衛竜騎士団長のゼイビアさん。
【パラディーゾ】の大巫女ローズマリーさん、巫女長のスカーレットさん、そして【ファヴニール】の使徒である【高位巫女】の皆さん達。
それから、当初はチュートリアル参加者には含まれていなかったものの、ファヴからの要望で、【アトランティーデ海洋国】のゴトフリード王、ウィルフレッド王太子、エイブラハム相談役、クセルシスクス公爵にも、チュートリアルを受けさせる事になりました。
ファヴ曰く……サウス大陸復興には、【アトランティーデ海洋国】の存在は不可欠。その政権首脳の能力強化は、是非してあげたい……との事。
ファヴ強っての依頼ならば、私に否はありません。
特に、【アトランティーデ海洋国】で最も政治手腕があり、実務経験が豊富なエイブラハム相談役は、かなりの高齢です。
チュートリアルには、多少、寿命を延ばす効果があるので、ファヴは、エイブラハム相談役に政治の舞台で活躍する時間的猶予を与えてあげたいのだ、とか。
確かに、エイブラハム相談役は、復興途上のサウス大陸にとって失われるには惜し過ぎる人材ですからね。
ソフィア、ウルスラ、オラクル、ヴィクトーリアは、今日は1日、私に付いて来るつもりのようです。
チュートリアルを受けさせる、他の4人、とは……ソフィア・フード・コンツェルンのCEOヴァレンティーナさんと、冒険者ギルド【ドラゴニーア】支部ギルド・マスターのエミリアーノさんと、同じく冒険者ギルド【ドラゴニーア】支部の新人冒険者世話係のドナテッロさんと、私が前々から目を付けていた、とある孤児の1人。
彼らは、全員、民間人なので、私が自らチュートリアルを受けさせても……1党1派1国に与しない……という、ゲームマスターの遵守条項には、抵触しません。
ヴァレンティーナさんは信頼に足る有能な人材であり、ソフィアからもチュートリアルを受けさせるよう頼まれていました。
全く問題ありません。
エミリアーノさんとドナテッロさんの冒険者ギルド【ドラゴニーア】支部の2人は、私やソフィアが大変に世話になり、また、ファミリアーレの獣人娘4人組……つまり、グロリア、ハリエット、アイリス、ジェシカの身を守ってくれていた恩人。
人格・見識ともに優れた立派な人達です。
私とソフィアが、2人にチュートリアルを受けさせてあげる事は、以前からの決定事項でした。
冒険者ギルドで勤務する、という事は、場合によっては、魔物と戦う事もあります。
当然、死ぬリスクがありました。
チュートリアルを受ければ、能力が強化されるので、死ぬリスクは減るだろうという考えです。
ただし、2人は、冒険者ギルドという公益組織に所属する身分ですから、私とソフィアからの、お礼にと金品を受け取る事は、コンプライアンス上出来ないので、このチュートリアルが、お礼代わりでした。
チュートリアルによる能力強化は、コンプライアンス上問題ないのか?
それは、当然の疑問でしたが、既に、剣聖クインシー・クイン達一行がチュートリアルを受けてしまっています。
私とソフィアが、エミリアーノさんとドナテッロさんにチュートリアルを受けさせたとしても、世界冒険者ギルドのグランド・ギルド・マスターである剣聖が既にチュートリアルの恩恵に浴している以上、文句は言えません。
グレーゾーンです。
今回のグレーゾーンの容疑者は、いつものように私ではなく、世界冒険者ギルド・グランド・ギルド・マスターである剣聖クインシー・クインなので、多少、問題があったとしても、私には全く関係のない話。
遠慮なく、やってしまいましょう。
孤児院で見つけた、とある少女もチュートリアルに参加させます。
彼女の名前は、サブリナ。
年齢が14歳で孤児院の卒業と退所までは丸1年以上猶予があった為に、慌てることはない、と後回しにしていたのですが、私の陣営に加える事は、初対面の時から決定していました。
もう、既に本人からの同意も得ています。
サブリナは、魔法の才能に恵まれていました。
潜在能力は、リスベットと同等ですが、サブリナの稀有な才能は、【空間魔法】の【才能】を持つ事。
育成すれば貴重な【転移能力者】として覚醒するでしょう。
将来が楽しみな逸材です。
おっと、チュートリアルと言えば、リマインダーに記録していて忘れている項目を発見しました。
【ドラゴニーア】の冒険者ギルドに所属する、エース冒険者パーティの月虹のメンバーにも、チュートリアルを受けさせてあげるつもりだったのです。
彼女達は、世界トップクラスの冒険者パーティであり、エミリアーノさんやドナテッロさんと同様に、ファミリアーレの獣人娘4人が大変に世話になった恩人。
また、人格・見識ともに優れ、信頼に足る人達ですので、私が定めた……チュートリアルを受けさせる資格……は満たしています。
私は、スマホを取り出して、月虹のリーダーであるペネロペさんに連絡しました。
「もしもし、ペネロペさんですか?おはようございます。ノヒトです。ご無沙汰しています」
「おはようございます、ノヒト様……どうしたんですか、こんな朝早くに……」
ペネロペさんは、眠そうな声を出します。
「お休みのところを、起こしてしまいましたか?申し訳ありません」
「あ、いや、時差がありました。今、私達は、【ニダヴェリール】の【バラウール遺跡】に潜っているんですよ」
ペネロペさんは、近況を教えてくれました。
【バラウール遺跡】は、ノース大陸の南西にある遺跡です。
「【バラウール遺跡】を攻略中ですか?今、話していても大丈夫ですか?」
ペネロペさんが起き抜けのような寝ぼけた声を出していたので、おそらく安全地帯でキャンプを張っていて周囲は安全なのだとは思いますが……。
「50階層のボス部屋の奥の安全地帯を仮拠点としていますので、大丈夫です。攻略だなんて大それた事はしませんよ。中層階で、少し、稼いでいるだけです」
ペネロペさんは笑いました。
「遺跡での仕事は、いつまでの予定ですか?」
実は、ペネロペさん達には、【ビーコン】を渡してあるので、私が【転移】で、一っ飛びすれば迎えには行けます。
しかし、冒険者が遺跡に潜っているという事は、仕事中、という事。
お邪魔はするべきではありませんね。
「あと2、3日仕事をして、14日には【ドラゴニーア】に帰還する予定です」
「では、10月15日の朝7時に【ドラゴニーア】の竜城で会えませんか?実は、お話があります」
「ノヒト様から、お話?内容は?」
ペネロペさんは、戦々恐々とした声で訊ねました。
まあ、確かにゲームマスターから、急に……話がある……だなんて言われたら、誰でも身構えますよね。
「チュートリアルを、ペネロペさん達に受けてもらおうと思っています」
私は、以前、守秘の契約を結んでもらった上で、ペネロペさん達にチュートリアルについて少し話しています。
「本当ですか?!」
ペネロペさんは、喜色を滲ませた声で言いました。
「はい。詳しくは、15日に、ご説明します。【転移】で迎えに行きましょうか?」
「有難い、お申し出なのですが、【ドラゴニーア】への帰り道に所用もありますので、自力で戻ります」
「そうですか、では、15日の朝7時に竜城で」
「わかりました。ありがとうございます」
私は、スマホを切って【収納】にしまいます。
とりあえず、これで良し、と。
私は、私室から出て、朝食を食べる為に、大広間に向かいました。
・・・
竜城の大広間。
「おはようございます、ノヒト様」
アルフォンシーナさんが朝の挨拶をします。
アルフォンシーナさんの背後には、今日は筆頭秘書官のゼッフィちゃんだけしかいません。
エズメラルダさんは、早朝から仕事なのか、あるいは、昨晩の仕事が遅かったので、今朝はゆっくりなのかもしれませんね。
「おはようございます、アルフォンシーナさん、ゼッフィちゃん」
「おはようございます」
ゼッフィちゃんがペコリと頭を下げました。
「ノヒト様。折り入って、お願いしたい事がございます」
アルフォンシーナさんは、難しい顔で言います。
「何でしょうか?」
「もう、既に、お聞き及びだと思いますが、実は、アドム・イラル・シャムル・オックの件です」
「ああ、西の【ガレリア海】に出没するという、クジラに似た魔物の群ですね?」
「はい。昨日、【リーシア大公国】から正式に支援要請を受けました。アドム、イラル・シャムル・オックの駆除に動いた【リーシア大公国】海軍の潜水艦隊が、深海でアドム・イラル・シャムル・オック率いる魔物の群と遭遇し、戦闘になりました。結果は、半数が撃沈され、残り半分も、大破・小破、と甚大な被害を受けたようです」
「わかりました。対応しましょう。緊急ですか?」
もしも、緊急ならば、今後のスケジュールを全て破棄して、すぐにでも現地に急行しましょう。
「いえ。アドム・イラル・シャムル・オックらの群は、深海に潜んでおり、近付いたり、こちらから攻撃を仕掛けなければ、反撃はしてこないようなのです。ですので、当該海域を封鎖して、何人も近寄らないように監視していれば、当面の危険はないと思われます。しかし、当該地域を封鎖している為、漁業や交易には実害が出ています」
「わかりました。近いうちに現地に向かって対応しましょう。えーと、10月17日以降に出動して対応に当たりますが、それで構いませんか?」
私は、リマインダーを開いてスケジュールを確認しながら、訊ねます。
「はい、ありがとうございます。よろしく、お願い致します。お恥ずかしい話ですが、【ドラゴニーア】は臨海国ではないので、大規模な潜水艦隊は有しておりません。事ここに至っては、ノヒト様の、お力にすがる他に手立てがなかったのです」
「なるほど。では、関係先には連動しておいて下さいね」
「はい。ノヒト様に、ご出陣頂ければ、【リーシア大公国】の民にとっては、これ以上ない吉報となるでしょう。何卒よろしくお願い申し上げます」
アルフォンシーナさんは、深々と頭を下げました。
私達が、アドム・イラル・シャムル・オック問題を話し合っていると、トリニティ、ファヴ、リント、ティファニーが順番に大広間にやって来ました。
皆、口々に挨拶を交わします。
しばらくして、ウルスラを頭に乗せたソフィアと、オラクルと、ヴィクトーリアが現れました。
私達は、テーブルに座って朝食を食べ始めます。
今日のメニューは、スモーク・サーモンのサラダと、キノコのスープと、バリエーションを選べる卵料理と、ミルク、コーヒーかジュース……そして、色々な種類のパンでした。
私は、卵料理は、ゆで卵と、オムレツにします。
パンは、ソフィア・フード・コンツェルンの製造する、食パン、バゲット、クロワッサン、バターロール、ベーグル……などなど。
ソフィア・フード・コンツェルンの菓子パンは食べた事がありましたが、素のパンは初めて食べますね。
私は、バゲットとクロワッサンを皿に取りました。
バゲットは、外はカリッカリ……中はフワッフワ。
焼かなくても素晴らしく美味しいです。
この噛み締めると、歯茎が傷だらけになりそうなくらいにガワがカッチカチに硬いバゲットが私の好みに合っていますね。
クロワッサンの方は、噛むと、サックサクでバターの風味がジュワ〜と広がりました。
こちらも非常に美味しいパンです。
「ノヒト、アルフォンシーナ。先ほど、アドム・イラル・シャムル・オックの話をしておったようじゃが?」
ソフィアが言いました。
ソフィアとアルフォンシーナさんは、パスが繋がっていますので、アルフォンシーナさんが見聞きした情報は、リアルタイムでソフィアも知る事となります。
「はい。ノヒト様に対応を、お願いしておりました」
アルフォンシーナさんが答えました。
「10月17日以降に出動して対応する事にしたよ」
「我も行くのじゃ。奴らは、我の好物である【クラーケン】の漁場を荒らす不届きな魔物。不倶戴天の敵なのじゃ。この手で成敗してくれるのじゃ」
ソフィアは力強く宣言します。
ソフィアの食べ物の恨みは怖いですからね。
「ならば、ソフィアも行きましょう」
「うむ。我が、編み出した数々の海戦戦術を試す絶好の機会となるのじゃ。アシカ戦術で背後を叩き、敗走した所を、タツノオトシゴ戦術で一網打尽じゃ」
ソフィアは、フンスッ、と胸を張って言いました。
あ、そう。
こちらには艦隊がないのですから、おそらく海戦戦術などの出る幕はありません。
素潜りして魔法を、ドカンッ、で終わりだと思います。
まあ、ソフィアがやる気になっているのならば、ワザワザ意欲を削ぐ必要もありません。
「期待していますよ」
「任せるのじゃ」
私達は、朝食を終え、各自の仕事に向かいました。
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