第286話。グラン・バザール(大歩廊市場)。
本日、3話目の投稿です。
【パラディーゾ】市街。
私は、【パラディーゾ】の中心街にあるメイン・ストリートに面した場所にやって来ました。
ここは、ローズマリー大巫女が、私やソフィアが運営する事業用地と【スクエア】を誘致する為に都合してくれた土地です。
この場所は、ファヴとローズマリー大巫女から、私とソフィアで永代使用して構わない、と言われているところなのですが……。
「ここは、【大歩廊市場】じゃないですか?」
私は、思わず驚きの声を出してしまいました。
【大歩廊市場】は、この世界で、竜都【ドラゴニーア】の【中央卸売市場】と、【シエーロ】の【知の回廊】内にある大商店街と並ぶ、世界3大市場に数えられている場所なのです。
【中央卸売市場】と【知の回廊】内の大商店街は公営ですが、【大歩廊市場】は、民営市場である、という違いがありました。
「何じゃ、ここは有名な場所なのか?」
ソフィアが言いました。
「【パラディーゾ】の【大歩廊市場】は、有名だよ。竜都の【中央卸売市場】と同じように……買えない物はない……と形容されているからね。【中央卸売市場】は、食品卸売市場に特化して世界最大だけれど、【大歩廊市場】は、食品・食材の他……服飾、宝石、工芸品、雑貨、生活用品、【魔道具】、素材……とジャンルは問わず、もっと雑多な商材を取り扱うんだ。卸売市場ではなく、個人の商人が軒を連ねる小売市場だね。900年前は、サウス大陸を代表するランドマークだったよ」
「ふむ。それほど有名な場所を、丸ごと与えるという事は、それだけ我らの事業に対して、ファヴやローズマリー達の期待が大きいという事じゃろう」
ソフィアは、事もなげに言います。
「【大歩廊市場】は、かつてと同じように、民営小売市場や工房街として、そのまま残して、個人商店や職人さん達に貸し出そう。間口が狭くて戸数が多いから、私達の事業で利用するには使い勝手が悪いからね。この【大歩廊市場】の上に高層建築を建て増ししてコンパーニアのオフィス・工場・直営販売店と、ソフィア・フード・コンツェルンのオフィス・工場・直営販売店と、【スクエア】を建てよう」
「ん?ならば、高層建築を3棟建てる訳じゃな?シンメトリーにする為に、4棟にして、正方形に配置しては、どうじゃ?」
「まあ、良いけれど。空いている1棟は、どうするんだい?」
「造っておけば、何か使う用途はあるじゃろう」
ソフィアは言いました。
簡単に言うけれど、建築するのは私なのですよ。
まあ、良いですけれどね。
「ならば、オフィス・ビルか、巨大なホテルか、集合住宅にでもしますか?」
「うむ。その1棟も貸し出して、賃料を取れば良いのじゃ」
「とりあえず、造るだけは造りますよ。用途は後で考えましょう」
「うむ。ノヒトの魔法建築ならホホイのホイなのじゃ」
ソフィアは、言いました。
ホホイのホイ……って。
魔力コストは0ですが、労力と時間はかかるのですよ。
「なら、建築を始めます……」
「完成したら報せて欲しいのじゃ。我らは、その間に首都【パラディーゾ】を散策して来るのじゃ」
ソフィア達は、物見遊山に出発してしまいます。
私は……【超位工学魔法】が自在に使えるオラクルを、私の建築の助っ人に置いていって欲しい……と頼もうとして止めました。
オラクルも、ソフィアと物見遊山をしたいでしょうし、クイーンと出かける機会などは珍しいので、一緒に行動したいのでは、と考えたからです。
おかげで、私の負荷は高くなりましたが……。
さあ、やりますか。
私は、【大歩廊市場】の中央部に、4棟の高層建築をし始めました。
・・・
夕刻。
私は、全ての建築を完成させました。
地味に大変でしたよ。
【大歩廊市場】は迷路のように入り組んでいるので、足場を組んだり、構造部材を建て込むのに、物凄く苦労しました。
建築に取り掛かる以前に、【大歩廊市場】の詳細な【マッピング】だけで30分もかかりましたからね。
これをやっておかないと、増築時に不具合が出たり、人々の往来動線がこんがらがったりしますので。
「ふ〜……。何とか出来ましたね……」
私は、溜息を吐きました。
「お見事でした」
トリニティが賞賛してくれます。
トリニティは、【攻撃魔法】こそ【超・超位】級でしたが、魔法建築などの生産系は熟練値が足りていないので、まだオラクルほどには、上手に建築が出来ません。
しかし、それでも、トリニティなりに一生懸命に手伝ってくれました。
色々と雑然としていた【大歩廊市場】の内部も整備・修繕・清掃をしておきましたよ。
こっちも、メチャクチャ面倒臭かったです。
途中で……もしかしたら、ファヴとローズマリーさんから、事故物件をあてがわれたのではないか?……などと疑ってしまいましたよ。
まあ、そんな事をするメリットがファヴとローズマリーさんにはありませんし、【大歩廊市場】は、間違いなく【パラディーゾ】の一等地にありました。
なので、私の被害妄想だと思います。
新しく建築した4棟の高層建築物。
第1タワー……コンパーニアのオフィスと、マリオネッタ工房の【自動人形】とスマホ工場、アブラメイリン・アルケミーの製薬工場、直営販売店。
第2タワー……ソフィア・フード・コンツェルンのオフィスと、食品工場と、巨大な冷凍冷蔵倉庫、直営販売店。
第3タワー……【パラディーゾ・スクエア】。
第4タワー……低層階はオフィスビル、中層階は高級住宅、高層階はホテル、としました。
既に【転送装置】を設置し、転移魔法陣を構築したので、物品・資材や、【自動人形】の人員は、竜都【ドラゴニーア】から順次、必要なだけ送り込めます。
なので細かな、内装などは【自動人形】達に丸投げですよ。
【大歩廊市場】の内部は、小さな商店や工房となる用途の間口の狭い物件が無数に群在しているので、とてもではありませんが、いちいち内装工事など、やっていられません。
こういう、手間暇がかかる低出力労働を私がやるのは、酷く効率が悪いですからね。
【大歩廊市場】が初期構造オブジェクトでなければ、一度、更地に戻して建築を0から、やり直したかったくらいです。
コンパーニアの各施設と【スクエア】の施設を管理・警備する人員として、手持ちの【自動人形】・シグニチャー・エディションをストックの全数……35体投入しました。
ソフィア・フード・コンツェルンの方は、オラクルが造った【自動人形】・オラクル・エディションと、マリオネッタ工房から購入した【自動人形】・オーセンティック・エディションを【ドラゴニーア】から派遣して当座の必要人員は間に合わせるそうです。
私の【自動人形】・シグニチャー・エディションのストックが、またなくなってしまいました。
【パラディーゾ】の方は、とりあえず良いとしても、【ムームー】の王都【ラニブラ】でも、オフィス、工場、直営販売店、【スクエア】の管理と警備に同数の【自動人形】・シグニチャー・エディションが必要です。
頑張って、内職をして数を揃えなければいけませんね。
トリニティを仕込んで、オラクルと同じように【超位工学魔法】の【魔法樹】が全て生えるところまで育てれば、【自動人形】・トリニティ・エディションを造れるようになり、私の手間は楽になるのですが……。
まあ、トリニティは、私やオラクルとは違い、睡眠を必要としますので、内職をする時間がないかもしれません。
それでも、何かの時に必要に迫られれば、あらゆる魔法が使える、という態勢であれば便利な事には違いないでしょう。
オラクルは、【超位魔法】覚醒の【スクロール】を使って、一瞬で【超位】覚醒してしまいましたが、トリニティを地道に育てるとなると、年単位で時間がかかるでしょうね。
まあ、私もトリニティも不老不死ですから、時間は無制限にあります。
ゆっくり取り組んで行けば良いですね。
私は、ソフィアに【念話】で、建築の完成を伝えました。
あいつら、私が作業している間に、【タナカ・ビレッジ】に行って、お茶してやがりましたよ。
全て、私とパスが繋がっている、ソフィアの脳に共生する知性体フロネシスの視点で、情報は筒抜けなのです。
どうやら、物見遊山に出かけたものの、まだ【パラディーゾ】の商店は準備中ばかりで、見るべきモノは、あまりなく、時間を持て余したようですね。
まあ、良いでしょう。
・・・
ソフィア達が、【パラディーゾ・スクエア】の出来上がりの状況を確認して、建築は終了。
ヴァレンティーナさんは、早速、スマホで関係各所に連絡をしていました。
「むむ、時間がかかったので、【ラニブラ】の視察には行けなかったのじゃ」
ソフィアが言います。
もう、夕ご飯時ですからね。
「【ラニブラ】の施設は、私が夜の間に造っておきますので、視察は明日にしたらどうですか?」
「うむ。仕方あるまい」
ソフィアは、言いました。
チーフ……ファミリアーレの皆さんが、お帰りになるようですよ。
ミネルヴァから【念話】がありました。
おっと、迎えに行かなくては。
「ノヒト様。私が迎えに行きます」
トリニティが言いました。
「では、お願いします」
「はい。行って参ります」
トリニティは、【シエーロ】に【転移】します。
私達も、【ドラゴニーア】に【転移】しました。
・・・
【ドラゴニーア】の竜城。
竜城の大広間に向かうと、ファヴとリントとティファニーは、既に帰還していました。
私が【パラディーゾ】で建築作業をしている間に、ファヴはローズマリーさん達と【パラディーゾ】の中央塔で会い、会議を済ませていたようです。
程なくして、トリニティとファミリアーレも帰還しました。
「ノヒト先生。ただいま」
ハリエットが言います。
他の皆も口々に帰還の挨拶をしました。
「ボーリングはどうでしたか?」
「ジェシカが優勝だった。ジェシカはメチャクチャ上手いんだよ」
ハリエットが報告します。
ジェシカは、生来の器用さに加えて【狙撃】の能力持ち。
狙いを定めるのは、得意なのでしょう。
「2位は、ロルフ。3位は、アイリスだった。私は、ビリだったよ」
ハリエットは苦笑しました。
ハリエットは、何となく大雑把なイメージですからね。
さもありなん、という感じでしょうか。
「ハリエットったら、途中で【闘気】をボールに込めて投げようとして、【コンシェルジュ】さんに注意されたんだよね?」
リスベットが言いつけます。
「あー、それは内緒にしてよ〜。わざとじゃないんだよ、集中して投げようとしたら、自然に【闘気】を練っていただけなんだから」
ハリエットは言い訳をしました。
「どうかしら?サイラスがパワーのある投球で結構倒していたから……自分も……って、言っていたじゃない?」
リスベットは言います。
「ぐぬっ……あれは、ただの偶然だよ」
ハリエットは半ば不正投球を自白しました。
まあ、あのボーリング場は、魔力をボールに込めて威力を上げようとしたり、【理力魔法】や【風魔法】などでボールの機動を変えようとしても、ピンが倒れないギミックがありますので、不正は出来ません。
「皆、楽しかったですか?」
ファミリアーレは、声を揃えて……楽しかった。またやりたい……と言っていました。
もしかしたらボーリング場を建設して経営すれば商売になるかもしれませんね。
今度、ハロルド達に相談してみましょう。
ファミリアーレは、レジョーネのメンバーに挨拶をして、寮となっている宿屋パデッラに帰って行きました。
ヴァレンティーナさんも、このタイミングで帰宅。
また明日、登城してソフィア達と【ムームー】王都【ラニブラ】の施設の視察に向かうそうです。
私は、夜の間に、【ラニブラ】の各施設を完成させておかなくてはいけません。
私達は、夕ご飯を食べる為に、竜城の大広間に向かいます。
・・・
大広間。
「ノヒト様。本日もグレモリー様に、チュートリアルを受けさせて頂きました。ありがとうございます」
私達がテーブルに着くと、アルフォンシーナさんが言いました。
「今日は、軍と衛士機構の一部のメンバーでしたね?」
「はい。素晴らしく強化された、と皆、感激しております」
アルフォンシーナさんは言います。
「それは良かった。大丈夫だとは思いますが、プリンシプルは、守って下さいね」
「はい。それは間違いなく遵守させますので、ご安心下さいませ」
アルフォンシーナさんは言いました。
あ、そう。
ならば良し。
夕ご飯のメニューは、特大ハンバーグ。
各自にハンバーグが給仕され、ワゴンに乗った、たくさんのソースを選べる趣向のようです。
私は、大根おろしとポン酢。
俗に言う、和風ハンバーグです。
「頂きます」
ハンバーグにナイフを通すと、肉汁がジュワ〜。
これは、目でも美味しいですね。
頬張ると。
美味いっ!
これは、【地竜】と牛肉の合挽き肉ですね。
超高級なハンバーグです。
【地竜】と牛肉を合わせる事で、上品な口当たりと、濃厚な旨味と、ジューシーさを併せ持つ最強のハンバーグとなるのだ、とか。
挽き肉の配合比率は、【地竜】と牛肉で、6対4がベストなのだそうです。
ソフィアの【自動人形】・シグニチャー・エディションのディエチが試行錯誤して編み出したレシピなのだ、とか。
なるほど。
私は竜城の食費などは、孤児院出身者への支援事業や、騎竜繁用施設への膨大な寄付や、【ドラゴニーア】第2艦隊の艦船の修理などの換算費用との相殺で、永久に支払わなくても良い事になっていました。
しかし、このハンバーグの何という暴力的な美味しさ。
300gはあろうかというハンバーグがペロリとなくなってしまいました。
ハンバーグの、お代わりを。
2つ目は、赤ワインを用いたデミグラスソースをかけます。
こちらも、美味い。
ペロペロリです。
もう、一個行こうかな〜。
いや、腹八分で止めておきましょう。
ふと、隣を見ると、ソフィアが山盛りにしたハンバーグをポイポイと口に放り込んでいました。
うず高く積み上げられたハンバーグが、みるみる内に減って行き、やがてなくなります。
ソフィアの大皿には、50個のハンバーグが積まれていました。
ハンバーグって、飲み物だったのでしょうか?
「お代わりなのじゃ」
ソフィアは、空になった大皿を上げて言いました。
すぐに、新しい50個のハンバーグが運ばれて来ます。
うん……この娘と、自分の胃袋を比較してはいけません。
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