第284話。ゲームマスター代理。
名前…ウィルフレッド・アトランティーデ
種族…【人】
性別…男性
年齢…30歳
職種…【貴人】
魔法…なし
特性…【才能…風格】、【指揮】
レベル…21
【アトランティーデ海洋国】王太子。
【知の回廊】最深部。
私、ソフィア、ウルスラ、オラクル、ヴィクトーリア……そして、クイーンとヴァレンティーナさんは、【ワールド・コア】ルームのエントランスにやって来ました。
初めて【ワールド・コア】ルームに訪れる、クイーンとヴァレンティーナさんをエントランスで魔力登録します。
エントランスから、【ワールド・コア】ルームに入りました。
ミネルヴァと挨拶します。
【ワールド・コア】ルームに始めて訪れた人達としては、お馴染みのリアクションですが、クイーンとヴァレンティーナさんは、【ワールド・コア】の想像を絶する巨大さに驚いていました。
「チーフ。ファミリアーレの皆さんが、お先に来ています。図書室で、お勉強していますよ。感心な子達です」
ミネルヴァが教えてくれます。
「一緒にトリニティは、いないのですか?」
「先に、ファミリアーレの皆さんを送り届けて、再度、竜城に戻って行きました」
パスを通じてトリニティの様子を見ると、アルフォンシーナさんの転移座標設置の為に、【センチュリオン】と【アルバロンガ】と【ルガー二】を回っているようですね。
アルフォンシーナさんが行く先々で熱烈な歓待を受けるので、思わぬところで時間がかかっているようです。
アルフォンシーナさんは、神竜神殿の首席使徒。
こうなる事は、わかっていました。
なので、トリニティに頼んだのです。
トリニティ、許してくださいね。
あなたの尊い犠牲は無駄にしませんよ。
しかし、新竜神殿の主祭神である【神竜】と一緒に訪れても、各都市の神殿では、パニックにはならないのですよね。
エズメラルダさん曰く……ソフィア様に話しかけたり、直接お顔を拝見したりするのは、畏れ多くて、皆、遠慮している……のだそうです。
「ソフィア。どこでランチにしますか?」
「まずは、イタリアン・リストランテじゃ」
まずは?
つまり、ソフィアは、ハシゴをするつもりなのでしょう。
私は、付き合いませんよ。
亜空間胃袋を持つソフィアに付き合っていては、おかしくなります。
「わかりました。ミネルヴァ、ファミリアーレにイタリアン・リストランテに来るように伝えて下さい」
「はい……伝えました」
ミネルヴァは言います。
私は……任務が終わったら、イタリアン・リストランテに来るように……と、トリニティに【思念】を飛ばして伝えました。
トリニティからは……仰せのままに致します……という【思念】が返って来ます。
ならば、良し。
私達は、イタリアン・リストランテに向かいました。
・・・
イタリアン・リストランテ。
私、ソフィア、ウルスラ、オラクル、ヴィクトーリア、クイーン、ヴァレンティーナさんが、イタリアン・リストランテに着くと、すぐにファミリアーレが合流して来ました。
「ノヒト先生、こんにちは〜」
ハリエットが元気良く言います。
ハリエットは、テスト勉強から解放されて、この世の春を謳歌しているような朗らかな雰囲気を漂わせていました。
うん、ハリエットは、こういう、頭が空っぽ、みたいな楽しげな表情をしているべきですよね。
「「「ノヒト先生、こんにちは」」」
ハリエットに続いて、グロリア、アイリス、ジェシカが続きます。
ジェシカは、従魔のウルフィを連れて来ていました。
私が許可したのです。
衛生的な面では、【ワールド・コア】ルーム内は、完全な無菌状態が保たれていました。
また……動物をレストランに連れて入るなんて……と苦情を言う他のお客さんもいません。
ウルフィは、お利口なので、食事中、ジェシカの椅子の足元で大人しくしています。
私達の身内にウルフィの同席を嫌がる者はいません。
ウルフィ……また、少し大きくなりましたね。
まだ、乳離れには早いはずですが、地球の大型犬のサイズを超えて、小さな馬くらいに成長していました。
魔物としての【ガルム】とは違い、ウルフィは目がまん丸で害意が感じられないので、毛並みが良いモッフモフと相まって、何とも愛嬌がある見た目です。
犬嫌いでなければ、10人が見たら10人共が……可愛い……と声を上げてしまう姿ですね。
バカでかいですが……。
大きさは、ともかくとして、愛らしい見た目だけで言えば、この子が巨大な猪の魔物【パイア】の首根っこに噛み付いて、縊り殺してしまうなどという事は、にわかには信じられません。
ロルフ、リスベット、モルガーナ、サイラス、ティベリオとも、順番に挨拶します。
私達は、席に着いて、メニューを開きました。
うーん。
イタリアンでは、定番メニューと決めているのですが……。
つい最近、ここで食事したばかりですからね。
いつもとは、少し変えてみましょうか……。
私は、悩んだ挙句。
生ハムとメロン。
ミネストローネ。
リングイネ・アッラ・ペスカトーレ。
ミラノ風カツレツ。
こんな感じにしてみました。
そうこうしていると、ファヴがやって来ました。
間をおかずにリントとティファニーもやって来ます。
最後にトリニティが現れて、全員集合。
私は、皆に挨拶して、午前中の仕事の様子を訊ねました。
皆……問題ない……との返答。
あ、そう。
ならば良いでしょう。
皆、メニューを熟読して、好きなモノを好きなだけ注文していました。
トリニティが、トリッパとランプレドットを頼んでいます。
「トリニティ。トリッパは牛の第2の胃、ランプレドットは牛の第4の胃です。傾向が被っていますが大丈夫ですか?」
ホルモン屋さん的には、トリッパはハチノス、ランプレドットはギアラと呼ばれる部位でした。
「ダメでしょうか?」
トリニティは不安げに訊ねます。
「トリニティが食べたくて注文したモノなら問題ありません。知らずに頼んでいたら、と思って確認しただけです」
トリニティは、以前、蕎麦屋さんで、きつね蕎麦と、たぬき蕎麦を、キツネとタヌキの肉が具材として使われていると誤解して注文してしまった事があるので、一応確認をしてあげました。
「私は、臓物が好物です。今日は食べ比べてみようと考えたのです。作法に反しますでしょうか?」
トリニティは、遠慮がちに言います。
「いいえ。【ワールド・コア】ルームは、私がホストですので、食事の作法は私がルールです。トリニティが、わかって注文しているのなら、もちろん好きなモノを頼んで構わないのですよ」
「はい。お心遣いありがとうございます」
トリニティは恭しく頭を下げました。
皆の注文が完了。
先ずは、スプマンテ(発泡ワイン。広義の意味のシャンパン)と、アランチァ・ロッサ(血の色のように真っ赤な色をした、ブラッドオレンジジュース)で乾杯をします。
「我が妹、リントの復活と、ティファニーの法皇即位を祝して、乾杯なのじゃ」
ソフィアが乾杯の音頭を取りました。
「「「「「乾杯」」」」」
皆、グラスを掲げます。
グラスを、カチンッ、と打ち合わせたり、などというマナー違反な行為はしません。
【ワールド・コア】ルームの食器類は、全て超がつく一流品。
ダイアモンドのグラスやゴブレットに傷をつけようなどという恐れ知らずな者はいません。
まあ、私なら、瞬時に【修復】出来ますけれどね。
「さてと、トリニティ。ご苦労様でしたね」
私は、アルフォンシーナさんを連れて、【ドラゴニーア】の3都市を巡ってくれたトリニティを労いました。
「何も苦労はありません。ノヒト様の、お役に立てれば本望です」
トリニティは言います。
「あ、そうそう。私のオフィスの隣の部屋を片付けて、トリニティの専用オフィスを作ったのです。自由に使って下さい」
「よろしいのですか?」
トリニティは、言いました。
「もちろん。ミネルヴァと相談した結果、あなたを正式にゲームマスター代理として任命する事にしました。コレは、その身分を保証する服装です」
私は、トリニティに最上級の【天蚕糸】で織った、純白のローブを【収納】から取り出して手渡しました。
【神の遺物】の【ゲームマスター代理のローブ】。
ゲーム時代からあった装備ではなく、私とミネルヴァが勝手に創って、勝手に名付けてしまったモノでした。
これは世界設定的には、本来なら【大魔導師のローブ】と呼ぶべきオリジナルの【神の遺物】を、素材とデザインを変えて登録名を変えたモノ。
つまり、厳密な分類は、あくまでも【大魔導師のローブ】。
デザインは、私の【ゲームマスターのローブ】と同一です。
ゲームマスターの紋章である【神竜】の簡略化されたマークが、左胸に小さく、背中に大きく意匠されていました。
ただし、トリニティに渡した【ゲームマスター代理のローブ】は、オリジナルの【ゲームマスターのローブ】と違い、ダメージ不透過ギミックは付いていません。
私の【超神位魔法】で強力な各種【バフ】をかけてありますが、防御力を上回る攻撃は通ってしまいます。
しかし、ミネルヴァ監修のもと【神の遺物】製造ラインで作られた【ローブ】なので、性能のベースは【大魔導師のローブ】と同等で、【神の遺物】級。
その上から、私が【超神位バフ】が上掛けしてあるので、性能は、超【神の遺物】級と見做せます。
トリニティが今まで使っていた【ヴァルキリーの鎧(ヴェルダンディの鎧)】の性能を上回る為、今後は、戦闘時に鎧を着る必要はありません。
そのくらいに強力な衣服なのです。
何か格好良い固有名称を付けたいところですが……。
まあ、わかりやすさが第一ですね。
なので、この衣類を【ゲームマスター代理のローブ】と呼ぶという設定は確定で良いでしょう。
「ノヒト様と同じ、お召し物を……」
トリニティは、感動しているようです。
「はい。あなたは、たった今から、ゲームマスター代理を名乗って構いませんよ」
この瞬間、トリニティのステータス表示の職種欄には、元々の【徘徊者】に加えて、【ゲームマスター代理】の職種が追加されました。
「ありがとうございます」
トリニティは、【ゲームマスター代理のローブ】を胸に抱いて言います。
「トリニティよ。良かったの」
ソフィアがトリニティに言いました。
「はい。あのう、早速、着替えて来ても良いでしょうか?」
トリニティは私に許可を仰ぎます。
「構いませんよ。ミネルヴァ、トリニティを専用オフィスに案内してあげて下さい」
「わかりました」
ミネルヴァが答えました。
トリニティは、席を外します。
・・・
しばらくして、トリニティが戻って来ました。
目に眩しいほどの純白。
よく似合っています。
「どうですか?」
私は、着てみた具合をトリニティに訊ねました。
「はい。とても着心地が良いです。厚手の布地なのに、全く重さや動き難さを感じさせません。それに、翼の部分もピッタリです」
トリニティは、翼を広げ、パタパタと2、3度羽ばたいて言いました。
【ゲームマスター代理のローブ】は【神の遺物】扱いになる為、サイズは着る者の身体にピタリと合います。
【ローブ】の背中部分は、トリニティの翼の位置に合わせてスリットが入っていて、今は被っていないフードにも角の部分にスリットがありました。
「それは、良かった。あなたのオフィスにあるクローゼットには【ローブ】の着替えが何着もあります。それは、いわば制服ですので、常に身だしなみを整えて下さい。ゲームマスターは衆目を集めますからね。【修復】が困難なほど破損したり、汚損した【ローブ】は取り替えて下さい」
「仰せのままに致します」
トリニティは、恭しく礼を執ります。
「それから、あなたの装備である【ヴェルダンディの鎧】よりも、その【ゲームマスター代理のローブ】の方が性能が高いので、戦闘時に、いちいち鎧に着替える必要はありません。また、鎧を重ね着しても防御力は上がりませんので、意味はありませんよ」
「わかりました」
こうして、トリニティは、ゲームマスター代理に任命されました。
任命式などはやりません。
当初、ミネルヴァは……騎士の任命式のような厳かな儀式を行えば良いのでは……などと言っていたのですが、私が面倒臭いので採用しなかったのです。
・・・
注文した料理がテーブルに運ばれて来ました。
生ハムメロン。
生ハムに合わせる為に品種改良されたという甘みを抑えた赤肉種のメロンと、生ハムの塩気が抜群のハーモニーです。
ミネストローネ。
今日のミネストローネは、トマトベース。
イタリア人の味噌汁的なスープです。
安定の美味しさですよ。
リングイネ・アッラ・ペスカトーレ。
トマトソースと魚介を合わせたペスカトーレは、ボロネーゼとプッタネスカと並んで、私的フェイバリットなパスタです。
しかし、今日は、ミネストローネがトマトベースだったので、トマト被りしてしまいました。
まあ、美味しいので良いのですが……。
ミラノ風カツレツ。
メイン料理は、仔牛肉のカツ。
メジャーな薄く叩きのばされたカツではなくて、ミラノのクラシカルなレシピによる、ぶ厚いカツです。
ぶ厚いので、肉汁が、ジュワ〜、っと口いっぱいに広がりますよ。
暴力的な美味しさ。
ふ〜。
美味しかった。
「ご馳走様でした」
食後のデザートとエスプレッソでも、と考えていると……。
「ノヒトよ。次は、フレンチ・レストランに行くのじゃ」
ソフィアが言いました。
「いや、私は行きませんよ。もう、満腹です」
「来るのじゃ。そして、地球人としての意見を、ヴァレンティーナに言うのじゃ」
ソフィアは、そう言って、私の手を引いて連れて行こうとします。
「あー、ファミリアーレは、午後はボーリング大会でもしたらどうですか?」
私は、提案しました。
「ボーリング?」
ハリエットが言います。
「地球の遊戯ですよ。【コンシェルジュ】が遊び方を教えてくれるので、行けばわかります。帰る時は、ミネルヴァに伝えて下さい。迎えに来ますので……」
ファミリアーレは、同意しました。
私は、ソフィアに手を引っ張られながら、イタリアン・リストランテを後にします。
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