第282話。ソフィア・フード・アカデミア。
名前…ゴトフリード・アトランティーデ
種族…【人】
性別…男性
年齢…50際
職種…【王】
魔法…なし
特性…【才能…王威、王権】
レベル…29
【アトランティーデ海洋国】国王。
竜都【ドラゴニーア】。
私は、竜城の私室に【転移】して来ました。
最近は、【ワールド・コア】ルームのゲームマスター本部を本拠地としている為に、この私室も使用頻度が少なくなっています。
せっかく一流の家具職人である【ドワーフ】の親方に一級の家具や調度を作ってもらったのに、何だか勿体ない気もしますね。
竜城の私室は、亜空間に隔絶された、ゲームマスター、または、ゲームマスターと一緒でなければ出入り出来ない特殊なギミックがある部屋です。
考えれば、何か有効な使い道があるかもしれません。
私は、脱獄不可能な監獄、というくらいしか用途は思い付きませんが……。
まあ、良いでしょう。
私は、私室から竜城の礼拝堂に出ました。
礼拝堂にいた【女神官】の皆さんに朝の挨拶をして、大広間に向かいます。
・・・
大広間。
大神官のアルフォンシーナさんと、神官長のエズメラルダさんと、大神官付き筆頭秘書官のゼッフィちゃんが、大広間にいました。
「おはようございます、ノヒト様」
アルフォンシーナさんが言います。
「「おはようございます」」
エズメラルダさんとゼッフィちゃんが言いました。
「おはようございます。チュートリアル後の状態はどうですか?」
「【鑑定】は極めて有用ですね。傷病者の状態が詳細にわかり、チュートリアルを経た【高位女神官】達は、皆感動しています。今後、治療効率が劇的に高まると予想されます。ノヒト様とグレモリー様には、本当に感謝を申し上げます」
アルフォンシーナさんが礼を言います。
「【転移】は、どうですか?」
昨日、チュートリアルを受けた【高位女神官】と竜騎士団のメンバーの中で、アルフォンシーナさんだけが【転移】の能力に覚醒していました。
【転移】は超絶難易度で、ユーザーにとっても発現率が希な魔法です。
アルフォンシーナさんが、【ドラゴニュート】という種族であり、職種が【回復治癒職】・【支援職】である事も踏まえて考えれば、【転移能力者】に覚醒したのは、かなり珍しいケースだと言えました。
【転移】は、【ヴァンパイア】や【ハイ・エルフ】などの種族、または、【空間魔法】というレアな魔法を持つ魔法職に発現しやすいのです。
「便利なのでしょうけれど、転移座標は、チュートリアルを受けた【ラウレンティア】神殿と、竜城の幾つかの場所に設置しただけですから、現在は、まだ、その有用性を活かしきれていません。元来、私は、平時は常に竜城に詰めておりますので、そもそも宝の持ち腐れなのかもしれませんね」
アルフォンシーナさんは、苦笑しました。
「ならば、【ドラゴニーア】の主要都市を巡って、各都市の神殿に転移座標を設置してはいかがですか?アルフォンシーナさんは、軍を指揮する事もある訳ですから、有事の際を想定するなら、瞬時に移動が出来る事は有用でしょう。また、4大都市の神殿に直接出向いて、視察をしたり会議をしたり、あるいは現地の者を竜城に連れて来たりも簡単に出来ますしね。そうです、トリニティに指示しておきますので、今日、転移座標の設置をして下さい」
「よろしいのですか?」
アルフォンシーナさんは、遠慮がちに言います。
「もちろんです」
「ありがとうございます」
アルフォンシーナさんは、頭を下げました。
【ドラゴニーア】の主要都市とは、即ち、中央都市である竜都【ドラゴニーア】、東の都市【センチュリオン】、西の都市【ラウレンティア】、南の都市【アルバロンガ】、北の都市【ルガーニ】です。
私は、その5都市全ての中央神殿に転移座標を設置していました。
アルフォンシーナさんは、竜都と【ラウレンティア】には既に転移座標を設置済だという事ですから、残りは3都市。
私とパスが繋がっているトリニティなら、私が魔力を常時流し続けて維持している亜空間バイパスを通って、それらの場所に【転移】する事が可能です。
トリニティにアルフォンシーナさんを連れて現地に飛んでもらえば、すぐに転移座標設置の作業は終わるでしょう。
「【マッピング】も恐るべき性能です。地図機能として完成されている事はもちろん、完全な敵味方識別が出来る点が素晴らしいですね。これは、伏兵も刺客も、恐れる必要がなくなっています」
エズメラルダさんは言いました。
「そうですね。今日、軍や衛士機構の皆さんがチュートリアルを経れば、もっと役に立つでしょうね。敵味方識別、索敵、あるいは犯罪者やスパイの取り締まりには、絶大な効果を発揮するはずです」
「そうですね。軍、竜騎士団、衛士機構には、【マッピング】機能の運用法を工夫させ、【ドラゴニーア】の平和と安全の為に大いに活用してもらいます」
エズメラルダさんは言います。
アルフォンシーナさんと、エズメラルダさんは、2人でゼッフィちゃんを見ました。
おそらく、ゼッフィちゃんにも……何か言いなさい……という意味なのでしょう。
「あうっ。わ、私は、【収納】が便利だと思います」
ゼッフィちゃんは、慌てて言いました。
私達が、雑談していると、トリニティが大広間に現れました。
私達は、挨拶を交わします。
「トリニティ。話は聞いていましたね?アルフォンシーナさんを、【センチュリオン】と【アルバロンガ】と【ルガーニ】の神殿に連れて行ってあげて下さい」
「仰せのままに致します」
トリニティは、言いました。
「トリニティ様。よろしくお願い致しますね」
アルフォンシーナさんは、トリニティに頭を下げて言います。
「ええ」
トリニティは、頷きもせずに言いました。
「アルフォンシーナさん。各都市に向かうのは正午前で良いですか?」
「はい。結構です。ゼッフィ、スケジュールを組み直しておいて下さい」
アルフォンシーナさんは、ゼッフィちゃんに指示します。
「畏まりました」
ゼッフィちゃんは、その場で【タブレット】を操作して、アルフォンシーナさんのスケジュール調整を行いました。
そうこうしていると。
ファヴとリント……2人の背後についてティファニーが大広間に現れます。
皆で挨拶を交わしました。
しばらくして、ソフィア達が現れます。
「うむ、そうじゃ。アカデミアの運営は、商売を度外視するのじゃ。統一規格化された優秀な料理人の確保は、コンツェルンのレストラン事業を展開する上での至上命題なのじゃ。ヴァレンティーナよ、これは急務じゃぞ。第一優先として可及的速やかに優秀な料理人を確保、または、育成するのじゃ」
ソフィアがスマホで話しながら、やって来ました。
何だか、やり手の実業家風ですが、見た目がチンチクリンなので、激しく違和感があります。
「おはようございます。ソフィア様、ウルスラ様、オラクル様、ヴィクトーリア様」
アルフォンシーナさんが挨拶をしました。
「「おはようございます」」
エズメラルダさんと、ゼッフィちゃんも続いて挨拶をします。
「おはよ〜」
今朝は、珍しくウルスラが起きています。
眠そうですが……。
「「おはようございます」」
オラクルとヴィクトーリアが挨拶しました。
「うむ。朝ご飯を食べねばならぬ故、その話は、また後でじゃ。ではの……。おはよう、なのじゃ」
ソフィアがスマホを切って挨拶します。
「ソフィア。早朝からヴァレンティーナさんとスマホ会議ですか?」
「そうじゃ。ヴァレンティーナの奴めは、ソフィア・フード・アカデミアの生徒から授業料を徴収すると言うのじゃ。料理人を大量に確保せねばならぬというのに、有料の料理学校では生徒が集まらぬ。いつまでも、【自動人形】達だけに頼っておっては、早晩レストラン街が回らなくなって、事業が行き詰まるのじゃ」
ソフィアは、真面目くさった顔で言いました。
ソフィア・フード・アカデミアとは、ソフィアが主催する料理学校です。
「何が問題なの?」
「うむ。ヴァレンティーナは、調理技術の流出を危惧しておるようじゃ。アカデミアで無償で調理技術を学んだ生徒が、競合他店に引き抜かれたり、独立してしまい、コンツェルンの人材として働かない可能性がある、と。じゃから、授業料を徴収して、アカデミアだけで独立して採算が取れるようにしたいらしいのじゃ。しかし、それでは、生徒が集まらず、コンツェルンの世界展開に間に合わぬのじゃ」
「確かに、ヴァレンティーナさんの言いたい事にも一理あるね。ならば、アカデミアの授業料を高額に設定して、奨学金制度にしたら良いのでは?例えば、ソフィア・フード・コンツェルンに入社して10年勤続するなら、アカデミアの授業料は免除にする、とか。コンツェルンに入社しなかったり、中途退職した場合は、奨学金の全額か一部を返済してもらう。これなら、皆、コンツェルンに入社するのでは?入社しないなら、高額の授業料を返済しなければならなくなるからね」
「そもそも、高度な調理技術を無償で指導してもらえて、なおかつ、給料が高い職場への就職も確約されるなら他に移る理由もない、と我は考えるのじゃが?」
「競合他店が、アカデミアの卒業生に、コンツェルンより高額な報酬を提示する可能性はあるよね?」
「確かにの……。わかったのじゃ。高額な授業料と、抱き合わせの奨学金制度の導入をヴァレンティーナに指示するのじゃ」
さあ、朝ご飯を食べましょう。
私達は、席に座りました。
今日のメニューは、2種類から選べます。
【タカマガハラ皇国】の旅館の朝ご飯風(和食)と、ホテルの朝食風(洋食)。
和食は、メインの巨鮭を、塩焼きか、シメジとホウレン草と一緒にホイル蒸しした物か、で選べました。
洋食は、卵料理を、ゆで卵、目玉焼き、オムレツ、スクランブルエッグ……などで選べ、また、ソーセージやベーコンやハムなど、付け合わせも選べます。
ほほう。
巨鮭とシメジとホウレン草のホイル蒸し……ですか。
私は、これにしてみましょう。
私とトリニティとリントは和食を選び、その他の者は洋食……ソフィアは、和食ベースに洋食の卵料理を全種類という荒技。
ホイル蒸しは、と。
ホイルを箸で割り開くと……。
これは、良い香りです。
味付けはバター醤油ですか?
バター醤油は、シャケともホウレン草とも合いますよね〜。
ハフハフ……美味い!
コショウが効いています。
白ご飯が進む味ですね。
いやいや、待て待て。
旅館風なので、生卵も、納豆も、焼き海苔もあります。
ホイル蒸しだけで白ご飯をかっ込んでいると、この名脇役達が力を余らせてしまいます。
とりあえず、白ご飯を半分食べたところで、納豆ご飯に味変しましょう。
納豆は、青ネギが多めで、カラシ多めが私の好み。
美味い。
納豆ご飯は、最強かもしれません。
ここで、ご飯の、お代わりを。
二杯目は、焼き海苔を巻いて、海苔巻きスタイル。
安心する味です。
ご飯を半分食べたところで、生卵を半分投入して、卵かけご飯です。
美味い。
さてさて、もう一度ご飯をお代わりします。
半分残っている卵は、と。
巨鮭のホイル蒸しの残りを白ご飯に乗っけてしまいます。
で、上から卵を投入。
お行儀が悪いですが、これは間違いないはずです。
「美味いっ!」
思わず声が出てしまいました。
「なぬっ。そのような流儀があるのか?我もやってみるのじゃ……。こうして、こうして、こう。どれどれ……。おーーっ!これは、美味しいのじゃ。」
ソフィアが私のアレンジを目ざとく見つけて、真似をし始めます。
私は、お味噌汁を頂いて……。
「ご馳走様でした」
満足です。
・・・
朝食後。
私達は、お茶を飲んでいます。
「アルフォンシーナよ。【アルカディーア】の反乱は鎮圧したそうじゃな?」
ソフィアは訊ねました。
「はい。問題ございません。万事滞りなく推移しております」
数日前、【アルカディーア】の北部で、現政権に不満を持つ旧領主らが反乱を起こしました。
私は、パスが繋がるフロネシス……ソフィア……アルフォンシーナさん、と経由して、正確な情報をリアルタイムで知っていましたが、放置していたのです。
ゲームマスターは、国家紛争には介入しませんので。
どうやら、反乱軍の背後から糸を引いていたのは、イースト大陸北方の国家【ザナドゥ】のようです。
【ザナドゥ】は、イースト大陸東方の国家【タカマガハラ皇国】にも、属国である【ゴブリン自治領】を使って間接的に干渉しているようですね。
まあ、世界の理に違反していなければ、私が介入する事はありませんが、【ザナドゥ】の振る舞いは、あまり好ましいとは言えません。
いずれ、様子を見に行ってみるのも良いかもしれませんね。
「【アルカディーア】と【ザナドゥ】の国境の防備と警戒を厳にせよ。【ドラゴニーア】の友邦国にチョッカイを出すという事が、どういう意味を持つのか、キッチリと、わからせてやるのじゃ」
ソフィアは、デザートのバケツ・プリン(抹茶味)を食べながら言いました。
「畏まりました。既に、【ドラゴニーア】軍の3個軍団を【アルカディーア】に出動させてあります」
アルフォンシーナさんは言います。
「【タカマガハラ皇国】への援軍は、どうじゃ?」
「【タカマガハラ皇国】の歩兵は精強ですので、現地駐留の【ドラゴニーア】航空騎兵と協力すれば、【ザナドゥ】ごときには、後れは取らないでしょう」
「うむ。ならば、良いのじゃ」
ソフィアは、満足げに頷きました。
ソフィアもアルフォンシーナさんも、なかなか大変ですね。
人種の争いは本能によって引き起こされる事象ですから、どんなに戦争を避ける為のシステムを構築しても、戦争はなくなりません。
戦争が起きる理由は、色々と複雑な背景もあり、単純ではないのです。
政治は面倒ですからね。
その点、ゲームマスターは、世界の理の違反者を機械的に取り締まれば良いだけなので、極めてシンプル。
わかりやすいです。
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・・・
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