第281話。トランスポーター(輸送機)。
プリンシプル。
世界の理に違反しない事。
ノヒト・ナカとノヒト・ナカの身内に敵対しない事。
法律、公序良俗、倫理、公衆衛生に違反しない事。
ノヒト・ナカが命令したら従う事。
世界の発展と平和に貢献する事。
プリンシプルを遵守する限り、ノヒト・ナカは敵対しない。
チュートリアルを受ける者は、チュートリアルについて口外しない事。
異世界転移、39日目。
深夜0時。
【ワールド・コア】ルーム。
私は、ミネルヴァと仕事の打ち合わせをしながら、内職をしていました。
【神格者】とは、脳の機能が、人種のそれと比較して圧倒的に優れているので、思索と会話と作業を同時進行で行える便利な体質なのです。
私は、手持ちの【自動人形】・シグニチャー・エディション20体を全投入して、同じく【自動人形】・シグニチャー・エディションを製造していました。
出来上がった【自動人形】・シグニチャー・エディションが、今度は製造側に加わるので、その度に作業効率は、どんどん上がって行きます。
【自動人形】・シグニチャー・エディションは、グレモリー・グリモワールに、あと361体を納品する約束ですし、私も100体単位で常時保有しておきたいですからね。
実は、今日・明日と、私は珍しく暇だったりします。
あ、いや、やるべき事は引きも切らずにある訳ですが、ゲームマスターの業務の予定はなし。
今日・明日の2日間は、ミネルヴァが設定したスケジュールでは、【ウトピーア法皇国】問題に対応をする予定となっていたからです。
しかし、【ウトピーア法皇国】問題は、予定より早く簡単に解決してしまいました。
つまり、私が、対【ウトピーア法皇国】のスケジュールを丸っと2日分巻いてしまったという事。
明後日からは、レジョーネとファミリアーレは、サウス大陸の遺跡攻略に向かいます。
それまでの2日間、予定は白紙。
束の間の休息という訳です。
休息……では、ありませんね。
相変わらずの忙殺ぶりです。
【ウトピーア法皇国】問題は、ミネルヴァが最悪を想定してスケジュールを切っていましたので、つまりミネルヴァの計算上どんなに時間がかかったとしても、あと2日の猶予があれば間違いなく解決出来た、という想定でした。
ミネルヴァが想定した最悪の事態とは?
つまり、私が【神の怒り】や【最後の審判】を使い、【ウトピーア法皇国】の文明を全て灰塵に帰して、有史以前の状態に戻してしまうという事態。
その最悪の想定であっても、余分に2日あれば業務完了した訳です。
まあ、あと2日あれば、1国の文明くらい、完全に破壊可能だったでしょうね。
冷静に考えると、空恐ろしいですが、ゲームマスターのチートぶりは、今更という感じです。
結果として、今回の業務は、想定した選択肢の中で比較的穏当な部類の結果で一応の解決を見た為に、今日・明日の2日間のスケジュールが自由となりました。
この2日間は、私がやる事になっていて、未着手だったり、途中だったり、になっている土木建築などを、やっつける為に使いましょう。
「チーフ。2日ゆっくりすれば良いのでは?」
ミネルヴァは言います。
「ゆっくり、とは例えば何をするのですか?」
「非生産的で、チーフがやりたい事です」
「特にありませんね。強いて言うならば、リマインダーの消化。それが、やりたい事でしょうか?」
私のリマインダーは、異世界転移以来、項目が増え続けていました。
やるべき事を優先順位の高い順に片端からやっつけていますし、プライベートで、やりたい事はほとんど手つかずの状態なのにも拘わらずです。
まあ、かつては数十人のゲームマスター達で手分けしてやっていた仕事が、現状、私1人の肩にのしかかっているのですから仕方がありません。
「チーフ。たまには、余暇を過ごすのも必要ですよ。少し働き過ぎだと思います」
「私は、根っからの作業厨ですからね。異世界転移以前は、仕事でもプライベートでも、このゲームばかりしていました。例えば時間が無尽蔵に使えても、世界の地図埋めをしたりして過ごしたような気がしますね」
「チーフは、過労で病気になるような事はありませんから、チーフさえ良いのであれば、私は構わないのですが……チーフのバックアップが私の役割ですので、些末な雑事は、私や【コンシェルジュ】達に任せて、チーフは出来るだけ休暇を取って下さい」
ミネルヴァは言いました。
「そうですね。ゲームマスター業務の方に少し余裕が出来たら、【タカマガハラ皇国】の温泉にでも行って、ゆっくりと過ごすのも良いかもしれません」
「温泉ですか?それは良い考えですね。早速、スケジュールを切っておきますか?」
「そうですね。本格的に寒くなって来たら、ですね」
「では、年末はどうですか?」
「クリスマス・イベントが終わった後なら、構いませんよ」
ハロウィンやクリスマスは、その時期にしか開放されない特別なイベント・クエストが行われ、イベント限定アイテムや贈物が入手出来たりしますので、外せません。
私は、それらを全て持っていますが、レジョーネやファミリアーレに、それらの限定アイテムや贈物を入手させたいと考えています。
「わかりました。【コンシェルジュ】達を【タカマガハラ皇国】に派遣して、最高の温泉旅館を予約しておきますね」
「プライベートに、【コンシェルジュ】を使っても良いのですか?」
「いいえ。チーフのリフレッシュは、ゲームマスター業務の一環と解釈出来ます」
「ふふふ。その理屈なら、どこまでも拡大解釈が可能ですね?グレーゾーンの拡大解釈は、私の専売特許ですよ」
私は思わず笑ってしまいました。
「あくまでもチーフの為ならば、ですよ。他の事は、基本的にルール遵守で、やって参りますので問題ありません。そもそも、こちらの世界に、日本からのアクセスが途絶してしまった現状、チーフは【創造主】の全権代理。チーフがゲームマスター権限で指示を出せば、それは即ち【創造主】の意思と見做せます。つまり、公私混同も、世界の理の改変も、チーフの意思次第で好きなように出来ますよ」
ミネルヴァは、真面目くさって言います。
「そこは、線を引かなければならないでしょう。何でも出来るからと言って、何をしても構わないという事にはなり得ません。私は、ゲームマスターの本分は守ります」
「うふふ、チーフはそう言うと思いました。とりあえず、【コンシェルジュ】は派遣して【タカマガハラ皇国】で最高の温泉旅館を予約しておきますよ」
ミネルヴァは、笑いました。
「ありがとう」
さてと、今日の予定を確認しましょう。
私は、午前中、【タナカ・ビレッジ】で、ワインの醸造酒と【タナカ・ビレッジ・スクエア】を建築します。
それから、少し、【超級飛空航空母艦】の建造作業も行いましょう。
午後は、【ラニブラ】と【パラディーゾ】でも【スクエア】の建築と、コンパーニアとイーヴァルディ&サンズ関連の施設建築を行います。
ソフィア、ウルスラ、オラクル、ヴィクトーリアは、【ラウレンティア】と【サンタ・グレモリア】の【スクエア】で、ソフィア・フード・コンツェルン関連の視察と現場での打ち合わせ。
ソフィア達は、ヴァレンティーナ・ベルルーティCEOを現地に連れて行くそうです。
ファヴは、サウス大陸の守護竜として【アトランティーデ海洋国】と【パラディーゾ】と【ムームー】の視察と会議。
リントとティファニーは、【サントゥアリーオ】で、守護竜としての、お仕事。
トリニティは、午前中、ファミリアーレについて訓練。
午後は、私に付き従ってくれます。
ファミリアーレは、午前中は【ドラゴニーア】の竜城で訓練。
午後は……獣人娘達4人とサイラスとティベリオは図書館で勉強……ロルフとリスベットは、それぞれマリオネッタ工房とアブラメイリン・アルケミーに出勤するのだ、とか。
また、グレモリー・グリモワールが、今日も私の代わりにチュートリアルをアテンドしてくれます。
今日は、【ドラゴニーア】の軍と衛士関係者。
後で、お礼のメールを送っておきましょう。
私は、完成した個体を含めて、35体の【自動人形】・シグニチャー・エディションを【収納】にしまいました。
次は、と。
私は、図面の作成を始めます。
今回、製造を企図しているのは、【輸送機】。
【コンシェルジュ】達を任地に送り届ける事を目的とする装甲飛空船です。
必要なスペックは、長距離航行性能と一個部隊を輸送可能な積載量。
矢弾が飛び交う戦場のただ中でも、速やかに兵員を地上に展開出来るように、スムーズに乗り降り出来る大きなハッチと、支援火器を持たせなくてはいけません。
形状は四角い箱型。
前部は操縦室と機関部。
後部は兵員輸送スペース。
船尾に大きなハッチ。
左右に火砲を装備。
装甲は、オリハルコンとアダマンタイトの複合材を【神位バフ】で補強します。
浮遊機動で、強力な馬力が欲しいですね。
可能なら【ダンジョン・コア】をメイン・コアにしたいのですが、現状、【ダンジョン・コア】のストックが1つしかない為に不可能です。
【ダンジョン・コア】をメイン・コアに用いるタイプは【大型輸送機】として、区別しましょう。
【大型輸送機】は、追い追い製造するとして、とりあえず【超位コア】をメイン・コアにした小型の【輸送機】を先に導入しましょう。
武装は、【追尾誘導光子砲】を2門。
【コンシェルジュ】に内蔵されている【追尾誘導光子砲】より大威力とする為に、それぞれに【超位コア】を動力源として接続します。
うーむ。
【防御】と【魔法障壁】を展開させる為にも、独立した【超位コア】を用いますか……。
いっその事、航行制御……各種レーダーと戦闘管制……機関部……を、それぞれ独立した【超位コア】で賄いましょう。
つまり、1機あたり【超位コア】が6個必要となりますね。
まあ、【超位コア】のストックは大量にありますから、問題ありません。
「ミネルヴァ。これの最適化を頼みます」
私は、完成した設計図面をミネルヴァに見せました。
「了解しました……完了しました。チーフの記録に送りました」
ミネルヴァは、私の設計図面を瞬時に記憶し、最適化の作業を完了し、私の内部記録に転送してくれます。
この内部記録は、ステータス画面を開けば見る事が出来ました。
早速、確認。
ふむふむ、見た目が私が設計した方は真四角の箱型でしたが、ミネルヴァが最適化した方は、やや流線型となっていました。
私は、流体力学的な作用は、全て魔法的に処理してしまおうと考えましたが、ミネルヴァは空気力学的にも船体をデザインし、余剰の魔力を他に回そうという意図のようです。
私が形状を真四角にした理由は、搭乗兵員を目一杯まで載せる意図でした。
なるほど、ミネルヴァは、数人輸送兵員を減らしても、魔力コストの方を優先した訳ですね。
他にもミネルヴァの設計は、配線がシンプルになっていたり、と改良が施されていました。
軍用機は、頑丈さが求められますし、メンテナンスのしやすさも重要です。
ミネルヴァが最適化したのですから、これが最良の設計なのでしょう。
「ミネルヴァ、ありがとう。これで行きましょう」
「わかりました」
【輸送機】。
操縦手と砲手とレーダー手で、乗員3人。
輸送人員は最大25人。
私は、出来上がった設計図面を元に、【超位コア】に【超神位魔法】で積層型魔法陣を組みます。
これは、【プロトコル】。
この【プロトコル】を用いて、ミネルヴァが【神の遺物】の製造ラインで【輸送機】を生産する訳です。
外部派遣要員の【コンシェルジュ】達の輸送問題は、これで良し。
【コンシェルジュ】達は、【高位】の魔法職ですから、自力で高速飛行が出来ますが、装甲で守られて、魔力を節約出来る移動手段がある事は、悪い事ではありません。
【輸送機】の配備で、【コンシェルジュ】達の任務遂行能力は、格段に上がると思われます。
その時、アラームが鳴りました。
もう、こんな時間ですか、作業をしていると時間が経つのが早いですね。
特殊相対性理論によると時間は絶対的な尺度ではありません。
光速度不変の原理によって、時間の流れは変わる事がわかっているのです。
もしかしたら、私が作業をする事で、時間の流れが実際に変化しているのかもしれません。
どうでも良い話ですね。
「では、ミネルヴァ。出掛けますよ」
「いってらっしゃい、チーフ」
私は、【コンシェルジュ】を1人呼んで、【輸送機】用の【プロトコル】を手渡しました。
これを、【神の遺物】製造ラインに接続すれば、【輸送機】を大量生産する事が可能です。
私は、忘れない内に、グレモリー・グリモワールにメールを送りました。
今日のチュートリアルも、よろしくお願いします……と。
これで良し。
グレモリー・グリモワールがいる【サンタ・グレモリア】は、まだ夜中です。
通話では起こしてしまいますからね。
私は睡眠が必要ありませんが、グレモリー・グリモワールは生身ですから、睡眠が必要です。
私は、【ワールド・コア】ルームからエントランスに出て、【ドラゴニーア】の竜城に向かって【転移】しました。
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