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第28話。スカウト。

名前…ハリエット

種族…【兎人バイペッド・ラガモーフ

性別…女性

年齢…16歳

職種…冒険者・(カッパー)

魔法…なし

特性…なし

レベル…10

【冒険者ギルド】のギルド・マスター執務室。


 私は【犬人(コボルト)】のジェシカに質問しました。


「何故盗みなどをしたのですか?」


「あ、あの、その……」


 ジェシカのステータスを見ると【職種(ジョブ)】欄が【コソ泥(ピック・ポケット)】となっていました。

 これは行きがかり上止むを得ずなどという事ではなく、明確に犯意を持って盗みを働かなければステータス表示されません。


「ジェシカ。まさか……」

狼人(ライカンスロープ)】のグロリアが言いました。


「ごめんね。道を歩いている人からお財布を盗ったの……」

 ジェシカは消え入りそうな声で言います。


「何でまた……もしかして、あの薬は……」

兎人バイペッド・ラガモーフ】のハリエットは、何か心当たりがあるようでした。


「そうなの。盗ったお金で買ったの」


「あの薬は親切な人から貰ったと言っていたではないか?」

猫人(ケットシー)】のアイリスが詰問します。


「嘘吐いたの。ごめんなさい」


 彼女達は【剣宗(ソードマスター)】を目指しているハリエットと行動を共にしている為、アルバイトのかたわら冒険者修行をしていました。

 (もっぱ)ら先輩冒険者のパーティに付いて、【荷物運び(ポーター)】などをしているそうです。


 ある日の狩で先輩冒険者達が討ち漏らした魔物がハリエットとアイリスを襲い2人は負傷。

 身体が一番小さいジェシカは、いつも他の3人に守られていました。


 怪我をした2人をなんとかしてあげたい……と考えたジェシカは、【竜都】の往来で人混みに紛れて通行人の財布をスリ盗ったそうです。


「ジェシカ。衛士機構に自首しなさい。私が決して悪いようにはしません。良いですね?」


「はい。わかりました」

 ジェシカは、もはや覚悟を決めたかのように濁りのない表情で頷きました。


「心配いらんのじゃ。我とノヒトで其方らを守ってやるのじゃ。じゃから変な気を起こすでないぞ。もしもジェシカを逃がしたりすれば、もっと重い罪になり、ジェシカを今よりもっと苦しい立場に追い込む事になる。良いな?」

 ソフィアが獣人娘達に噛んで含むように諭します。


「「「わかりました、ソフィア様」」」

 3人は言いました。


 おそらく自首をすれば監獄に入れられる事はないでしょう。


 ・・・


 私とソフィアは【冒険者ギルド】を後にしました。


 獣人娘達3人は、今日の予定通りアルバイトを熟し、それぞれのアルバイト先に……就職口が決まった……と報告して今後の仕事に断りを入れます。

 そして、明日の朝に獣人娘達3人は現在の宿泊先を引き払い、その足で私とソフィアと【冒険者ギルド】で待ち合わせて合流。


 ジェシカだけは、たった今から衛士機構に自首。

 エミリアーノさんが付き添いをしてくれるそうです。


 ソフィアが神託で【女神官(プリーステス)】達に事のあらましを説明しジェシカに気を配ってもらえるようにした、と。


 ソフィア……公私混同はいけませんよ。


 私は【念話(テレパシー)】でソフィアに言いました。


 もちろんじゃ……ジェシカの処遇に手心を加えろなどとは言わんのじゃ……適切に対処して欲しいと伝えたのじゃ。


 ソフィアは【念話(テレパシー)】で答えました。


 ソフィアがジェシカの件に言及した時点で圧力と取られかねないのですが、まあ止むを得ないでしょう。


 少なくともジェシカは初犯で重犯罪ではなく、私が自社の従業員として身分を保証し、尚且つジェシカは自首し窃盗の被害者が見つかった場合には損害を弁済した上で慰謝料を払い示談としてもらえるように私から依頼するつもりです。

 実刑になる可能性は、ほぼありません。

 起訴猶予……悪くとも執行猶予にはなるでしょう。


 他の3人は、ジェシカの事をとても心配していましたが、私とソフィアで説得し……自分達のやるべき事を、まず片付けて来るように……と言い付けました。


 ジェシカの事は私が悪いようにはしません。


 ・・・


 さてと、次は孤児院に向かいます。


 セントラル大陸において孤児院は全て【神竜神殿】が運営していました。

【神竜神殿】孤児院は、職業訓練所と学校と保育園とと孤児達の家を兼ねる大きな施設ですが、その施設全体を指して一般からは単に神殿と呼ばれています。

 それは、セントラル大陸の孤児院は全て【神竜神殿】の敷地内に併設されているからでした。


 神殿は近隣の住民にとっては日頃祈りを捧げに来る信仰の(やしろ)であり、病院であり、冠婚葬祭を行う場所であり、地域住民の墓地であり、役場の出張所であり、集会所であり、体育館であり、ホールであり、コミュニティ・センターであり、雑多な問題を扱う(よろず)相談窓口としての役割もある場所です。

 地域住民が神殿を利用する際、(ほとん)どの場合で無償か、ごく小額の費用しか掛かりません。

 神殿の経費は原則としてセントラル大陸各国の税金で賄われていますが、住民や企業からの寄付なども相当に多いそうです。


 それだけセントラル大陸では【神竜神殿】……即ち【神竜(ソフィア)】が信望され敬愛されているという事の証左かもしれません。


 ソフィアは早く孤児院に向かいたいのでしょう。

 私を先導するように高速で飛んで、あっという間に孤児院上空に到着しました。


 今日は孤児院を訪れる正当な理由があり、また訪問のアポイントを取っている為に堂々と孤児院を運営する神殿の門を潜ります。

 前回孤児院を見に来た時にソフィアは、公私の区別を付ける為、あえて孤児院の中には入らず上空から眺めるだけにしていました。

 しかし、やはり気に掛ける子供達に会いに行きたい気持ちをグッと堪えていたのでしょうね。


 孤児院の門の中では、ここの神殿の責任者である【女神官(プリーステス)】と、その部下であり孤児院などで業務を行なっている【修道女(ナン)】の皆さんが勢揃いして迎えてくれました。


「ソフィア様、ノヒト様。ようこそおいで下さいました。私は【竜都】の孤児院を運営する当地の神殿長を拝命しております、クリスタでございます」


 クリスタさんは【ドラゴニュート】の【女神官(プリーステス)】。

 少し年齢を重ねている女性でした。


【ドラゴニーア】では、聖職者となった女性達は、まず【修道女(ナン)】として修行を始めます。

 その後【女神官(プリーステス)】にクラス・アップした若い聖職者は【竜城】に昇り、大神官のアルフォンシーナさんや、神官長のエズメラルダさんや、【高位女神官(ハイ・プリーステス)】達の身の周りの世話などをしながら修行し一人前となります。

 やがて【高位女神官(ハイ・プリーステス)】に昇った者を除いては、クリスタさんのようにセントラル大陸全土にある【神竜神殿】の関係施設に派遣されていました。


 この決まりは【高位女神官(ハイ・プリーステス)】に昇れなかった【女神官(プリーステス)】達の都落(みやこお)ちなどではありません。

【竜城】を離れた神官は、各地で広い裁量と大きな権限を与えられた言わば支社長のような立場となります。


 経験を積み、部下となる【修道女(ナン)】達を指導出来る人材でなければ地方の神殿長は務まりません。

 つまり、クリスタさんは【職種(ジョブ)】こそ【高位女神官(ハイ・プリーステス)】ではありませんが、神殿内の人事序列ではかなり偉い立場の人なのです。


 ソフィアは、挨拶を済ませると……小難しい話はノヒトに任せるのじゃ……と言って、直ぐに年少の子供達と遊ぶ為に孤児院の建物へと向かってしまいました。

 あの、やろう……まあ念願の子供達との触れ合える機会ですから今回は大目に見ます。


 ・・・


 私とクリスタさんは神殿長の執務室に移動しました。


「ノヒト様。グロリア、ハリエット、アイリス、ジェシカを救って下さいました件、感謝してもしきれません。本当にありがとうございました」

 クリスタさんは深々と頭を下げます。


「いいえ。ソフィアの意向です。私が何かをしたという訳ではありません」


「いいえ。ノヒト様がして下さった事の意味を私以下孤児院の運営に携わる全ての者が理解しております。元はといえば(くだん)の飲食店を悪質な事業者と見抜けず、子供達を研修に送り出した私共の責任なのですから……」

 クリスタさんは目に涙を浮かべて言いました。


「あの風俗店は【竜城】と【商業ギルド】が不適切な従業員募集を(とが)め営業停止になりました。捜査の結果余罪も随分とあるようです。あのような悪質な業者の行なった事が、クリスタさんや神殿の責任などという事がある筈はありません。どうぞ気に病まないで下さい」


「ありがとうございます」

 クリスタさんは、もう一度深く頭を下げます。


 今日私が孤児院を訪れた目的はスカウト。


 起業をする私とソフィアの会社は【魔法装置(マジック・デバイス)】を扱うと決めました。

 その経営に関わる人材は【商業ギルド】に依頼して確保しますが、製造部門の運営に携わる人材、そして肝心の社員や工場で働く従業員達がいません。


 製造部門の運営をさせる人材は、今日【商業ギルド】で募集してもらうつもりです。

 その他に工場のラインで製造作業に従事する従業員、そしてオフィスで働いてもらう社員は、今期孤児院を卒業するメンバーから雇い入れるつもりでした。


 ついでに何らかの問題があって、【ドラゴニーア】で就職がままならない者も雇用する予定です。


 孤児院の卒業生を雇用する事は、既に【竜城】から通達が来ていて、クリスタさんは名簿をリスト・アップしてくれていました。


 オフィスの社員10人、工場の従業員20人ですね……全員雇いましょう。


 私が提示した雇用条件が良かった為、この募集は希望者が殺到したそうです。

 私は事前に公務員、ギルド、大企業、本人が希望する職種に内定している卒業生はリストから外すように依頼していました。

 私は、あくまでも孤児院出身者の支援が目的ですので、優秀で他に優良な就職先がある卒業生を青田買いする意図はありません。


 ただし、例外的に2名だけ優秀な卒業生を確保させてもらいました。

 彼らは私とソフィアの会社で、将来幹部を担ってもらう人材です。


「工作や研究に興味があって、手先が器用で知恵が回る子という事でしたので……候補を選定しております」

 クリスタさんが言いました。


 私が待つ神殿長の執務室に2人が入室して来ます。


「ロルフです。物作りが好きなので頑張って働きます」

【ドワーフ】の少年が自己紹介しました。


 ステータス表示には【丁稚(アプレンティス)】とあり、鍛冶系のステータスに少し経験値の上昇が見えます。

【ドワーフ】ですから鍛冶は天職でしょう。


「リスベットです。将来は薬学を極めたいと思います」

【ダーク・エルフ】の少女が挨拶しました。


 彼女のステータス表示には【丁稚(アプレンティス)】とあり、錬金術系のステータスに少し経験値の上昇が見え魔法適性が高いです。

 さすがは【ダーク・エルフ】。


 2人は現在それぞれ鋼材メーカーと製薬メーカーで研修をしていました。

 私が引き抜いたせいで、それらの企業は新規採用人材を失う訳ですが、人手不足気味な【ドラゴニーア】では人材は売り手市場。

 より良い条件の就職先を選択する事は、普通なのだとか。

 なので、この事が原因で研修を受け入れてくれた企業と孤児院の求人と就職斡旋の関係が悪くなる心配はないそうです。


 研修期間は、ただ同然の賃金でモチベーションの高い子達をアルバイトとして働かせる事が出来る訳ですしね。

 どちらにしろ企業側に損はない訳です。


「ノヒト・ナカです。あなた達には私とソフィアの会社で働いてもらいます。期待していますよ」


「「はい。頑張ります」」


 ロルフとリスベットが退室した後、私はリスト・アップされた30人の孤児院生と順次面談しました。

 皆意欲が高い様子で頼もしかったですね。


 1つ気になった点があります。

 リスト・アップされた子供達に【獣人(セリアンスロープ)】が多い気がしました。

 偶々(たまたま)なのか、あるいは何か理由があるのでしょうか?


「【(ヒューマン)】、【エルフ】、【ドワーフ】、【ドラゴニュート】などの子供達は、子供に恵まれないご夫婦に引き取られていくケースが多いのです」

 クリスタさんは言いました。


 なるほど。

 養子縁組ですか。

 夫婦は自分達の種族と同じ子供を望む傾向があり、【ドラゴニーア】の人口構成的に【獣人(セリアンスロープ)】は引き取られるケースが少ない、と。


 クリスタさんによると、これは養父母さんの種族差別などではないようです。

 引き取られた子供が将来成長して物心が付いた時に義理の両親と種族が違う場合、その事を思い悩んだり、あるいは養父母さん達が種族特有の教育などをしてあげられない事を考慮するからだとか。


 差別や偏見ではなく養父母さんからの子供達への配慮なのですね。

 孤児を引き取って自分の子供として育てたいと考えるような立派なご夫婦は、そもそも人種差別などとは縁遠い方達なのでしょう。

 良くわかりました。


 ・・・


 さてと問題の就職を失敗する可能性が高い子供達の番ですね。

 今期は3人が就職にあぶれるかもしれないと危惧されているようです。


 先にクリスタさんから、彼らが何故就職出来ないのかを説明してもらいました。


「1人はサイラスという子です。気持ちの優しい子なのですが……。神殿の外でトラブルに巻き込まれまして、暴力を振るい相手に大怪我を負わせてしまいました」


「トラブルとは、如何(どう)いった経緯ですか?」


「神殿の近所に住む少年が、友人達にイジメられていたそうです。サイラスは、その少年と仲が良かったので……」


「子供の喧嘩でしょう?違法行為とまでは行かないのでは?」


「それが……イジメていた少年達の怪我の程度が酷く、神殿に運び込まれなければ何人かは死んでしまっていたかもしれません。サイラスは【オーガ】なので、軽く叩いても相手の子達にとっては大変な力なのです」


 なるほど。

【オーガ】が他種族に暴力を振るえば確かに死人が出かねませんね。


「わかりました。私が身柄を引き受けましょう」


「感謝申し上げます」


「後の2人は?」


「モルガーナとティベリオです。2人の場合は、少し事情が特殊で……」

 クリスタさんは少し困惑したように言いました。


 モルガーナは【ドラゴニュート】の少女。

 ティベリオは【狐人バイペッド・フォックス】の少年。


 モルガーナは【竜騎士(ドラゴン・ライダー)】を志望しているそうです。


 ん?

【ドラゴニーア】の竜騎士団は女性を採用していなかった筈です。


 セントラル大陸では軍であっても採用に男女の区別は設けません。

 純粋に能力主義。

 その証拠に【ドラゴニーア】艦隊の提督は女性のフィオレンティーナさんですしね。


 ただし竜騎士団だけは例外。

 現在、竜騎士団は全員【ドラゴニュート】の男性のみで構成され、女性の募集はしていませんでした。


竜騎士(ドラゴン・ライダー)】になる為には絶対条件として【(ドラゴン)】と意思を伝え合える者でなければいけません。

 更に戦闘力や魔力の高さも求められます。


【ドラゴニュート】は種族的に【(ドラゴン)】との意思疎通が得意でした。

 また翼を持つ【ドラゴニュート】は、万が一【(ドラゴン)】の背から落下しても飛べるので墜落事故を防げます。

 従って、竜騎士団は【ドラゴニュート】を積極的に採用していました。


 女性の【ドラゴニュート】ではダメなのか?


 そういう訳ではありません。

 しかし通常女性の【ドラゴニュート】で【(ドラゴン)】との意思疎通が上手く、また竜騎士団に所属出来るほど魔力が多い女の子は、ほぼ間違いなく神殿の【女神官(プリーステス)】を目指すのだとか。

 モルガーナのように竜騎士団に入りたがる女の子は極めて珍しいそうです。

 結果的に竜騎士団は、現在女性の募集はしていない、と。


 なるほど……。


 ティベリオも軍の騎兵隊を志望しているそうですが、彼は絶望的に戦闘力が低くて軍の採用試験に合格出来る可能性が皆無なのだとか。


 2人は、いずれも竜騎士団と騎兵隊への志望意思が固く他の業種に就職せず、今期採用されなくても冒険者登録をして【竜都】に留まり、来季に再度採用試験に挑む覚悟をしているそうです。


 わかりました。

 とりあえず3人とも私が面倒をみましょう。

お読み頂き、ありがとうございます。


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