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第277話。姫様のドラゴニーア滞在記…6…急報。

名前…シモン

種族…【山羊足人(サテュロス)

性別…男性

年齢…61歳

職種…【吟遊詩人(バード)

魔法…【闘気】、【睡眠(スリープ)】、【混乱(コンフュージョン)】、【バフ】など。

特性…【才能(タレント)…絶対音感】、【鼓舞(インスパイア)

レベル…53


勇者パーティ。

【バッファー】

【アルバロンガ】から帰って数日後。

【アルカディーア】から急報がもたらされました。

 私達は、関係者という事もあり、その機密情報を【ドラゴニーア】政府から教えてもらえたのです。


 その報せとは……【アルカディーア】北部で反乱が起きた……というモノ。


 私とエルマは、詳しい情報を聞こうと竜城に駆け付けました。

 アルフォンシーナ大神官様には会えません。

 アルフォンシーナ様は、竜城の戦闘指揮所に入られ、現地の反乱鎮圧の為【ドラゴニーア】軍の【アルカディーア】方面軍を指揮しておられるのだそうです。


 私達の対応をして下さったのは、ゼッフィ殿でした。


「反乱の首謀者は、元【バクトリアーナ】領主、ウンベルト。反乱軍の総数は3万。現在、【ドラゴニーア】軍【バクトリアーナ】守備隊と交戦中。王都【アルカディーア】より【ドラゴニーア】の【アルカディーア】方面軍【翼竜(ワイバーン)】航空騎兵隊が援軍として出動。続報がありましたら、また、お伝えに参ります。では……」

 ゼッフィ殿は、事務的な口調で伝え、すぐ引き返そうとします。


「お待ち下さい。ウンベルトは、どうやって挙兵を?【アルカディーア】の軍は解体され、武装解除されています。まさか、武器も持たずに攻めて来るはずはありません」

 エルマが訊ねました。


「情報によると【ザナドゥ】から武器供与をうけています」


「【ザナドゥ】から?ウンベルトは、【アルカディーア】最大の仇敵と結んだというのか?何をしているのか?支離滅裂……まるで大義のない反乱ではないか?」

 エルマは呆れて言います。


 私達は、竜城に留まり、やる事もないので、トンマーゾ殿に、お願いして竜城に来て頂き、講義を受けながら、【アルカディーア】からの続報を待つ事にしました。


 ・・・


 竜城の公共エリアの会議室。


「【ドラゴニーア】では収入が増えるほど税率は高くなり、最大5割を税として納めます。これを累進課税制度といいます。このように収入が高い者からは、たくさん税を取り、収入が少ない者からは、少ない税を取り、収入がない者からは、税を取らない……そうやって集めた税収を国家は貧富に関わらず公平に予算執行する。これを富の再分配と呼びます。また、富の再分配を説明する場合、収入の部分を資産に置き換えて云う事も出来ます」

 トンマーゾ殿は、言いました。


「役人も税を納めるのですか?」

 私は、訊ねます。


「もちろん公職者も例外ではありません。ソフィア様も税を納めておいでですよ。ソフィア様がキチンと納税しておられるので、国民の納税意識は極めて高まっています」


「なるほど……」


「セントラル大陸では、地租や人頭税や入街税や通行税はないのですよね?」

 エルマが訊ねました。


「地租、人頭税、入街税、通行税は徴収しません。地租を取ると、農家は、畑を拡げたり、収量を増やしたり、という意欲を削がれます。人頭税も出生率を下げたり、戸籍を誤魔化したりする事を誘発します。貧しい国では人頭税が払えず、生まれた子供を親が手にかけざるを得ない、というような悲劇が起こる事もあるやに聞きますしね。人頭税は悪税です。また入街税や通行税は流通を妨げて経済発展を阻害します。結果、国の税収は下がりますし、国家は発展出来ません。これらの税制度は、わかりやすさ、徴収のし易さ、という利点はありますが、何故、国家が税を取るのか、という目的に鑑みれば本末転倒……稚拙な仕組みと言わざるを得ません。セントラル大陸では、農家は収穫した作物を一度市場に売り、対価を貨幣で受け取ります。その貨幣で、あらかじめ定められた税率を国へ納めるのです。商人や職人なども同じです。この税制の利点は、努力や工夫をして、生産量を増やしたり、品質を高めたりすれば、実入りも多くなるという事です」


「【アルカディーア】では強欲に金儲けに走るのを、軽蔑する風潮があります」


「お金に貴賎などありません。法や規範や倫理に違反しないのであれば、どんどん金儲けを奨励するべきです。国民の工夫や努力を正当に評価する風潮に変えなくてはいけませんよ」


「【ドラゴニーア】の商家は、多勢で徒党を組んで商いを行うのですね?」


「我が国では、企業と呼びます。農林畜水産物を扱うもの、機械・工業・化学・武器・土木・建築・造船・工芸・服飾などを扱うもの、サービスを扱うもの、およそ人々が生きて行く為に必要なありとあらゆる品物を扱う企業があります」


「【ドラゴニーア】の商人……いや、その企業は、民を決して搾取しないと聞きます。どうやって、そのような事ができるのですか?」


「殿下は、搾取された商人から、次も商品を買いたい、と思いますか?」


「買いたくなくとも、他に代わりがなければ同じ商人から買わざるを得ないのでは?」


「ならば、他に代わりを作ればよろしい。つまり国家政商や、商業権による既得権益を廃止なされば良いのです。そして、誰でも自由に商いが行えるようにすれば、誠実な商人が残り、搾取する商人は淘汰されます」


「物価統制が出来なくなりますね」


「そもそも物価統制が必要なのか、という疑問があります。物価とは需要と供給で成り立ちます。需要に対して供給が少なければ物価は上がります。需要に対して供給が多ければ物価は下がります。物価が高ければ、皆、その高い商材を生産したり販売したりしようと考えますから、供給が増え、やがて物価は均衡します。逆に、物価が低ければ、皆、その商材の生産や販売を減らして、他の商材に乗り換えますから、こちらもやがて物価は均衡するのです。原則、物価統制は必要ない、と言えます。例外的に、物価が短期的にでも乱高下すると国民生活に重大な影響を及ぼしかねないような場合は、国家が管理する場合もあるでしょう。【ドラゴニーア】では、塩や一部の穀物は、専売制度との併用を行なっていますね」


「商業の自由化ですか……既得権者の抵抗が激しそうです」


「その抵抗を打破して、勤勉で良心的な国民の経済活動を庇護するのが、政府や為政者の役目ですね。正直者が馬鹿を見るような社会は必ず衰退します。逆に、国民が正直で勤勉でさえあれば、どんなに要領が悪くても才能がなくても最低限の暮らしが送れるような社会制度を構築出来れば、放っておいても国は発展するのです。おそらく、それらの施策を【アルカディーア】では、今後、ヘルマヌス王陛下が行われて、殿下が即位なさる頃には、【アルカディーア】は自由商業と自由経済に制度変革変されているでしょう。殿下は、それらの仕組みを学んでおけば良いですね」


「商業の仕組みですか?」


「商業に限らず、社会や国家や世界の仕組みです。先程の話で言えば、民を搾取しないことで結果として国が富む仕組みを作り、それを周知するのです。そして搾取者は、役人も民も同じ法により厳格に裁きます。【ドラゴニーア】は裕福ですから、民は、生きるために必要な物品を買い揃え、嗜好品の類いを買ってなお、余剰の金が残ります。それで他国より高い税を支払えます。税が高いから、と外国に移住してしまう国民はいません。享受される恩恵が他国より大きければ、国民は喜んで高い税を払うのです。企業も取引の確実な履行を担保する国には高い税を喜んで支払います。役人が賄賂を要求することは極めて重罪です。また、【ドラゴニーア】に攻め込んで収奪を企てても、過去それに成功した者はいません。【ドラゴニーア】の政府は、国民の生命と財産を必ず守る、という信用があります。社会の公正さはこうして保たれます。これを国民に理解させる事も重要ですよ。義務教育で、税を含む社会の在りようを国民にもキチンと教えるのです。自分がズルをすれば、回り回って自分が損をする、と国民に知らしめなくてはいけません。この点に関しては、厳格な取り締まりも必要です。【ドラゴニーア】では子供でも税によって社会が回っている事を知っています」


「我が国とは、ずいぶん違うのですね。我が国の上流階級の中には既得権を守る為に非道な事さえ行う者がいます」


「【ドラゴニーア】も、かつてはそうだったのです。ソフィア様と歴代の大神官様が、文字通り多くの血を流して、ようやくここまで来ました。一度、公正な社会制度が確立してしまえば、不法な行為をして他者から搾取するような、役人や商人や一般国民は、社会から排除・自浄されますので、管理自体は、そう大変な事でもありません」


 ・・・


 私達は昼食を済ませました。

【アルカディーア】からの続報はなし。

 今日は午後の実地研修がなくなったので、午後も講義を受けながら、【アルカディーア】からの情報を待ちます。

 午後は、トンマーゾ殿が連れてきた方が教師役をして下さる事になりました。


 その方は、【ブラウニー】という種族の軍人。

【ブラウニー】は小人と総称される種類の人種で、高い知性が特長でした。


 お名前は、エウフェミオ殿。


「エウフェミオは、もしかしたら【ドラゴニーア】軍では最弱の軍人かもしれませんね」

 トンマーゾ殿は、笑いながら、そのように紹介しました。


「はい。間違いなく最弱でしょうね。私は、前線に立てば、【ボール】にさえ簡単に殺されるでしょう」

 エウフェミオ殿は、真面目な顔で言います。


 世界最強の【ドラゴニーア】軍に、【ボール】よりも弱い方がいるなんて……にわかには信じられません。

【ボール】と言えば、遺跡(ダンジョン)の最浅層などに出現するという球体の魔物。

 エルマに訊くと……空中を飛んで体当たり攻撃を仕掛けて来るが、棍棒などで、はたき落とせば比較的簡単に倒せる……という弱い魔物の代名詞なのだそうです。


「エウフェミオは、私の教え子です。経済学を学んだはずなのに、何故か、大学を卒業した後、軍に入隊しました。体のひ弱なところがあるエウフェミオが軍などで、やっていけるのか心配しましたが、今では、【ドラゴニーア】軍の第2艦隊提督です。今日は、趣向を変えて、エウフェミオから軍学を学びましょう。殿下もエルマ殿にも、将来、参考になるでしょうからね」

 トンマーゾ殿は、言いました。


「提督!……その方が、ですか?」

 エルマは、驚愕の声を上げます。


 私も同感です。

 まるで子供のようなエウフェミオ殿が提督?


「エウフェミオは、【戦略家(スキーマー)】の職種を持つ卓越した艦隊指揮官です。今日は、たまたま……もう間もなくサウス大陸に第2艦隊を率いて出航すると……挨拶に来たので、ついでに、お2人に講義を、と頼んだのですよ」

 トンマーゾ殿は、朗らかに言いました。


「【ドラゴニーア】の艦隊提督の戦術講義なら、是非とも聴いてみたいです」

 エルマは言います。


 こうしてエウフェミオ提督の臨時講義が始まりました。


「世界中に同盟国や、友邦国を持つ【ドラゴニーア】にとって重要な戦力は、言うまでもなく竜騎士団と艦隊です。一度(ひとたび)、有事があれば、世界の東の果てである【タカマガハラ皇国】や、北の果てである【スヴァルトアールヴヘイム】にも出動しなければなりませんからね。もちろん、これは、機動力や展開力に関しての重要性であって。魔法兵や歩兵や騎兵や砲兵や機甲兵よりも、艦隊の方が優れているなどという意味ではありません。あくまでも役割分担の話ですね」

 エウフェミオ提督は、少し甲高い声で話します。


 エルマは頷きました。


「まだ飛空船技術が、【創造主】にしか創造出来なかった頃……つまり古代から話を始めましょう。古代の【ドラゴニーア】は、強力な海軍を有していました。海に面していない【ドラゴニーア】と、海軍とが結びつかないかもしれませんが、実は【パダーナ】の【ナープル】や、【グリフォニーア】の【ウェネティ】などの有名な海洋港は、古代の【ドラゴニーア】が、開拓した港なのです。それらの港を【パダーナ】や【グリフォニーア】から租借地として借り受け【ドラゴニーア】は利用していました。意外かもしれませんが【ドラゴニーア】は海洋国家だったのです。現在の【ドラゴニーア】艦隊は、その海洋国家時代の海軍の伝統を受け継いでいます」


 海を持たない【ドラゴニーア】が海洋国家。

 知りませんでした。


「諸外国が未発達な造船技術、あるいは、稚拙な航海術の問題で、木造の手漕ぎ船か、数枚の帆を用いた小型の帆船で沿岸部を周旋することがせいぜいという時代に、既に【ドラゴニーア】は巨大で高速の艦船を多数保有していました。これらの船は【ドラゴニーア】の古代の賢者達指導の下、【ドワーフ】技師団が技術の粋を結集して造船されたのです。金属製の船体に複数のマストを立て多数の横帆を張り広大な総帆面積を持つ船は、喫水が深く積載量も他国とは桁違いでした。ご興味があれば、船舶技術史の文献を、お読みになれば詳しく書いてあります。では、質問です。遠洋を航海し大量の物資輸送が可能になる利点は何でしょうか?何に役立ちますか?お2人は、わかりますか?」


「交易でしょうか?」

 私は答えます。


「その通りですね。ただし、それだけではありません。もう一つ、役立つ事がありますよ。おわかりになりますか?ヒントは、私の職業に関係します」


「提督の職業?船乗り、ですか?」


「うん。まあ、それもそうですが。私の職業は軍人です。つまり、大量の物資輸送を可能とする船舶の開発を進め運用する上で、最も役に立った事は、ずばり戦争でした」


「兵站ですね?」

 エルマが言いました。


「はい。仰る通りです。船舶輸送を軸とした兵站は、正に【ドラゴニーア】のお家芸とも言えるもので。古代の海洋船舶、現在の飛空船舶……どちらの場合も艦隊に求められる能力で最重要項目は、兵站です」


「火力や打撃力ではないのですか?」

 私は質問します。


「それらは副次的なモノ。なくても他の兵科で補えます。現代、戦いの優劣は兵士の個人の武力や、策士の知恵より、兵站に占める割合が非常に大きいのです。【ドラゴニーア】の戦史上、艦隊による輸送が勝利に寄与した実例は列挙にいとまがありません。古代、数百年、イースト大陸に覇を唱えた軍事都市国家【ソロン】でさえ、【ドラゴニーア】艦隊がイースト大陸西端に上陸し橋頭堡を築いてから、わずか数年で完全に滅亡してしまったのです。【ソロン】は当時、世界最強の歩兵軍団を持っていましたが、【ドラゴニーア】の物量作戦の前に屈したのです。【ソロン】の50万の精強な歩兵が、橋頭堡の港を陸地側から3年半包囲し続けていましたが、【ドラゴニーア】は海側から問題なく補給を続けました。なので当時の常識ではあり得ない、包囲する側が飢えるという事態が発生したのです。その時、【ドラゴニーア】が築いた橋頭堡は現在のお2人の祖国である【アルカディーア】の西端の街【イリアス】ですよ。このように、海洋国家【ドラゴニーア】の勃興から兵站学の発展によって、戦争の概念は完全に変質してしまったのです。戦史を兵站学の立場から考察してみたら面白いと思います」


 エウフェミオ提督は、簡単な講義を終えて退出して行きました。

 エルマには、非常に良い講義となったようです。


 ・・・


 竜城で夕食を食べ、私達は、今晩は、このまま竜城に宿泊させてもらう事にしました。

【アルカディーア】からの続報があれば一早く、それを知る為です。

 私達には、何も出来ませんが……。


 ゼッフィ殿に頼んで、アルフォンシーナ大神官様に、お伺いを立ててもらったところ、許可されました。


 偉大なるイースト大陸の守護竜たる【アジ・ダハーカ】様……どうか、【アルカディーア】の無辜の民と、お父様、お母様、妹弟達を、お守り下さいませ。

お読み頂き、ありがとうございます。

ご感想、ご評価、レビュー、ブックマークを、お願い致します。

活動報告、登場人物紹介&設定集も、ご確認下さると幸いでございます。


・・・


【お願い】

誤字報告をして下さる皆様、いつもありがとうございます。

心より感謝申し上げます。

誤字報告に、訂正箇所以外の、ご説明ご意見などは書き込まないよう、お願い致します。

ご意見などは、ご感想の方に、お寄せ下さいませ。

何卒よろしくお願い申し上げます。

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[一言] 252農業政策 ダンジョン無限の資源を算出 ダンジョン無限の資源を産出 だと思うのですが・・・・ 今更2019年末の文章にとやかく言うのも考え物ではありますが、とりあえず。
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