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第276話。姫様のドラゴニーア滞在記…5…捕虜。

名前…イレーヌ

種族…【ハーピー】

性別…女性

年齢…48歳

職種…【探査者(サーチャー)

魔法…【闘気】、【風魔法】、【遠隔(リモート・)(ビューイング)】など。

特性…飛行、【索敵(サーチ・エネミー)】、【伏兵(アンブッシュ)

レベル…54


勇者パーティ。

斥候(スカウト)】職

 私達の遊学生活が始まり、数日経ちました。

 今日は、竜都を離れ、とある場所に向かいます。

 未明に起床して、私達は、竜都の港からチャーター船で一路南を目指しました。

 チャーター船は、私達が【アルカディーア】から竜都に来る時にも乗った武装貨客船オノーレ号。

 オノーレ号は、私達専用の船として今後も自由に使って良いそうです。

【ドラゴニーア】は、何て気前が良いのでしょう。


 船の移動時間も無駄にしたくなかったので、無理を言って、トンマーゾ殿や家庭教師の皆さんにも同行を、お願いしています。

 皆さんは、快く私の頼みを聞いて下さいました。


 日の出前の暗い時間に、船内の食堂で早い朝食を済ませ、早速、講義が行われます。

 今日は、私達【アルカディーア】の遊学者の全員で移動するので、いつもとは違い全員で講義を受けていました。

 受講生は、私の他、エルマ、カティア、レティーツィア、マリアンナ、ナタリア、オルネラ、パトリツィア、クゥエイファ、ロゼッタ。

 皆、若く、将来を嘱望される人材ばかりで、いずれ私が【アルカディーア】に帰国した際には、私の側近として政権の中枢を占める事を使命付けられていました。

 フェドーラだけは、講義を受けず、私達の世話をしてくれています。


「国の秩序や、国民のモラルは、民からの国家への信頼によって醸成されるモノです。国家が民を力で押さえつけて、強制しようとしても、秩序や民のモラルの浸透には、ほとんど何の意味もありません」

 トンマーゾ殿は言います。


「信頼ですか?」


「はい。例えば、大きな災害などが起きた時、無軌道な民が暴徒と化して略奪などが起きるのは、国家への信頼が低いからです。仮に、災害が起きても、しばらくすれば必ず国家が救援に駆けつけてくれると信頼していれば民は略奪などはせず、落ち着いて待っていてくれます。また、略奪などを働けば災害が収束した後に必ず取り締まられて罰せられる、と民が理解していれば、そんな不合理な行動は誰も取りません。つまり、国家とは、民が信頼を預ける、姿なき人格、なのです」


 トンマーゾ殿の言葉に私は思い当たる所がありました。

 私達が【アルカディーア】から【ドラゴニーア】に向かう道程、【ウェネティ】に寄港した際、実は【ウェネティ】の民衆には、私が誰であるかは、事前に周知されていたのだそうです。


【ドラゴニーア】には、映像受像機(テレビジョン)、というモノがあるのだとか。


 何月何日にどこに他国の要人がやって来る。

 その要人は、どういう立場の人物か?

 その要人がやって来る背景には、どういう理由があるのか?


 こういう事が、活字や映像媒体によって(つまび)らかにされ、広く国民に知らされていたらしいのです。


 後から、それを聞いて、私達は大変驚きました。


 何故なら、私の国【アルカディーア】は、【ウェネティ】を含む【グリフォニーア】に不法な侵略を仕掛けた敵なのですから。

 にも拘わらず、私達に【ウェネティ】の民から石つぶてはおろか、罵声の一つも飛んでは来ませんでした。

 彼らは皆、私が家族や友人の仇である【アルカディーア】の皇太王女と知っていたにも拘わらず、私が表を歩けば皆行儀良く会釈すらしてすれ違って行ったのです。


 これが【ドラゴニーア】を含むセントラル大陸の民度。

 恐るべき理性を持つ国民です。


 竜都の南側は、朝焼けに照らされて広大な農地が地平線の彼方まで続いていました。

 ここは、【神竜(ソフィア)】様の私有地……かつては【神竜】農場……今はソフィア農場と呼ばれているそうです。


 これが全て、ソフィア様の……。


「殿下。ソフィア様の農場に、ご興味があるなら、また、いずれ視察を、お願い致しましょう」

 私が窓の外に気を取られていると、講義をするトンマーゾ殿が言いました。


「あ、申し訳ありません」


 今日は、マンツーマンではなく、皆で講義を受ける形なので、つい油断してしまいましたね。

 いけない、いけない、集中しなければ……。


 言い訳になりますが、今日の外遊は、とある目的の為なので、私は少し、上の空なのです。


 ・・・


 正午前、私達は、【ドラゴニーア】の南方の大都市【アルバロンガ】に到着しました。


 実に4000km以上を午前中で移動した事になります。

 信じられない速度ですね。

 これでも、快適さを担保する為に最高速度ではないというのですから、オノーレ号の性能は恐るべきモノです。

 当然ながら、【ドラゴニーア】の軍艦は、さらに高性能。

 オノーレ号の性能から【ドラゴニーア】艦隊の戦力を想像した私やエルマの心胆を寒からしめるには、十分過ぎます。


【アルバロンガ】の都市内も、【ドラゴニーア】で見た他の都市同様に、治安が良く清潔で市場には物品が溢れていました。

 幼子は屈託なくはしゃぎ回り、年寄りは憂いなくそれを眺めて笑っています。


 書店があったので立ち寄ると、【アルカディーア】でなら学者のみが持つことを許されるような書物が、驚くほど安価で買えました。

 竜都でも、たくさんの書物を買い込んでいます。

 重複しないように、リストと照らし合わせて確認しました。


【ドラゴニーア】に限らずセントラル大陸では、全ての国民は5歳になると皆、無償で学校に通い成人まで学び国民全てが文字を読めます。

 私達は、護衛の方々の手を借りて大量の書物を運んでもらいました。


 私達が学業に用いる書物は、【ドラゴニーア】から経費が支給されるので、私達の費用負担はありません。

 しかし、【アルカディーア】本国に送る書物は、私達の実費負担。

 ただし、【アルカディーア】では、こんな貴重な書物は購入出来ませんし、入手出来たとしても、とんでもなく高価なのです。

 私達は、暇を見つけては図書館や書店を巡り、お父様から送金してもらったお金の大半を使って書物を買い、【アルカディーア】に送っていました。


 お父様は……送金は、お小遣いとして使って構わない……と言いますが、この、お金は【アルカディーア】の民の血税。

 無駄には出来ません。


 私達は、大量の書物を買い、満足して書店を後にしました。


 ・・・


 皆が勤勉なセントラル大陸の中にあっては珍しく、【アルバロンガ】は多少享楽的な地域性であるらしく、あちこちで民が楽器を弾き歌っていました。

 トンマーゾ殿の説明によれば、【アルバロンガ】の若者達は広場で夜通し愛を語り合うのだとか。

 情熱的なのですね……。


 ・・・


 私達が【アルバロンガ】にまで、やって来た、そもそもの理由。

 それは、とある【アルカディーア】の民達を慰問する為です。


 彼らは、全員、【アルカディーア】の元軍人。

 ある意味、【アルカディーア】による【グリフォニーア】侵略戦争の被害者達と言えるかもしれません。


 彼らは、【ドラゴニーア】に投降した捕虜達です。


【ドラゴニーア】には【アルカディーア】の捕虜が残されていました。

 末端の兵卒は戦争終結後、比較的早く解放されましたが、指揮官や、一般市民を殺害するなど戦争犯罪で有罪が確定していたような者達は、収監されていたのです。


 もちろん、捕虜として生き残っている戦争犯罪人は、上官の命令に止むを得ず従ったような、比較的軽微な犯罪人。

 命令を下したり、自ら率先して戦争犯罪を働いたような者達は、既に処刑されています。


 この度、【アルカディーア】と【ドラゴニーア】の間に安全保障協定が締結された事により、【アルカディーア】からの人質……つまり、私が竜都に到着したことが確認された後、全ての捕虜に恩赦が与えられ解放される事になりました。

 解放を前に、私は【ドラゴニーア】に捕らわれた自国兵との面会を希望し、アルフォンシーナ様より許されたのです。


 私達は、【アルバロンガ】の役所が用意してくれた中型の飛空船に乗り換えて、【アルバロンガ】の都市城壁外の北方に向かいました。

【アルカディーア】の捕虜達が暮らす収容所には、大きな港がない為、巨大なオノーレ号は接岸出来ないのです。


 ・・・


 捕虜達が暮らしていたのは、【アルバロンガ】の都市城壁の北側にある大きな農村でした。

 ここは、捕虜収容所。


 私は、農村の集会場のような場所で、捕虜の自治組織の代表者達と面会します。


「我々の力が及ばぬばかりに、当時は、まだ、お生まれですらなかった皇太王女様にまで、このような辱めを……。申し訳のしようもありません」

 捕虜の内、最も階級が高かった1人の元将軍が代表して言いました。


 彼は、もう老衰して軍人とは思えないほど柔らかい表情に変わっています。

 彼の穏やかな容貌から、捕虜達が【ドラゴニーア】で人道的に扱われていた事が窺えました。


 元将軍は、あたかも自分達の責任で、私が人質となったというような口ぶりですが、それは違います。

 私が人質になったのは、全て王家の不徳。

 いわば自業自得でした。


「武運で戦局が如何(いか)ようにもならなかった事は、【ドラゴニーア】と直接砲火を交えた、そなた達が一番よくわかっておりますでしょう?これは身のほども知らず戦を仕掛けた王家の過ち。至らぬ私達を許してください」

 私は、跪き頭を下げます。


 こんな事で、王家の罪が許されるなどとは思えませんが、少なくとも、私には、こうする他、彼らにしてあげられる事は何もありませんでした。


「姫様、お気持ちは良くわかりました。ですから、どうぞ、頭を、お上げ下さい。我々、武人は、戦に赴く時には、死を賭して出陣するのです。戦場で果てるも、止むを得ず虜囚となるも、それは覚悟の上。力及ばず、負けた事を悔いこそすれ、それを王家の皆様のせいなどと恨んだりは致しません。今日、こうして姫様が慰問に来て下さり、我々の苦労など、全て吹き飛んでしまいました。さあ、頭を上げて、どうぞ皆に、お顔を見せてあげて下さいませ」

 元将軍は優しい声で言います。


 ・・・


 私達は、捕虜が暮らしていた農村の広場で、宴会に参加しました。

 私達の昼食を兼ねています。

 私達が高い場所に座り、広場に捕虜達が集まりました。

 皆が、順番に私達の元を訪れ、一言二言、言葉を交わします。

 私は、捕虜の一人一人に精一杯の謝罪と労いの言葉をかけました。


「処遇はどうですか?牢の暮らしは?食事は?」


「牢には繋がれておりません。【ドラゴニーア】から家と畑をあてがわれ、平穏に暮しておりました。傷病者も、治療され、ごらんのように皆丁重に扱われております」


「そうですか、それは安心しました。今更こんなことをお願いできる立場ではないのだけれど、国へ戻ったら【アルカディーア】の発展に手を貸してください。どうか、お願いします」


「姫様……」

 捕虜は泣き崩れ、他の捕虜達も嗚咽し始めました。


 最後に私が皆に挨拶します。


「皆さん。私は【ドラゴニーア】で多くを学びます。いずれ祖国【アルカディーア】に帰国して、私は善き女王になります。【アルカディーア】を素晴らしい国にして行く為に、皆さんの力を貸して下さい。どうか、お願いします」


「ドローレス殿下、万歳!」

「皇太王女様、万歳!」

「我らの姫様、万歳!」

「姫様が帰って来られる時までに、【アルカディーア】を良い国にするぞーーっ!」

「「「「「おおーーっ!」」」」」


 短い滞在でしたが、私達は、捕虜の収容所を後にしました。


 ・・・


 竜都への帰路につく前に、私達は【アルバロンガ】を視察する事にしました。

【アルバロンガ】は、【ドラゴニーア】の中でも最も農業が盛んな土地です。

 先進的な産業技術が未発達な【アルカディーア】にとっては、目指すべき見本となるような地域でした。


 トンマーゾ殿や、【アルバロンガ】の地元の官僚に案内されて、私達は、【アルバロンガ】の農業の実態を詳しく見て回ります。


「殿下、それから、他の皆様も、竜都に戻ってから、【アルバロンガ】の視察内容をレポートに書いて下さいね。アルフォンシーナ様に提出致します」

 トンマーゾ殿は、言いました。


「えっ!アルフォンシーナ様に、ですか?」


「はい。アルフォンシーナ様よりの、ご指示です。忌憚のない内容を、と、ご希望です。良いところは、何故良いか、悪いところは、どう改善すべきか、簡潔にまとめるように、と」


「わ、わかりました」


 大変な宿題を出されてしまいました。

 私達は、ただの視察から、急に前のめりになって、トンマーゾ殿や、地元の官僚を、質問攻めにし始めます。

 アルフォンシーナ様が見るレポートが、当たり障りのない平凡な内容で良いはずがありません。

 皆、必死です。


「畑が水浸しです。水害ですか?」

 私は訊ねました。


「いいえ。水耕田を見たことはありませんか?」

 トンマーゾ殿が答えます。


「初めて見ました。水耕……これが米ですか?」


「そうです。稲作はセントラル大陸の豊かさの源泉の一つと言えるかもしれません。米は麦の数倍の収量があります。また脱穀すれば粉に轢いてパンなどに加工しなくても、茹でるだけで美味しく食べられます。食べるまでの労力とコストが麦より少なくて済むのです。また、麦は連作障害が起きて土地が痩せるので、数年ごとに牧草を育て家畜などを放牧させるなどしなければならないのですが、水耕田による稲作ならば、農閑期に適切に肥料を与えていれば基本的に連作障害は起こりません。米は優秀な穀物ですよ。米の生産量はイースト大陸が最も多いのですが、【ドラゴニーア】でも全穀物の3割ほどは米が占めています。セントラル大陸全体で見れば、南の【パダーナ】で特に稲作が盛んですね。味が良い高級米に限れば、【パダーナ】では、【タカマガハラ皇国】に次ぐ規模の作付けが行われています。品種も多種多様で……例えば、この水耕田は、寒期に収穫出来るように改良された品種です。収量は多くはありませんが、冬に収穫出来るので、危機管理的に有用です。本来、水耕は夏場に行うモノですのでね」


「【アルカディーア】でも米を栽培できますか?それとも、セントラル大陸のように肥沃な土地でなければ育たないのでしょうか?」


「土壌は改良出来ますよ。むしろ、日照と湿度が問題ですね。米は湿潤な気候に適します。【アルカディーア】でも臨海部では良く育つでしょう。内陸は乾燥が激しく厳しいかもしれませんが、【魔法装置(マジック・デバイス)】による大規模な灌漑を行えば不可能ではないと思います。しかし、この場合、費用対効果の問題は考慮しなければならないですね」


「農夫たちの税率は?」


「そうですね。この辺りの農民は、比較的大規模ですから5割くらいでしょうね」


「信じられません。ここの家屋は、どこも貴族の屋敷のように立派で、貧しいようには見えません。5割もの税を納めてなお、これほどとは。我が国は、3公7民ですが、農民はみな貧しいのです」


「ソフィア様の【神位結界(バリア)】の恩恵で、生産性が、まるで違うのです。【アルカディーア】の農地に比して、我が国の農地は穀物なら10倍以上の収量を上げますし、干害、冷害、病害、イナゴの害も皆無です。農家は収量が十分に賄えますので、余剰労力で、綿、煙草、茶、葉野菜、根菜、果物など市場価値の高い作物を育て。肉も、牛、豚、羊、鶏、卵などなども育てます。これらは、自分達が食べる為ではなく、商うために育てます。【ドラゴニーア】の農家は、概して裕福で、大きな屋敷を構えることは珍しくありませんよ」


「一次生産業種ですら、それほどとは、【ドラゴニーア】は恐るべき国ですね」


「はい。優秀な国民がいれば、為政者の仕事は国民の邪魔をしない事だけです」


 私達は視察を終え、夕刻、世界四大料理に数えられる【アルバロンガ】料理を堪能してから、竜都に向けて出発しました。

お読み頂き、ありがとうございます。

ご感想、ご評価、レビュー、ブックマークを、お願い致します。

活動報告、登場人物紹介&設定集も、ご確認下さると幸いでございます。


・・・


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