第274話。姫様のドラゴニーア滞在記…3…謁見。
名前…ロベール
種族…【ケンタウロス】
性別…男性
年齢…42歳
職種…【双剣騎士】
魔法…【闘気】
特性…【才能…剣技】
レベル…52
勇者パーティ。
【前衛】
竜都【ドラゴニーア】に着いて数日が過ぎています。
私は、ホテル・ドラゴニーアの最高の部屋に宿泊していました。
すぐに呼び出しがかかるだろう、との予想に反して【ドラゴニーア】の政府は、謁見の日取りすら伝えて来ません。
到着初日に私達を迎えてくれた【ドラゴニーア】外務省の次官という方が、毎日会いに来て下さいますが……何か必要なモノがあれば遠慮なく、申し付けて下さい……と言うばかり。
「いつ、【神竜】様や大神官様に、お会い出来るのですか?」
「予定が決まりました。10月1日でございます」
外務省次官は言いました。
「まだ、ずいぶん時間がかかりますね?」
エルマが私の代わりに少しだけ嫌味を言います。
エルマは言外に……【アルカディーア】は敗戦国とは言え、【ドラゴニーア】の植民地ではない。いつまで待たせるつもりなのか……というニュアンスを滲ませていました。
「現在、【神竜】様は、サウス大陸を人種文明の手に取り戻すべく、【調停者】様や、【ファヴニール】様と共に戦っておられます。そちらの進捗状況次第でございますが、現地からの情報によりますれば、もう間もなく完全なる勝利がもたらされるだろう、という事でございます。10月1日までは、お待ち頂く他は、ございません」
外務省次官は、少し当惑したような顔をして言います。
【調停者】ノヒト・ナカ様。
この外務省次官の説明によると、ノヒト様が【神竜】様や【ファヴニール】様を復活させ、現世に留め置く、という奇跡をもたらされたのだとか。
世界の最高神で在らせられる【創造主】様の、御使たる【神格者】。
今、神である御三方は、900年前の英雄大消失以降、遺跡から溢れた魔物によって支配されているサウス大陸を解放する為に戦っておられるのだとか。
それを先に聞かせて欲しかったです。
世界の為に、お働きになっている神を待つのに、不満など有ろうはずもありません。
そのように大切なお役目を果たされている神々に対して、私が、あたかも待たされて腹を立てているような印象になっていたならば、大変です。
私は……外務次官殿に催促するような事を言った非礼を謝罪をして、いつまでも、お待ち申し上げる……と伝えました。
「事前に大神官様に、お目通りする事は出来ませんか?」
私は、神に拝謁する前に、せめて人種のどなたかと事前の打ち合わせなどが出来れば、と考えたのです。
「大神官様も、【神竜】様達のいらっしゃる最前線に不具合が生じないようにと、世界各国政府や各ギルドなどとの調整に当たっており、毎日、お忙しくなさっておいでです。ここ数日は、あまり眠ってもいらっしゃらないご様子。ドローレス皇太王女殿下から、会談の申し入れがあった事は、毎日お伝えしております」
「そ、そうですか……」
私は、後悔しました。
世界の為に働いておいでなのは、【ドラゴニーア】の大神官様も同様だったのですね。
それも知らずに、私は、また会談を督促するような真似をしてしまった訳です。
私は、人質。
身の程を弁えねば……。
「10月1日、【神竜】様と大神官様に、お会いする事を楽しみにしている、と、お伝え下さいませ」
私は、謙って言いました。
「はい、お伝え致します」
外務省次官は、去って行きます。
・・・
謁見の日まで、やる事もないので、私達は竜都を散策する毎日。
竜都は、凄い都市です。
溜息しか出ません。
私は……ここが神界だ……と説明されたら信じたでしょう。
大理石で出来た白亜の高層建造物が建ち並び、人は多く、価値のある物品が都市を満たし、繁栄を具現化したような場所。
どこの裏通りを歩いても、どこにも浮浪者や路上生活者などはいません。
もちろん治安も良く、美しい制服を着た騎馬衛士、が都市の子供達にせがまれて、順番に馬の上に子供を乗せてあげているような状況。
私達が竜都を出歩く際には、相変わらず警備は付いていましたが、基本的に、どこに出かけても、何をしても、何を見ても自由。
私達に見られて困るモノは、何もないのでしょう。
・・・
10月1日。
そうこうする内に、謁見の日となりました。
私達は、全員揃って竜城に参内にします。
ホテルのメイン・エントランスから、迎賓舟に乗り込み、竜城に向かいました。
竜城が近付いて来ます。
「デカいな」
エルマが言いました。
竜城は大き過ぎて、もはや縮尺がよくわかりません。
竜城に近付くにつれ、段々と自分達の体の方が縮んでいるかのような錯覚さえ抱かせます。
迎賓舟は、賓客用のドックに入りました。
足が埋まるような最上質の赤絨毯の上を歩き、控え室に通されます。
控えていた【高位女神官】から、簡単な謁見の式次第が説明されました。
控えの間にて、共の者達とは別れ、私一人で謁見の間に入るそうです。
心細いですが、やるしかありません。
・・・
ほどなくして、私は謁見の間に通されました。
何という広い部屋なのでしょうか……。
壁際には、竜騎士団が、まるで彫像のように微動だにせず整列していました。
私は、指示された場所に跪きます。
「神官長エズメラルダ・レンティーニ……」
竜騎士団長と思しき人物が、声を上げました。
女性が歩いて来て、高台の脇に立ちます。
「元老院議長フェルディナンド……執政官ジャンピエトロ……大判事ハインリク・ロベングランツ」
竜騎士団長の呼び込みで、3人の男性が、高台の階段の下に整列しました。
その後も呼び込みが続きます。
【タカマガハラ皇国】大使と、【イスタール帝国】の大使が一段高い位置に整列しました。
もう一段高い位置に、【ムームー】の女王、【パラディーゾ】の大巫女、【アトランティーデ海洋国】大使と、【ユグドラシル連邦】大使が整列。
さらに一段高い位置に、【グリフォニーア】、【リーシア大公国】、【パダーナ】、【スヴェティア】のセントラル大陸同盟諸国の大使が整列。
その上に、【ドラゴニーア】の首席使徒アルフォンシーナ・ロマリア大神官が立ちました。
「サウス大陸の守護竜にして【パラディーゾ】の国家元首で在らせられる【ファヴニール】様」
そして、竜騎士団長の呼び込みが発せられ巨大な扉が開きます。
巨大な赤黒色の守護竜様が、荘厳な雰囲気を漂わせて現れました。
「セントラル大陸の守護竜にして【ドラゴニーア】の国家元首で在らせられる【神竜】様」
漆黒の巨体をした守護竜の中の守護竜たる【神竜】様が、お姿を現されました。
「【創造主】の御使で在らせられる【調停者】ノヒト・ナカ様」
純白のローブを着た男性が現れました。
あの方が【調停者】様……。
事前の打ち合わせ通り、高台の脇に控える神官長様より、合図がありました。
厳粛な雰囲気に気圧されながら、私は口上を述べます。
「至高の叡智を持つ、天空の支配者にして、セントラル大陸の守護竜、【ドラゴニーア】の国家元首で在らせられる、【神竜】様……本日は謁見の栄誉を賜わります事を心より感謝申し上げます。ヘルマヌス・アルカディーアが長子、ドローレスでございます。この度は、【ドラゴニーア】と【アルカディーア】の友好と協定履行の証としてまかり越しました。【神竜】様におかれましては、【アルカディーア】の行末に、ご寛大なる御裁断を賜れますよう、何卒、御願い奉ります」
「役目大儀である」
【神竜】様は言いました。
「ドローレス皇太王女殿下、よく、いらっしゃいました。歓迎致します」
アルフォンシーナ大神官様が言います。
高位の方から順番に退出して行かれました。
皆様が退出した後、私は、促されて控えの間に戻ります。
上手く出来たでしょうか?
・・・
控えの間。
「どうだった?」
エルマが訊ねました。
「緊張で、良く覚えていません」
「ドローレス皇太王女殿下。これより、【神竜】様と大神官様に別室にて、お会い頂きます。お越し下さいませ」
【高位女神官】が言いました。
「わかりました」
「お供の方は、お二人まででお願い致します。出来ますれば、プルデンシオ王陛下の御代を知っておられる方を、お連れ下さいませ」
【高位女神官】が言います。
お祖父様の御代?
ならば私達の中に該当者はフェドーラしかいません。
付き添いは、エルマとフェドーラの2人としました。
・・・
私達は、【高位女神官】に案内されて、竜城の大きな会議室に通されます。
会議室のテーブルの下座にエズメラルダ神官長様が起立していました。
壁際には、竜騎士団が整然と並んでいます。
「私は、ここに……」
エルマは、少し離れた位置に控えます。
しばらくして、アルフォンシーナ大神官様が現れました。
この方が、世界最強の【ドラゴニーア】軍の最高司令官にして、国際政治の巨魁。
帝位を持たぬ女帝、とも呼ばれる、アルフォンシーナ・ロマリア様……。
恐ろしげな噂とは違って、穏やかで母性のようなモノを感じさせる、大変に美しい容姿です。
「長旅、大変だったでしょう?お疲れではありませんか?」
アルフォンシーナ大神官様が微笑みをたたえて訊ねました。
「いいえ。おかげ様で大変快適な船旅でしたし、また宿泊するホテルも素晴らしく、疲労はございません」
「そうですか、それは良かった」
その時、私が入室して来た扉とは別の大扉が開かれました。
「目玉焼きは、ひっくり返すのじゃ。そうせねば、火が通る前に、下が焦げてしまうのじゃ」
「僕は、片面焼きで半熟を残した方が好きですね」
「ソフィアはターンオーバー、ファヴはサニーサイドアップですか?他に、蒸し焼き、という方法もありますよ」
扉の向こうから、何やら声が聞こえて来ます。
「ソフィア、ファヴ、扉が開いたよ」
「おっと、行くのじゃ」
「はい」
2人の子供と、先程見た【調停者】様が入室して来ました。
お三方は、並んで上座に立ちます。
女の子が着席し、続いて男の子が着席します。
!
という事は、この、お子様方は、もしかして……。
「ノヒト様……」
エズメラルダ神官長様が、【調停者】様に着席を促します。
「あ、はい」
【調停者】様が、お座りになりました。
続いて、アルフォンシーナ大神官様が着席して、エズメラルダ神官長様が着席します。
「ドローレス。着席を許す」
女の子が私に言いました。
やはり。
私を敬称や肩書きなしに呼ぶのは、【神格者】。
つまり、お子様お2人の内、どちらかが【神竜】様で、もう、お一方が【ファヴニール】様。
確か、【神竜】様は、女性である、との事でしたから、女の子が【神竜】様で、男の子が【ファヴニール】様なのでしょう。
守護竜様は、人種の姿を取れるのですね。
神ならば、そのくらいの事は出来るのでしょう。
「はい」
私は着席します。
アルフォンシーナ大神官様より、改めて3柱の神々が、ご紹介されました。
【神竜】様は、ソフィア様。
【ファヴニール】様は、ファヴ様。
【調停者】様は、ノヒト様。
公式の場以外では、そのように呼ぶように言われます。
「ドローレスよ。長旅ご苦労じゃった。この竜城を其方の家だと思って気楽に過ごせ」
ソフィア様は言いました。
「痛み入ります」
「アルフォンシーナよ。ドローレスは、遊学という扱いになると思うが、どうなっておる?」
ソフィア様は、アルフォンシーナ大神官様に訊ねました。
「はい。午前中は、教師を付けて講義を受けて頂きます。午後は、ゼッフィの部下に付けて実地で経験をつませます」
「うむ。それで、良かろう。ところで、じゃが、ドローレス……」
「はい。何でございましょうか?ソフィア様」
来た。
いよいよ本題です。
私への婚儀の話かもしれません。
「其方の供回りに15歳以下の者は、どのくらいおる?」
「はい?」
予想と違う話に、一瞬、考えが止まってしまいました。
「【アルカディーア】では、どうか知らぬが、【ドラゴニーア】では、15歳までは、義務教育を受けねばならぬ。其方の供回りは、若い者が多い。15歳以下の者には、学校に行ってもらうか、家庭教師を付けねばならぬのじゃ」
「15歳以下の共は、3人でございます」
私は気を持ち直して答えます。
「家庭教師が良いかの?」
「ソフィア様。もし、よろしければ、学校に通わせたいと存じます。【ドラゴニーア】繁栄の礎は、学校教育にあり、と伺っております。それを、経験させたく思います」
「うむ、良かろう。アルフォンシーナよ、そのように取り計らうのじゃ」
「畏まりました」
続いて諸々の会談が行われました。
外交に関わるような話は、ありませんでした。
私を誰かに娶らせる、というような話題もなし。
私が、今後、【ドラゴニーア】でどのように過ごすか、という事が中心でした。
何だか拍子抜けです。
会談の最後に、先の【グリフォニーア】と【アルカディーア】の戦争について訊ねられました。
何やら、大きな石がテーブルに置かれます。
これは、嘘をつくと光る石……【神の遺物】なのだとか。
「私は、当時まだ産まれておらず、また、後に、その時の事を詳しく教えられる事もありませんでした」
「なるほど。【ウトピーア法皇国】が先の戦争の時に、【アルカディーア】に協力していたと思いますが、それについては、何か知りませんか?」
「戦後に両国が事実を突き合わせた確定文書の内容以上の事は、何も存じません。我が父、ヘルマヌスは、あえて私に、戦争について教えていないのだと思います」
「なるほど。お連れの方も知りませんか?」
ノヒト様は、訊ねました。
「フェドーラ……」
私は当時の事を知るフェドーラを促します。
「はい。プルデンシオ王陛下が存命中、軍事顧問や政治顧問などと称して数人の外国人が城に出入りしていました。素性は私共には隠されておりましたが、その外国人達は、【アルカディーア】に暮らす【獣人】を心底毛嫌いするような素振りを見せていました。その顧問団は、【ドラゴニーア】と【グリフォニーア】の軍が、王都を包囲する前に、王城から姿を消してしまいました」
フェドーラは答えました。
「なるほど。わかりました。ありがとうございます」
【調停者】様は、私とフェドーラに丁寧に、お礼を言って下さいます。
ずいぶんと、腰が低い神様ですね。
私は、今日初めて、神、に会いましたので、これが普通なのかもしれませんが……。
会談は終わり、3柱の【神格者】は、会議室を後にします。
その後、私は、アルフォンシーナ大神官様の筆頭秘書官だというゼッフィ殿を紹介されました。
明日から私は、女王教育を受けます。
午前中に講義を受けたり街に視察に赴いたりして、午後はゼッフィ殿に付き従い実地で経験を積むのだとか。
ゼッフィ殿は見た目が子供でした。
種族によっては子供のように見えて、実は、という事があります。
実年齢も12歳。
つまり、本当に子供でした。
私の指導係は、子供で十分だ、という事でしょうか?
違いました。
ゼッフィ殿は、間違いなく大神官付き筆頭秘書官。
【ドラゴニーア】の神竜神殿では、このポストは、次期大神官になる方が務める重要な役職なのだとか。
つまり、ゼッフィ殿は、極めて優秀な方なのです。
こうして、私の【ドラゴニーア】での生活が始まりました。
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・・・
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