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第273話。姫様のドラゴニーア滞在記…2…出立。

名前…グリゼルダ

種族…【ミノタウレ】

性別…女性

年齢…30歳

職種…【重装騎士(エクエス)

魔法…【闘気】

特性…【才能(タレント)…攻撃力B】、【突貫(プランジ)

レベル…51


勇者パーティ。

前衛(フォワード)

 出発の朝。

 私は、お父様、お母様、妹弟達に見送られて王都【アルカディーア】を出立しました。

【ドラゴニーア】からの迎えの船に乗り込み、船長と名乗る人物から、特級船室に案内されます。

 私が、すぐに窓に取り付いて港の様子を見ると、お父様、お母様、妹弟達が、まだ港に立って見送りを続けていました。

 弟が、船窓に私の姿を見付けて指を差して、皆に教えています。

 お父様は、唇を真一文字に結び私を見つめ、お母様は目に涙を浮かべ、妹弟達は、力一杯、手を振っていました。

 もう、これで、お父様や、お母様に会えなくなるかもしれないと考えたら、涙が溢れて来そうになります。


 船は、音もなく離岸しました。


 お父様、お母様、妹弟達……行って参ります。


 やがて、港が小さくなり、皆の姿が見えなくなりました。


 ああ、私の生まれ故郷が……最愛の家族が離れて行く……。

 ありとあらゆる感情が溢れて来ます。


 側仕えの者達が、気を使って私を船室に1人にしてくれました。

 私は、これが最後だと思って、枕に顔を押し付けて思い切り泣きます。


 しばらくして、私は、泣き止みました。

 これ以後は、私は【アルカディーア】の皇太王女として、相応しい振る舞いをすると誓いを立てます。


 私は人質。

 しかし矜持は失ってはいけません。

【ドラゴニーア】で私が侮られるような事があれば、それは【アルカディーア】の民が侮られるという事。

 逆に、私の振る舞いが【ドラゴニーア】で一目置かれるようになれば、それは【アルカディーア】の民が一目置かれるという事。


 だから、誇り高く立派に人質の役目を果たさなければいけません。


 それが私の戦争なのです。


 ・・・


【ドラゴニーア】が私達を迎える為に用意した巨大な貨客船栄誉(オノーレ)号。


 豪華な装飾や調度にばかり目を奪われがちですが、この船の真の姿は、武装貨客船。

 その武装は、【古代(エンシェント)(・ドラゴン)】とも戦えるモノなのだそうです。


 側近のエルマが……【古代(エンシェント)(・ドラゴン)】に勝てるのか?……とオノーレ号の船長に訊ねたら……単独では勝てないが、遭遇しても逃げるだけの装備はある……との事。


古代(エンシェント)(・ドラゴン)】と遭遇して生き残れる、というだけで凄まじい船です。

 このオノーレ号は、【ドラゴニーア】艦隊の主力艦船と同様に、【神話の時代(ミソロジカル・エイジ)】に英雄達の手によって建造された船の一隻なのだとか。

【ドラゴニーア】には、こうした(いにしえ)の超技術によって生み出された船が無数にありました。


【ドラゴニーア】艦隊。

 味方からは頼りにされ、敵からは恐れられる、無敵の艦隊。


 私に科学技術に対する造詣(ぞうけい)の深さがあれば、何か一つでも、この船の秘密を盗めたかもしれないのですが、あいにくと私は科学技術が不勉強なのです。

 私は、主に人文科学の分野ばかりを学んで来ました。


 こんな事になるとわかっていたなら、嫌いな科学や魔法も一生懸命に学んでおけば良かったです。

 後悔先に立たずとは、こういう時に使う言葉なのでしょう。


 私は、苦手な分野は、優秀な臣下にやらせた方が合理的だ、と考えていたのです。

 役割分担……。

 いいえ、ただ自分の怠惰を言い訳しているに過ぎませんね。


「ドローレス。この船は、ちょっと普通じゃないよ。凄い船だ。こんな船で迎えに来るんだから、ドローレスは、相当に【ドラゴニーア】からは、大切にされているんだろうさ」

 私の最側近のエルマが言いました。


「エルマ。姫様は、皇太王女。言葉使いを改めなさい」

 エルマの祖母であり、私の乳母でもあるフェドーラが孫娘を叱責します。


 2人を始め、私に付き従って【ドラゴニーア】に向かう側近が10名いました。

 彼女達は、乳母のフェドーラを除いて、皆、若い女性ばかりです。


「フェドーラ。良いのよ。私から頼んで平易な言葉を使わせているのだから。姉のように思うエルマに、畏まった言葉使いをされたら、身内が誰もいない【ドラゴニーア】での暮らしに、私の気が滅入ってしまうもの。こうして、身内だけの時は、エルマには普段通りの口調を許してあげて」


「姫様が、そう仰るならば、わかりました」

 フェドーラは、私の心情を(おもんばか)って理解を示してくれました。


「エルマ。軍務に服する、あなたの目から見ても、この船は凄いのね?」


「うん。こんな船を持つ国と戦争をしようだなんて、どうかしている、と思うね。まあ、【アルカディーア】は【グリフォニーア】に攻め込んだのであって、【ドラゴニーア】と戦う気はなかったのかもしれないけどさ」

 エルマは、肩をすくめて見せます。


「そんな理屈は通らないわ。同盟国が攻撃されたら、反撃するのは当然だもの」


「だから、どうかしている、って言ったのさ」

 エルマは言いました。


 同感です。

 本当に、お祖父様は、どうかしている。

 お祖父様は、名君ではなかったけれど、生前に残された手記を読んだら、けして馬鹿ではなかった。

 馬鹿でなければ、【グリフォニーア】に攻め込めば、どうなるかは理解出来たはず。


 まあ、今更、考えても仕方がない事ですけれども。


 ・・・


 半日後、オノーレ号はセントラル大陸の東端の街に到着しました。


 オノーレ号は、ほとんど揺れないので、スピードはあまり体感出来ませんけれど、とてつもなく速い船です。

 こんな船は【アルカディーア】には一隻もありません。


 私が初めて見たセントラル大陸の街は、【グリフォニーア】の東端にある【ウェネティ】という大きな港湾都市でした。

 街中に水路が張り巡らせている美しい街並み。

 しかし、港は、巨大な貿易港として機能している様子が見て取れました。


 私達の旅は直航ではなく、こうして道すがらにある街々に寄港しながら竜都を目指すようです。

 空は凪いでいて船旅は快適なので、直航でも大丈夫なのですが、どうやら私達にセントラル大陸の民の暮らしを見せる意図があるようでした。

 この地方都市でさえ、【アルカディーア】の王都よりも栄えています。


 船長が……降りても構わない……と言いました。


「良いのですか?」

 私は驚きました。


 私は人質です。

 逃げるかもしれない、などとは考えないのでしょうか?

 もちろん、私に逃げる気などありません。

 私が逃げれば、【アルカディーア】は、【ドラゴニーア】から攻撃されてしまいますので。


「構いませんよ。もちろん護衛は付けさせて頂きますが、1時間以内に、お戻り下されば、お好きなように行動して下さって結構です」

 船長は言いました。


 私達は、下船します。


 ・・・


 グリフォニーア東端の港湾都市【ウェネティ】。


 私達には10人ほどの護衛が付きました。


 私達は、全員で船を降りたので、護衛の数が少ないような……。


「群衆に混ざって警備がいる。70……いや100人以上はいるな……」

 エルマが小声で言いました。


 なるほど……私の目には誰が警備の人員なのかが、わかりませんが、エルマが言うなら間違いないのでしょう。


 ・・・


 私達は、港から海沿いの大通りを歩きました。

 市場に出ます。


【ウェネティ】の民は、皆、私達に向かって和かに会釈して通り過ぎて行きました。


「随分と愛想が良いな」

 エルマが不審がります。


「他意はございません。【ウェネティ】は、観光都市でもあります。皆様の服装が一見して外国の身分が高い方々だとわかるので、民は、歓迎の意味で愛想良くするのですよ。皆様に気持ち良く、お過ごし頂き、お買い物などで、たくさん、お金を落としてもらえれば間接的に【ウェネティ】の民にも利益がありますからね」

 護衛の責任者らしい人物が、周囲に油断なく目を配りながら教えてくれました。


 なるほど。


 私が、かつて【グリフォニーア】を侵略しようとした【アルカディーア】の次期女王だと知ったら【ウェネティ】の民衆は、どうするでしょうか?

 私は、彼らからリンチにかけられて殺されるのではないでしょうか?


【ウェネティ】の街の中の様子は、正に洗練された、先進都市という印象。

 道にはゴミ一つ落ちてはおらず、道行く人々は、皆、明るい表情。

 活気があり、お年寄り達が楽しげに話しており、子供が路地で何やらボールを蹴り合っていました。

 恋人達は手を繋いで歩いています。

 私達と同じような異邦人も、地図やガイドブックを片手にウロウロとしていました。


 スリや置き引きなどはいないのか、皆、まるで警戒している様子には見えません。

 セントラル大陸では、犯罪率が世界で一番低いそうです。

 犯罪組織や盗賊団などもなく、治安は、もちろん世界一。

 私のような年頃の若い女性が深夜に1人で道を歩いても怖い思いをする事もないのだとか。


 セントラル大陸の国力の真髄を見た気がします。


 警備責任者に促されて、ジェッラテリアなる店に入ってみました。


 色とりどりの何かがケースの中に収まっています。


「ジェラートです。セントラル大陸では、どこにでもある冷たい菓子ですよ」

 警備責任者が言いました。


 冷たい菓子?


 私は、苺とミルクが使われているというモノを選びました。


 本当に冷たい。

 氷とも雪とも違う滑らかな食感。

 そして甘美なまでに甘くて、香りも良い。

 あっという間に溶けて消えてしまうのが口惜しいほど美味しかったです。


 それにしても、こんな街場の店にまで、冷凍装置が普及しているいるだなんて……。

【アルカディーア】では氷は王城ですら、貴重な品でした。


 私達は、1時間【ウェネティ】を歩いて船に戻りました。

 船に戻ると、すぐ離陸して、空の上で昼食。


 あんなに短時間で補給を済ませたのか、と不思議に思っていると……燃料も物資も補給は必要ない……のだとか。

 どうやら、【収納(ストレージ)】系のアイテムがあるようです。

【アルカディーア】の国宝の一つに【不思議な鞄】というアイテムがありました。

 あれの、何倍もの容量がある【宝箱(トレジャー・ボックス)】というアイテムが、この船には複数備えてあるそうです。


 凄い。

【アルカディーア】の国宝を超えるアイテムが船1隻に複数……。

 この船1隻の価値は、【アルカディーア】の王城全てを上回るのではないのでしょうか?


 そして【ドラゴニーア】には、この船の性能を上回る艦船が無数にあるのです……。

 返す返すも、何故【ドラゴニーア】と戦争をするハメになったのでしょうか?


 もはや勝ち負け以前の問題です。


 ・・・


 次の寄港地は【センチュリオン】。


 ここは、もう【ドラゴニーア】の領土でした。

 今晩は、この大都市のホテル・センチュリオンという宿屋に宿泊します。


 夕食で食べた、鉄板焼き、なる料理の美味しさ。

 エルマは……支払いは【ドラゴニーア】持ちなんだから、食べなきゃ損だよ……と4人前も食べていました。

 気持ちはわかります。


 ホテル・センチュリオンのスイート・ルームで就寝。

 何て寝心地が良いベッドなのでしょう。

 私は、すぐに眠ってしまいました。


 ・・・


 翌朝。


 ホテルの美味しい朝食を食べて、私達は、船に乗り込みました。


 船の中は穏やかそのもの。

 昼食を食べて、午後のティータイムが過ぎ、やる事もないので、しばらくゆっくりしていると、エルマが急に船室を飛び出して行きます。

 何事か、と後を追うと……船室にいろ……と鋭い言葉で言われました。

 エルマは、甲板(デッキ)に駆け上がって行ってしまいます。


 私は、しばらく考えて、エルマの後を追う事にしました。

 私が甲板(デッキ)に上がるとエルマが上空を睨んでいます。

 私が近づくと……。


「【(ドラゴン)】だ……」

 遠目が効くエルマは、私に教えてくれました。


(ドラゴン)】!

 それは一大事です。


 しかし、船員達は、慌てる様子もなく、通常通りの任務をこなしていました。


 私も見つけます。

 数十から、百に迫る【(ドラゴン)】の群が、私達が乗る船オノーレ号を遠巻きに取り巻いていました。


「ご心配なく、友軍ですよ。もう竜都の都市圏に入りましたので、皆様の迎えです」

 船員の1人が私達に言います。


 エルマは、頷きました。

 船員の彼は、エルマにも同じ事を教えてくれていたらしく、ワザワザ仕事の手を止めて、私にも教えに来てくれたのです。


 という事は、あれが世界最強の【ドラゴニーア】の【神竜】近衛竜騎士団……。


「凄まじい。あんな連中……勝てる訳がない」

 エルマは言いました。


 エルマは、他者の魔力を推し量る能力があります。

 その能力は、エルマ自身が強力な戦闘力を持つ、という意味なのですが……。

 そのエルマをして、【ドラゴニーア】竜騎士団の武力は、ただただ感嘆するしか出来ないレベルなのでしょう。


 船員は……もう、竜都の都市圏に入った……と言っていました。

 私は、地上を眺めます。

 地上を延々と街並みが続いていました。


 この街並みは、まだ竜都の都市城壁の外です。

 都市城壁の外なのに、こんなに街が広がっているのですね。

 世界の中心【ドラゴニーア】とは、これほどの文明を持つのです。


 私は、西の方に、ふと目を止めました。

 あれは……。


「エルマ。あれを」

 私は、上空を、ずっと見上げているエルマの視線を地平線上に誘導しました。


 もう、夕暮れ時。

 私が指差した西の地平線には、真っ赤な空が広がっていました。

 その赤い虚空に目を凝らすと、赤い背景に巨大な黒いシルエットが浮き上がっています……。


「あれが竜城か……」

 エルマが言いました。


 きっと、そうなのでしょう。

 (いにしえ)の【創造主】の魔法によって、空に浮かぶ巨大な島。


 浮遊島……世界の中心、竜都【ドラゴニーア】の象徴たる、竜城。


 私達は、竜都に到着したのです。

お読み頂き、ありがとうございます。

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・・・


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