第272話。姫様のドラゴニーア滞在記…1…人質。
名前…クゥオード
種族…【リザードマン】
性別…男性
年齢…30歳
職種…【重戦士】
魔法…【闘気】
特性…【才能…無痛】、【突進】
レベル…50
勇者パーティ。
【前衛】
私は、ドローレス・アルカディーア。
【アルカディーア】の皇太王女です。
私は貢物……つまり他国への人質として差し出される身。
「我らのような小国が、世界最強の【ドラゴニーア】になど抗いようもない。ドローレス……力なき父を許して欲しい」
お父様は、私の手を取り泣いていました。
お父様は、【アルカディーア】の現君主……つまり、ヘルマヌス・アルカディーア国王。
【アルカディーア】は小国。
もちろん面積や人口を比較している訳ではありません。
それらは、【アルカディーア】と【ドラゴニーア】で比較しても大差はないはずですので。
【ドラゴニーア】が巨大なのは、一国で実に世界の半分以上を占めるとさえ言われる、その経済力によるのです。
【ドラゴニーア】を事実上の盟主として同盟を結ぶセントラル大陸臨海4国と……【ドラゴニーア】と安全保障条約を結ぶ【ユグドラシル連邦】など同盟国……【ドラゴニーア】と安全保障協定を結ぶ【タカマガハラ皇国】や【イスタール帝国】などの友邦国を全て合わせれば、世界の富の9割以上は、【ドラゴニーア】と、その陣営国で占められているのだとか。
そして、その莫大な富の力を背景にして、【ドラゴニーア】は世界最強の軍隊を持つ軍事超大国でもあるのです。
【ドラゴニーア】以外の全世界の軍事力を合わせても、【ドラゴニーア】一国に敵わない、と誰かが言いました。
実際、【ドラゴニーア】の軍備は、その事を意図して維持・強化されているらしいのです。
だからこそ、【ドラゴニーア】は、完全な意味での自由を保つ事が出来ました。
私の国【アルカディーア】は、無謀にも、その【ドラゴニーア】へ戦争を仕掛けてしまったのです。
正確には、【ドラゴニーア】の同盟国であった【グリフォニーア】に侵略してしまいました。
完全な自殺行為。
【アルカディーア】にも言い分は一応あります。
当時、隣国の【グリフォニーア】からの低価格で高品質な機械類が流入し、【アルカディーア】の国内工業を完全に駆逐していました。
【アルカディーア】は【グリフォニーア】の技術に依存していたのです。
その危うさを指摘する世論がありました。
技術を【グリフォニーア】に依存している状況で、【グリフォニーア】と敵対する事は出来ない。
万が一、外交問題で利益が対立する事態になった場合、【グリフォニーア】は【アルカディーア】との交易を止めるかもしれない。
そうなったら【アルカディーア】は技術的に干上がってしまう。
【グリフォニーア】に技術的に依存している【アルカディーア】は自主独立を保てるのだろうか?
もはや、現状は、【グリフォニーア】による【アルカディーア】への技術的な侵略なのではないか?
これは、【アルカディーア】が自ら作り出した、ただの疑心暗鬼に他なりません。
何故なら、過去【グリフォニーア】が外交問題を、そのような形で解決した事は一度もありませんし、また、そんな事をして得られるメリットより、失う信用の方が大きいからです。
【グリフォニーア】は工業輸出国。
つまり、商業国でした。
商業国が商売上の信用を失わせるような外交手段を取るはずがないのです……相手国が国際法を遵守している限りは……。
結果、【アルカディーア】の方が国際法を破り、【グリフォニーア】を侵略して自滅したのですが……。
つまり、【アルカディーア】は存在しない怪物を恐れていたのです。
当時の【アルカディーア】は、工業技術を【グリフォニーア】に頼りきる状況を危惧して、ウエスト大陸の工業国【ウトピーア法皇国】に接近しました。
【ウトピーア法皇国】の技術を導入して【グリフォニーア】への依存を減らしてリスクをヘッジする。
良い考えに思えました。
少なくとも【グリフォニーア】は、それに対して何も言わなかったそうです。
「【ウトピーア法皇国】の製品が優れていたり、価格が安かったりするのなら、顧客が其方を選ぶのは当然の事で、それは【グリフォニーア】が文句を言う筋合いの事ではない。全ては【アルカディーア】の国民の自由意志の問題だ」
駐【アルカディーア】の【グリフォニーア】の外交官はキッパリと、そう言ったそうです。
しかし、実情は、【ウトピーア法皇国】の製品は【グリフォニーア】の製品に劣り、価格は高価でした。
こんな笑い話があります。
暖炉に火を着けようとするとき【グリフォニーア】では、小さなライターを使う。
【エルフヘイム】では魔法を使う。
【ウトピーア法皇国】では巨大なバーナーを使う。
これは、合理的な【グリフォニーア】と、魔法が得意な【エルフヘイム】と、融通が効かない【ウトピーア法皇国】を対比したジョーク。
【ウトピーア法皇国】は、技術者が最高の性能を追求するあまり、必要がないのに過剰な機能を追加して、結果、無闇に大きかったり、不便だったり、高額だったり、と売れない商品を開発する傾向がありました。
そんな不必要に高性能で高額な工業製品は、【アルカディーア】でも売れません。
しかし、【アルカディーア】の目的は【グリフォニーア】の技術依存度を下げる事でした。
【アルカディーア】は、【ウトピーア法皇国】の工業製品に補助金を付けて、販売の促進を図ったのです。
これに、【グリフォニーア】は、抗議しました。
当然です。
これは、不公正取引。
実質、【ウトピーア法皇国】以外の国に不当な関税がかけられたのと同じだからです。
国際法に則り、この補助金政策は、撤廃せざるを得なくなりました。
次に、【アルカディーア】は、【ウトピーア法皇国】から軍事顧問や技術顧問などを招聘します。
ついでに胡散臭い政治顧問団まで付いて来たそうですが……。
製品を買うのが無理なら、【ウトピーア法皇国】から技術を買い、国内で造ってしまえば良い。
短絡的な発想でした。
【ウトピーア法皇国】は、世界の超大国【ドラゴニーア】に挑戦しようという野心を持った国。
戦端は開かれていなかったものの、政治・外交・安全保障などでは緊張関係にありました。
【ウトピーア法皇国】の軍事顧問や政治顧問を招聘するなどすれば、当然、【ドラゴニーア】は警戒します。
【ドラゴニーア】の同盟国である【グリフォニーア】も同じ事。
【グリフォニーア】は、安全保障上の理由で、【アルカディーア】への軍事転用可能な技術を輸出禁止にしてしまいました。
【アルカディーア】は、自らが最も恐れていた危機を、自らの手で招き寄せてしまったのです。
これは、【アルカディーア】が選んではいけない道を、自ら選んでしまっただけ。
【ドラゴニーア】にも【グリフォニーア】にも責任はありません。
損をしたのは【アルカディーア】だけでした。
【アルカディーア】は、自らの愚かな過ちの結果を、何ら関係がない【グリフォニーア】に全て責任転嫁します。
悪いのは全部【グリフォニーア】だ。
【グリフォニーア】の製品を買うな。
【グリフォニーア】に報復しろ。
【アルカディーア】は、【グリフォニーア】非難決議、対【グリフォニーア】禁輸措置、対【グリフォニーア】外交断絶……など坂道を転がり落ちるようにして、最悪の道を走り始めてしまいました。
行き着く先は……戦争。
【グリフォニーア】は、安全保障を隣国【ドラゴニーア】に頼り、思い切って軍事費を削減し、その余剰予算を産業技術に集中投下して、国を発展させるという国家運営モデルの国です。
なので、【グリフォニーア】の軍は予備役を含めても7万に満たない兵力しかありません。
だから勝てると思ったのでしょう。
愚かな事です。
【グリフォニーア】は【ドラゴニーア】の同盟国。
【グリフォニーア】に手を出せば、【ドラゴニーア】が黙っているはずがありません。
そんな子供にも、わかる事を、何故、当時の【アルカディーア】国王だった、お祖父様は、お気付きにならなかったのでしょうか?
つまり、私の国【アルカディーア】は、【ドラゴニーア】の【竜】の尾である【グリフォニーア】を踏んで、【ドラゴニーア】を本気で怒らせてしまいました。
後は、暴風雨に曝されたような有様。
世界最強の【ドラゴニーア】竜騎士団を先頭にして、【ドラゴニーア】艦隊が、【アルカディーア】上空を陽の光が見えないほどに埋め尽くしたのです。
【アルカディーア】は、【ドラゴニーア】に無条件降伏し、【ドラゴニーア】から占領統治される事になりました。
だから私は、人質に行くのです。
戦後処理で、お祖父様と伯父様と叔父様は、処刑。
お祖父様の血筋の者達の中で、ただ1人、お父様だけが生かされました。
お父様は、【ドラゴニーア】に留学経験があったので、その国力を良く知っており、【アルカディーア】に帰国してからは……【ドラゴニーア】と同盟を結ぶべきだ……と度々主張したのです。
それを、お祖父様達から疎まれ、早々と王位継承者から外され、東方の大砂漠に面した辺境の領主とされてしまいました。
【ドラゴニーア】は、そんな、お父様を【アルカディーア】の新王に擁立したのです。
そして、その後に、私は産まれました。
【ドラゴニーア】との戦争は、私が生まれる前の出来事とは言え、王家の血筋に名を連ねる者として、当然、私にも責任があります。
私は、人質に赴く事も、王家の使命と理解していました。
「止むを得ません。私も、王家の一員。国の為、国民の為、お父様、お母様、妹弟達の為に、身を尽くして、務めを果たして参ります」
「許してくれ、ドローレス……」
そう言って、お父様は、お泣きになるばかり。
国王たる者、国民の前で感情を露わにしてはならない……というのが、お父様の口癖だった癖に……。
私が立太式を終えて、正式に【アルカディーア】の王位継承者になって以来、お父様と、お母様は、私に対して娘として接さなくなりました。
皇太子や皇太王女……つまり国を継ぐ事を定められた者には、王と言えども、儀礼格式を無視した接遇は出来ないモノらしいのです。
私付きの側近エルマが教えてくれました。
エルマ・ベロッキオは、私の乳母フェドーラの孫。
年齢的にも近く、姉妹同然にして育った親友でした。
私が王位に就けば、彼女は近衛隊長になる事が決まっています。
明日、私は【ドラゴニーア】に発たなければなりません。
なので今夜だけは、お父様と、お母様と、妹と弟達だけ……立場を離れて、最後にもう一度だけ、家族として触れ合う機会が設けられたのです。
・・・
私の祖父は、プルデンシオ・アルカディーア。
墓碑には……【アルカディーア】軍近代化の父……と刻まれていました。
お祖父様は、【アルカディーア】軍を、騎兵と歩兵を中心とした前近代的な軍から、銃・砲と機械化兵団を擁する近代軍に改編させたのです。
王の偉大な事績?
いいえ、とんでもない。
どんなに探しても、墓碑に刻めるような業績が、それしか見当たらなかったからですよ。
私の祖父……今は亡きプルデンシオ王は国民から愚王という諡で呼ばれています。
功名心と領土欲に負けて、他国を侵略し、逆襲されて国を滅ぼした愚かな王だったからでした。
処刑に際して、辞世を問われた祖父は……誰かに唆された、騙された……などと自らの罪を最期まで認めなかったのだそうです。
愚昧なる王の名前に相応しい、惨めな最期でした。
私は、愚かな祖父のせいで人質に差し出されるというのに……。
私が、人質として【ドラゴニーア】に向かう、その建前は、遊学、という事になっていました。
ですが、実際どのような事になるのか、は、全く知らされていません。
もしかしたら、【ドラゴニーア】軍の功労者などの妻にあてがわれるのかもしれません。
人質の私には、それを拒否する事は出来ないでしょう。
私は、皇太王女に立太していました。
つまりは、次の【アルカディーア】王……私は女なので女王となります。
この立太は、【ドラゴニーア】からの要望あってのモノでした。
【アルカディーア】は次代の王を常に【ドラゴニーア】で学ばせねばならない。
先ごろ【アルカディーア】と【ドラゴニーア】の間で取り交わされた、平和条約には、こういう条文がありました。
この平和条約をもって、【アルカディーア】は、【ドラゴニーア】の占領統治から独立し、主権が回復されるのです。
主権回復に際して、お父様は、【ドラゴニーア】との同盟を切望しました。
【アルカディーア】が【ドラゴニーア】の同盟国となる条件が、先の条文なのです。
【アルカディーア】は【ドラゴニーア】によって占領統治されていました。
しかし、この【ドラゴニーア】による占領統治下が、【アルカディーア】建国以来、最も安定して平和な時期だったと断言して差し支えありません。
なので、【アルカディーア】王たる父は、【ドラゴニーア】の条件を受け入れました。
私を人質に送らなくても良いようにギリギリまで粘り強く交渉を行なっていたそうですが、先ごろ復活したという【ドラゴニーア】の国家元首【神竜】様の威容を間近で見た、お父様は……交渉などをしている場合ではないと……すぐに【ドラゴニーア】からの要求を受け入れる判断をしたそうです。
【神竜】。
天地開闢以来、世界に君臨する守護竜の中の守護竜。
世界最強の武の化身にして、至高の叡智を象徴するとされる天空の支配者。
【神竜】様の復活を祝う式典に出席する為【ドラゴニーア】に向かい、その武威を実際に見た、お父様は……仮に属国でも、【ドラゴニーア】に従いたいと願う国はあるだろう。実際に、それが今の私の偽らざる気持ちだ……と心情を吐露しておられました。
それほどまで……。
お父様に付き従って、【ドラゴニーア】に向かっていた軍の高官達は、口々に……世界の軍事バランスは完全に【ドラゴニーア】に傾いた。もはや、【ドラゴニーア】に敵対する選択肢は取り得ない……と蒼白な顔で言っていました。
同じイースト大陸にある隣国の3カ国から絶えず圧力をかけられて来た【アルカディーア】。
北東の【ザナドゥ】とは延々と戦争を行なって来た歴史もあります。
それが、【ドラゴニーア】の統治下に入ってから全く脅威を感じなくなったのだとか。
【ドラゴニーア】と元より友好的だった南東の隣国【イスタール帝国】は、すっかり友邦のように接してくれるようになりました。
東の【アガルータ】は、いつものように外交で無理難題を押し付けて来なくなったばかりか、過去に結んだ不平等条約を全て破棄し、公平な条約に調印し直して、友好関係を築いていこう、だなんて態度を豹変させたようです。
斯くも【ドラゴニーア】の影響下にある事は有効でした。
そして、【ドラゴニーア】は基本的に同盟国・庇護国に、無理な要求を求める事はしません。
良識ある最強の超大国。
だからこそ、長い歴史の中で【ドラゴニーア】の周辺国が協力して、対【ドラゴニーア】同盟を結ぶなどという事には、一度もならなかったのです。
私が人質に行くのは、無理な要求ではないのか?
これは戦時国際法を破った【アルカディーア】への罰なので仕方がありません。
話を戻しましょう。
【ドラゴニーア】は、私を立太させてから、人質に送るように命じました。
女王に即位させる気がないのに、立太させる意味はありません。
普通に考えれば、ワザワザ立太させるのですから、私は、いずれ女王に即位する為に【アルカディーア】に帰国します。
それは、お父様が亡くなった時なのでしょうね。
つまり、私が【ドラゴニーア】に向かった後は、お父様には、もう二度と会えない可能性もあります。
寂しいですが仕方がありません。
お父様が亡くなった時には、私が【ドラゴニーア】から【アルカディーア】に戻り、女王に即位します。
私は皇太王女なのですから。
その時に、私に夫がいれば、その男性は王配となります。
そして、私が、その夫との子供を産めば、その子は、【アルカディーア】王となりますね。
つまり、それが【ドラゴニーア】の真意なのではないのでしょうか?
【ドラゴニーア】の影響下に【アルカディーア】を置く為に、【ドラゴニーア】の血を、【アルカディーア】に送り込む。
さすがは、【ドラゴニーア】。
長期的な視野を持って強かな外交をして来ますね。
つまり、【ドラゴニーア】が欲しいのは、私という人質ではなく、私の子宮。
おそらく、そういう事なのでしょう。
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