第271話。テスト結果。
本日10話目の投稿。
本日は10話連続投稿を致しました。
【ワールド・コア】ルーム。
「では、テストを頑張って下さいね」
私は、ファミリアーレを激励しました。
「頑張ります」
【狼人】のグロリアは言います。
「ははは、テスト……あ〜、もうダメだ〜」
【兎人】のハリエットは乾いた笑いをしました。
「何を言う。挑む前に諦めるのは、まだ早い」
【猫人】のアイリスがハリエットを叱咤します。
「いっぱい、勉強したから、きっと大丈夫なの」
【犬人】のジェシカがハリエットを激励しました。
「だって〜。昨日の模擬テストだって、点数ギリギリだったし〜。もう、落ちるに決まってるよ〜」
ハリエットは泣きそうです。
模擬テスト?
私は、それを知りません。
「ハリエット。あれは、少し難しめに作ったのよ。だから、あれに合格したら、本番は大丈夫だってば……」
【ダーク・エルフ】のリスベットが励ましました。
どうやら、模擬テストは、リスベットが作成したようです。
「そうだよ。きっと、受かりますって」
【ドワーフ】のロルフが励ましました。
「無理だよ〜。私、超おバカだもん」
ハリエットは、長い耳をペタンと、たたんで意気消沈。
それを誰も否定出来ないのが辛いところ……。
「ハリエット先輩。心頭滅却すれば火もまた涼し、と申します」
【ドラゴニュート】のモルガーナが言いました。
「そうですよ。テストごときを恐れるなど、ハリエット先輩らしくもありません」
【狐人】のティベリオが言います。
ハリエットは、危機感知能力が低いのか、格上の魔物に対しても全く臆しません。
それはハリエットの短所でもありましたが、ある意味では長所とも言えます。
アドレナリンが出ると力を発揮する本番に強いタイプなのかもしれません。
「サイラス。あなたも何か言ってあげて」
グロリアが促します。
「ハリエットは、ファミリアーレで一番強い。ハリエットがいないと、俺達は困る……」
【オーガ】のサイラスは言いました。
ハリエットは、サイラスの言葉に、少し耳をピクリと動かします。
うん。
ハリエットに対しては褒めて乗せる方が効きそうですね。
ファミリアーレもそれがわかったのか、口々に……ハリエットがパーティに必要だから、頑張ろう……という趣旨の発言をします。
ハリエットの耳がだんだん持ち上がって行きました。
「そっか〜。やっぱ、私がいなきゃ、みんなは困るよね〜、エヘエヘ……」
ハリエットは言います。
ファミリアーレは、そうだそうだ、と囃し立てました。
「なら、一丁頑張るかっ!」
ハリエットは、拳を握り締めました。
「トリニティ先生からも、何か言って下さい」
リスベットがトリニティを促します。
今回のテスト内容は、遺跡学。
遺跡で悠久の時を過ごして来たトリニティにとっては、ホームグラウンドです。
私はファミリアーレから先生と呼ばれていましたが、トリニティも度々ファミリアーレに遺跡について教えており、いつからか先生と呼ばれるようになっていました。
「ウサギ娘。お前達ごときの所詮は矮小で愚鈍な人種の脳の機能など、個体ごとに大した差などあるものか。ウサギ娘は、時間の許す限り、最大限の準備もしたわ。後は戦意の問題だけだではなくて?ウサギ娘に……仲間達と一緒に冒険したい……という強い意志があるのなら、自ずから道は開けるのではないかしら?それとも、ウサギ娘の仲間への想いは、その程度のモノなのかしら?」
トリニティは、ツン、と顎を上げて言いました。
トリニティ……それ、一応、励ましているつもりなのですね……。
「いよ〜し。一丁やったるぜ〜っ!」
ハリエットは、何故かトリニティの罵倒とも取れる激励の言葉を聞いて気合が入ったようです。
ファミリアーレは、テスト会場が準備されたゲームマスター本部の会議室に向かって行きました。
「ミネルヴァ。あの子達をよろしく」
「はい、チーフ。お任せ下さい」
さてと、私達も、責務を果たしましょう。
レジョーネも、それぞれの仕事の現場に向かいます。
私達は、エントランスへ出て、各々の目的地目掛けて、【転移】しました。
・・・
【ウトピーア】王都【トゥーレ】。
私は、【トゥーレ】の中央聖堂にやって来ました。
「ノヒト。聖堂外の広場に20万人、軍の演習場に40万人、都市城壁外に40万人。合計100万人が待機しています。【トゥーレ】の都市内で働かされていた解放奴隷達は、これが全てよ」
「後は?」
「地方は、100万人くらいいるわね。奴隷農場なんかで働かされていたわ。この人達は、追い追い【ウトピーア】政府が責任を持って飛空船で【サントゥアリーオ】に輸送するから、とりあえず大丈夫。ところで、奴隷を200万人も一気に引き抜いたら、【ウトピーア】の国家機能は麻痺しないかしら」
リントが言います。
「農業労働力は、グレモリーが解放した軍の捕虜70万人が戻れば、人手は足りるでしょう。【ウトピーア】の都市機能が少々混乱するくらいは、彼らの自業自得ですよ」
「それも、そうね。この解放奴隷を運んだ後に【魔力子反応炉】施設に繋がれていた人達ね。先に、知性と情緒に問題がない100万人。その後が人工繁殖された人達で構わない?」
リントは訊ねました。
「はい。結構です」
解放奴隷達は、全員リントの使徒となっていました。
自分達を奴隷の身から解放してくれ、また今後十分に暮らしていけるだけの財産を与えてくれた【神格者】リントに解放奴隷達が無条件の信頼を寄せたのも当然でしょう。
彼らの中には、元々【リントヴルム】聖堂の教えを【ウトピーア法皇国】からの苛烈な弾圧にも負けずに細々と受け継いでいた者達もいました。
そういう信仰心の厚い者達は、正に信仰が報われた瞬間だったのでしょう。
私とリントは、簡単な段取りの確認をして解放奴隷の【サントゥアリーオ】輸送作戦を開始しました。
まずは、【ウトピーア】政府が、かき集められるだけ、かき集めた大量の飛空輸送船や飛空貨客船に、乗せられるだけの解放奴隷を乗せます。
それを私が【転移】で輸送。
目的地は、聖都【サントゥアリーオ】の北関所です。
・・・
【サントゥアリーオ】北関所。
関所は巨大なので、大型船も通行可能。
私も飛空船団と共に関所を抜けました。
「ご苦労様」
私は関所防衛をしている神の軍団青師団の神兵達に挨拶します。
神兵達は、整列して迎えてくれました。
解放奴隷達は、船の中から、私に服従する【古代竜】の様子を見て驚いています。
その後、全ての飛空船が関所を通過したのを待って、私は、飛空船団と共に聖都【サントゥアリーオ】に【転移】しました。
・・・
聖都【サントゥアリーオ】。
私は、聖都に到着しました。
早速、【ウトピーア】から派遣された移民手続き人員達が船に乗り込んで来て、各自にギルド・カードを手渡して行きます。
魔力反応の登録などは、事前に【魔力子反応炉】とリンクしたミネルヴァが行なってくれていました。
なので手続きとしては、ギルド・カードと、各自に分配される財産の目録と、その場所を示す地図が手渡されて終了。
ミネルヴァが分配したので、不公平は少ないはず。
例えば、都市内の利便性が高いエリアに住居をもらった者は、畑が狭いとか、譲渡される動産が少ないとかという形で、バランスが取られる訳です。
現在、【サントゥアリーオ】の各都市には、青師団が向かっており、既に到着していました。
彼らの任務は各地の防衛ですが、これで私は、神兵の身体に浮かび上がる転移魔法陣を目掛けて【転移】する事が可能になります。
また、トリニティも私がパスを繋げて魔力を亜空間バイパスする事で、【サントゥアリーオ】各都市への【転移】が可能。
トリニティは、今、リントとティファニーを連れて、【転移】で【サントゥアリーオ】各都市を巡っていました。
リントとティファニーに各都市に転移座標を設置させる為です。
もちろん、トリニティ自身も、一応、各都市に自分の転移座標を設置していました。
飛空船団からは、順次、解放奴隷達が下船して行きます。
下船するのは、聖都【サントゥアリーオ】に家や畑をもらい移住する者達。
他の者達は、このまま飛空船団で、【サントゥアリーオ】の各主要都市に向かいます。
一部の【ウトピーア】の軍人と役人も解放奴隷達に同行して各地に出向。
当面、解放奴隷達の生活の支援任務を行わせます。
さてと、まだまだ次を運ばなければいけません。
私は、再び、【トゥーレ】に戻りました。
・・・
【ウトピーア】王都【トゥーレ】。
私は【魔力子反応炉】施設にやって来ました。
知性と情緒に問題がない解放奴隷100万人を、5回に分けて、運びます。
まずは第一陣。
私は、20万人の解放奴隷を【サントゥアリーオ】北関所を経由して、聖都【サントゥアリーオ】に運びました。
それを5往復繰り返します。
とりあえず、100万人は、輸送完了。
後は、第一陣と同様に、各自のギルド・カードと、財産目録と、その場所が示された地図が配られて終了。
順次、各自の家がある都市に向かってもらいます。
そして。
私は、いよいよ人工繁殖によって産まれた解放奴隷達の輸送に着手します。
【魔力子反応炉】の魔力吸収ユニットごと、50万人の単位で運びました。
それを200回繰り返すのです。
聖都【サントゥアリーオ】だけではなく【サントゥアリーオ】各都市に向けて、事前にミネルヴァが組んだ段取り通りに輸送。
この解放奴隷が入れられた【魔力子反応炉】の魔力吸収ユニットは、このまま【サントゥアリーオ】政府に所有権が譲渡されます。
中に眠る解放奴隷達が【保育器】に移され次第、魔物の魔力吸収ユニットとして改造され、【サントゥアリーオ】の各都市でエネルギー・インフラとして活用される訳ですね。
人工繁殖されていた解放奴隷達は、【魔力子反応炉】の魔力吸収ユニットから順次、【保育器】に移される訳ですが、その作業に当たるのは、【ウトピーア】から派遣されている技術者達。
今後も【トゥーレ】から、技術者達は増員が送られて来ます。
また、【シエーロ】から応援に来ているガブリエルの配下の【天使】達も、役に立ってくれるでしょう。
ミネルヴァの試算では3ヶ月で、全ての人工繁殖組が、【魔力子反応炉】の魔力吸収ユニットから【保育器】に移されるのだ、とか。
私の役目は輸送だけなので、後は任せておけば良いのです。
全てが終わったのは、5時間後。
総勢1億人を輸送した未曾有の大引越し作戦だった割には、驚くほど迅速な作戦完了でした。
計画の効率を突き詰めたミネルヴァのおかげですね。
私、リント、ティファニーは、夕食を食べに【ドラゴニーア】に【転移】で向かいました。
トリニティには、【ワールド・コア】ルームにファミリアーレを迎えに行ってもらいます。
・・・
竜都【ドラゴニーア】。
竜城の礼拝堂。
私達が到着すると、ちょうどエズメラルダさん達が、礼拝堂で祈りを捧げているところでした。
いつも思うのですが、竜城の【女神官】の皆さん達は、誰に祈っているのでしょうか?
彼女達が祈るべき対象の様子をパスが通じるフロネシスの目線で確認すると……今夜のメニューは何じゃ……と、厨房に侵入して、つまみ食いを敢行している最中です。
「お帰りなさいませ。リント様、ノヒト様、ティファニー猊下」
エズメラルダさんが恭しく礼を執りました。
「ただ今、戻りました。エズメラルダさん」
「ノヒト様。本日、グレモリー・グリモワール様の、ご助力により、【創造主】様、【泉の妖精】様から、強大な力を、お授け頂きました。今、その、お礼を申し上げていたところです」
エズメラルダさんが言います。
なるほど。
礼拝堂で祈る対象は、【創造主】でしたか。
この世界は、多神信仰。
【神竜】以外にも、祈りの対象は色々といる訳ですね。
「グレモリーから、説明は聴きましたか?」
「はい。丁寧に教えて頂きました。この新たな力をセントラル大陸の人達の為に正しく使って参る所存でございます。その責任の重さに改めて身が引き締まる思いです」
エズメラルダさんは言いました。
神竜神殿の聖職者達は、本当に良識があります。
ソフィアがあれですから、おそらく首席使徒である大神官アルフォンシーナさんの教育がシッカリしているからなのでしょうね。
私は、大広間に向かいました。
・・・
大広間。
「お帰りなさいませ。リント様、ノヒト様、ティファニー猊下」
私達が到着すると、アルフォンシーナさんが迎えてくれました。
「ただ今、戻りました。チュートリアルは、どうでしたか?」
「はい。素晴らしい力を与えて頂きました。今まで閉じていた3つ目の瞳が開いたような感覚です。魔力も増え、自分でも戸惑うくらい強化されました」
アルフォンシーナさんは微笑んで言います。
おっ!
アルフォンシーナさんには【攻撃魔法】が、生えています。
【回復・治癒職】、または【支援職】として究極まで高められていたアルフォンシーナさんには、【回復・治癒】系も、【バフ】系も、もはや強化項目が存在せず、行き場を失った【贈物】が【攻撃魔法】に転化されたのでしょうね。
ははは……。
チュートリアルを経たアルフォンシーナさんは、かつてのパーティ・メンバーだったエタニティー・エトワールさんより強くなっていますよ。
そうこうしていると、ソフィアを始めとするレジョーネのメンバーが集まって来ました。
「ノヒトよ。ファミリアーレは、どうした?」
ソフィアが訊ねます。
「トリニティが……今、帰還しましたよ」
ファミリアーレがトリニティに付き添われて、戻って来ました。
「皆の者、テストは、どうじゃった?」
ソフィアが訊ねました。
「無事、全員合格致しました」
ファミリアーレのリーダーであるグロリアが報告します。
私は、ミネルヴァからの報告で結果を知っていました。
グロリア、アイリス、ジェシカ、リスベット、ロルフは満点。
モルガーナとティベリオは1問ミス。
サイラスは2問ミス。
ハリエットは、ギリギリでした。
後1問ミスしていたらハリエットは不合格になるところ……。
ヒヤヒヤでしたね。
まあ、合格基準に達すれば、点数が何点であるかなどは問題ではありません。
ギリギリだろうが何だろうが、テストにパスしさえすれば良いのです。
「みんな、良くやりました。これでファミリアーレ全員揃って遺跡に向かえます」
ファミリアーレのメンバーは、喜びました。
3日後から、レジョーネとファミリアーレと……そしてゲスト達は、ダンジョンに向かいます。
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・・・
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