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第27話。獣人娘達の境遇。

名前…グロリア

種族…【狼人(ライカンスロープ)

性別…女性

年齢…16歳

職種…冒険者・(カッパー)

魔法…なし

特性…獣化

レベル…10

 私とソフィアは、【冒険者ギルド】のギルド・マスターの執務室にいます。

 ギルマスのエミリアーノさんと新人冒険者達の世話役であるドナテッロさんに立ち会ってもらい、孤児院出身の冒険者である4人の獣人娘との面談をしていました。


 ソフィアが魔力をダダ漏れにさせた所為(せい)で、取っ散らかりましたが軌道修正。

 ソフィアにゲンコツを落とし、魔力を【認識阻害(ジャミング)】する指輪をはめさせました。


 先程まで跪いていた孤児院出身冒険者の獣人娘達には、とりあえずソファに座り直してもらっています。


「大変ありがたいお話です」

狼人(ライカンスロープ)】のグロリアが言いました。


 気弱そうに見えますが、グロリアが一応獣人娘達のリーダー役をしているようです。


「「「ありがとうございます」」」

 他の三人の獣人娘達が言いました。


 彼女達は、生活費の他にも、とある理由でお金が必要だったそうです。

 更に、現在【竜都】は【神竜(ソフィア)】の復活を祝う祭典に伴い観光客流入を期待して、やや物価高傾向でした。

 その為に彼女達は事ここに至って、いよいよ生活費の工面が厳しくなって来ていたのだとか。

 お金がなくなれば、【ドラゴニーア】に在留資格を持たない冒険者は国外退去を余儀なくされます。


 確かに彼女達の姿は薄汚れていて、多少臭いますね。


「では、私とソフィアの会社で働いてくれますね?」


 孤児院の子供達は読み書き計算、一般常識、最低限のマナーは習得していました。

 どんな業態であるにせよ、教えれば何とか仕事は熟せる筈です。


「あのう、アタシは冒険者を続けたいんですけど……」

兎人バイペッド・ラガモーフ】のハリエットが言いました。


「私も」

猫人(ケットシー)】のアイリスも同調します。


「私もです」

犬人(コボルト)】のジェシカまで追従しました。


「私もです……」

 グロリアも言います。


 身体能力が高い【狼人(ライカンスロープ)】のグロリアは気弱そうで冒険者という感じではありませんし、他の3人に至っては明らかに荒事には不向きだと思われました。


「何故ですか?」

「別に構わないのじゃ」

 私の質問に被せてソフィアが許可を出してしまいます。


 ソフィア……ちょっと黙っていて下さい。


 私はソフィアに【念話(テレパシー)】で伝えました。


「ノヒトよ。この子らが冒険者をやりたければ、続ければ良いのじゃ。我は仕事の内容には拘らん。要するに、この子らに在留資格を与えてやれれば良いのじゃ。ノヒトは、この子らの身分を保証し在留資格を得られる大義名分を考え出せ」


 簡単に言いやがって……。


「ならば……我が社の事業に必要な素材を集める為の専属の【トレジャー・ハンター】って所ですね。魔物を狩って【コア】である【魔法石】を入手して、私とソフィアの会社に納品する……という体裁です。【冒険者ギルド】にはウチの会社から手数料を別途支払い彼女達の冒険者登録を維持する。エミリアーノさん、この手法は法的に問題ないですよね?」


「はい。直接取引の手数料の差分が【冒険者ギルド】に支払われるのなら、冒険者登録を維持する事に何ら問題はありません」


「あのう……ノヒト様から毎回私達に指名依頼を出して頂く……という形にして頂けませんでしょうか?そうすれば私達は依頼達成件数が上がり、冒険者クラスも上がりますので……」

 グロリアは言いました。


 彼女の言い分は(もっと)もです。

 しかし、その話は飲めません。

 何故なら、それを認めると彼女達はフリーランスという扱いになります。

 元来冒険者稼業は誰に雇用されている訳でもないのでフリーランスには違いないのですが、私とソフィアが孤児院出身者を支援する目的から言って、それでは獣人娘達に在留資格が与えられず意味がありません。


「無理ですね。その方法では、あなた達は一介の冒険者として、都度ノヒト様から依頼を受けるだけなので、在留資格発行要件を満たしていません。在留資格を得るには、あくまでもノヒト様の会社の従業員としての契約と身分保証が必要です」

 エミリアーノさんが私が言いたい事を全て言ってくれました。


「冒険者クラスを上げたいのならば、私とソフィアの会社からの仕事以外に、任意買取依頼や【冒険者ギルド】から功績を評価されるような高難易度【秘跡(クエスト)】を熟せば良いでしょう。ただし、あなた達は弱過ぎます。高難易度【秘跡(クエスト)】などに挑めば直ぐに死んでしまうだけなので現状では許可出来ません」


「そうじゃ。死なれては保護する意味がないのじゃ」

 ソフィアは頷きます。


 4人の獣人娘達は考え込んでしまいました。


「何故冒険者に拘るのですか?」


「アタシは、アタシ達の種族の英雄……モフ太郎様のような偉大な【剣宗(ソード・マスター)】になりたいんだ」

 ハリエットが澄み切った瞳で言います。


 モフ太郎……有名人ですね。

 900年前世界武道大会で5連覇の偉業を成し遂げ殿堂入りしたチャンピオン・ユーザーです。

 彼のキャラ・メイクが【兎人バイペッド・ラガモーフ】の【剣宗(ソード・マスター)】。


 モフ太郎氏は雑誌などにカリスマ・ゲーマーとして取り上げられてもいました。

 実は某有名大学の准教授(後に教授になった)というプロフィールなども知られている、この世界(ゲーム)のスター・プレイヤーの1人です。


剣宗(ソード・マスター)】は【剣士(ソード・マン)】の最上位職。

 モフ太郎氏は、おそらくこの世界(ゲーム)の歴史上最強の剣士と考えられているでしょう。


 ハリエットは種族最高の英雄であるモフ太郎に憧れていました。

 また、亡くなった彼女の父親と兄もモフ太郎の冒険物語を大変に愛好していたらしく、その影響もあるそうです。


 しかし、その人生設計はどうでしょうか?


 モフ太郎氏が最強の【剣宗(ソード・マスター)】たり得たのはユーザーだったからです。

 ハリエットの種族【兎人バイペッド・ラガモーフ】は、本来剣術には向きません。

兎人バイペッド・ラガモーフ】は種族特性として聴力と跳躍力には多少秀でていますが、それだけの事です。


 う〜む……如何(どう)したものか?


「私は、ハリエットに生命を救われた。その恩を返すまでは、ハリエットに付き従う」

 アイリスは腕組みして静かに言いました。


 口数の少ないアイリスに代わり、グロリアから話を聞きます。

 どうやら孤児院に保護される前、アイリスの家族とハリエットの家族は合同で隊商をしていたらしく、【青の淵】で野良の【(ドラゴン)】に襲われ2人以外は全滅。


 その時にハリエットがアイリスを抱えて逃げ、見つけた穴の中に隠れたのだそうです。


 ハリエットとアイリスの家族を食べ終えた【(ドラゴン)】は去り2人は助かりました。

 やがて、2人は【青の淵】近くの都市【センチュリオン】の【神竜神殿】に保護され【竜都】の孤児院にやって来た、と。

 2人は【センチュリオン】の出身だそうです。


【センチュリオン】は、【ドラゴニーア】の東にある都市。

【ドラゴニーア】と【グリフォニーア】の中間に位置し国家としては【ドラゴニーア】の一部です。


【青の淵】は【ドラゴニーア】と【グリフォニーア】の国境に横たわる深い渓谷で、セントラル大陸に数ある【古代(エンシェント・)(ドラゴン)】の【スポーン・エリア】の1つでした。


「私は、みんなと一緒にいたいです」

 ジェシカは言います。


「私もそうです」

 グロリアが言いました。


 なるほど。

 つまりハリエットはモフ太郎氏に憧れて、彼のような【剣宗(ソード・マスター)】になりたい。

 アイリスは命の恩人であるハリエットに付いていたい。

 ジェシカとグロリアは2人と一緒にいたい。

 そういう訳ですね……理解しました。


「結論から言います。冒険者を続けたいと言うのなら許可します。ただし私が新兵訓練(ブートキャンプ)をします。つまり私の弟子となってもらいます。今後は私の言いつけを守り活動するなら、冒険者を続けて良し。それが約束出来ないなら、冒険者を辞めて私の会社で働いてもらいます。良いですか?」


 獣人娘達は同意し【契約(コントラクト)】の魔法で約束を縛りました。


 冒険者稼業は自己責任の世界。

 本来は徒弟(とてい)制度などはありません。

 しかし、一旦私が関わった以上、彼女達が怪我をしたり死んだりしてもらっては寝覚めが悪くていけませんからね。

 最低限、自分の生命を守れる程度の能力(逃げたり危険を避けるなどの状況判断も含む)は持っていてもらわなければ困ります。


 正直言って、私が育て上げてもハリエットの素質では……【剣宗(ソード・マスター)】になる……だなんてヘソで茶を沸かすレベルで困難でしょう。

 しかし、不可能ではありません。


 ゲームマスターの私は、全ステータスが上限値目一杯までカンストしています。

 当然ながら剣術も刀技も、その他あらゆるステータスがモフ太郎氏より私の方が上でした。

 というか、この世界(ゲーム)のステータスの影響が及ぶ事で、私より優れている者は存在しません。


 私は、他者を育成・指導する系統の各種ステータスも全て上限値一杯までカンストしています。

 私が指導すれば、凡庸な素質しか持たないNPCも皆一流に育て上げる事が可能な筈。


 ハリエットが望むなら厳しく指導してあげますよ。


「ところで、あなた達は、どうして就職に失敗したのですか?」

 私は訊ねました。


 それが謎です。

 ジェシカに関しては、彼女のステータス画面を見れば理由が明らかですが、他の3人は就職出来ない理由がわかりません。


「ある人に怪我を負わせてしまいました」

 グロリアが言いました。


「詳しく聞かせるのじゃ」

 ソフィアが促します。


 獣人娘達は、ソフィアが【神竜(ディバイン・ドラゴン)】だと知って、かなり緊張していました。

 しかし、そこは思考が柔軟な若者。

 徐々に順応しているようです。

 ドナテッロさんは、未だ放心状態ですからね。


「孤児院からの卒業が迫った年長の孤児院生達は企業や工場や店舗などに研修に行きます。研修で働きぶりを認められると、ほとんどの場合そのまま就職します。私達の研修先は同じレストランでした。そこで、その……」

 グロリアは口(ごも)りました。


「その店は、レストランなんて名ばかりの風俗店だったんだよ。私達を給仕係として雇う……って神殿に求人募集をしておきながら、その実体は裸同然みたいな格好で料理を運んだりする係で、お客から指名されたら膝の上に座ったり、キスしたり、身体を触られたりする仕事をさせようとしていたんだ。それで……話が違う……って支配人に文句を言ったら……在留資格が欲しけりゃ黙ってやれ……だなんて言うから頭に来て……」

 ハリエットが続きを話します。


「だから手を出した……と?」


「あれは、手を出したという類のものではない。ハリエットはグロリアの手を掴んで離さなかった支配人を押し退()けただけだ」

 アイリスが言いました。


「そうだよ。そしたらね。支配人が派手に転んで、腕の骨が折れちゃったの」

 ジェシカが言います。


「つまり、骨折させてしまったのじゃな?」

 ソフィアが質問しました。


「はい、そうです。ソフィア様」

 グロリアが言います。


 なるほど傷害ですか?

 不可抗力で情状酌量の余地ありという気もしますが、明確に押し退()けて転倒させ怪我を負わせていますので……被害届が出されれば書類送検くらいにはなるかもしれませんね。

 状況的に慰謝料と治療費の支払い程度が妥当で、刑事事件として有罪にはならないだろうとは思いますが、仮に不起訴相当だとしてもトラブルを起こして他人に怪我を負わせたとなると、その後の就職活動は難しくなるかもしれません。

 それで彼女達は実際に就職に失敗した、と。


「確認したいのですけれど、手を出したのはハリエットだけなのですよね?何故他の者まで就職活動が上手く行かなくなったのですか?」


「いえ、それが、その……」

 グロリアが再び口(ごも)ります。


「その支配人が大袈裟に騒ぎ立てて、店のボディ・ガードの連中を呼んだんだ。で、後は……アタシら全員で暴れた……って訳」

 ハリエットが何故か胸を張って自慢気に言いました。


 孤児院では運動能力や身体能力の鍛錬も行われています。

 適性がある子供には剣術や格闘術も教えていました。

 将来、軍や衛士機構に就職を希望する子供も多いのです。

 ハリエット達は、武術の訓練を受けていたのでしょうね。


 因みに、彼女達が生活費の他に必要となった費用というのは、怪我をさせた相手への慰謝料や治療費、それから破損させた店舗の器物の弁済費。

 罠にハメられ本来なら借金のカタに風俗へ沈められる可能性もあったようですが、【冒険者ギルド】が借金を一括で肩代わりしてくれ最悪の事態は免れれたようです。

 現在、彼女達は【冒険者ギルド】にその借金を支払っているのだとか。

 【冒険者ギルド】……グッジョブですよ。

 良心的な組織です。


 私とソフィアは、エミリアーノさんに礼を言いました。

 これは【冒険者ギルド】の規定などではなく、少女達の身の安全を心配したエミリアーノさん個人の裁量で行われた措置だったようです。

 エミリアーノさん、あなたは立派な人物ですね。

 尊敬します。


「はあ……そうですか。それは致し方ないですね」

 私は溜息を吐きました。


「そうでしょう?あいつら酷い連中だよ」

 ハリエットが言います。


「違うのじゃ。ノヒトは……其方らが就職活動に失敗した理由は当然で致し方ない……と言っておるのじゃ」

 ソフィアが言いました。


 その通りです。


「仮に望まない労働条件を強制されそうになったら、毅然として拒否し【神竜神殿】の威光を背後に付けて堂々と抗議すれば良かったのです。【ドラゴニーア】の個人や法人で【神竜神殿】に喧嘩を売れる組織など存在しません。あなた達は相手の見え透いた挑発に、まんまと引っ掛かっただけなのですよ」


 女衒(ぜげん)がやりそうな、見え見えのやり口です。


 その風俗店の支配人は、あえてハリエット達に手を出させるように仕向けています。

【神竜神殿】を敵に回す筈はないので、嫌がる彼女達に無理矢理性的なサービスをさせる事など不可能なのですから。

 ハリエット達に手を出させ就職に失敗させ在留資格を得られず国外退去になる状況設定をした後で……在留資格を与えてやる見返りに風俗店で働け……と誘い、彼女達を低賃金で働かせる算段だったのでしょう。


 この4人は容姿が整っていますからね。

 彼女達をワザワザ見繕って求人募集をしているという事は、つまり初めから風俗店で働かせる【獣人(セリアンスロープ)】が欲しかったというだけの事です。

 そういった店で【獣人(セリアンスロープ)】は、一部の人達から人気があるそうですので……。


 頭に来ますが、その如何(いか)がわしいレストランのオーナーは、ギリギリ違法でない所を攻めて来ていました。

 獣人娘達が孤児院を出た後は【神竜神殿】の後ろ盾も消えます。

 事件を犯させて在留資格をダメにしてやれば追い詰めらて(ぎょ)し易いという訳です。


「事情はわかりました。過ぎた事は問題にしません。しかし、今後は法律・公序良俗・倫理に反さない行動をお願いしますよ。良いですね?」


「「「「わかりました」」」」


「で、ジェシカ。あなたは何故()()などをしたのですか?」

 私は訊ねました。


 そうです。

 私は最初に獣人娘達と会った瞬間に【鑑定(アプライザル)】をかけて、彼女達のステータスを調べました。


 ジェシカ以外の3人の【職種(ジョブ)】は【冒険者((カッパー))】となっています。

 書類送検されたものの不起訴相当で前科扱いにならなかったので、ステータスに影響がなかったという事。


 しかし、ジェシカのステータスを【鑑定(アプライザル)】すると、彼女の【職種(ジョブ)】は、【コソ泥(ピック・ポケット)】となっていました。

お読み頂き、ありがとうございます。


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