第268話。チュートリアル・リスト。
本日7話目の投稿です。
異世界転移、38日目。
私が【ドラゴニーア】に戻ったのは、時差の関係で、もう朝でした。
グレモリー・グリモワール達も私に付き合って夜遅くまで建築作業をしてくれていましたが、彼女達は眠気も疲労も感じる生身の身体です。
これは、少し悪い事をしてしまいましたかね?
私の方から気を使って、眠ってもらうように促せば良かったのかもしれません。
まあ、彼女達は、いずれも、人種としては、この世界最高レベルの魔法職です。
1日や、そこいら眠らなくても、お互いに【回復】をかけ合えば、問題にもならないでしょう。
今日の予定は、と。
ソフィアとウルスラとオラクルとヴィクトーリアは、午前中、孤児院に向かいます。
午後からソフィア達4人は、ソフィア・フード・コンツェルンCEOのヴァレンティーナさんや、クイーンや、世界銀行ギルド頭取のビルテさん達と、経営会議なのだ、とか。
ソフィアがヴァレンティーナさんやビルテさんを、クイーンがいる【タナカ・ビレッジ】まで【転移】で運ぶようです。
安全の為に【転移】適応を調べておくようにと言うと……ソフィアから……もうオラクルが調べたのじゃ……との返答がありました。
さすがオラクルですね。
今後もソフィアの保護者役を、シッカリ頼みます。
あの娘は、至高の叡智を発揮する時と、少々頭がアレな時との振れ幅が大き過ぎますからね。
ファヴは、今日は1日、自分の管轄領域であるサウス大陸の3か国……北方【アトランティーデ海洋国】、中央【パラディーゾ】、南方【ムームー】に向かい視察をしたり為政者達と会議をするのだ、とか。
何やら、リントが【ウトピーア】問題や【サントゥアリーオ】問題に積極的に携わって陣頭指揮している様子を見て……自分も……と思ったようです。
ファヴは、今まで、ソフィアを見習って政治とは距離を置いていました。
多少のアドバイスを与える程度で、命令などはせず、ほとんど人種の統治者達に任せきりでしたからね。
平時なら、ソフィアの姿勢が守護竜としては正しいのです。
しかし、戦時や、混乱期には、守護竜が神託を出して、人種の営みを直接指揮する事もありました。
サウス大陸は、復興の途上。
ファヴが直接国家を指揮しても構わないでしょう。
ファヴは、昼食の時間には、私達と合流します。
リントとティファニーも今日は1日、【ウトピーア】と【サントゥアリーオ】で仕事。
私が、午後に【ウトピーア】の解放奴隷を【サントゥアリーオ】に運んで移民させるので、その受け入れ準備をしたり、諸々の政務をするようです。
【ウトピーア】から、50万人規模の役人や軍人を導入して、解放奴隷……つまり【サントゥアリーオ】の新国民の事務手続きを一気呵成に、やってしまう算段のようですね。
元は奴隷だった【サントゥアリーオ】の新国民達は、戸籍もギルド・カードも銀行口座も持ちません。
その手続きなどが必要なのです。
また、その事に関連して私の午前中の仕事も決まりました。
私は、【シエーロ】から、【サントゥアリーオ】に、ある装置を運び移設しなければいけません。
それは、【知の回廊】の人工知能が、ルシフェル達【改造知的生命体】を生み出す時に使っていた【保育器】と呼ばれる装置でした。
【保育器】は、ルシフェル達が一時的に【知の回廊】を停止させる事に成功した時、壊れてしまって修理が出来なくなって放置されてていた物です。
その後、【知の回廊】が再び起動して、ミカエル達を精神支配してしまうのですが、その後も、【保育器】は壊れたままだったのだ、とか。
この【保育器】の用途は、【改造知的生命体】を成長させ教育するモノでした。
この【保育器】は、【培養器】という装置と対になっています。
クローン生物である【改造知的生命体】は、まず受精卵や胚の状態で、培養器で養育されました。
やがて人種であれば出産される時期になると、今度は【保育器】に移され、教育されるのです。
私は、【ウトピーア法皇国】の犯罪の全容が解明された時に、この【保育器】の基幹部品をミネルヴァにゲームマスター本部の【神の遺物】製造ラインで造らせ、【天使】達に【保育器】を修理させました。
何故?
その理由は、【ウトピーア法皇国】の枢機卿達が奴隷達に行なっていた、鬼畜の所業が関係していました。
枢機卿達は、【魔力子反応炉】で魔力を搾取する個体を増やす為に、人工授精と人工分娩により、親が知らない内に、勝手に子供を出産させ人数を増やしていたのです。
効率良く奴隷から魔力を搾取する為に、魔力が強い個体を掛け合わせて子供を産ませる、などという事までしていました。
枢機卿達は、人権や人道や生命倫理を何と心得ているのでしょうか?
【ウトピーア法皇国】の元法皇だったエクストリアは、奴隷の事を全く知らされていませんでしたが、枢機卿派の幹部や一部技術者などは、【魔力子反応炉】を利用した、人間牧場の事を知る者達もいました。
彼らの中には、良心の呵責に苛まれる者もいたそうです。
しかし、枢機卿達は、彼らに、こう言いました……異教徒や異種族は、我々が道具として利用する為に唯一神様がお創りになったのだから、異教徒や異種族を利用する事は唯一神様の意思。これは正義の行いである。従って、正義の行いに携わる、お前達は、死後天国に導かれる……と。
唯一神など世界のプログラムには存在しません。
枢機卿達の言葉は虚言です。
そして、枢機卿も枢機卿に唆されて悪事に加担した者達も、全員、私とリントによって地獄に突き落とされました。
全く、許しがたい事です。
1億人もの奴隷を一体どこから連れて来たのか、と思いましたが、人工繁殖によって、元の奴隷達の人数から100倍に増やされていました。
何て、おぞましい事をするのでしょうか?
常軌を逸していますよ。
つくづく【ウトピーア法皇国】を滅ぼしておいて良かったと思いますね。
で、その人工繁殖で産まれた人達は、ひたすら【魔力子反応炉】で魔力を搾られる目的だけで生かされていた為に、保護者の愛情も、満足な教育も受けておらず、知性も情緒も正しく発育していなかったのです。
【知の回廊】が造った【保育器】は、いわば高性能な学習装置。
これに入れば、脳に直接、知識を与え、情操と教化も行えました。
私とミネルヴァは、人工繁殖で産まれた人達に【保育器】を利用して知性と情緒を与える事にしたのです。
この【保育器】は外部から脳へと直接的、強制的に知識や情緒を植え付けるような機能である為、不自然なモノでした。
身も蓋も事を言ってしまえば、洗脳装置のようなモノなのです。
洗脳とは違い解く事が不可能という点で、もっと性質が悪いかもしれませんね。
なので、本来なら使わないに越した事はないのですが、今回は、状況が状況なので止むを得ません。
私とミネルヴァは、知性と情緒が育っていない解放奴隷を【保育器】を利用して、育て直す事にしたのです。
なので、私は、午前中、この【保育器】を【シエーロ】から大量に輸送して、設置しなければいけません。
午後、私は、【サンタ・グレモリア】の土木建築の作業を完成させるつもりです。
トリニティは、午前中、ファミリアーレに勉強を教えます。
ファミリアーレは、今日の午後ダンジョン学のテストですから最後の追い込みでしょう。
このテストに合格しなければ、ファミリアーレは、3日後の10月11日から行う、遺跡攻略には連れて行きません。
留守番をしてもらいます。
頑張って勉強をしていたようですので、皆、揃って遺跡に挑戦出来れば良いですね。
私は、テストには立ち合いません。
試験官役は、誰でも出来るので、私が行くのは、あまり効率的な事ではありませんからね。
試験官は、【自動人形】・シグニチャー・エディションにやらせます。
カンニングなどは不可能ですよ。
トリニティは、午後は、私に帯同します。
特段、トリニティと一緒に行動する理由もありませんが、トリニティに頼む仕事もありません。
トリニティが……何もなければ、ご一緒したい……と希望しました。
もちろん構いませんよ。
トリニティは、私の従魔。
従魔は、主人に付き従うのが使命ですからね。
因みに、今日の予定と言えば、グレモリー・グリモワールが、アルフォンシーナさん以下、神竜神殿の【高位女神官】の皆さん達と竜騎士団の士官以上の者達にチュートリアルを行なってくれます。
事前のガイダンス、プリンシプルの【契約】、贈物の説明、必要があれば新しく生えた魔法や能力の指導……なども丸っとグレモリー・グリモワールがやってくれるので、私は楽ですね。
グレモリー・グリモワールは、午前の部と午後の部の二交代制で、一気に【高位女神官】さん達と竜騎士団の士官以上の者達に、チュートリアルを終わらせてくれるそうです。
助かりますよ。
グレモリー・グリモワールのチュートリアルは、明日以降も行われます。
明日、グレモリー・グリモワールは、イルデブランドさん以下、軍の将軍・提督と、各副官と、私が許可した士官以上の者達……それから、私が許可した政府公職者へのチュートリアルをしてくれます。
明後日は、ファヴの使徒である大巫女のローズマリーさんと、巫女長のスカーレットさん、【高位巫女】の皆さん……【ムームー】のチェレステ新女王、宰相のキアッフレードさん、近衛竜騎士団長のゼイビアさん……など、【ドラゴニーア】以外の人物にチュートリアルを行なってもらう予定。
とりあえず、私からグレモリー・グリモワールに依頼したリストは、これだけです。
チュートリアルと言えば、コンパーニアなどの私の陣営に属する首脳達にも受けさせても良いですね。
彼らは、民間人なので、私がチュートリアルを受けさせる事が出来ます。
まあ、こちらは、急ぐ必要もないので、追い追いで良いですね。
私は、【リマインダー】を閉じて朝食を摂る為に、竜城の大広間に向かいました。
・・・
竜城の大広間。
私が帰還したのが、遅かったので、皆は、もう朝食を食べ始めていました。
皆と朝の挨拶をして、私もテーブルに着席します。
「ノヒト。【サンタ・グレモリア・スクエア】は、完成したのか?」
「はい。完成していますよ」
「うむ。ならば、すぐに、レストラン街と、フードコートと、デパ地下の内装工事に取り掛からねばならん。実は、大型の輸送飛空船をチャーターして、資材と工事作業員と、当面の従業員とする【自動人形】・オラクル・エディションと、【自動人形】・オーセンティック・エディションを乗せて、出発させておったのじゃ。忙しいのじゃ」
「ソフィア。商材は、どうするのですか?【ブリリア王国】は、途上国。貨幣価値も物価も違いますし、大衆の可処分所得も購買動向も【ドラゴニーア】とは違います。また、趣味趣向も違いますから、【ドラゴニーア】向けの商品が、そのまま売れる保証はありませんよ」
「うむ。デパ地下では、未加工の生鮮品と調味料を主にするのじゃ。売り場で調理をして見せながらの実演販売に力を入れる。ステーキ肉などは売れるじゃろう。加工食品は、缶詰などの常温日持ち商材を厚くする。冷凍食品、要冷蔵食品などは、冷凍庫、冷蔵庫が一般家庭に普及してからじゃな。惣菜や弁当や調理パンなどは様子見じゃ。何が売れるかは、まだ良くわからぬ。おそらく、調理ソースの類や、スープの素などは売れるじゃろう。低価格帯で品揃えを充実させる。買い物を楽しむという文化を根付かせる所まで、持って行ければ商売としては、成功じゃ」
ソフィアは、言いました。
「レストラン街とフードコートは?」
「うーむ。フードコートの方は、あまり心配しておらぬ。【ブリリア王国】の民が食べつけないモノでも、材料が何かわかっておって、価格が適正ならば売れるはずじゃ。我も、食べた事のない料理を食べるのはワクワクするのじゃ。【ブリリア王国】の民も本質は変わらぬ。きっと流行ると思うのじゃ。じゃが……レストラン街の方は難儀じゃ。【ラウレンティア・スクエア】と同じようにやれば商売にはならぬ。貴族相手の敷居が高過ぎる店となるからの。じゃが、低価格帯の店ばかりとしてしまうと、フードコートと差別化が出来ぬ。【ブリリア王国】の一般大衆は、まだレストランのサービスや雰囲気に対価を払う、という感覚は希薄じゃ。やはり、料理の価格は抑えねばならぬ。どうしたモノかの?」
「食べ放題は、どうですか?ケーキ・バイキングの方式をレストランに流用するのです。ケーキ・バイキングの料金は、けして安くはありません。しかし……時間内なら、好きなものを好きなだけ食べられる……という趣向で、安くはない料金を支払っても、存外、満足感と、お得感が得られるモノなのです。そして、人種は、ソフィアのように亜空間胃袋を持つ訳ではありませんから、実際には、儲けはシッカリ出るモノなのです。女性や子供やお年寄りなどを割引するなどすれば、家族連れで来てもらえます。晴れの日に一家揃って贅沢をする感覚ですね」
「うむ。それで、やれそうじゃ。じゃが、数店は、最高グレードのレストランを入れたいモノじゃ。ソフィア・フード・コンツェルンは、世界の食文化の発展に寄与する事を社是の1つとしておる。料理もサービスも一流の店を何店舗かは、出したい」
「なるほど。良いのでは、ありませんか」
「良し。頑張るのじゃーーっ!」
ソフィアは、気勢を上げます。
「おーーっ!」
ウルスラが応じました。
他の一同は、2人を微笑ましげに眺めています。
・・・
食後。
各自は、今日の予定に従って行動を開始しました。
私も、【シエーロ】に向けて【転移】します。
さあ、今日もキリキリ働きますよ。
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・・・
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