第266話。ヒーロー?
本日5話目の投稿です。
【ブリリア王国】の【サンタ・グレモリア】。
【スキーズブラズニル】の艦橋。
私は、グリモワール艦隊と【サンタ・グレモリア】に、やって来ました。
「さてと、私は、これから少し街を整備しようと思うんだけれど……」
グレモリー・グリモワールは言います。
「なら、私も【サンタ・グレモリア】開発計画にある施設を建築しますよ」
「あんがとね。あ、これこれ。ノヒトがメールで送ってくれた【サンタ・グレモリア】の開発計画なんだけれどさ。幾つか確認しときたいんだけれど……」
グレモリー・グリモワールは、スマホの画面に情報を表示させました。
それは、私がグレモリー・グリモワールに送った【サンタ・グレモリア】の開発案です。
【サンタ・グレモリア】の都市開発。
住宅地の拡張整備。
【サンタ・グレモリア】内の公共交通の整備。
近郊の都市【イースタリア】までの自動運転地下鉄。
サンタ・グレモリア・スクエアの建設。
【サンタ・グレモリア】の産業開発。
農場拡張整備。
稲作の水田化。
クイーンの農業指導。
ウオヴォ・マエストロの養鶏指導。
水産事業の一元集約化。
干物工場拡張整備。
練り物工場拡張整備。
急速冷凍施設整備。
缶詰工場建設。
マリオネッタ工房。
【自動人形】工場建設。
スマホ工場建設。
浮遊移動機の工場建設。
アブラメイリン・アルケミー。
【ハイ・エリクサー】の製造ライン整備。
イーヴァルディ&サンズ。
造船所建設。
【砲艇】の製造ラインの開設。
【対地対空自走砲】の製造ラインの開設。
現在、この開発案にある項目としては、住宅と農場の拡張整備、それから、マリオネッタ工房、アブラメイリン・アルケミー、イーヴァルディ&サンズのオフィスと工場の建築は終わっていました。
しかし、工員や技術者がいない為、工場は操業していません。
以前に、私が造っておいた【プロトコル】を元に、給水給湯や空気浄化や調理器具などの【魔法装置】工場は、グレモリー・グリモワールの差配で操業が開始しているようです。
この開発案以外にも、私は、【サンタ・グレモリア】の街区の数を倍に拡張し、港を移設整備して、神の軍団の営舎を造り、既存の建造物を全て【神位バフ】で強化してあります。
「何か問題が?」
「いや、問題はない、と思う。て、言うか、問題があるかどうかって判断すらつかない事があって、わけわからん。だから、一個ずつ確認して行くよ?良い?」
「どうぞ」
「んじゃあ、まず、クイーンの農業指導って?」
「クイーンというのは、サウス大陸【パラディーゾ】の農業経営者で、【タナカ・ビレッジ】という巨大な農場を取り仕切っています。彼女は【神の遺物】の【自動人形】ですよ。900年、試行錯誤を繰り返し、農法を研究して、品種改良を行い、有用な作物の種苗開発をしています。膨大な農業を行ってきた経験が蓄積されていますから、世界最高レベルの農業エキスパートです。サウス大陸とウエスト大陸の気候や土壌の違いも、クイーンの知性と経験なら、問題なく補正してみせるでしょう」
「それは、ソフィアちゃんから聞いている。ソフィアちゃんの会社の共同出資者なんでしょう?私も、業務提携を打診されているから、そのくらいは知っている。クイーンさんが【サンタ・グレモリア】に農業を指導しに来てくれるの?」
「いえ。おそらくは人材交流と情報共有という形が望ましいと思います。【サンタ・グレモリア】から人材を【タナカ・ビレッジ】に派遣して研修をさせたり、【タナカ・ビレッジ】と農業関連の情報を相互にリンクしたりですね」
「研修は助かるね。ウチの農家さん達は、現在は、まだ、ほとんど字も読めないから、農学論文はおろか、家庭菜園のハウツー本すら読めないんだよ。実地で指導してくれたら、本当に有難い。情報の方は、データリンク出来る端末がないから、無理かな〜」
「スマホ・オリジナル・モデルならデータリンク出来ますよ」
「そうなんだ。メンドいから、スマホのマニュアルは読んでなかった」
「マニュアルに全て書いてありますので、確認してみて下さい。あと、あなたにあげた139体の【自動人形】・シグニチャー・エディションも全個体がデータリンク出来ますよ」
「そうなんだ。シグニチャー・エディションは、凄いよね。あの子達、【高位】級のスペックだけれど、ぶっちゃけユーザーの【高位】級戦闘職より強いっしょ?正直、【イースタリア】の防衛戦は、あの子達がいなかったらヤバかったかもしんない」
「ユーザーの【高位】戦闘職よりは確実に強いですね。近接、魔法、両方が【高位】レベルですから、ユーザーのように偏りがありません。弱点がない【高位】レベルは、弱点がある【超位】レベルより強いかもしれませんね」
「だよね。で、あの子達の対価のチュートリアルなんだけれどさ。明日から、ボチボチやり始めるよ。リストにある人達を順番にやって行くけれど……あんなモノで良いの?もっと、たくさんだと思っていたから。例えば、軍隊何十万人分とかさ」
NPCは、ユーザーに比べて脆弱でした。
NPCは、魔力、肉体強度、身体能力、膂力、演算速度が、ユーザーの半分ほどしかありません。
さらに、NPCの経験値換算率は、ユーザーに比べて、極端に悪い事から、NPCは、レベル・アップし辛いのです。
しかし、NPCもチュートリアルを経ると、これらの弱点がユーザー並に上方補正されました。
現在、チュートリアルを起動させられるのは、運営側の私と、ユーザーのグレモリー・グリモワールしかいません。
私は、信頼する人物にチュートリアルを受けさせたい、と考えています。
しかし、その人達が国家に属す公職者である場合、私は、その人達にチュートリアルを受けさせる事は出来ません。
ゲームマスターは、中立である為に、1党1派1国に与する事が出来ないからです。
これがゲームマスターの遵守条項。
グレモリー・グリモワールは、私から受けた借りの対価として、私がチュートリアルを受けさせたいと考えていても、ゲームマスターの遵守条項に抵触する為チュートリアルを受けさせられない人達に、私に代わってチュートリアルを受けさせてくれる、という申し出をしてくれていました。
「当面は、あのリストにある人達だけで十分です。私は、本当に信頼出来る人物にしかチュートリアルを受けさせるつもりはありません」
「あ、そう。なら、私が一気に26人もチュートリアルを受けさせたのは不味い?」
「基本的にグレモリーの判断ならば信用します。しかし、チュートリアルを受けて強化された人物が、何者かに精神支配を受けたりすれば、戦って殺さなければいけません。その覚悟をグレモリーがしているのなら結構です」
チュートリアルを受ける絶対条件は、私のプリンシプルを【契約】してもらう事。
プリンシプルとは。
世界の理に違反しない事。
ノヒト・ナカとノヒト・ナカの身内に敵対しない事。
法律、公序良俗、倫理、公衆衛生に違反しない事。
ノヒト・ナカが命令したら従う事。
世界の発展と平和に貢献する事。
プリンシプルを遵守する限り、ノヒト・ナカは敵対しない。
チュートリアルを受ける者は、チュートリアルについて口外しない事。
これらは、あくまでも私に対する約束です。
グレモリー・グリモワールが自分の陣営の人達にチュートリアルを受けさせる時にも、プリンシプルを守るという【契約】を結ばせますが、その【契約】の対象は、私。
つまり、チュートリアルを経て、力をつけた人物がグレモリー・グリモワールを裏切る事を防げないのです。
「わかっている。それは覚悟の上だよ」
「ならば、グレモリーが信頼する人物にチュートリアルを受けさせる場合、何人でも良いですよ」
「わかった。チュートリアルは、慎重に考えるよ」
「それが良いでしょうね」
「えーと……あ、そうそう、農業指導は、クイーンさんに具体的な相談をしてみるよ」
「はい。クイーンには話が通っています」
「あんがと。じゃあ、これはOK、と。次は、ウオヴォ・マエストロって何?」
「ソフィアが定めた、鶏と鶏卵の優秀な生産者の称号です。彼らも、クイーンと同様に研修や、繁殖用の親鶏の譲渡などをしてもらえるように依頼してあります。この【竜の湖】と湖畔は、魚と【パイア】と【地竜】は豊富です。なので、養鶏の導入が有効だと考えました」
「そだね。牛と羊は、飼育の専門家を陣営に引き入れたから自前で賄える。養鶏の導入は、渡りに船だよ。じゃあ、これも、OK、と。次は、産業系だね。マリオネッタ工房とアブラメイリン・アルケミーとイーヴァルディ&サンズっていうのは、ウチの街人さん達を雇用してもらえるの?」
「はい。雇用したいと考えています」
「雇用創出は、ありがたいね。でも、さっきも言ったように、【サンタ・グレモリア】は識字率がクッソ低いんだよ。こんな先端技術の技術者は務まらないんじゃないかな?」
「当面は【自動人形】を派遣して業務に従事させますし、【プロトコル】のライン制御ですから、大多数の従業員は、高度な知識も技術も必要ありません。材料を補充したり、運んだり、製品を梱包したり、出荷したり、電話番や販売員などをしたり、と単純な仕事ですよ。ただし、将来的な事を見据えるなら、経営を行える者や、基幹職員や、技術者などは、育成した方が良いでしょうね。会計学を教えたり、技術者を育成する学校などを作ってはどうですか?就労に役立つ知識を身に付けたり、手に職をつければ、あなたの庇護する人達の為にもなりますからね」
「そだね。でも、指導者や教師がいない。保育園や学校の初等教育ですら、私か、聖堂の聖職者に頼っている状態なんだよ。商業ギルドに教師を探してもらっている最中なんだけれど、【ブリリア王国】は教育の体系的ノウハウ自体が900年前のユーザー大消失以来衰退しているし、まして技術系の指導が出来る人材なんか引く手数多だから、【ブリリア王国】だと見つからないんだよ」
「人種の教師が欲しいなら、【ウトピーア】から、引き抜けば良いのでは?あちらは、国民教育水準が高いですからね。戦後の賠償金を減額する代わりに、人的補償という形で招聘するのです」
「【ドラゴニーア】や【グリフォニーア】からは呼べないかな?ほら、【ウトピーア】って、元敵国じゃん?一応、用心したいんだよね」
「大学新卒者などなら、報酬次第では、あるいは可能かもしれませんが、先進国から、今の【ブリリア王国】に来たがる者は、あまりいないのでは?正直、今の【ブリリア王国】は貧しくて面白味もない途上国というイメージなのだそうです」
「昔は、世界に冠たる列強の一角だったのにね〜」
「そうですね。ニュートン・エンジニアリングを始め、当時の【ブリリア王国】の繁栄を支えた有力な企業は、全て【ドラゴニーア】や【グリフォニーア】や【スヴェティア】など他国に流出してしまいましたからね」
「やっぱり、為政者がマクシミリアンやリーンハルトみたいな脳筋バカばっかりだと国が傾くよね。ディーテや【ドラゴニーア】のアルフォンシーナさんと話して、【エルフヘイム】や【ドラゴニーア】が世界のトップランナーである理由がよくわかったよ」
「はい。政治は責任重大です」
「なら、しばらくは、教育政策は諦めるしか仕方がないかなぁ」
「そんな事はありませんよ。人種に拘らなければ、グレモリーの下には既に教師役はいます。【自動人形】・シグニチャー・エディションにやらせれば良いのです。学術、医療、技術、武術、魔法などなど、教師くらいなら問題なくやりこなせますよ」
「マジで?シグニチャー・エディションって、どんだけ優秀なのさ?」
「私が自重なしで全力で造ったのですよ。優秀で当然です」
「ま、そりゃそうだね。なら、教師も賄えた、と。あとは、浮遊移動機と【砲艇】と対地対空自走砲だね。あえて、これらを造る意味は?」
「浮遊移動機は、便利ですし、【ブリリア王国】の実情に合っています。路面の舗装すら不十分な【ブリリア王国】では、車輪駆動の機動車では不具合があります。【砲艇】と自走砲は、防衛には有用です。それ以上の強力な兵器類は、ダメです。私個人としては、【ブリリア王国】が、【ドラゴニーア】による平和同盟体制に加わるなら、【飛空駆逐艦】程度ならライセンス生産を認めても構わなかったのですが……ミネルヴァが許可しません」
「ミネルヴァが?何で?」
「【ブリリア王国】が守護竜信仰ではないからです。【創造主】と守護竜への信仰、という、世界の理の遵守。これがミネルヴァが定めたゲームマスターである私が国家を支援する場合の最低ラインなのです。【ブリリア王国】は、その基準を満たしていません」
「なるほど。理に適っているね。私も【ブリリア王国】の妖精信仰には、頭に来ているんだよ。アイツら、絶対にぶっ飛ばして、壊滅させてやる」
「私は、手を貸せませんよ。妖精信仰のやっている事は、私とミネルヴァも調べて問題視はしていますが、まだゲームマスターとして介入するような段階ではありませんのでね。他の優先順位が高い問題を片付けたら取り締まりを行う事も視野に入れていますが、現状は手が回りません」
「ま、ノヒトは、忙しいからね。妖精信仰を潰すのは、私に任せておいてよ」
「あまり、派手に暴れて、グレモリー自身が世界の理に違反しないで下さいよ。グレモリーは、私のプリンシプルを【契約】しているとはいえ、無意識のうちに、という事はあり得るのですからね」
「大丈夫。ゲームのルールのグレーゾーンを突いてギリギリセーフのラインを歩くのは得意だからね」
「ほどほどにお願いします」
「了解」
ふと見ると、ディーテ・エクセルシオールとピオさんが、私とグレモリー・グリモワールの会話を固唾を飲んで見つめていました。
「すみません。お2人を無視して話し込んでしまいました」
「あはは、ごめんね」
「いいえ。【神格者】のノヒト様は当然としても、グレモリーちゃんも凄いわね。【神格者】と対等に渡り合って、瞬時に共通認識を持っている。正直、こんな短時間で立ち話でするような内容の会議ではなかったわよ」
ディーテ・エクセルシオールは感心しきりという様子で言います。
まあ、私とグレモリー・グリモワールは、元同一自我なので、お互いの思考を理解し合えていますからね。
いちいち前提を確定したり、コンセンサスを確認し合わなくても、ツー、カーで話が進められます。
「はい、素晴らしい体験を致しました。神と大英雄の会談に立ち会えるだなんて、感動しています。きっと、上司のビルテに自慢したら、歯噛みして悔しがると思います」
ピオさんが言いました。
「そうね。あの子には昔から、グレモリーちゃんの武勇伝とか、【調停者】様達がいかにして世界を守っているのかを、毎晩、寝物語に聴かせて育てたからね。きっと羨ましがるわね」
ディーテ・エクセルシオールが言います。
世界銀行ギルドのビルテ・エクセルシオール頭取は、ディーテ・エクセルシオールの、お孫さんでした。
何となく気が付いていましたが、やたらとビルテさんが私に便宜を図ってくれようとするのは、今、ディーテ・エクセルシオールが話してくれた事が原因なのでしょう。
つまり、ビルテさんは、ゲームマスターをヒーローか何かだと思っている訳です。
幼児期の印象的な記憶は、その後の人生の生き方を左右する事もあるそうですからね。
ディーテ・エクセルシオールによって刷り込まれた、ビルテさんのゲームマスターに対する世界を守るヒーローというイメージは、現在のビルテさんがゲームマスターである私に協力するという行動を取らせている訳です。
私も、目の前に、子供時代のヒーローだった、ル〇ク・スカイウ〇ーカーが現れて協力を依頼されたら、喜んで協力するかもしれません。
実際のゲームマスターは単なるゲーム会社の社員や、委託契約しているアウトソーシング人材に過ぎないのですが……。
まあ、ゲームマスターに良い印象を持ってくれていて、自発的に協力してくれている者に、ワザワザ事実を教えて幻滅させる必要もありません。
有能な味方は多い方が良いのですからね。
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