第264話。寿司パーティー。
本日3話目の投稿です。
【トゥーレ】。
私が関所造りを終えて、【トゥーレ】中央聖堂に戻ると、レジョーネ全員が集合していました。
「ノヒト!急ぐのじゃ。寿司パーティーに遅れてしまうのじゃ!」
ソフィアが言います。
寿司パーティー。
今日は、コンパーニアが所有する元ホテルの社員寮に乙姫寿司を呼んで、寿司食べ放題パーティーを開催する予定でした。
パーティー参加者は、コンパーニアの従業員と一部その家族。
乙姫寿司の職人さん達だけでは、手が回らないので、マリオネッタ工房製の【自動人形】・オーセンティック・エディションを大量投入してあります。
「ソフィア。まだ、時間の余裕はあるよ」
「時差があるのじゃっ!」
ソフィアは半ば怒りながら主張しました。
「もちろん、時差は考慮してありますよ」
「あー言えば、こー言う……さっさと帰るのじゃ」
あー言えば、って……私は間違っていないのですが……。
まあ、良いでしょう。
ソフィアは寿司パーティーが待ち遠しくて、一刻も早く会場に向かいたいのでしょう。
「今回は、【クラーケン】を仕入れてもらえるように、よくよくベアトリーチェに頼んでおいたのじゃ。楽しみなのじゃ」
ソフィアは、ソワソワと落ち着かない様子で言いました。
「ベアトリーチェ?」
「乙姫寿司の親方で、ドナテッロの奥方の名じゃ」
なるほど。
乙姫寿司の親方は、寿司屋としては珍しく女性で、冒険者ギルドで新人冒険者の世話役をしているドナテッロのさんの奥さんでもありました。
その女親方が、ベアトリーチェさん。
覚えました。
リントとティファニーは、【ドラゴニーア】の竜城にエクストリアを送り届け、そのまま竜城で待っているそうです。
私は、【トゥーレ】中央聖堂の聖職者達と、【ウトピーア】暫定政府の面々に挨拶をしました。
今後、【ウトピーア】関連のあれこれは、リントとティファニーに任せ、私は基本的にタッチしません。
【魔界】への移住者をルシフェルの元に送り届けるくらいでしょう。
私達は、【ドラゴニーア】に向けて【転移】しました。
・・・
竜都【ドラゴニーア】竜城。
「ノヒト様、お帰りなさいませ」
アルフォンシーナさんが私を迎えてくれました。
神官長のエズメラルダさん、大神官付き筆頭秘書官のゼッフィちゃん、【アルカディーア】のドローレス皇太王女……そして【トゥーレ】聖堂長のエクストリアが、その後ろに整列しています。
エクストリアは、早速の研修開始ですか?
まあ、頑張って下さい。
「ただ今、戻りました」
「私共が長年、対応に苦慮して来た【ウトピーア法皇国】問題を、いとも簡単に解決してしまわれるとは、さすがノヒト様です」
エズメラルダさんが言いました。
「ゲームマスターはトラブル・シュートの専門職ですから、能力の問題ではなく、ただ場数をこなして慣れているだけです。ともかく、穏当に済んで僥倖でした」
「アルフォンシーナ。急ぎ、着替えじゃ。いくら食べても、お腹がキツくならぬような衣服を見繕って欲しいのじゃ」
ソフィアは、やる気満々で言います。
「はい、ご用意致します」
アルフォンシーナさんは、ソフィアの手を引いて歩いて行きました。
他の皆も、それぞれ着替えに向かいます。
私も、その場で黒い【魔導師のローブ】に着替えます。
【ワールド・コア】ルームで揃えた【神の遺物】の衣類でした。
襟元のドクロの紀章がワンポイントとなっています。
「ノヒト様。【ウトピーア】の外交工作は全て明るみに出ました。どうやら、【ドラゴニーア】や同盟国にも多数のスパイを送り込んでいたようです」
エズメラルダさんが言いました。
さもありなんという話です。
【ドラゴニーア】も各国にスパイを送り込んでいるので、お互い様ですしね。
「何か重大な流出事案があるのですか?」
「いいえ、問題ありません。【ドラゴニーア】の機密の中枢である竜城は、ソフィア様の【マッピング】能力により、敵性反応がある者は、潜入不可能でございますので。ニュートン・エンジニアリングに艦隊の艦船のメンテナンスを一部移管しておりましたが、その技術者に2人……艦隊の母港である浮遊島に人材交流で来ていた大学の研究員に2人……【アルバロンガ】のミサイル工場に2人……同盟国では、【グリフォニーア】の国営【ゴーレム】研究所に2人……などのスパイがおりましたが、いずれも防諜対策は万全でしたので、重大な機密は盗み出せなかったようです」
「それは、良かったですね」
「ところで、【魔力子反応炉】なるモノは有用な技術ですね?」
ソフィアとアルフォンシーナさんは、パスが繋がっていました。
ソフィアが見聞きした情報は、アルフォンシーナさんを通じて、すぐに竜城の関係者には連動されます。
「ええ。汎用性が高く、また、既存の技術の組み合わせである為に機構を理解すれば再現が容易ですからね」
「技術を全面的に公開なさるのだとか?秘匿し独占なさればよろしかったのではないかと愚考致しますが?」
【魔力子反応炉】は、既存の技術の組み合わせである為に、特許技術などではありません。
多少、加工精度を要する技術でしたが、技術を再現する能力があれば、誰でも自由に造れました。
しかし、【ウトピーア法皇国】が、そうしたように、その技術を秘匿し厳重に管理すれば、ある程度独占は行えると思います。
「【魔力子反応炉】は、軍事技術ではありません。民間技術として広めた方が文明の発展に寄与します」
「そうですね。世界全ての者を公平に見ておられる【神格者】のノヒト様に対して、つまらぬ事を申しました」
エズメラルダさんは、恥じ入るように頭を下げました。
「いいえ。面倒なので、他人任せにしたかったのですよ。技術公開をしてしまえば、以降、私には責任がありませんからね」
「ご謙遜を」
「本心ですよ」
「では、そういう事にしておきます」
エズメラルダさんは笑います。
・・・
ほどなくして、レジョーネのメンバーが平服に着替えて集合しました。
「寿司パーティーじゃーーっ!」
ソフィアがゆったりしたワンピース姿で現れます。
ソフィアの着ている服は、裾広がりのダボっとしたワンピースで、最上質のリンネルで織られていました。
しかし、チンチクリンのソフィアが着ると、幼稚園児の着るスモックに見えてしまうのは、致し方のないところ。
「おーーっ!」
ウルスラが言います。
「では、行きましょう」
私達は、寿司パーティーの会場の元ホテルの一室に設置した転移座標に向かって【転移】しました。
・・・
【ドラゴニーア】中心街。
コンパーニア従業員寮。
ここは、元高級ホテルなので、大きなバンケットルームがあります。
そこが、寿司パーティー会場。
私達が、一番乗りらしく、コンパーニアの従業員達は、まだいません。
当然です。
約束の時刻には、まだ1時間も早いのですから。
ほら、だから早過ぎると言ったではないですか?
バンケットルームの中央に大きな生簀があり、魚が泳いでいました。
その外側には、周回レーンが作られて、そこに寿司が回る仕掛けになっています。
その外側には、冷蔵テーブルがあり、そこにネタごとに大量の寿司が並べられる訳ですね。
その外周は、落ち着いて座れるテーブル席。
家族持ちのハロルドやイヴェットは、ここに陣取るのでしょう。
壁際は、板前さんと対面式のカウンター席でした。
正に寿司のテーマパーク。
まだ、開場時刻前。
準備の途中なのか、乙姫寿司の従業員の皆さんや、お手伝いに貸し出した【自動人形】・オーセンティック・エディション達が慌しく作業をしています。
ソフィアは、そんな事はお構いなしに、ズカズカと歩いて行って、乙姫寿司の親方ベアトリーチェさんに挨拶をしました。
「ベアトリーチェ。来たのじゃ」
ソフィアは手を挙げて言います。
「いらっしゃいませ、ソフィア様」
ベアトリーチェさんは、威勢の良い声で言いました。
「こんばんは。ベアトリーチェさん、今日は、よろしくお願いしますね」
「ノヒト様。こちらこそ、よろしくお願い致します」
「見慣れない方が何人かいらっしゃいますね?」
見ると、乙姫寿司の板前着とは違うデザインの板前着姿の人達がいます。
「はい。師匠の店から応援に来てもらいました」
「お師匠さんの?竜宮寿司?」
「はい。私の兄弟子と弟弟子、それから若衆達です。一生懸命に相勤めます。もう、何か召し上がりますか?それとも、皆様を、お待ちに?」
ベアトリーチェさんは、言いました。
「すぐ食べるのじゃ。早速、【クラーケン】が欲しいのじゃ」
ソフィアは、オラクルにハイ・チェアーを出してもらい、チョコンと座ります。
「ソフィア様。申し訳ありません。それが、八方手を尽くして探したのですが、【クラーケン】は入手出来ませんでした」
ベアトリーチェさんは、頭を下げました。
ソフィアは、ガ〜ン、という表情。
「な、何故じゃ?産地の漁師に直接頼むと言っておったではないか?」
「それが、【アトランティーデ】海は、ここのところシケ続きで水揚げがありません。【ガレリア】海も、何やら未知の魔物が出たとかで、周辺国から出港禁止命令が出ております。【タカマガハラ】海は例年より早く潮の流れが変わり【クラーケン】は時期終わりに入ってしまいました。ご期待に添えず、誠に申し訳ございません」
ベアトリーチェさんは、深く頭を下げました。
「ソフィア。ベアトリーチェさんのせいではないよ。自然が相手の漁なのだから、こういう事もあるさ」
「口も胃袋も【クラーケン】を迎える体勢だったのじゃ」
ソフィアは、肩を落とします。
私は、ソフィアをなだめすかしました。
しばらくして、ソフィアも、ないものは仕方がないと、気持ちを切り替えたようです。
もう、その時点で、玉子焼きと茶碗蒸しを大量に食べた後でしたが……。
そうこうしていると、ファミリアーレとコンパーニアの従業員達が現れます。
「「「ノヒト先生。こんばんは」」」
【狼人】のグロリア、【猫人】のアイリス、【犬人】のジェシカが声を揃えて言いました。
おや、いつもなら、いの一番に挨拶して来るハリエットが、3人の獣人娘の背後にいて、黙っていますね。
「こんばんは。板前さんの前に座るも良し、テーブル席でも良しだよ」
「「「わかりました」」」
「皆様、冷蔵テーブルにある握りの他にも、召し上がりたいモノがあれば、遠慮なく注文して下さいね」
ベアトリーチェさんは言います。
「「「は〜い」」」
グロリア、アイリス、ジェシカが元気良く言いました。
その後ろから、ハリエットがブツブツと呪文のような言葉を唱えながらついて行きます。
「ハリエット。どうしました?具合でも悪いのですか?」
「そうじゃ。目の下にクマなど作って、ハリエットらしくもない」
「あーーっ!話しかけないで下さいよ〜。せっかく暗記した魔物の特徴を忘れちゃう〜」
ハリエットは、眼を血走らせて抗議しました。
あー、明日テストだからですね。
まあ、頑張って下さい。
私はハリエットに【回復】と【治癒】をかけてあげました。
モルガーナ、ロルフ、サイラス、ティベリオとも順番に挨拶します。
彼らもテスト勉強を頑張っている様子。
「好きなものを、好きなだけ食べなさいね」
「ほーふぁ、はへへふぁほははふほ」
ソフィアは、玉子焼きで口いっぱいにして喋りました。
「何て?」
「ゴクンッ。たくさん食べねば、大きく育たぬのじゃ」
ソフィアは言います。
あ、そう言ったの。
「ノヒト先生。私、手作りで【ハイ・エリクサー】の生成に成功しました」
リスベットが、【収納】から瑠璃色に発光する液体が入った小瓶を取り出して言います。
「どれどれ……うん、完璧だよ。良く頑張りましたね」
私は、リスベットが差し出した【ハイ・エリクサー】を【鑑定】して言いました。
「やった〜っ!」
リスベットは、喜びます。
「リスベット。あなたクラス・アップしていますね?」
「はい。昨日の朝、気が付いたら、ステータス表示が変わっていました」
リスベットは嬉しそうに言いました。
リスベットの【職種】は、以前の【化学者】から【錬金術士】に変わっています。
また、【調合】の魔法も生えていました。
生産系や研究系の【職種】は、レベルに拠らず、熟練値だけでクラス・アップする事が可能です。
一足早く、ロルフは【鍛治師】にクラス・アップしていました。
とはいえ、熟練値を上げるのは大変なのです。
ロルフもリスベットも努力は並大抵のモノではない事がわかりますね。
本当に、私の弟子達は努力家です。
・・・
参加者が全員揃いました。
ソフィアが開会宣言をする為にバンケットルームのステージに上がります。
「皆の者。たらふく食べるのじゃーーっ!」
ソフィアが寿司パーティーのスタートを宣言しました。
早速、ソフィアとウルスラは、生簀の魚を調理してもらおうと、バンケットルームの中央に向かいます。
オラクルとヴィクトーリアが2人の後を追って行きました。
ファヴは、竜宮寿司の職人さんと何やらサウス大陸で獲れる水産物の評判などを聴きながら寿司を食べています。
リントとティファニーも、ウエスト大陸産の魚介類の情報を聴きながら食事。
私は1人でゆっくりとベアトリーチェさんの握る寿司を肴に熱燗をキュッと。
美味い。
・・・
お任せの握りも一回りした頃、寿司食べ放題の冒険を終えたソフィアとウルスラが、私がいる所に戻って来ました。
「うむ。あの板前の包丁捌き、ソフィア流戦闘術に活かせるかもしれぬ。手首を効かせて、トンッ、と骨を断つ。寸分狂わず、骨の継ぎ目を捉えておったのじゃ」
「ソフィア様。私、ホタテのバター焼きをお代わりしたい」
「我の【宝物庫】に焼き立てが入っておるぞ。ホレ」
「ありがとう〜」
姦しい2人です。
「ところで。先程の、お話の未知の魔物とは?」
私は、ベアトリーチェさんに訊ねました。
「はい。今、河岸は、その魔物の噂で持ちきりですよ。何でも、巨大なクジラの群らしく。【リーシア大公国】の潜水漁船団が深海で発見したのが、最初だそうです。50mほどのクジラが100頭ほど……1頭は、一際巨大で、全長100mほどあるそうです。【リーシア大公国】の海軍が出動して駆除を試みたところ、反撃されて、甚大な被害を受けたのだとか。それ以来、一帯の海域は、航行禁止です」
「クジラの魔物と言えば【レヴィアタン】ですが……。アレは、固有種で群などは存在しませんし、100mは巨大過ぎます。第一、【レヴィアタン】は【エリュシオン】の湖の主ですしね。【ガレリア】海に現れる事などあり得ません」
【レヴィアタン】は南東の島【エリュシオン】を守る【神格】の守護獣。
セントラル大陸とウエスト大陸の間にある【ガレリア】海には、いるはずがありません。
「はい。確か人語を喋るとか……」
ベアトリーチェさんは、少し疑わしげな表情で言いました。
「言葉を喋るなら相当に知性が高い魔物ですね?何と喋ったのですか?」
「一番大きなクジラが名前を名乗ったそうです。確か……アドム・イラル・シャムル・オック……とか。何だか、不気味な名前ですよね。漁師達は【呪いのクジラ】と呼んでいるそうです」
アドム・イラル・シャムル・オック。
聞いたことがない名前ですね。
名持ちの魔物ですか……。
「おのれ。そのアドム・イラル・シャムル・オックなるクジラのせいで、我は【クラーケン】が食べられぬのじゃな?許さぬ。我が行って、退治してやるのじゃ。ノヒト、明日行って成敗してやろう」
ソフィアが言いました。
食べ物の恨みは怖いですからね。
特に、ソフィアの場合は。
「ソフィア。スケジュールが立て込んでいますから、行きませんよ」
「ぐぬぬ……我の【クラーケン】が……」
「まあ、【リーシア大公国】が困っているようなら、その内、【ドラゴニーア】に支援要請が来るでしょう」
・・・
私達は、寿司を心行くまで堪能しました。
寿司は、綺麗になくなっています。
というか、残ったモノは、皆の、お土産にしたり、私が【収納】に回収したのですけれどね。
「ベアトリーチェさん、今日はありがとうございました」
「お粗末様でございました。次回、10月25日の店への、ご予約と、11月4日の寿司パーティー、張り切って握らさせて頂きます」
私達は、既に、次回の予約を入れていました。
10月25日は、レジョーネとファミリアーレで乙姫寿司。
予約客のキャンセルがあったらしく、幸運にも予約が取れました。
11月4日は、定休日に、また、このバンケットルームでベアトリーチェさん達に出張をしてもらい、寿司パーティーを開催します。
定休日に申し訳ないのですが、私は、料金の他に、職人さん達一人一人に、かなりの、ご祝儀を弾んでいますので、むしろ喜んでくれているみたいでした。
とにかく、いつも頑張って働いてくれている従業員の福利厚生の為ですから、食事会は頻繁にやりましょう。
竜都以外の各支店や工場も予算を計上していますので、それぞれ食事会は行われています。
極端な事を言えば、私は、顧客より、従業員の方を大切にする経営者なのですよ。
お読み頂き、ありがとうございます。
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・・・
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