第260話。ヴィンチェンツォ・パンターニ。
名前…ピルエット・ルミナス
種族…【ハイ・ヒューマン】
性別…女性
年齢…50歳
職種…【魔導剣士】
魔法…多数
特性…【才能…攻撃力A、攻撃魔法」
レベル…75
当代の勇者。
【ガレリア共和国】出身。
グリモワール艦隊旗艦【スキーズブラズニル】。
私は、グリモワール艦隊の旗艦【スキーズブラズニル】の艦橋にいました。
以前【スキーズブラズニル】に設置しておいた転移座標に【転移】して来たのです。
現在、【スキーズブラズニル】を始めとするグリモワール艦隊は、【ウトピーア】の南西部の軍事施設を順番に武装解除させつつ【トゥーレ】を目指していました。
抵抗らしい抵抗はなし。
抵抗した者は、瞬時に無力化されています。
グレモリー・グリモワールは、【ウトピーア】軍の機械化兵装の致命的な弱点を突いて、無双していました。
【ウトピーア】軍の機械化兵装の回路基板は、荷電魔法触媒を用いています。
荷電魔法触媒は、この世界では、最も一般的な魔力伝導方式ですが、外部からの干渉に弱い性質がありました。
端的に言えば、強力な魔法を使えば簡単に乗っ取られてしまうのです。
なので私は、自作の【自動人形】には、事実上、外部からの干渉が不可能なミスリル有線方式を選択していました。
事実上とは……【超神位魔法】ならば可能ですので。
【大死霊術師】であり【才能……完全管制】を持つグレモリー・グリモワールは、【操作・管制】系魔法の世界最高のエキスパート。
荷電魔法触媒を基幹部にした戦車や航空機から制御を奪うくらいの作業は造作もありません。
とはいえ、【管制】の限界数は1万以下。
10万両の魔動戦車を全て操るのは不可能だったのでしょう……開戦直後は、多少苦戦していたようです。
まあ、苦戦といっても、時間の問題で、グレモリー・グリモワールが押し切って勝ったでしょうが……。
なので、私が少し、情報を……。
グレモリー・グリモワールに、ウッカリ【ウトピーア法皇国】軍の機械化兵装の弱点その2を話してしまったのです。
いや〜、ウッカリだなぁ〜。
あくまでもウッカリですよ。
私は国家紛争には不介入という中立の立場なのですからね。
「ノヒト、あんがと。助かったよ」
グレモリー・グリモワールは言いました。
「グレモリー。ゲームマスターは、国家紛争には介入しません。つまり、私は、あなたの事を助けたりはしていません。良いですね?」
「あ、そういう体裁だったね。了解、了解」
グレモリー・グリモワールは笑います。
「さてと、【トゥーレ】上空まで、【転移】しましょう。良いですね?」
「オッケー。やっておくれよ」
グレモリー・グリモワールは、鷹揚に言いました。
私は、グリモワール艦隊ごと【トゥーレ】上空に【転移】します。
・・・
聖都【トゥーレ】。
「1億人の奴隷?私を呼んだ理由って、もしかして、その解放奴隷を運ぶ為?幾らグリモワール艦隊でも、1億人は無理じゃね?1千往復とかしなくちゃだよ?」
グレモリー・グリモワールは言いました。
「解放奴隷を運ぶのは私がやります。グレモリーには、私達が【サントゥアリーオ】に1億人の解放奴隷を輸送している間、【トゥーレ】上空で睨みを利かせておいて欲しいのです。明日1日だけの話です」
「神の軍団がいるじゃん。800頭……レーダーに映ってるんですけれど?」
「神の軍団は、これから移動して国境を警備します。【ウトピーア】は、現在、主権が凍結された無防備な武装解除国家です。【ブリリア王国】は交戦規定に基づいて戦争を行なっていますので占領する権利がありますが、【ウトピーア】と国境を接する、もう1か国の【ガレリア共和国】が、【ウトピーア】の国境を脅かそうとしていますからね。ややこしいので、そちらの牽制をしなければいけません。それと、もう1つ……グレモリーには、いわば占領軍司令官として振舞ってもらいます。【ウトピーア】の国民に、戦争に負けた事をハッキリ理解させた方が、従順になって扱いやすくなりますからね。グリモワール艦隊が【トゥーレ】の上空を制圧した、という形が必要なのです」
「あ、そう。まあ、借りは早めに返しておきたいから、やるよ。【ガレリア共和国】の牽制が必要なら、いっそのこと、鹵獲した兵器類も【ウトピーア】に返還しようか?」
「そうですね。自衛の為の武装は返しても良いですね。ただし、まだ早いですね」
「捕虜と兵器の返還は、身代金を別途要求するよ」
「それは、【ウトピーア】の暫定政府と下交渉して下さい。来年初頭に、正式政府が発足したら、条約に調印する方向になるのでしょう」
「停戦の段取りは、ノヒトが主導しているんじゃないの?」
「私は、関係ありませんね。リントとティファニーが事後処理を取り仕切っています」
「誰それ?」
「ああ、ウエスト大陸の守護竜【リントヴルム】と、【リントヴルム】聖堂の首席使徒ティファニー・レナトゥス法皇ですよ。後で、紹介します」
「【リントヴルム】……無事、引きこもりから復活したんだね?」
「はい。【サントゥアリーオ】は、段階的に開国して行きますよ」
「そっか。それは……ありがとう、って言うか、おめでとう、って言うか、とにかく、ご苦労様だったね」
「いえいえ。職責ですから」
「【サンタ・グレモリア】から【サントゥアリーオ】に街道を繋げたいね」
「構いませんよ。【神位結界】は当面維持しますが、東西南北の国境に関所を設けますので、西の関所まで街道を通して構いませんよ」
「言質取ったよ。それから……航路ギルドの運営する定期飛空船は、どうなる?今までは、【神位結界】で弾かれてたって話だけれど?」
「今、どうにかして【神位結界】の定期飛空船が通過する場所に開口部を作れないか、と考え中です。それまでは、定期飛空船の乗り入れは、不可能でしょうね」
「あ、そう。まあ、【神位】の【結界】をどうにかするなんて、【神格者】にしか出来ないんだから頼むよ。このままだと不便だからね」
「何とかします。グレモリー、とりあえず【トゥーレ】の中央聖堂に転移座標を設置してはどうですか?」
「なら、そうさせてもらうよ」
私とグレモリー・グリモワールは、【トゥーレ】中央聖堂に【転移】しました。
グレモリー・グリモワールは、すぐに礼拝堂へ転移座標を設置します。
後でグレモリー・グリモワール陣営にいる5人の【転移能力者】も【トゥーレ】中央聖堂に転移座標を設置しに来る事になりました。
・・・
夕食。
【ウトピーア】時間では少し早いですが、【ドラゴニーア】標準時では、もう夕食時。
ソフィアが煩いので、私達は、グレモリー・グリモワールと、エクストリア達も交えて夕食を食べる事にしました。
メニューは、【氷竜】料理。
私は、【ウトピーア】の魔法関連資料を当たりながら食べられる、【氷竜】のステーキ・サンド。
他の者達は、ソフィアの希望で、【氷竜】の、すき焼きを食べています。
私は資料をめくりました。
【魔力子反応炉】の開発主任研究員は、ヴィンチェンツォ・パンターニ……。
ふむふむ。
ん?
どこかで聞いた事があるような?
思い出せません。
「ミネルヴァ。ヴィンチェンツォ・パンターニとは誰ですか?」
私は、スマホをオープン通話にしてミネルヴァと話します。
リントやティファニーにも聞かせる為にでした。
「同姓同名の人物が何人かヒットしましたが、おそらく、【スヴェティア】の魔法都市【エピカント】出身の【賢者】ヴィンチェンツォ・パンターニの事かと。ヴィンチェンツォ・パンターニは、【ウトピーア】の【魔力子反応炉】によく似た機構の開発を行い、拉致監禁した人種を使い実験をしていた罪で【スヴェティア】政府から逮捕され、死刑判決を受けました。その後、特赦を受け死刑執行は免れたものの、失踪し行方不明になっています」
「なるほど。【エピカント】の技術者が【ウトピーア法皇国】に技術協力していたのですね」
「ねえ、ヴィンチェンツォ・パンターニって言った?」
グレモリー・グリモワールが訊ねます。
「ええ、ヴィンチェンツォ・パンターニなる者が、【魔力子反応炉】の設計者のようです」
「それって罪になるの?」
「いいえ。【魔力子反応炉】自体は、合法的なシステムですよ。既存の技術の組み合わせですので。奴隷を使い、強制的に魔力を収奪するという運用法が違法なだけです。つまり、設計者のヴィンチェンツォ・パンターニは、それだけなら罪にはなりません。奴隷を使用するなどの運用に関わっていれば話は変わってきますが」
「あ、そう……。あのね、そのヴィンチェンツォ・パンターニって人……ピオさんの、お父さんだよ」
ピオさんは、世界銀行ギルド副頭取です。
「なるほど」
「今、ヴィンチェンツォ・パンターニがどこにいるか、わかる?」
グレモリー・グリモワールが訊ねました。
「エクストリア。ヴィンチェンツォ・パンターニは、現在、どこにいますか?」
エクストリアは、周囲にいる【女司祭】達に訊ねます。
慌てて、【女司祭】の1人が記録の照会に向かいました。
「グレモリー。ヴィンチェンツォ・パンターニがいたら、ピオさんに引き合わせるのですか?」
「いや、とりあえず見つけたって伝えるだけ。会うかどうかは、ピオさんに任せるよ。ヴィンチェンツォ・パンターニのやった事で、ピオさんの家族は、一家離散みたいな状態になって、ピオさん自身も相当苦労したんだよ。会いたくないかもしれないしね」
なるほど。
・・・
夕食後。
私達は、相変わらず残務処理。
ヴィンチェンツォ・パンターニの記録を照会に行った【女司祭】が戻って来ました。
資料を開示します。
ヴィンチェンツォ・パンターニ……死亡。
死因……病死。
「これ……どう思う?」
グレモリー・グリモワールが微妙な表情で訊ねました。
どうやら、私と同じ事を考えているようです。
「確認したいですね」
「やっぱり、そうだよね?私も、そう思う」
私とグレモリー・グリモワールは、ヴィンチェンツォ・パンターニが眠る墓地に向かいました。
花を手向けに行くついでに、死体を確認に……。
アニメなどでは、死亡を偽装して別人に成りすました者が陰謀の黒幕になっていた、なんていうオチが良くありますからね。
一応、確認しておこう、という考えです。
・・・
【トゥーレ】国立墓地。
私達は、リントとティファニーとファヴを【トゥーレ】中央聖堂に残して、他のメンバーで移動して来ました。
ソフィアやウルスラには、関係のない話なのですが、行きたいと言うので連れて来たのです。
結果、ヴィンチェンツォ・パンターニは間違いなく死亡していました。
埋葬されている人種の遺体に脳と中枢神経が付いている場合、もはや他で復活している可能性はありません。
私とグレモリー・グリモワールは、死者に祈りを捧げます。
ヴィンチェンツォ・パンターニは、【ウトピーア法皇国】で再婚していました。
前妻(ピオさんの母親)との離婚も成立させずに失踪していた為に、再婚と呼べるかは、ともかく、死の直前パートナーとなる女性がいて、その女性との間に娘も設けていたのです。
「ピオさんに伝えるよ。会いたくないかもしれないけれど、一応、ピオさんにとっては、血を分けた妹さんなんだし」
グレモリー・グリモワールは言いました。
「そうしてあげて下さい」
ふと、見ると、ソフィアがオラクルに抱かれています。
これは、眠いというサイン。
ウルスラは、ヴィクトーリアの手の中で、もう眠っています。
さてと、今日は、ここまでにしましょうか……。
「グレモリー。艦隊は、【自動人形】・シグニチャー・エディションのクルー達に任せておけば良いでしょう。私も、今夜は【トゥーレ】に張り付いています。あなたは、一度【サンタ・グレモリア】に戻ったらどうです?」
「あー、なら、そうさせてもらおうかな」
グレモリー・グリモワールは、手を組んで伸びをしながら言いました。
「はい。そうして下さい」
・・・
【トゥーレ】中央聖堂。
私達は【トゥーレ】中央聖堂に戻りました。
グレモリー・グリモワールは艦隊クルーの【自動人形】・シグニチャー・エディション達に指示を出しています。
それが済むと、グレモリー・グリモワールは、数人を引き連れて、【サンタ・グレモリア】に【転移】して行きました。
すぐに、グレモリー・グリモワールから……無事到着……の【念話】が届きます。
報告を寄越すなんて、律儀ですね。
まあ、グレモリー・グリモワールは、私ですから、自分ならこうして欲しいと思う事をしてあげれば、ほぼ相手の要望は叶えられる訳です。
ソフィアも寝落ち。
オラクルとヴィクトーリアがソフィアとウルスラを連れて、【ドラゴニーア】に【転移】して行きました。
無事到着した事は、ソフィアの脳に共生する知性体フロネシスを通じてわかります。
リントとティファニーは、【ウトピーア】の今後について暫定政府と会議をする必要があり、今日は徹夜。
ファヴは、今夜はリントに付いていてあげるつもりのようです。
エクストリアは、さすがに眠るのだ、とか。
彼女は、まだ9歳ですから、仕方がありません。
子供は、寝かせなければいけませんからね。
トリニティ……キリが良いところで切り上げて、今日は帰還して休んで下さい。
私は、トリニティに【念話】で伝えました。
仰せのままにいたします。
トリニティが【念話】で答えます。
それから20分ほど経って、トリニティは【ドラゴニーア】に戻ったようでした。
私は、中央聖堂の窓から【トゥーレ】の街を見下ろします。
【トゥーレ】が、何だか少し弛緩した空気に変わったように感じるのは、私の気のせいでしょうか?
お読み頂き、ありがとうございます。
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