第258話。〇〇牧場。
チュートリアル後。
名前…クサンドラ
種族…【人】
性別…女性
年齢…38歳
職種…【剣達人】
魔法…【闘気】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】
特性…【才能…剣技、調整】
レベル…58
世界冒険者ギルドNo.2のサブ・グランド・ギルド・マスター。
クインシーの妻。
【トゥーレ】中央聖堂。
貴賓室。
私達に対して、【ウトピーア法皇国】側から、饗応が始まりました。
豪華絢爛たる料理がテーブルに並べられます。
【ドラゴニーア】と【トゥーレ】は時差があるので、ちょうど今、こちらではランチタイムですからね。
しかし、買収工作には乗りませんよ。
ソフィアとウルスラが料理に、ソーっと、手を伸ばそうとしていました。
「こらっ、ソフィア、ウルスラ。査察対象からの利益供与は認められませんよ。食べるなら、自分の【宝物庫】にストックしている食べ物を取り出して食べて下さいね」
私は、キツ目に釘を刺します。
「わかったのじゃ」
ソフィアは手を引っ込めて、大量の、おにぎりを取り出して、パクつき始めました。
「は〜い、わかった」
ウルスラは、すぐに自分の【宝物庫】からホール・ケーキを取り出します。
トリニティ……【ワールド・コア】ルームから【コンシェルジュ】を20体ほど連れて来て下さい。
私はパス通話で伝えました。
仰せのままに。
別行動を取っているトリニティがパス通話で答えます。
それと前後するように今度はミネルヴァから報告がありました。
チーフ……分析結果をスマホにデータで送りました。
ミネルヴァが【念話】で伝えて来ます。
ありがとう。
私は、【念話】で礼を伝えました。
私が送った調査データを元に、ミネルヴァが【ウトピーア法皇国】の世界の理違反が何であるかを推測して、私のスマホにデータ送信してくれたのです。
さすがミネルヴァ、仕事が早い。
どれどれ……。
なるほど。
報告の内容を確認した結果……証拠隠滅を図る事は事実上不可能……と考えて、とりあえずは保留。
リントが、【ウトピーア法皇国】の政治体制や、覇権主義、【人】至上主義……などについて糾弾している間に、私は、他の仕事を片付けてしまいましょう。
私は、【ウトピーア法皇国】が自主的に提出した査察関連資料を当たりました。
パラパラパラパラッと。
なるほど。
軍機や極秘という赤文字のスタンプが資料の全ページに押されています。
これらの資料は、【アンサリング・ストーン】によって、正確なモノだという証明がされていました。
おっ!
面白いモノをみつけました。
【ブリリア王国】攻撃作戦実施要綱。
名称……注射器作戦。
本作戦は、航空機に近接航空支援させながら戦闘車両による縦深突撃を敢行し、敵前線を突破、敵後方にある指揮系統を一気に破壊する事を目的とする。
第1目標は【ノースタリア】。
第2目標は【イースタリア】。
投入戦力。
歩兵100万人。
航空機5千機。
魔動戦車10万両。
装甲戦闘車両5万両。
【魔導砲】5千門。
炸薬式重砲5千門。
炸薬式機関砲5千門。
ふむふむ、なるほど。
これは、地球では電撃戦と呼ばれていた戦術に似ていますね。
注射器作戦ですか。
敵前線に小さな孔を穿って突入し敵後方を一気に叩く、という事を注射器で薬剤を直接皮下に送り込む事になぞらえているのでしょう。
戦力の中で【神の遺物】は【魔導砲】5千門だけで、後は、【ウトピーア法皇国】が開発・製造した兵器ですね。
【ウトピーア法皇国】の製造した兵器のカタログ・スペック的には、火力はそこそこ……装甲はボチボチ……。
10万両の魔動戦車という兵器が主力兵装のようです。
10万両ですか……数だけは揃えましたね。
しかし、この資料を見るだけでも【ウトピーア法皇国】の機械化兵器類には、どれも致命的な弱点があります。
技術力不足で、このレベルが限界なのでしょうね。
魔法工学的に、まるで、なっていません。
まあ、弱点がなくても、レジョーネの敵ではないのですが……。
【砲艦】などは保有していないのでしょうか?
ああ、別の資料にありました。
【砲艦】は、500隻。
全て【トゥーレ】の防空任務に配備されていますね。
やはり、性能と信頼性が高い【神の遺物】の兵器は首都防衛に当たらせるのですね。
前線の将兵は死んでも代わりがいる……という意味なのでしょうか?
【砲艦】の運用稼働率は5割ほど。
整備技術も未熟なようですね。
【ドラゴニーア】は、実戦配備されているモノだけで1万隻の【砲艦】が運用されており、稼働率は9割以上あります。
その、ほとんどが艦載機。
【ドラゴニーア】は、最前線の将兵の装備をケチりません。
また、【砲艦】は、竜城の亜空間倉庫にも、ストック分の【砲艦】が運用中の数と同数あるそうです。
ほとんどが900年前に【ドラゴニーア】政府が、ユーザー達から買い集めた【砲艦】ですね。
グレモリー……今、大丈夫ですか?
私は、グレモリー・グリモワールに【念話】を送りました。
何?……今、手が離せないんだけれど?
グレモリー・グリモワールが【念話】で応えます。
【ウトピーア法皇国】軍の機械化兵装は、荷電魔法触媒を基幹部に使用していますよ……あなたなら、制御を奪えるでしょう?
私は、グレモリー・グリモワールに【念話】で伝えました。
知っているし、やっているよ……以前に【ウトピーア法皇国】軍の装甲戦闘車を調べたからね……でも数が多過ぎて……ちっ、被害は?……怪我人は地下壕に退避させて!……あのさ、私、今、超忙しいんだよ。
グレモリー・グリモワールが【念話】で言います。
【ウトピーア法皇国】軍の機械化兵装は、指揮車両が指揮下の10両ほどの戦闘車両を管制しています……指揮車両の制御を奪えば、その指揮下10両も無力化出来ますよ。
私は、グレモリー・グリモワールに【念話】で伝えました。
マジで、良い事を聞いたよ……よーし、打って出るよ!……ノヒト、あんがと……それじゃ、私は忙しいから、じゃあね。
グレモリー・グリモワールが【念話】で言います。
うん。
あれだけの情報があれば、グレモリー・グリモワールなら、上手くやるでしょう。
ゲームマスターは、国家紛争には不介入が原則ですが……。
まあ、あのくらいは、私が後でミネルヴァに叱られておけば良いでしょう。
その時……。
【コンシェルジュ】20体が【転移】して来ました。
いや、正確に言えば、トリニティが20体の【コンシェルジュ】を連れて、【転移】して来た、と言うべきでしょう。
しかし、【完全認識阻害】の兜【アイドス・キュエネー】を被っているトリニティの姿は【ウトピーア法皇国】側の人間には認識出来ないので、あたかも【コンシェルジュ】達が【転移】して来たように見える訳です。
トリニティ……ありがとう。
私は、トリニティに思念で伝えました。
ノヒト様……では、私は任務に戻ります。
トリニティが思念で答え【転移】します。
「地下施設に5体を送り、オラクルとヴィクトーリアの任務を引き継ぎなさい。残りは3体5チームに分かれて、中央聖堂と【トゥーレ】の兵器工場と研究所の査察を行いなさい。抵抗されたら対象の無力化を許可します。攻撃されたら対象の殺傷を許可します」
私は、【ウトピーア法皇国】側の首脳陣に聞こえるように指示をしました。
「「「「「畏まりました」」」」」
【コンシェルジュ】達は、速やかに行動を開始しました。
私はスマホをかけます。
「オラクル、ヴィクトーリア。そちらに【コンシェルジュ】が到着したら任務を引き継ぎ、あなた達2人は、こちらに合流して下さい」
私は、スマホのチャット通話で、2人に伝えました。
「「畏まりました」」
オラクルとヴィクトーリアは完璧なシンクロ率で答えます。
さてと。
ミネルヴァからの報告です。
謎の地下施設(【闘技場】)の体積は300万立方m。
そこに、みっしりと詰め込まれた魔力吸収ユニット30万セット。
【高位吸収】を調整して、5分間で1個体の魔力を【吸収】し尽くすように設定してあります。
【闘技場】の死亡・復活ギミックで、次の5分間で移動して魔力吸収ユニットに戻る、と。
つまり、1ルーティンが10分。
24時間なら、144回繰り返す事になります。
NPCの魔力量を、ユーザーの半分だと単純に考えれば、1人辺り1日72単位の魔力が搾り取れますね。
それが30万人分で……2160万単位。
ここから、【高位吸収】や【睡眠】などを発動させたり、ユニットの制御系に消費する魔力コストを差し引くと……。
日毎で、おそらく2千万単位ほど。
私達が査察した、【ウトピーア法皇国】側が【魔力子反応炉】と呼ぶ施設の出力は、日毎2千万単位なのです。
おかしいのです。
計算が合いません。
ミネルヴァは、当初、日毎10億単位の魔力反応を、あの地下施設から感知していました。
そして、私達が査察に入った後、発生出力が50分の1に減少しています。
うん。
10億単位の50分の1で、2千万単位。
帳尻が合いましたね。
つまり、あの【闘技場地下施設の、さらに地下にあった地下街と思しき場所には、日毎9億8千万単位分の魔力発生源が存在しているはずです。
そこでも、【闘技場】にある【魔力子反応炉】と同じ物が使用されていると仮定するなら、1500万人ほどの人種が【闘技場】と似たような事をさせられているはずですよね。
いいえ、それでは全然人数が足りません。
何故なら、【闘技場】のエリア外にある【魔力子反応炉】は、死亡・復活ギミックはありません。
魔力を吸い尽くされて死んだら、復活出来ないのです。
NPCの魔力は、概ね1日で満タン量に回復するはずですから、1500万人の144倍の人数が必要。
20億人!
あの地下施設の、さらに地下には、20億人がいて交代で、毎日毎日、魔力を【吸収】されているのでしょうか?
あり得ないような数ですが、そうでなければ計算が合いません。
まあ、魔物の生体反応も多数ありましたから、魔物からも魔力を吸収して利用しているのだと思われます。
恐らく、魔力を吸い尽くされて死なない程度ギリギリで【吸収】が止まるように調節されているのでしょう。
幾ら何でも、毎日20億人もの人達を殺していたら、人的資源が、あっという間に枯渇してしまいますからね。
そして、この人達は【闘技場】の人達のように自発的に魔力を提供している訳ではありません……たぶんですが……。
何故なら【闘技場】の外では、魔力を吸い尽くされて、事故で死ぬリスクがあるからです。
そんなリスクのある仕事を、普通の人達がやりたがる訳はありません。
強制労働……つまり奴隷でしょうね。
つまり、【闘技場】の【魔力子反応炉】施設の地下には、もう一つ、さらに巨大な【魔力子反応炉】施設があるのです。
【闘技場】の【魔力子反応炉】の50倍の規模の【魔力子反応炉】。
最大で20億人もの奴隷による魔力吸収施設。
こちらが本命。
これが、ゲームマスターの査察から、【ウトピーア法皇国】が隠蔽したかったモノ。
奴隷からの魔力搾取施設。
つまり、人間牧場です。
【ウトピーア法皇国】……クズ以下ですね。
絶対に許しませんよ。
その時、ミネルヴァの推定を裏付ける報告がありました。
トリニティが【闘技場】の、さらに地下から、とうとう証拠を見つけたのです。
結論から言えば、奴隷は20億人もいませんでした。
人種の数は1億人ほど。
それでも断じて許せない事には違いありません。
【ウトピーア法皇国】の戸籍上の人口に匹敵する人数です。
足りない分のNPC19億人分の魔力は、大量の魔物で代用していました。
【高位】の魔物、100万頭を【魔力子反応炉】に繋ぎ、眠らせっぱなしにしていたのです。
栄養はチューブで直接体内に送り込むシステムになっていました。
人工授精と人工孵化で数を増やしているようです。
まあ、魔物の隷属の方は、世界の理、には抵触しませんので、ゲームマスターの介入案件ではありません。
【ウトピーア法皇国】の罪状は、1億人の奴隷化と、【人】至上主義、という事になります。
グレゴール枢機卿は……万民は平等で、神は人の優劣に区別を設けてはいない……などと言っていました。
奴隷を使っていながら、何を言っているのでしょうか?
まさか、奴隷になっている人達に人権はない、とでも言いたいのでしょうか?
二重規範は、許せません。
・・・
私が【ウトピーア法皇国】の鬼畜の所業に怒りを噛み殺している頃、貴賓室では議論が白熱していました。
リントが、【ウトピーア法皇国】に対して、ウエスト大陸の守護竜として命じているのです。
【ウトピーア法皇国】側は、聞く耳を持ちませんが……。
「国号を【ウトピーア】に戻しなさい。ウエスト大陸の守護竜として命じます」
リントが言いました。
「承服致しかねます」
グレゴール枢機卿が答えます。
「あなた達、6人の枢機卿は、国外追放とします」
リントが言いました。
「拒否致します。従う義務がありません」
グレゴール枢機卿が言います。
さてと、そろそろ良いでしょう。
「リント。もう良いよ。時間の無駄。無意味だよ。この人達はリントを信仰していないんだから話なんか通じない」
もう、ネタは出揃いました。
私の裁定ターンの始まりです。
「しかし……」
「心配いらないよ。私がやるから。現時点で【ウトピーア法皇国】は終わり。滅亡させる。枢機卿6人、あなた達を、世界の理違反で拘束し、追って死刑より重い罰を与えます。【超神位魔法……昏睡】」
私は、枢機卿6人を昏倒させました。
枢機卿6人は、【神の遺物】のアイテムによる【バフ】も虚しく、バタリ、とその場に倒れます。
彼らの不遜な態度と自信の源泉は、【神の遺物】のアイテムによる【バフ】。
その程度の【バフ】で、私に対抗出来ると思うなんて、身の程知らずもよいところ。
貴賓室にいたレジョーネ以外の者達は、【高位】の魔法職であり、また、【神の遺物】のアイテムによって守られていた6人の枢機卿が呆気なく無力化された事に戦慄していました。
「エクストリア。君と、【ウトピーア】国民がリントに恭順し、リントの庇護下に入るなら、過去の罪は、この枢機卿6人に責任を取らせて、国民の責任は不問に付します。君と国民がリントに従わず、リントの庇護を受けないなら、国民全員で【魔界】に移住してもらいます。【魔界】でルシフェルの管理下に入り暮らしてもらいます。どちらかを選んで下さい」
「【魔界】?ルシフェル?」
「【魔界】とは、5大大陸の真裏にある、別の大陸群ですよ。つまり遠くの外国です。そこには守護竜はいませんので、あなた達がリントに祈らないとしても、何ら問題はありませんからね。あなた達【ウトピーア法皇国】の国民が【ウトピーア】に残りたければ、リントに恭順し、リントの庇護下に入る事。これが絶対条件です。その条件を飲まないなら、【ウトピーア】から……いいえ、守護竜達が庇護する全ての領域から出て行ってもらいます。【ウトピーア法皇国】の国民の立ち入り禁止命令をゲームマスター権限で全世界の政府に通告します。あなた達に拒否権はありません。従わないのなら、不本意ですが、武力を用いて従わせます」
「り、理由を聞かせて頂きたい。何故、そのような無体な事を仰るのか?」
エクストリアが言います。
「ちっとも無体ではありませんが……まあ、良いでしょう。罪名を告知します。1つ、人道に対する罪による、世界の理の違反。1つ、【人】至上主義という種族差別思想による、世界の理の違反です」
「我々には、思想信条の自由というモノがあるのでは?」
「いいえ。残念ながら、その理屈は通りません。あなた達が【人】至上主義を標榜する自由は、【人】以外の人種の自由を侵害して成立しています。他人の自由を侵害する自由などというモノは存在するはずがありませんし、もちろん誰にも認められないのです。従って、【ウトピーア法皇国】の【人】至上主義は犯罪であり、世界秩序に対する悪意ある挑戦。断じて認めません。さあ、エクストリア。今夜の……日付変わって明日午前0時までに決断して下さい。逃げても無駄ですよ。【ウトピーア法皇国】の国民は世界中に指名手配されます」
「人道上の罪とは何ですか?茫漠としています。具体的な事例と証拠を明示して下さい。そうでなければ納得出来ません」
エクストリアは、地下の人間牧場の事は知りません。
【アンサリング・ストーン】による取り調べを行った時に、エクストリアは黙秘をしていませんでした。
彼女は、知っている事は全て話しています。
つまり、お飾りの名誉職であるエクストリアには、世界の理に違反する国家機密は何も知らされていないのでしょうね。
知りたいのならば、教えてあげましょう。
「はい。もちろん、責任者のあなたには、今から見せてあげますよ。一緒に来て下さい」
私達は、例の地下施設に、向かいました。
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