第255話。勇者?
名前…【リントヴルム】、リント
種族…守護竜
性別…雌
年齢…なし
職種…【領域守護者】、ウエスト大陸守護竜、【サントゥアリーオ】庇護者・国家元首
魔法…【闘気】、【収納】、【鑑定】、【マッピング】など。
特性…飛行(守護竜形態時)、ブレス、【神位回復・神位自然治癒】、人化、【才能…転移、天意、天運】など。
レベル…99(固定)
【ドラゴニーア】竜城。
大広間。
昼食後。
剣聖一行への【収納】、【鑑定】、【マッピング】の説明は、レジョーネとファミリアーレのメンバーが懇切丁寧に教えていてくれていたようで、私から改めてアドバイスする事は何もありませんでした。
剣聖は、対峙する相手の使用する魔法や【能力】や装備品のギミックまでわかる【鑑定】の戦闘での有用性に舌を巻いています。
クサンドラさんは、【収納】の便利さに素朴に感心していました。
フランシスクスさんは、【マッピング】機能の戦術的価値に感動しています。
「ソフィア様から聞きましたよ。【ウトピーア法皇国】に査察に入るんですって?」
剣聖は、私に小声で言いました。
ソフィアのヤツ……査察の予定をバラしてどうする。
査察は抜き打ちでなければ意味がないのですからね。
「はあ、ソフィアが喋ったのですか……まったく」
「心配しなくても良いですよ。俺らは、守秘の【契約】を結ばされたんでね。それに、冒険者ギルドとしても【ウトピーア法皇国】のやり方には、言いたい事は山ほどある。連中の【人】至上主義は異常だ。ノヒト様が、ギッチギチに締めてくれるなら、歓迎すべき事ですよ。俺の分も思いっきり暴れて来て下さいよ」
剣聖は、片目を閉じて見せました。
ハンサムがやると、こんなキザな仕草がハマるから、ムカつきます。
キラーンッ、て、音がしそうなハンサム・スマイルでしたよ。
まあ、同性のウインクにトキメク趣味はありませんが……。
「まあ、暴れるなら規定に基づいて必要があれば……ですね。確固たる証拠があるか、さもなければ、自分の目で見る前には、あらゆる先入観は持たないようにしています」
「ま、公明正大な神様なら、そうだろうな。とにかく、あいつらは、何か、やましい事をしている。それだけは間違いない。それが何かはわからないがな」
剣聖は、急に真面目な顔で言います。
「わかりました。注意して調べましょう」
「世界の為に、よろしく頼みます」
私は、3人を【アトランティーデ海洋国】の世界冒険者ギルド本部に【転移】で送って行きました。
・・・
【アトランティーデ海洋国】。
世界冒険者ギルド本部。
「ノヒト様。実は1人面白いヤツがいる。今度、紹介したいんだが?」
剣聖が突然言いました。
「誰ですか?」
「名前は、ピルエット・ルミナス。【ガレリア共和国】出身で……当代の【勇者】だ」
【勇者】?
何ですか、それは?
そんな設定はゲームにはありませんでした。
「【勇者】?世界の理にはない【職種】ですね?」
「ああ、まあ【称号】の類だな。ピルエット達は、【竜】討伐実績もある【ドラゴン・スレイヤー】パーティだ。ピルエット自身は【竜鋼級】冒険者で、剣も魔法もイケる。ノヒト様のところのレジョーネが現れて、【英雄】である【湖畔の聖女】の存在が確認されるまでは、俺とピルエットと【エルフヘイム】の偏屈婆さんの3人だけが、【竜鋼級】だった。つまり、ピルエットの実力は、それなりにはあるはずだ」
湖畔の聖女とは、グレモリー・グリモワールの事で……偏屈婆さんとは、ディーテ・エクセルシオールの事でしょうね。
ディーテ・エクセルシオールって、偏屈って評価なのですね?
面白い事を聴きました。
まあ……剣聖が悪口を言っていましたよ……なんて言いつけたりはしませんけれどね。
「【ドラゴン・スレイヤー】ですか?【古代竜】を討伐した、と言うなら、それなりではあるのでしょうが、どうなのですか?」
「いや、【竜】だ。規定上9人以下のパーティでの討伐でないと、【ドラゴン・スレイヤー】とは認められない。さすがに9人で【古代竜】を倒すなんて芸当は、普通の人種には荷が勝ち過ぎている。【湖畔の聖女】みたいな【英雄】や、【エルフヘイム】の先代大祭司みたいなバケモノや、ノヒト様のところのレジョーネみたいな方達とは比較してもらったら困る。もちろん、ノヒト様や、ソフィア様達みたいな【神格者】はハナっから別格だからな」
あ、そう。
「しかし、クインシーは、【古代竜】の討伐実績がありますよね?」
私は、チュートリアルに際して、剣聖達の過去ログを遡って調べました。
一応、まだ露見していない犯罪歴などがないか、調べたのです。
そうしたら、剣聖は、【翠竜】を倒していました。
他にも何頭かの【超位】の魔物の討伐実績がログに記録されていましたね。
「ああ、まあ、それは……」
剣聖は言い澱みます。
「もしかして、【砲艦】などによる討伐でしたか?」
「いや。一応、生身で倒した。倒しはしたが……アレは【大密林】への侵攻作戦の時の実績だ。とても、褒められたモノじゃない」
あ……剣聖の地雷を踏み抜いてしまいました。
【大密林】への侵攻作戦の時、剣聖は、彼の門下生達を中心とした10万人のレイド・パーティを組み挑んだものの……【ダンジョン・ボス】3体に罠に嵌められ、剣聖とクサンドラさんだけを生存者として、残り10万人を全滅させてしまうという惨憺たる敗北を喫したのです。
そんな完全な負け戦の時に、【古代竜】を倒したからと言って、それを誇る事は出来ないでしょうね。
「クインシー。余計な事を言いました。申し訳ありません」
私は、頭を下げました。
「気にしないでくれ。俺の話は良いんだ。ピルエットと会って、ノヒト様の眼鏡に適うなら、その……あいつらにもチュートリアルを受けさせてやって欲しいんだが?」
「私が、会って必要があると判断すれば構いませんよ」
「そうか。あいつらは、きっとノヒト様の役に立つ」
「因みに【勇者】とは、何ですか?どういう資格や条件で【勇者】になるのでしょうか?」
この世界の設定には、【勇者】だとか【魔王】だとかという概念は存在しません。
このゲームの主人公は、ユーザー1人1人。
ユーザーが望めば、ゲームの中で誰もが【勇者】や【魔王】として生きる事も出来るのだ。
これがプロデューサーのフジサカさんの掲げた信念なのです。
「【勇者】認定制度は、【英雄】大消失後に始まった制度だ。当代の【勇者】が死ぬと、各国が自国の最強の者……つまり新しい【勇者】候補を推薦して、【ドラゴニーア】で世界最強を決める。まあ、各国の軍や騎士団や公職に所属する者や、俺達ギルド職員は参加しないから、条件付き最強だがな。つまり、民間人最強の者を、国際法上の【勇者】と決める訳だ。【勇者】に選ばれると、ドミニオン等級世界市民となる。【勇者】パーティが宿泊したり飲み食いした宿屋や飲食店の支払いは【勇者】に持たされている白紙小切手を使う。その小切手の支払いは、その国が全額負担するんだ。その名誉と待遇の見返りに、【勇者】は、世界を旅して日夜、魔物を狩らなくちゃならない。どこそこで魔物が暴れている、なんて報せを聞けば、出かけて行って戦う訳だ。つまり【勇者】ってのは、世界各国政府に雇われた対魔物専用の傭兵稼業……まあ、そんなところだな」
「なるほど。公益に服する立場の者ならば、チュートリアルを受けさせる事に異存はありません。まあ、本人に会って人となりを見定めさせてもらいますけれどね」
「ああ、そうしてくれ。近い内に、連れて行く」
「わかりました。会いましょう」
私は、剣聖達に挨拶して、【ドラゴニーア】に戻りました。
・・・
【ドラゴニーア】。
竜城の礼拝堂。
レジョーネのメンバーはフル装備で集合しています。
「リント、ティファニー。あなた達も装備を選んで下さい」
「装備ですか?」
リントが、あまりピンと来ないような様子で言いました。
「はい。ソフィアもファヴも、ご覧のように鎧を着て武器を使って戦います。リントもティファニーも武装した方が良いでしょう」
「そうじゃ。武器を扱えば色々な技が使えるのじゃ。リントにも我のソフィア流戦闘術を伝授してやるのじゃ」
ソフィアが言いました。
「まあ!ソフィアお姉様は、ご自分の流派を興されたのですか?」
リントが訊ねます。
「そうじゃ。天地開闢以来、最強の武道流派なのじゃ。リントにも入門を許可するのじゃ」
ソフィアは、フンスッ、と胸を張りました。
ソフィア流戦闘術は、技術体系もヘッタクレもないデタラメなモノですが、存在自体がデタラメなソフィアにはピッタリの流派と言えるでしょうね。
「ありがとうございます。お姉様の威名を汚さぬように妾も精進して流派の隆盛に貢献致したいと思います」
「うむ。我の教えの通りにすれば、何も問題はないのじゃ」
「で、リント。あなたとティファニーの武器と装備なのですが、どうしますか?この中から選んで下さい」
私は、改訂版装備品リストを手渡します。
【ワールド・コア】ルームに帰還出来た事で、私は【神の遺物】の武器・防具・アイテムを潤沢に補充出来ました。
現在、私の【収納】は、【神の遺物】がフル・コンプリートしており、全種類複数ずつストックされています。
選り取り見取りですよ。
「そうですわね……ノヒトお姉様やファヴの身に着けている鎧も動きやすそうではありますね……」
リントは、顎に指を置いて考える素ぶりを見せました。
「そうじゃ。動きやすいのじゃ」
ソフィアは、目にも止まらぬ速さで腕をグルグル回します。
辺りにブワーッと、つむじ風が起きるほどでした。
ソフィア……あなたの肩関節は一体どうなっているのですか?
まあ、良いですけれど。
確かに、レジョーネで、私とオラクル以外の全員が装備する【ヴァルキリーの鎧】は高性能で、肩口が丸く開いた形状の【軽鎧】と羽衣の組み合わせなので動きを阻害せず、また、魔力親和性も高いので守護竜の装備としては、うってつけかもしれません。
「うーん。ですが、妾は、もう少し重装備でも良いかと。妾の趣味は、どちらかといえば、こういったデザインのモノです」
リントは、とある鎧を指差しました。
なるほど。
リントが選んだのは……【アキレウスの鎧】でした。
魔力親和性の点では【ヴァルキリーの鎧】シリーズには劣りますが、性能は高く、また身体の動きに合わせて謎金属が自由に形状を変えながらフィットするという特性があり、厳つい外見にもかかわらず、実は極めて動きやすく機能的な鎧です。
また、強力な【アキレウスの槍】と【アキレウスの盾】も標準付属品としてセットで付いていました。
【短槍】と【丸盾】を主兵装にするスパルタン・スタイルの【戦士】にとって、この【アキレウスの装備】一式は最終装備とさえ言われています。
つまり、コレを選択すれば、自動的に武器も決まりました。
私は、【アキレウスの鎧】一式をリントに渡します。
「では、着替えて参りますわ」
リントは、【アキレウスの鎧】一式を一旦自分の【収納】に受け取り、別室に着替えに向かいました。
ティファニーもリントに選んでもらった装備品を受け取り、一緒に着替えに向かいます。
ついでに、私も着替えて来ましょう。
・・・
ほどなくして、リントとティファニーが各々の装備に身を包んで現れました。
リントは、兜、胴体部装甲、直垂、腕当て、肩当て、脛当て、小手、マント……そして【アキレウスの槍】と【アキレウスの盾】。
何だか、勇ましいですね。
今までの薄絹を優雅に纏ったようなドレス姿とは、ギャップが激しいです。
まあ、本人が、こういう系統の鎧が好みのようですから、私が、とやかく言う事もありません。
ティファニーの為にリントが見繕ってあげたのは……【法皇の法衣】と【聖冠】。
本物の法皇であるティファニーの戦闘服は、これ以外にあり得ない……との事。
まあ、確かに。
武器も、それに合わせて【聖杖】です。
白い衣に、金糸の刺繍……これは豪華ですね。
馬子にも衣装……じゃなかった、それらしい格好をすると急に、それらしく見えてくるから不思議です。
今のティファニーを前にすれば、大概の人達は、喜んで跪くのではないでしょうか?
神々しいです。
ただし、どう見ても、鎧姿のリントが、聖衣に身を包んだティファニーを守る衛士に見えてしまいますよね。
立場が、あべこべな印象です。
ティファニーも何だか、それを少し気にしている様子。
「ティファニー。とても似合っているわよ」
リントがニッコリと微笑んでティファニーを愛でるように言いました。
「ありがとうこざいます」
ティファニーは、頭を下げます。
私は、リントとティファニーに、私の陣営の標準装備である【認識阻害】の指輪と【ビーコン】と【宝物庫】を配りました。
ティファニーの【宝物庫】には、オラクルとヴィクトーリア同様に、各種【神の遺物】の装備品を入れて貸与。
「ノヒトよ。其方も着替えたのか?」
ソフィアが私の格好を見て訊ねます。
「はい。思うところあって、こちらに戻しました」
私は、今日【ラウレンティア・スクエア】での経験を加味して、【ゲームマスターのチュニック】を【ゲームマスターのローブ】に着替えました。
ゲームマスターの服装といえば、やはり、こちらのフードが付いた純白のローブが一般的には有名です。
神話や寓話で登場する【調停者】は、皆、このスタイルでした。
【ゲームマスターのチュニック】は、あくまでもサブ装束。
メインは、やっぱり【ゲームマスターのローブ】でしょう。
【ラウレンティア・スクエア】では、服装から正体がバレなかった事が良い方に作用しましたが、査察に赴くなら、一見して私がゲームマスターである事がわかり、また、多少、威圧的なくらいに目立った方が良いのです。
なので、サウス大陸奪還作戦以来ずっと着ていた【ゲームマスターのチュニック】から、標準装備である【ゲームマスターのローブ】に戻しました。
そもそも、【ゲームマスターのチュニック】に着替えた理由は、常夏のサウス大陸で活動する時に周囲から【ゲームマスターのローブ】が多少、暑苦しそうに見えるからであって、私自身は、暑さ寒さは感じません。
どんな格好であろうとも、常に適切な状態に保たれていました。
仮に【ゲームマスターのローブ】を酷暑の地域で着ていたとしても私自身は、いたって快適なのです。
それに、周囲からの見た目を考慮するなら、これから晩秋・初冬へと季節が移り変わるのですから、暖かそうな【ゲームマスターのローブ】であっても問題ないはずでした。
私は、とかく物臭なので、着た切り雀のように同じ衣類を着続ける傾向があるのです。
もちろん、衛生的である事には気を配りますので、下着やインナーを着続けるような事はしませんが……。
日本時代は、一冬を全く同じ色とデザインの3着のコートを着回して過ごしたり、気に入ったシャツをダース買いして毎日、同じシャツに着替えたりしていました。
会社では……チーフったら、今日も同じ服だね〜、クスクス……などと噂されていたのも知っています。
私の自宅のクローゼットの中には、同じシャツとズボンが端から端まで並んでいますが、何か?
閑話休題。
【ゲームマスターのチュニック】は、夏服として考える事にしたのです。
私の場合、【転移】で世界中を、ひとっ飛びで往き来出来てしまうので、どうしても地域性や現地の気候に合わない格好になってしまう事はあり得ました。
そういう時に、いちいち着替えるのは面倒極まりありません。
機能的に変わらないのなら、見た目を考慮して着替えるのなんて、無意味です。
私はモデルさんでもファッションリーダーでもないのですから。
なので……今の時期はコレ……と機械的に決めておけば、良いのです。
それで、他所様から服装について何か言われたら……仕様です……と言い張りましょう。
私は、【ゲームマスターのローブ】を、正体を隠す必要がある、などの場合を除き、この一冬は、ずっと着続ける事を決意しました。
「リントよ。本来は、ソフィア流戦闘術の訓練をしたいところじゃが、今日は時間がない故、後日、指導をしてやるのじゃ」
ソフィアは、言います。
「はい。お願い致します」
リントは礼を執りました。
「さてと、少し予定より遅くなりましたが、【ウトピーア法皇国】に向かいますよ」
「「おーーっ!」」
ソフィアとウルスラが言いました。
リントとティファニーを加えたレジョーネのメンバーも頷きます。
さあ、【ウトピーア法皇国】へ、乗り込みましょう。
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