第254話。ウィノナの才腕。ソフィアの豪腕。
「ソフィア・フード・コンツェルン」
食品総合商社(生産、加工、流通、販売、サービス)。
CEO…ヴァレンティーナ・ベルルーティ
関連施設。
【ドラゴニーア】本社ビル。
【ドラゴニーア】中央卸売市場事務所。
【ドラゴニーア】ソフィア農場。
【タナカ・ビレッジ】クイーン農場。
ソフィア・フード・アカデミア(計画段階)。
【ドラゴニーア】校。
【ラウレンティア】校。
【タナカ・ビレッジ】校。
【ラニブラ】校。
【サンタ・グレモリア】校。
【ラウレンティア・スクエア】のレストラン街、フード・コート、食品スーパーマーケット。
【タナカ・ビレッジ・スクエア】のレストラン街。
【ラニブラ・スクエア】のレストラン街、フード・コート、食品スーパーマーケット。
【サンタ・グレモリア・スクエア】のレストラン街、フード・コート、食品スーパーマーケット。
(計画段階の物を含む)
【ラウレンティア】都市城壁外【ラウレンティア・スクエア】。
私は、【ラウレンティア・スクエア】にやって来ました。
ソフィアに半ば強引に依頼されたデパ地下部分を建築する為です。
……って、アレは何事ですか?
見ると、【ラウレンティア・スクエア】の前に長蛇の列が出来ており、その周辺には引き馬を切り離された状態の馬車が多数並んでいました。
【ラウレンティア・スクエア】は、まだオープン前です。
元はと言えば、【ラウレンティア・スクエア】は、私が目的もなく暇潰しに造った巨大建造物でした。
有能なコンパーニアの首脳陣によって、複合商業施設としての利用が決定されて、急遽テナントの募集が始まっています。
早々と、ソフィア・フード・コンツェルンが、レストラン街や、食品スーパーマーケットや、フードコートを運営する事が決まり経営は成り立たつ目算となっていましたが、まだオープン前なので、お客さんが集まるような事はない、と思うのですが……。
テナントの開店準備の引越し搬入作業でしょうか?
いや、裏口には集中搬入口を造ってあります。
荷物の出し入れで、正面入り口に、あんなに人集りが出来るような事には絶対ならないはずなのですが……。
私は、驚きながら【ラウレンティア・スクエア】の賑わいの方に近付きます。
喧騒は、一種お祭りのような様相を呈していました。
【スクエア】の入り口の両脇から伸びる2列の馬車群は……屋台?
列をなす群衆は、手に手にファストフードを持ち、何やら楽しげに並んでいます。
先頭の方では、私が警備と管理の為に置いて行った【自動人形】・シグニチャー・エディションが列の順番を整理しているような様子が見て取れました。
この人達は、どう見ても引越し業者でも、テナントの関係者でもありません。
一般の人達です。
お客さん?
いえいえ、まだテナントの入居が始まったばかりです、【ラウレンティア・スクエア】のオープンは、1週間以上先の予定だと聞いていますが……。
音楽?
何やら軽快な曲調の音楽が【ラウレンティア・スクエア】の中から聴こえて来ますね。
私が、列をなす群衆の脇から【ラウレンティア・スクエア】の中に入ろうと試みました。
「オジちゃん、順番抜かしはダメだよ」
列に並んでいた身なりの良い子供達から咎められました。
順番抜かし?
つまり、これは何かを待つ人の列のようです。
「ごめんなさいね。オジちゃんは、この【ラウレンティア・スクエア】を造ったオジちゃんなんだよ。今日は、ここに工事をしに来たんだ」
「オジちゃんが造ったの?」
「嘘だぁ〜。これは神様が、お造りになったって衛士隊の人が言っていたもの」
「そうだよ。ノヒト様っていう偉い神様が、一晩にして建てた奇跡の御技なんだよ」
子供達が口々に抗議して来ます。
なるほど。
【ラウレンティア・スクエア】を私が建てた事は知られている訳なのですね。
別に隠し立てするような事でもないので、情報統制は敷いていませんでしたが……。
列に並ぶ大人達は、子供達同様に私へ抗議の視線を投げかけて来る人達がいる一方、中に数人が、私の出で立ち(純白のゲームマスターのチュニック)を見て……もしかしたら……という表情をする大人もいるようでした。
天蚕糸で織られた純白の装束は、この世界では【調停者】の格好である、という認識があります。
おや、これは少し軽率でしたか。
私は、慌てて胸元のゲームマスターの紋章を【認識阻害】を詠唱して隠しました。
うーむ、中に入れないと困りますが、然りとて、正体を明かせば騒ぎになってしまいます。
私は、スマホを取り出して事情を知るであろう人物に連絡を入れました。
「もしもし、ウィノナ。ノヒトです。今、【ラウレンティア・スクエア】の入り口にいますが、凄い行列で中に入れないのです。今日は、何かの催しが開かれているのですか?」
ウィノナとは、コンパーニアの幹部候補として管理職に抜擢された孤児院の子供6人の内の1人です。
ウィノナの肩書きは、【ラウレンティア・スクエア】支配人となっていました。
コンパーニア経営の次世代を担う期待のホープの1人です。
「はい、ノヒト様。噴水ショーを行っております。【ラウレンティア】で告知致しました所、予想以上に人が集まりまして、入場制限を設け、200人交代で入れ替え制にしております」
ウィノナは言いました。
「ショー?あの噴水は単なるオブジェクトですが、料金を徴収しているのですか?」
「いいえ。無料開放です。ただし、屋台馬車の店主達からは出店料を徴収し、その資金で【ラウレンティア】から楽団を雇っております。【ラウレンティア・スクエア】の広報活動の一環です。【ラウレンティア】の住民の皆様には、【ラウレンティア・スクエア】がオープンすると楽しい場所になるという宣伝を目的としています。【ラウレンティア・スクエア】への出店に興味を持ってくれている商店主の皆様には、【ラウレンティア・スクエア】には、これだけの集客力がある、と見せつける目的です」
ウィノナは言います。
なるほど、ウィノナは、やり手ですね。
聞いた話では、【ラウレンティア・スクエア】のテナントは、半分がまだ空きのまま、なのだとか。
【ラウレンティア】の都市城壁の外ですから、利便性の面で、【ラウレンティア】内の既存の繁華街に比べると、集客の面で不安を抱かれているようです。
また、かなり強気に設定されたテナント賃料もネックなのだと思います。
ハロルドもイヴェットも……賃料の値下げはしない……と言っていました。
賃料を下げれば、確かにテナントは埋まるかもしれないのですが、テナントの質が下がり長期的に見れば【ラウレンティア・スクエア】のチープ化を招く、と。
ハロルド達は、【スクエア】事業を廉価量販店ではなく、比較的高級な路線で売りたいようです。
郊外型ショッピングモールの業態でしょうかね。
「ウィノナ。あなたは、どこにいるのですか?」
「私は、【ラウレンティア】知事の表敬訪問を受けておりまして、最上階のラウンジにおります。すぐに、そちらに向かいます」
ウィノナは、言いました。
「わかりました。私の方は大丈夫ですから、知事の接遇をしていて下さい。知事から不当な圧力をかけられたり、不法な利益供与を要求されたら、私とソフィアの名前を出して拒否しなさいね。すぐに対処しますので」
知事の表敬訪問なら、私は関知しない方が良いでしょう。
政治家のあしらいとか、面倒以外の何物でもありませんからね。
「あはは……大丈夫です。知事一行は、【スクエア】がノヒト様とソフィア様が経営するコンパーニアの事業だと、ご存知ですので、親切で丁寧に対応して下っています」
ウィノナは言います。
あ、そう。
ならば良し。
私は、通話を終了しました。
「じゃあ、オジちゃんは裏口から入るね。今日は来てくれてありがとう。楽しんで行ってね」
私は、順番抜かしを注意してくれた子供達に言います。
周りにいた大人達が……と言う事は、まさか本物なの……というリアクションをしてザワつき始めました。
さてと、騒ぎにならない内に退散しましょう。
私は、【飛行】で飛び上がりました。
「凄いっ!飛んだっ!」
「まさか、本物の神様?」
「あれが、ノヒト様?私、握手してもらえば良かった〜」
私は、子供達の歓声を背に、裏口の方へ向かいます。
・・・
【ラウレンティア・スクエア】商品搬入口。
裏口の搬入口にも、沢山の浮遊移動機や機動車や馬車が乗り入れていました。
こちらは内装業者やテナント関係者です。
引っ越しや建て込みに来ているのですね。
私は、警備室で入館手続きをして入館証をもらいました。
警備担当の【自動人形】・シグニチャー・エディション達は、私に対しても例外を設ける事なく、厳格に規則に基づいて入館手続きをしています。
うん、そうでなければ警備の意味がありませんからね。
良い事です。
私は、【自動人形】達を労って【ラウレンティア・スクエア】の中に入りました。
・・・
【ラウレンティア・スクエア】の広いバックヤードを歩き、1階のホールに出ます。
【ラウレンティア・スクエア】の1階は、中央の吹き抜けになっている噴水広場を取り囲むように間口5mほどのスペースが区切られていました。
フードコートの飲食店舗ですね。
ソフィアが厳選した、料理やファストフードやスナックなどが出店される予定。
簡易的な座席とテーブルが並び、ここで食事が出来るようになっています。
今は、まだ各店舗の内装工事が行われている段階でした。
工事が行われている店舗スペースの前には目隠しの仮壁が建てられて中が見えないようになっています。
私は、中を覗いて、工事作業員さん達に挨拶をしました。
ついでに、大量の缶コーヒーを差し入れ。
この缶コーヒーはソフィア・フード・コンツェルンが発売予定の商品だったりします。
さっきクイーンから試供品を大量にもらいました。
【タナカ・ビレッジ】産のコーヒー豆を使っているので、缶コーヒーの概念を塗り替えるくらいに美味しいです。
クイーンは、私が知らない内に【タナカ・ビレッジ】の敷地内に食品加工工場を建設していました。
農畜産物の生鮮加工品の他、缶詰、缶入り飲料、冷凍食品、レトルト食品……などなど、手広くやっています。
全て、ソフィア・フード・コンツェルンの工場でした。
クイーンは、【神の遺物】の【自動人形】ですし、彼女の部下には私が造った【自動人形】達が多数います。
総力を上げてやれば、食品工場くらいポンポン建てられますよね。
工場作業員さん達の仕事の邪魔になるといけないので、私は、すぐに工事現場を後にしました。
ん?
そう言えば、工事の音がしませんよね。
ドリルなどを使っていたようですが……。
ああ、工事現場の前に立つ数体の【自動人形】・シグニチャー・エディションが工事現場に【防音】をかけているのですね。
噴水広場の方を見ると、観衆が集まっていました。
建物中央の吹き抜け部分に巨大な噴水が吹き上がり、ライティングで色とりどりに明滅していました。
この噴水は音響センサーで周囲の音を感知して、形と色を変えます。
楽団の軽快な演奏に合わせて、色や形を変える噴水は、さながら生き物のようでした。
その時、ちょうど曲が終わったらしく、観衆から、ドッ、と歓声が沸き起こります。
パチパチパチパチ……。
万雷の拍手。
どうやら観衆は、拍手に反応して色と形を変える噴水を面白がって、なかなか拍手の止め時がわからないようです。
楽団の首席らしき人物が立ち上がって何度かお辞儀をしていると段々と拍手が収まって来ました。
次の曲が始まるようです。
プルチネッラ楽団。
【ラウレンティア】の常設楽団の1つではなく、旅の楽団なのだそうです。
なかなか良い楽団ですね……。
あ、こんな事をしている場合ではありません。
工事をしなければ。
・・・
私は、バックヤードに戻り配管などのメンテナンス用に造った地下区画へと階段で降りました。
さあ、やりますよ〜。
私は、お客さん達がいる1階部分に影響を及ぼさないように注意しながら、【神位】の【加工】で広大な地下空間を一気に掘り抜きました。
魔力全開で、フルパワー建築です。
この地下階は大型食品スーパーマーケット。
売場スペース、厨房スペース、バックヤード、大量の冷凍庫・冷蔵庫、常温倉庫、事務所、空調・冷暖房、照明……などなど。
忘れちゃいけないトイレも……最後に1階と地下を繋ぐ、お客さん用エレベーター、エスカレーター、階段を複数設置、バックヤードにも関係者用の大型エレベーターと階段を造りました。
完成。
細かい内装や什器や商品棚などの設置は、工事業者にやってもらえば良いでしょう。
私は、ウィノナに連絡して後の事は丸っと投げてしまいます。
おっと、いけない。
エスカレーターや階段の開口部を造っていません。
私は1階に戻り、床をくり抜きエスカレーターと階段を完成させました。
地下は、まだ立ち入り禁止なので【自動人形】・シグニチャー・エディションに警備を指示します。
これで、良し。
少し時間が押してしまいました。
さあ、急いで戻りましょう。
私は【ドラゴニーア】に【転移】しました。
・・・
【ドラゴニーア】。
竜城の礼拝堂。
剣聖達は、と……。
私は、礼拝堂にいた【女神官】に訊ねました。
大広間にいる。
ありがとう、わかりました。
私は、大広間に向かいました。
・・・
大広間。
大広間では、レジョーネ、ファミリアーレ、アルフォンシーナさん達竜城の皆さん、そして剣聖一行が何やら楽しそうに立食パーティーのような事をしていました。
ん?
私は、この後【ワールド・コア】ルームで食事を……と考えていたのですが、これは?
「おー、ノヒトよ。遅かったではないか?待ちくたびれたから、先に試食会を始めておったのじゃ」
ソフィアが言いました。
見ると、テーブルの上狭しと、沢山の食品が並べてあります。
「アタシは、このベジタブルカレーだね〜。人参の甘みが、スパイスによって引き立つんだよ」
ハリエットの声がしました。
「こちらの若鳥の唐揚げも絶品ですよ」
グロリアが言います。
「この鯖の水煮缶詰こそ芸術だ」
アイリスが言いました。
「チーズ・イン・ハンバーグも美味しいの」
ジェシカが言います。
「うむ。これは、冷凍食品だなんて馬鹿に出来ない味だ。大したモノだな。こっちの……名店シリーズ……が気に入った。有名料理店と提携して、店の味を再現するって試みが新しい」
剣聖も、輪の中にいました。
サイラスは、巨大なソーセージをパンに挟んで食べています。
ティベリオはカップ麺を食べていますね。
ロルフは何かご飯モノ……リスベットはスナック菓子……ウルスラはチョコレートです。
どうやら、ソフィア・フード・コンツェルンで販売する商品の大試食会が行われているようです。
試食会が即ちランチ代り、と。
剣聖は元伯爵、フランシスクスさんは公爵家の生まれです。
こんな、冷凍食品や、レトルト食品や、缶詰を食べさせて失礼にならないのでしょうか?
まあ、ソフィアが食べさせているのですから、文句を言える人種はいないのでしょう。
「ノヒト様。お帰りなさいませ」
トリニティが、やって来て礼を執りました。
トリニティの持つ皿には、ほうれん草とベーコンのソテーが乗せられていました。
「ノヒトよ。其方も食べて感想を聞かせるのじゃ。この……丸ごと卵……は、我が自ら開発に携わった傑作商品なのじゃ」
ソフィアが、やって来ます。
「ソフィア。【ワールド・コア】ルームに行くつもりだったのですが、ランチは、これで済ますのですね?」
「うむ。たまには良いのじゃ。ホレ、丸ごと卵じゃ。食べてみよ」
ソフィアが、卵型の大きなパンを差し出しました。
仕方なく、その調理パンを受け取ると、ズッシリした重量感。
食べると……パンの中に丸ごと1個のゆで卵が入っています。
味付けは、タップリのマヨネーズとケチャップベースのバーベキューソースとチーズ。
ヘビー級の高カロリー……。
これ1個で、普通の人種は、お腹いっぱいになりますね。
味は美味しかったです。
私が、もしも男子中学生くらいの時にコンビニなどで売っていたなら、好きだっただろうな、というジャンクな味でした。
いや、ジャンクフード扱いは、可哀想ですね。
ソフィア・フード・コンツェルンは、食の安全、をテーマとしているそうですので。
今日の昼食は、この大試食会。
私は、ソフィアに半ば無理やり勧められながら、幾つもの商品を食べさせられました。
食道楽家のソフィアが率いるソフィア・フード・コンツェルンなので、どの商品も美味しかったです。
ソフィアは、ソフィア自身が持つ信用と人脈と、莫大な資金力と、ソフィア農場とクイーン農場の高品質な農畜産物と、ウルスラの妖精情報網を駆使して、短期間でソフィア・フード・コンツェルンを実業段階まで持って来てしまいました。
私が、コンパーニアを起業してから、まだ1か月ほどしか経っていない事も相当に早いと思っていましたが、ソフィアの事業展開の早さは、それ以上です。
財務や事業計画も世界銀行ギルドの頭取ビルテさんが個人的にバックアップしているようですし、綿密で周到……穴はありません。
ソフィアは、存外、やり手の豪腕経営者です。
お読み頂き、ありがとうございます。
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