第252話。重農政策。
「スクエア」
複合商業施設スクエアの運営。
関連施設。
【ラウレンティア・スクエア】
【タナカ・ビレッジ・スクエア】
【ラニブラ・スクエア】
【サンタ・グレモリア・スクエア】
(計画段階の物も含む)
【アトランティーデ海洋国】。
私は、王都【アトランティーデ】王城の礼拝堂に、【転移】して来ました。
【アトランティーデ海洋国】の王都【アトランティーデ】の王城は、ファヴへの祈りを捧げる中央塔の役割も果たしています。
王城は、水路を兼ねる広大な堀に囲まれていました。
この巨大水路は、【アトランティーデ海洋国】北方の【アトランティーデ】海に通じ、世界中の海上交易路へと繋がっています。
【アトランティーデ】の王城……何となく久しぶりな感じです。
サウス大陸奪還作戦中は、ここで毎日寝起きしていましたが、何だか凄く昔のように感じますね。
例の陰謀事件の顛末も影響しています。
陰謀事件の主犯は、【アトランティーデ海洋国】のゴトフリード王の次男であるイングヴェ王子でした。
イングヴェ王子は、【ティオピーア】と【オフィール】を唆し【ムームー】に侵略させようとしていたのです。
また、イングヴェ王子自身も【ティオピーア】と【オフィール】の【ムームー】への侵略を口実に【パラディーゾ】に派兵して【パラディーゾ】の実効支配を企てていました。
悪辣です。
これにはイングヴェ王子の妻マーゴット妃の実家である旧【パラディーゾ】の貴族達の権力志向や、イングヴェ王子に与する商人達の利権も絡み、醜悪な欲望の捌け口となっていました。
イングヴェ王子の陰謀は露見し、彼は妻のマーゴット妃や、共謀した関係者達と共に拘束され幽閉されています。
イングヴェ王子は、【ムームー】のチェレステ女王の即位戴冠と【パラディーゾ】の議会発足を待って、国際犯罪人規定により裁かれますが、恩赦を受けたとしても極刑は免れないでしょう。
イングヴェ王子は、許しがたい極悪人ですが、ゴトフリード王にとっては血を分けた息子。
ゴトフリード王は、現在、死刑になるとわかっている息子を自らの職責において拘束・監視しているのです。
ゴトフリード王の心中を慮れば、辛い事は容易に想像出来ました。
なので、私の足は、【アトランティーデ海洋国】から遠のいていたのです。
まあ、陰謀事件の顛末で、イングヴェ王子には全く同情はしませんし、ゴトフリード王が職責を果たす事は、為政者ならば当然の事でした。
私が、それを気にする必要もないのですが、理屈と感情は別物。
どんな悪人であっても、その人物を死刑台に送るのは、正直、気分の良いものではありません。
事前に連絡をしていた為に、ゴトフリード王が自ら私を迎えてくれました。
王家の面々も揃っています。
「ノヒト様。ようこそ、おいで下さいました」
ゴトフリード王は、恭しく礼を執りました。
ゴトフリード王は、少し、やつれたようにも感じます。
実の息子が外国の主権を脅かすという大罪を犯した訳ですから、英明な君主として誉高かったゴトフリード王の名声も失墜し、最近では【アトランティーデ海洋国】の国民からの王家に対する支持も下がり、諸外国からの風当たりも厳しいようですからね。
【アトランティーデ海洋国】は、【ムームー】と【パラディーゾ】に対しても賠償を支払う事になったようですから、実害も出ています。
まあ、私には関係のない政治の事情ですけれどもね。
「お迎え頂きありがとうございます。【ドラゴニーア】から技術移管される事になった海上輸送船建造事業の方は、どうですか?」
「おかげ様で順調です」
「北東のラドーン遺跡と、北西のピュトン遺跡の管理権限は、【パラディーゾ】に譲渡されるのだ、とか?」
ラドーン遺跡と、ピュトン遺跡は、長年【アトランティーデ海洋国】が管理して来ましたが、この権益は、【パラディーゾ】への賠償として譲渡される事になったのです。
これは、実質的な領土割譲。
遺跡は、無限の資源を産出する鉱山のような物ですから、【アトランティーデ海洋国】にとっては、甚大な損失でしょう。
「はい。既に、権益は【パラディーゾ】に引き渡しております」
ゴトフリード王は、明らかに落胆したような声を出しました。
相当、憔悴しているようですね。
ゴトフリード王は事件の責任を取って進退伺いを出ししましたが、サウス大陸の守護竜であるファヴから……職責を果たせ……と命じられました。
ゴトフリード王率いる【アトランティーデ海洋国】の存在は、サウス大陸復興において重要です。
また、ゴトフリード王自身も、イングヴェ王子の教育には失敗しましたが、概して有能な為政者ではありました。
ゴトフリード王の政権が倒れてしまうと、正直、困るのですよね。
少し発破をかけておきますか。
「ゴトフリード王陛下。大変失礼ながら、ゲームマスターとして一言だけ申します。過去はやり直せませんよ。王陛下が今後どうされるのか、しか行動は選択しようがありません。職責に耐えかねるのなら、ファヴに申し出て王権を返上なさり、皇太子殿下か、然るべき適任者に王位を、お譲りなさい。そのような、ショボくれた顔をしていては、国民が不安になりますからね」
私は、ワザと厳しい言葉を投げかけました。
王の責任は重大なのです。
どんなに厳しい立場や境遇にあったとしても、職責は果たし続けなければいけません。
その重責と引き換えに、国民から王として遇されているのです。
仕事をしない王に、国民は跪きません。
「はっ!お言葉、肝に命じまする」
ゴトフリード王は、襟を正し表情を引き締めました。
「ファヴは、あなたを信頼しています。ファヴを助けてあげて下さいね」
私は、ゴトフリード王に微笑みかけます。
「畏まりました」
ゴトフリード王は深々と頭を下げました。
私は、ゴトフリード王や、エイブラハム相談役と短時間の会議をして懸案を話し合います。
もう、すっかり定着した立ち会談。
椅子に腰掛けもせず、その場での立ち話で重要案件を話し合うのです。
下らない儀式典礼や儀礼格式も丸っと無視。
もちろん晩餐会も儀仗もありません。
仕事の話をするなら、これが一番効率的でした。
私は、虚礼の類が大嫌いなのです。
「【アトランティーデ海洋国】は、食糧自給も輸出品目も、魔物素材に頼りきりでした。今後、魔物の数が減る事が明らかなのですから、喫緊の課題として、食糧問題への対策は避けて通れません」
エイブラハム相談役は言いました。
私達が、魔物の支配するサウス大陸を人種文明に取り戻した結果、【アトランティーデ海洋国】では大きな問題が提起されています。
【アトランティーデ海洋国】は、魔物の素材を輸出する事で潤って来ましたが、同時に国民の食料源としても魔物を活用して来ました。
【アトランティーデ海洋国】国民の主食は、魔物肉なのです。
しかし、現在、サウス大陸には、以前のように魔物が跳梁跋扈している訳ではありません。
私達が殲滅してしまいましたので。
もちろん、魔物の脅威が排除され、人種が暮らせなかったノーマンズ・ランドが解放された事は喜ばしい事なのですが、魔物がいなくなった事で【アトランティーデ海洋国】は、豊富で栄養価が高く安価だった主食を失う事になってしまったのです。
【アトランティーデ海洋国】でも農業は行われていますが、国民の主食は永年安価で有用な魔物肉に依存していた為に、農作物は輸出を前提とした商品作物が主でした。
魔物肉が少なくなる今後、圧倒的に食料が不足するのです。
「北部では、小麦、綿花、天然ゴム、コーヒー、カカオ、茶、豆などが主要農産物として栽培されています。これを拡大する必要があるでしょうね。畜産では、豚や羊や鶏の飼育。臨海部では魚介類の活用も考慮して下さい。内陸部では、オリーブ、ブドウ、ジャガイモ、トマト、ナツメヤシなどの耐干性作物を主力とし、麻や、砂糖の原料となるテンサイなども作付けを増やせば良いでしょう。輸出する場合、原料をそのまま売るよるよりも、オリーブ油や、ワイン、トマトソースなどとして、加工して輸出する事をお勧めします。利幅が大きくなり、国内に雇用も生み出せますからね」
「農作物の加工ですか……我が国は、その技術力が十分ではありません」
これも、魔物素材依存経済の弊害ですね。
「隣国のパダーナや、【ドラゴニーア】の【アルバロンガ】などから、食品加工に長じた技術者を招聘なさればよろしい。高額の報酬を約束し、その代わり、【アトランティーデ海洋国】の国民に技術を指導してもらい。技術者や職人を育成してもらう事を【契約】してもらうのです」
「わかりました」
どの程度有効な政策かは、わかりませんが、とにかくやるしかありません。
この数年が勝負です。
この数年で、国家産業の構造改革を断行しなければ、【アトランティーデ海洋国】は、現在の豊かな国力を維持出来ません。
とにかく、目の前にある試案を片端からやり尽くして、成功するモノを残して行くのです。
幸いにして、【アトランティーデ海洋国】は、向こう3年、【ドラゴニーア】からの手厚い援助が約束されていました。
極端な話、3年間の食料問題は、【ドラゴニーア】に完全に寄りかかり、そうして余裕が出たリソースを新規開拓事業に振り分ける、という割り切った国家運営が可能。
3年は、国家丸ごとでイノベーションにチャレンジ出来るのです。
そうして、【ドラゴニーア】の支援が削減される3年後までに国の新しい産業基盤を確立してしまわなければいけません。
「重要な事は、既存の輸出を主とした商品作物ばかりではなく、自国で消費する作物を拡大する事です。内需とリンクした農業を行えば、農家の収入は安定し、国内消費も喚起しますからね」
「どれから手を付ければ……」
ゴトフリード王が眉間にシワを寄せて言います。
「全てです。どれからやる、のではなく、どれもやるのです。食糧を輸入に頼る状況は、【ドラゴニーア】からの援助が確約されている3年間だけと考えて下さい。それから先は、食糧を自国で自給し、むしろ輸出するようにならなければ【アトランティーデ海洋国】は、みるみる内に衰退しますよ。千年要塞に【ドラゴニーア】第2艦隊が駐留するようになったら、安全保障は【ドラゴニーア】に肩代わりさせて、既存の【アトランティーデ海洋国】軍の兵士の大半を、公務員として雇用し直し、農業政策の推進要員として振り分けてしまいなさい。予算を充当して農家には税制を優遇し、国家の帰趨を占う事業として農業を発展させるべきです。【アトランティーデ海洋国】が浮かぶも沈むも、今後3年の農業政策の成否如何にかかっていると断言出来ます」
「ノヒト様の仰る通りです。陛下、国策として農業に取り組まなければ、いけませんぞ」
エイブラハム相談役が言いました。
「うむ。わかった。腹をくくらねばなるまい」
ゴトフリード王は決意も新たに言います。
うん。
こういう顔が出来るなら、ゴトフリード王は大丈夫でしょう。
私は、王家の面々と別れて【アトランティーデ】王城を後にしました。
・・・
王都【アトランティーデ】。
世界冒険者ギルド本部。
私が世界冒険者ギルド本部に到着すると、グランド・ギルド・マスターの剣聖クインシー・クインと……世界冒険者ギルドのNo.2サブ・グランド・ギルド・マスターでもあり、彼の妻でもあるクサンドラさんと……剣聖の頭脳と呼ばれる【戦略家】のフランシスクスさんが、待っていました。
3人とも完全武装。
やる気満々ですね。
「ノヒト様、お待ちしていました。準備は万端。さあ、行きましょう」
剣聖が言いました。
随分と前のめりです。
まあ、剣聖達にはチュートリアルの効能は説明していますので……武の極みを目指したい……という剣聖の思いが抑えきれなくなっているのでしょう。
少し、熱苦しいですけれどね。
「少し待っていて下さいね。もう1人連れて来ますので」
「ああ、なるべく早く頼む」
剣聖は言いました。
はいはい。
剣聖の様子は、餌を前に……待て……を命じられている犬のようです。
クサンドラさんと、フランシスクスさんも呆れ顔で苦笑していました。
私は、現在地に転移座標を設置して、リントを迎えに行く為に【ドラゴニーア】に向けて【転移】します。
・・・
【ドラゴニーア】。
竜城の礼拝堂。
私が、到着するとリントとティファニーは、既に待っていました。
「ノヒト。武装はいらないという事でしたから、本当に何も準備していませんよ」
リントは、ドレスのスカートを摘み上げて見せながら言います。
「はい。チュートリアルは武装はいりません。ティファニーは、非生物NPCなのでチュートリアルに参加出来ないのですが、同道するのですか?」
「はい。私は、リント様の向かわれる場所ならば、どこにでも、ご一緒致します」
あ、そう。
「では、行きましょう」
私は、リントとティファニーを連れて、【アトランティーデ海洋国】に【転移】しました。
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