第251話。仕事がどんどん増えて行く……。
「【ドラゴニーア】ニュース」
ニュース通信社。
関連施設。
【ドラゴニーア】オフィス。
【ドラゴニーア】スタジオ。
【ドラゴニーア】。
都市城壁外北方、騎竜繁用施設敷地内の森。
私は、青師団を騎竜繁用施設の敷地にある森に連れて来ました。
赤師団の師団長ロッソと、青師団の師団長アッズーロを相手に話します。
「アッズーロ。あなたを、臨時で赤師団と青師団の統括師団長に任じます。ロッソは、アッズーロの補佐をしなさい。2頭で協力して、神兵達に問題を起こさせないようにしなさい。この場所は、【ドラゴニーア】の人種の管理地です。あなた達が、【ドラゴニーア】の人種に迷惑をかければ、私が彼らに謝罪しなければいけません。私を失望させないで下さいね。これは、厳命です」
「わかりました」
アッズーロは、言いました。
ロッソは、まだ言葉が喋れないので、了解を思念で伝えて来ます。
「特段の指示がなければ、森で自由にしていて構いませんが、餌は交代で繁用施設からもらうように。森の野生動物を勝手に狩る事は許可しません。何事も、私かトリニティか繁用施設長のエルネストさんに相談して行動するように。良いですね?」
「わかりました」
アッズーロは頷きました。
ロッソも了解します。
ならば良し。
私は、森から、繁用施設があるエリアに【転移】で移動します。
・・・
繁用施設近くにあるログハウス風転移座標小屋。
私は、転移座標を設置してある小屋から、外に出ました。
視線の先に、繁用施設の厩務員さんを見つけて、声をかけ、繁用施設長のエルネストさんを呼んでもらいます。
ほどなくして、エルネストさんが、やって来ました。
「ノヒト様。お久しぶりです。竜城から連絡は受けています。神の軍団の皆様は、森に入られましたか?」
エルネストさんは、朗らかに言いました。
「はい。しばらく、お世話になります」
「世界を守る神の軍団を、お迎え出来て光栄ですよ」
「ところで、ジャスパーはどうですか?お手を煩わせてはいませんか?」
ジャスパーとは、ファミリアーレのメンバーであるモルガーナの従魔であり騎竜の【青竜】です。
現在、ジャスパーは、この繁用施設で面倒を看てもらっていました。
この施設から毎朝、竜城に出勤して、モルガーナや竜騎士団との訓練に参加しているのです。
「いいえ。ジャスパーは、とても利口ですよ。むしろ、ジャスパーが来てからは、ヤンチャだった他の騎竜達が、すっかり従順になって大助かりですよ。ジャスパーは、この施設のボスとなっています。さすがは、【古代竜】。ジャスパーは本当に賢い子です」
エルネストさんは、ニッコリと笑います。
「そうですか。ならば良かった。ジャスパー共々、800頭の神兵達の事も、よろしくお願いします」
私は、エルネストさんに頭を下げました。
「お任せ下さい」
エルネストさんは、言います。
私は、エルネストさんと、神の軍団の赤師団と青師団の事について申し送りした後、次の目的地に向かって【転移】しました。
・・・
サウス大陸中央国家【パラディーゾ】。
【パラディーゾ】の中央塔の転移座標に到着すると、見知った人が、やって来ました。
ファヴの使徒である巫女長のスカーレットさんです。
「ノヒト様。ようこそ。本日は、どうされました?」
スカーレットさんが訊ねました。
「様子を見に来ました。スカーレットさんは、いつからこちらに?」
スカーレットさんは【ドラゴニーア】の竜城で研修のような事をしていたはずです。
「一昨日です。もう【パラディーゾ】への移住と入植の受け入れが始まっていますので、私達も、そろそろ、こちらで塔の聖職者達の体制を整え、仕事を始めなければいけません。なので、私は一足早く、こちらに移動して参りました」
「と、言う事は、ローズマリーさんは、まだ【ドラゴニーア】ですか?」
「はい。大巫女様は、もう1週間ほど、アルフォンシーナ大神官様の元で、ご指導を賜ります」
「そうですか。ご苦労はあるかもしれませんが、頑張って下さいね」
「はい。サウス大陸の人々の為ですので、私達の苦労など何ほどの事もありません。ファヴ様の、お導きに従い、誠心誠意取り組んで参ります」
立派な心がけですね。
宗教家とは、こうでなければいけません。
「何か、困っている事はありませんか?」
「そうですね。ノヒト様のおかげで、神の軍団により、国土の防衛体制は万全です。安全保障上の懸念がありませんので大変有難い事です。【ドラゴニーア】からは選挙監視団を派遣してもらえます。その他は、小さな問題はありますが、いずれも【調停者】たるノヒト様の、お力に、おすがりするようなモノではございません。私共で解決すべき問題でございます。お心遣いに感謝致します」
スカーレットさんは、深々と頭を下げました。
「そうですか。議会発足はいつですか?」
「開票は12月31日。1月1日に国民議会を招集して、【パラディーゾ】の初代大統領を選任し、新憲法を制定致します」
なるほど……【パラディーゾ】は大統領制ですか。
ファヴから【パラディーゾ】が議会民主制国家になるとは聞いていましたが、政治に全く興味がないので詳しくは知りませんでした。
「なるほど。何かあれば連絡を下さいね。私に出来る事ならば協力は惜しみませんので」
「では、お言葉に甘えて、一点だけ要望を申し上げも、よろしいでしょうか?」
「何でしょう?」
「【調停者】様としてではなく、世界企業であるソフィア&ノヒト社の総帥として、ノヒト様に【パラディーゾ】への、お力をお借り願えないかと。聞けば、【ムームー】では、ソフィア&ノヒト社の支社や工場が開設される計画なのだとか?【パラディーゾ】にも、是非、ご出資を頂ければ幸いなのですが?建国後しばらくは、インフラ整備の為の公共事業で雇用は賄えますが、安定的な経済発展の為には、やはり産業の振興と技術の向上は必要です。世界最先端の先進企業であるソフィア&ノヒト社を誘致出来ますれば、これに勝るモノはない、と存じます」
なるほど。
「弊社から技術の移転は出来ませんよ。しかし、支社や工場の開設は前向きに考えましょう。社長のハロルドに連絡して相談してみて下さい。誘致の引き合いは多いのですが、私の方から……新規の進出については【パラディーゾ】の案件を優先的に進めるように……と言っておきますので」
「ありがとうございます。もちろん技術移転をして欲しいなどという、不躾な事は申しません。ただ、素晴らしい技術を持つ企業が国内にあるというだけで、他の企業も努力をしようという動機付けになります。良い見本が身近にあるのは、他に代え難い良い競合環境となりますので」
そういう事ならば良いでしょう。
「わかりました。で、【タナカ・ビレッジ】での農業技術研修の方はどうですか?」
「はい。クイーン・タナカ様には、ご配慮頂いております。もう間もなく、【パラディーゾ】農務省の職員を100人、【タナカ・ビレッジ】に送り、研修を始めて頂ける事になりました。将来的には、彼らが、農業研究員や指導員として、研究に当たり、また、各農村地帯に派遣される計画です」
「そうですか。わかりました」
私は、その場でハロルドにスマホで連絡をして、【パラディーゾ】への支社と工場の進出計画を策定するように指示を出しました。
おそらく、建物は、私が建築をしなければならないのでしょうね。
また、リマインダーの項目が増えてしまいました。
仕事が全然減っていかないのですが……まあ、良いでしょう。
スカーレットさんと諸々の話し合いを済ませて、私は、次の目的地に向かって【転移】しました。
・・・
【タナカ・ビレッジ】。
スマホで連絡すると、クイーンがジョーカーと【アダマンタイト・ガーゴイル】2体に警護されて城門に現れました。
「いらっしゃいませ、ノヒト様」
クイーンは、ニッコリ微笑んで挨拶します。
「クイーン。こんにちは」
「今日は、お一人ですか?」
クイーンは、キョロキョロと辺りを見回しました。
「はい。今日は1人です」
「そうですか。屋敷の方へどうぞ」
クイーンは、微笑みを浮かべていますが、どこか残念そうにしています。
ソフィアが一緒ではない、と知ってガッカリしているのでしょう。
クイーンは、ソフィアのファンですからね。
私だけで来てしまい、何かすみません。
「ドックの方で仕事をしに来ました。特に、クイーンの方で問題がないようなら、屋敷の方には後で顔を出しますよ」
「そうですか。こちらは問題はありませんので、ノヒト様は、お仕事を優先なさって下さいませ」
「では、後ほど」
「はい。お仕事が、お済みになりましたら、どうぞ、そのまま屋敷の方に、おいで下さいね」
クイーンは、一礼して城門の中に戻って行きました。
私は、ドックに向かいます。
・・・
イーヴァルディ&サンズの造船所。
造船所の中では、細々とした船の部材の加工が進捗していました。
大勢の【自動人形】・シグニチャー・エディション達が、あたかも1体の生き物のように有機的に連動して作業をしています。
私は、ドックの1つに係留してあったカティサークを【収納】に回収しました。
【超級飛空航空母艦】の骨格を少しだけ造って行きましょう。
作業に熱中し過ぎると、時間を忘れてしまうので、1時間後にアラームをセットします。
私は、ミネルヴァの助けを借りて描き上げた【超級飛空航空母艦】の図面を元に、オリハルコンとアダマンタイトの複合材で、500m級の船体をザックリと造りました。
ザックリとは言っても、私は生産系のステータスがカンストしています。
図面さえ完璧に出来ていれば、どんな物も誤差なく造り上げる事が出来ました。
この【超級飛空航空母艦】は、装甲空母。
なので鋼材が足りないですね。
ミネルヴァ……【超級飛空航空母艦】用の鋼材が足りません……アレをやっても良いですか?
私はミネルヴァに【念話】で訊ねました。
【超級飛空航空母艦】は、ゲームマスターの業務遂行に必要な装備ですから必要な措置と認められます……どうぞ。
ミネルヴァが【念話】で答えます。
あ、そう。
ミネルヴァの許可が出たなら遠慮は無用。
ゲームマスター権限を、ぶん回して行きましょう。
「【超神位魔法……複製転写……オリハルコン……数量……100万t】、【超神位魔法……複製転写……アダマンタイト……数量……100万t】、【超神位魔法……複製転写……ミスリル鋼……数量……100万t】。これで良し、と」
私は、オリハルコンとアダマンタイトとミスリル鋼をコピペして、【収納】の中で100万tずつストックしました。
ちゃっかり、必要量より相当多めにコピペしたのは、ご愛嬌ですよ。
さてと、【超級飛空航空母艦】の艦体を造って行きましょう。
ふむふむ。
ミネルヴァの設計は、ナイアーラトテップさんが設計した【グレート・ディバイン・ドラゴン級超級飛空航空母艦】に比べて、少し曲線が多いデザインですね。
何となく女性的なフォルムというか、エレガントな感じです。
まあ、性能や火力は、エレガントとは程遠い破壊神的なモノですが……。
ん?
このハッチは……。
あー、このハッチの中に【追尾誘導光子砲】を据える訳ですか。
【追尾誘導光子砲】とは、ミネルヴァが自重なしでフルスイングして開発した新兵器でした。
指向線上に直進する性質の【光子砲】を謎技術で曲げて、敵の自動追尾を可能にするというチート兵器です。
とんでもないですね。
原理的には、魔力反応を識別して標的物をロックオンし、重力レンズ効果を利用して光を曲げ、後は何やかんやするらしいです。
私にも【魔法公式】を教えてくれました。
複雑怪奇で難解極まりない【魔法公式】でしたよ。
なので、私も魔法による【光子砲】に【追尾誘導】効果を持たせる事が可能になりました。
光速で飛来する【追尾誘導】の【超位魔法】ですよ。
絶対逃げられません。
放たれた瞬間に命中しますし、遮蔽物などに隠れていても背後から回り込んで撃ち抜かれます。
元来、【光魔法】は、飛来速度が速い為に回避が困難でしたが、さらに、【追尾誘導】機能まで持つとなると……。
【追尾誘導光子砲】……【超位】級の魔法としては、最強なのではないでしょうか?
まあ、【神位魔法】や、【超神位魔法】には及びませんが……。
【魔法公式】が理解出来たとしても、魔力制御が、私かミネルヴァか……後は、ソフィアくらいにしか再現不可能でしょうから知識漏洩による安全保障上のリスクは皆無でしょう。
その辺りは、ミネルヴァのやる事。
計算し尽くされているのです。
【追尾誘導光子砲】は、【ワールド・コア】ルームの【神の遺物】の【魔法装置】製造ラインで、必要量が生産される事になりました。
ソフィア艦体の基本兵装として採用される他、【コンシェルジュ】達の携帯兵器にもなるようです。
携帯版は、物体としては存在しません。
【コンシェルジュ】達の内蔵兵器となります。
【コンシェルジュ】達は、【追尾誘導光子砲】を、詠唱魔法として自由に撃てるように、ミネルヴァによってカスタムされました。
この辺りは【自動人形】の長所。
魔導兵器は、メイン・コアのスペックに余裕があれば【コンシェルジュ】に内蔵してしまえます。
また、内蔵されている事で安全面でも考慮されていますしね。
【コンシェルジュ】は、私とミネルヴァ以外には扱えません。
また、【創造主】のオリジナル魔法で創造されているので、私とミネルヴァ以外の誰かに乗っ取られたりプログラムを書き換えられる事なども設定上不可能です。
万が一、こんな不穏当なモノが敵対者に鹵獲されでもしたら、一大事ですからね。
ミネルヴァに……私のプライベート・シップのカティサークの兵装として【追尾誘導光子砲】を搭載したい……と頼んだら、即、却下されました。
ゲームマスターの業務に関係ない事には技術転用を許可出来ないそうです。
ミネルヴァから……ゲームマスター権限で命じられれば従いますが、どうしますか……と問われてしまいました。
そこまで言われては、諦めるしかありません。
残念です。
【超級飛空航空母艦】の構造部材と外装を、すっかり構築し終えたところでアラームが鳴りました。
今日の作業は、ここまでにしておきましょう。
私は、クイーン(エンペラー・タナカ氏)の屋敷に向かいました。
・・・
クイーン屋敷。
私は、クイーンが淹れてくれた、お茶を飲みながら話をしています。
「ソフィア・フード・コンツェルンの方は、どうですか?」
「ソフィア様から、聞いておられないのですか?」
「はい。何でも、私には秘密にして驚かせるのだそうです」
まあ、ソフィアの脳に共生するフロネシスを通じて、ソフィアの行動は全て把握していますが……。
「うふふ。ソフィア様は、ノヒト様の真似をしているのです。ノヒト様が大好きで、その真似をしたがる。本当の親子のようですね?」
「まあ、そのようなモノかもしれません。【神竜】を創ったのは【創造主】ですが、実際に(プログラムして)【神竜】に生命を吹き込んだのは、私なのです。あの娘は、私にとっても実の娘のようなモノなのですよ」
「まあ、そうなのですね。どおりで、ソフィア様がノヒト様の事を慕っておいでな訳ですね。ソフィア様は、ソフィア・フード・コンツェルンの設立に際して、ノヒト様のアドバイスを第一にしておいでですよ。ソフィア様は、ノヒト様から……ビジネスを成功させる為に大切な事は、自分の好きな事を一生懸命にやる事だ……と言われたのだとか。それで、ソフィア様は、ご自身が好きな、食、を扱う事になさったのです」
「そうだったのですか?まあ、私は、ビジネスを成功させるアドバイスではなく、仕事に向き合う姿勢を説いたつもりだったのですが、まあ、同じような事かもしれませんね」
「ええ。きっとソフィア様なら成功なさると思いますよ。私も共同出資者として頑張ります」
「クイーン。ソフィアの事……よろしくお願いしますね」
「はい。精一杯、お支え致します」
クイーンは、ニッコリと微笑みました。
私は、クイーンと【パラディーゾ】の農務省の職員100人を受け入れる事などについて打ち合わせをした後、【タナカ・ビレッジ】を後にしました。
私は、次の目的地に向かって【転移】します。
あー、忙しい。
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