第248話。取り留めがない不安。
「ソフィア&ノヒト(コンパーニア)」
ソフィア&ノヒトの傘下企業。
マリオネッタ工房。
アブラメイリン・アルケミー。
ドラゴニーア・ニュース。
スクエア。
社長…ハロルド
副社長…イヴェット
技術担当責任者…イアン・ファヴリツィアーニ
【ドラゴニーア】竜城。
私とトリニティは、朝食を食べる為に、竜城に戻って来ました。
大広間には、既に、アルフォンシーナさんと、エズメラルダさんと、ゼッフィちゃんがいます。
今日は、エズメラルダさんも朝食に参加するのですね。
エズメラルダさんは、忙しい場合や、前日の夜の仕事が遅かった場合などは、朝食を遅らせる事があるので、毎回、同席する訳ではありません。
「おはようございます」
私は、挨拶をしました。
「「「おはようございます。ノヒト様、トリニティさん」」」
アルフォンシーナさん、エズメラルダさん、ゼッフィちゃんが声を揃えて挨拶します。
「おはようございます」
トリニティは、些か高慢と誤解されかねないような態度で挨拶しました。
しかし、身内の皆さんは、トリニティが人種に頭を下げられないように設定されているのを知っているので、それを問題なく受け入れてくれます。
程なくして、ファヴが大広間にやって来ました。
「おはようございます」
「「「「「おはようございます」」」」」
次は、リントがティファニーを連れて現れます。
「おはようございます」
「皆様、おはようございます」
「「「「「「おはようございます」」」」」」
最後は、ソフィア、ウルスラ、オラクル、ヴィクトーリア。
「うわぁあ〜……むにゃむにゃ。おはようなのじゃ」
ソフィアが大アクビをしました。
アクビの拍子に、ソフィアの頭の上で寝ているウルスラがずり落ちて、オラクルにキャッチされるところまでが毎度のルーティーン。
「「「「「「「おはようございます」」」」」」」
「ソフィア、おはよう」
身内の挨拶で始まる1日というのは、良いモノですね。
大人になってから気が付いた事だったりします。
私は、子供の頃から両親に……お礼と挨拶だけはキチンとするように……と厳しく躾けられました。
私の両親は、他の事では、勉強しろ、とも、部屋を片付けろ、とも、それほど厳しくは言わなかったのです。
私は、自分で思い返してみても、出来の良い息子ではありませんでしたが、ほとんど叱られた記憶もありません。
しかし、両親は何故だか……お礼と挨拶だけは、キチンとするように……と、いつも煩く私に注意しました。
大人になってから、わかった事ですが、とりあえずお礼と挨拶をキチンと出来れば、他の能力があまり冴えなくても、何となく他所様から疎まれずに生きて行けるモノなのです。
最も簡単で素朴な処世術。
両親は、それを知っていたのでしょうね。
私達は、食卓に着きました。
朝食のメニューは、純和風……もとい、純【タカマガハラ皇国】風。
ご飯、味噌汁、主菜、副菜、漬物。
主菜は……焼き魚、煮魚、肉料理、卵料理から選べます。
副菜も……サラダ、蒸し野菜、野菜の煮物、果物から選べました。
希望者には、ご飯と味噌汁と漬物も、パンとスープとピクルスに取り替えてもらえます。
私とソフィアが【タカマガハラ皇国】料理を好むので、竜城のメニューでは【タカマガハラ皇国】料理が提供される頻度が高くなり、段々と、その味に慣れた竜城の皆さんにも【タカマガハラ皇国】料理のファンが増えて来ていました。
私は、ご飯、味噌汁、カレイの煮付け、蒸し野菜、漬物をチョイス。
他の皆は、思い思いに選択していました。
ソフィアは、当然のように、全種類。
最近では、【タカマガハラ皇国】料理にも慣れたせいか、皆、思い思いのアレンジをプラスアルファ。
ソフィアは卵かけご飯。
ソフィアの卵かけご飯は、醤油ではなく、マヨネーズを混ぜ込みます。
私は、ネギとカラシ多めの納豆ご飯。
初めは、竜城の皆さんは、納豆の臭気に顔をしかめていましたが、最近では密かに納豆ファンが増えていました。
ソフィアも納豆好きで、普段から納豆オムレツなどを好んで食べています。
他の人達は、白ご飯にバターを乗せたり、マヨネーズやケチャップをかけたり、何だかわからないソースをかけたりしていました。
アルフォンシーナさんは、意外にも、というか、頑なに白ご飯派……白ご飯の美味しさに目覚めた……と言っていました。
ファヴは、【センチュリオン】産の粉チーズを白ご飯にかけるのが好み。
この【センチュリオン】チーズは、地球のパルメジャーノ・レッジャーノ……つまりパルメザン・チーズに良く似ています。
ウルスラは、ふりかけ派。
ウルスラは、竜城で【タカマガハラ皇国】料理が提供される時は、市販のふりかけを気分によって選んでいます。
トリニティは、白ご飯には特段の拘りは示さないものの、アスパラベーコンが別皿に追加されていました。
トリニティは、アスパラベーコンや、ピーマンの肉詰めや、ネギマの焼き鳥など、肉と野菜が合わさったような料理が好物。
混ぜ合わされたモノではなく、あくまでも、個別に原型を留めながら、合体したような料理を好む傾向がありました。
なかなか面白い好みですよね?
他人には理解出来なくとも、きっと、トリニティ的に琴線に触れる何かがあるのだと思います。
パスを通じて、その思念が伝わって来たので、竜城で食事する時には、いつも私が厨房に頼んで追加してもらっていました。
私が頼んであげないと、トリニティは……仰せのままに……とだけ言って、ほとんど自己主張はしませんので。
・・・
朝食後。
今日の予定の確認をします。
午前中は……。
ソフィア、ウルスラ、オラクル、ヴィクトーリアは、孤児院訪問。
ファヴはサウス大陸【ムームー】で大地の祝福の総仕上げ。
今日で、大地の祝福は、完了する予定です。
リントとティファニーは、アルフォンシーナさん達と外交上の諸懸案を会議するのだ、とか。
現在、【ドラゴニーア】竜城には、【ドラゴニーア】の大神官であるアルフォンシーナさんは、もちろんの事……サウス大陸【パラディーゾ】の大巫女であるローズマリーさんもいました。
ティファニーも含めて5大大陸の首席使徒が3人もいるのです。
リントは、新たにウエスト大陸の首席使徒たる法皇に任命されたばかりのティファニーを2人に紹介する意味合いもあるのでしょう。
トリニティは、昨晩が徹夜だったので、昼食までは、仮眠を指示しました。
私は、サウス大陸の東の国【ティオピーア】と、西の国【オフィール】から赤師団と青師団を、【ドラゴニーア】に引き上げて来ます。
実は、サウス大陸の魔物の残敵掃討作戦は、終了していました。
当初の予定では、神の軍団の戦闘負荷が高くなれば、部分的にレジョーネが出動してツボを押さえるつもりでしたが、神の軍団が、私が予想したより大活躍した為に、結局一度もレジョーネが出動する必要がなかったのです。
優秀な配下を持つと楽が出来ますね。
なので、サウス大陸に展開する神の軍団の余剰戦力を、このタイミングで【ドラゴニーア】に移してしまう事にしました。
サウス大陸の北の国【アトランティーデ海洋国】の千年要塞にいる白師団と、サウス大陸中央国家【パラディーゾ】を守る黒師団と、サウス大陸の南の国【ムームー】を守る緑師団を残して、赤師団と青師団は、【ドラゴニーア】に転属させます。
近い将来には、白師団も【ドラゴニーア】に移すつもりですが、それは、【ドラゴニーア】第2艦隊が千年要塞に配備完了した後になるでしょう。
赤師団と青師団がいなくなる、サウス大陸の東の国【ティオピーア】と、サウス大陸の西の国【オフィール】の防衛は?
私の知った事ではありません。
あの2か国は、卑劣な策謀で【ムームー】を不法に侵略しようとしたのです。
ましてや、サウス大陸の守護竜であるファヴの意に背いてですよ。
そんな不埒な国を、私が守ってあげる義理はありません。
せいぜい、自前の戦力で国を守って下さいね。
私は関知しませんので。
午後、私は【ウトピーア法皇国】に出かけて査察を行うのですが……。
「ノヒトよ。【ウトピーア法皇国】に出発するのは、何時じゃ?」
ソフィアが訊ねました。
「【ウトピーア法皇国】へは昼食後に出発です」
「わかったのじゃ。あの小生意気な【ウトピーア法皇国】の連中をギャフンと言わせてやるのじゃ」
「ソフィア。今回は、私1人で行こうかと思います」
「なぬっ!我を置いていくのか?置いていかれるのは、嫌じゃ」
ソフィアは、言います。
「しかし、ゲームマスターの業務です。ソフィアには、直接的には関係のない事なのですよ」
「嫌じゃ〜っ!連れていくのじゃ〜っ!ずっと前から約束していたではないか?」
ソフィアは、椅子に立ち上がって、地団駄を踏みました。
あ〜、面倒臭いパターンです。
確かに、私は、当初【ウトピーア法皇国】への査察の折には、ソフィアに同行をしてもらうつもりでした。
しかし、あの時には、私の支援要員には、トリニティも、神の軍団も、ミネルヴァも、【コンシェルジュ】達も、いなかったのです。
ソフィアには悪いのですが、過去の私は、ソフィアの力をアテにしなければ目的を遂げる確証がなかったので、ソフィアを巻き込んだ、という側面もありました。
もちろん、正義感の強いソフィアですから、私が頼まなくても事情を知れば助けてくれたとは思います。
しかし、本来、ウエスト大陸の問題には、セントラル大陸の守護竜であるソフィアは直接的な関係はありませんし、そもそも、ゲームマスターの業務にソフィアは関係ないのです。
私は、体制が整っていない事を理由に、ソフィアの善意を利用してしまっていた面もありました。
ほんの少しですが、そんな狡い考えがあった事は否定出来ないのです。
現在、私は、トリニティや神の軍団や【コンシェルジュ】という実働部隊と、ミネルヴァという最強の後方支援要員を得ました。
彼らは、ソフィアのような守護竜とは違い管轄領域が明確に決められている訳でも、権限に制約がある訳でもありません。
どこの大陸で暴れても、外交問題などにはならないのです。
しかし、ソフィアの場合は違いました。
セントラル大陸の守護竜であるソフィアが、他所の大陸で何かトラブルに巻き込まれれば、それは、大陸間戦争の火種になるかもしれません。
私は、自分が状況によって変わる都合の良い理屈を言っている事は理解しています。
しかし、状況は変わったという事こそ、重要なのです。
当時は、ソフィアを一緒に連れて行くのが最善手でした。
しかし、今は違います。
現在の状況では、ソフィアを関与させないほうが、より良策と言えました。
私は、局面、局面で、常に最善手を打ち続ける事を信条としています。
君子豹変。
私は、以前と違う方針であっても、状況が変われば躊躇なく別の方法を選ぶのです。
私は、完璧な計画などというモノは存在しない、と思っていました。
いや、より厳密には……私には、完璧な計画など立案出来ない……と言うべきでしょう。
また、私は、計画そのものよりも、計画に縛られない臨機応変な対応が勝ると考えていました。
経験から、この考えが正しいという自信もあります。
計画に縛られて負けるより計画を捨ててでも勝つ。
これが私の仕事をする上での矜持でした。
「ソフィア。現状、ソフィアを【ウトピーア法皇国】に連れて行くのは、最良の方法ではなくなりました。ごめんなさい」
「い〜や〜じゃ。ノヒトが行くなら、我も行くのじゃ。置いて行くなら、勝手について行くだけなのじゃ」
ソフィアは、腕組みしてプンスコと頬を膨らませました。
まあ、連れて行くのは構いません。
当初は、その予定でしたからね。
仮に想定し得る最悪の結果になるとしても、私とソフィアの立場なら……だから何……と言ってしまえば、それまでです。
国家間戦争?
だから何?
私やソフィアは、そう言い放っても、誰からも責任を問われない立場の存在なのです。
とはいえ、何だか嫌な予感がしました。
今回は、ソフィアに留守番しておいてもらった方が良いような気がします。
何だか、得体の知れないモノがあるのではないでしょうか?
あの、謎の地下施設に……。
あそこに、私がソフィアには見せたくないモノが待ち受けているような気がしてならないのです。
それが一体何なのかは、皆目見当もつきませんが……。
まあ、この世界には、予知や、予言や、第六感や、虫の知らせ……などという設定も要素もありません。
私の思い過ごしの可能性が高いのです。
まるで根拠のない、取り留めがない不安でしかありません。
うーむ、どうしたものか……。
「ソフィアお姉様は、ともかく、妾は、ご一緒致しますわ。妾は、ウエスト大陸の守護竜。【ウトピーア法皇国】は、妾の責任管轄領域です。ノヒトも、よもや妾を置いて行く根拠はありますまい」
リントが言いました。
正論ですね。
確かに、リントが、どうしても、ついて来ると言うならば、それを拒否する根拠を私は示せません。
リントは、ウエスト大陸の【領域庇護者】。
ウエスト大陸の諸問題について、第一義的に決定する権限を持ちますので……。
「わかりました。リントには、付いて来てもらいましょう」
「我も行くのじゃ」
ソフィアはキッパリと言いました。
そうなりますよね。
リントに同行を許可すれば、当然ソフィアを置いて行く、という根拠も弱まります。
ソフィアも連れて行かざるを得ないでしょう。
「わかりました。ただし、勝手な行動は慎んで下さいね。リントが一緒に行くからと言って、ソフィアがウエスト大陸で、暴れれば、即、外交問題になる可能性があるのですよ。現在のウエスト大陸諸国が、リントの言葉に従う保証はないのですからね」
「わかっておるのじゃ。この至高の叡智を持つ天空の支配者たる我に、ドンと全て任せておくのじゃ」
ソフィアは、フンスッ、と胸を張りました。
その圧倒的な自信が、私は、とても不安なのですよ。
結局、レジョーネ全員で【ウトピーア法皇国】に乗り込む事にしました。
私達は、午前中の、それぞれの予定に従い、行動を開始。
正午、レジョーネとファミリアーレで、【ワールド・コア】ルームで昼食を食べてから、午後、レジョーネは、【ウトピーア法皇国】に向かいます。
一抹の不安は、ありますが……なるようにしか、ならないのでしょう。
私は、とりあえず午前中の仕事をやっつけるべく、サウス大陸に向かって【転移】しました。
方向が同じのファヴと一緒に向かいます。
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