第242話。ウエスト大陸の守護竜。
名前…ヘザー
種族…【人】
性別…女性
年齢…30歳
職種…【事務員】
魔法…なし
特性…なし
レベル…8
世界冒険者ギルド【サンタ・グレモリア】支部ギルド・マスター。
ウエスト大陸の聖都【サントゥアリーオ】。
中央聖堂の礼拝堂。
私達は、まず各自が転移座標を設置しました。
これで、私、ソフィア、ファヴは、いつでも、ここ【サントゥアリーオ】中央聖堂の礼拝堂に、やって来られます。
逆に言うと、現状、私達以外には、外から【サントゥアリーオ】に【転移】して来る事は不可能でしょう。
何故なら、通常の【転移】は【超位魔法】である為に、【リントヴルム】の【神位結界】によって、弾かれてしまうからです。
「さてと、【リントヴルム】を降臨させてしまいましょう。準備は良いですか?」
私は、ソフィア、ファヴ、ウルスラに言いました。
「うむ……やってやらねばならぬ」
ソフィアは、愛用の長巻【クワイタス】を鞘から抜き放って、決意を秘めた表情で頷きます。
「はい」
ファヴは愛用の十文字槍【クルセイダー】を構えて言いました。
2人とも最悪の場合、即、戦闘になる事を覚悟しています。
最悪の場合とは……つまり、私が【リントヴルム】を滅殺し、存在をリセットしなければいけない状況でした。
それがゲームマスターの仕事だとはいえ、凄く気が重いですね。
「守護竜を相手にするなんて、ちょっとだけビビるよね〜」
ウルスラは、ソフィアの背後に隠れながら言います。
私は、八角形の礼拝堂の、それぞれの頂点に立つ竜の彫像を中央に向けて動かしました。
数千tは、あろうかという、巨大な彫像がキャスターでも付いているかのように、クルクルと動きます。
ただし、これは私のような運営側の人間か、グレモリー・グリモワールのようなユーザーであり、なおかつレベルが最大にカンストしていないと、動かすことが出来ない仕様でした。
ゴゴゴゴゴ……。
空間そのものを揺さぶるような振動と共に、礼拝堂の中央に描かれた魔法陣から光が放たれ始めました。
【リントヴルム】の降臨イベントが始まったのです。
ゴゴゴゴゴ……ビカーーッ!
おっふ、眩しい。
すると、巨大な、【ドラゴン】が、強大な魔力を撒き散らしながら、礼拝堂の中央に刻印された、魔法陣の上に現れました。
【リントヴルム】です。
現身した守護竜の姿には、身体的特徴に少しずつ差異がありました。
【神竜】は、体色が漆黒で、他の守護竜より一回り大きな50mの巨体。
【ファヴニール】は、やや赤みがかった黒い体で、尻尾を含まない体長は45m。
そして、【リントヴルム】は、やや緑がかった黒い体で、尻尾を含まない体長は45m。
因みにダンジョン・ボスの【古代竜】は、体長40m。
周期スポーン・エリアのエリア・ボスに設定されている【古代竜】は、体長35m。
野良の【古代竜】は、体長30m。
【竜】は、体長10m。
「数多の試練を乗り越えし者よ。【リントヴルム】である。お前の力を認め、大いなる恩寵を与えよう」
【リントヴルム】は威厳のある声で言いました。
「リントよ。我じゃ、其方の姉の【神竜】じゃ」
ソフィアが【リントヴルム】を見上げて言います。
「リントお姉様。僕です、ファヴです。わかりますか?」
ファヴも【リントヴルム】に問いかけました。
「ソフィア、ファヴ。まだ、【リントヴルム】の状態が、どうなっているかは判断出来ませんよ」
一見、【リントヴルム】の様子に異常はないようですが、まだ、わかりません。
ここまでは、あらかじめ設定されている、幾つかある定型文の台詞のパターンを機械的に喋っているだけ、だからです。
「恩寵を与える。望みを言うが良い」
【リントヴルム】は言いました。
「リントよ。我を忘れたのか?」
ソフィアは訊ねます。
「望みを言え」
【リントヴルム】は、なおも言いました。
全くコミニュケーションが成立しません。
「むむむ。望みは……【サントゥアリーオ】に張った【神位結界】を速やかに解放するのじゃ。そして、【リントヴルム】……其方は、守護竜の役目を果たせ」
ソフィアが言いました。
【リントヴルム】は、ソフィアを、ギロリ、と睨みます。
「断る」
【リントヴルム】は拒絶しました。
「リント。其方は、守護竜の本分を何と心得る?其方は、間違っておる。目を覚まして、守護竜の役目を果たすのじゃ」
「断る」
「何故じゃ?!我の言う事を聞けぬ、と言うのか?」
「人種は、救いようがない」
「救いようがないのは、其方じゃ!この阿呆めがっ!すぐに、【神位結界】を解放し、人種の庇護をするのじゃ!」
ソフィアが、【天意】を最大限に発動して命じます。
【任意発動能力】の【天意】は、【交渉】系の最上位能力。
相手に要求を提示すれば、それが正当で妥当なモノであれば、強力な強制力を発揮します。
「ぐっ、ぐぅう……グゥアアアッ!」
【リントヴルム】は、ソフィアの【天意】に抵抗する素振りを見せました。
【マッピング】では、【リントヴルム】を表す光点反応が徐々に赤色を帯びてきます。
【リントヴルム】の光点反応は、中立を示す白から……ピンクに色付き……そして敵性状態を示す赤に変わって行きました。
やはり説得は無理なのでしょうか……。
私は、【収納】から、【神の遺物】の剣【アルタ・キアラ】を取り出しました。
最強の剣は、この世に斬れぬモノなし、の【神剣】ですが……【神剣】は両断した傷が【治癒】不可能となるギミックを持つ為、【リントヴルム】相手には使えません。
「ソフィア、ファヴ。どうやら、ダメです」
「くっ、このド阿呆めが……」
「リントお姉様。おいたわしい……」
「【リントヴルム】。お前を顕現させ、現世に留まり続ける事を、ゲームマスターとして許可します」
私は、【リントヴルム】に通告しました。
すると……。
「グルゥアアアーーーッ!」
【リントヴルム】は、【神威】を全開にしながら、咆哮しました。
【リントヴルム】を表す【マッピング】の光点反応は交戦色の真紅。
私達は、戦闘態勢を取りました。
「ダメじゃ。知性を失うておる」
ソフィアが唇を噛んで言います。
「リントお姉様……」
ファヴが悲痛な声を出しました。
「さあ、来ますよ」
見ると、【リントヴルム】は、口を開け魔力を収束し始めています。
私達は、飛びすさりました。
刹那。
カッ、チュドーーーンッ!
私達が今しがた立っていた場所に、【リントヴルム】の吐いた【神位ブレス】が炸裂しました。
私達は、直撃を避けたものの、爆風の余波を受けて、聖堂の窓から外に吹き飛ばされます。
「止むを得ん。やってやるのじゃ」
ソフィアは、魔力を収束させました。
「ソフィア。なるべく殺さないように」
私達を追って【リントヴルム】が聖堂の外に出て来ます。
カッ、チュドーーーン!
【リントヴルム】が、姿を見せた瞬間、ソフィアの【神竜の咆哮】が火を吹きました。
ズドガーーーンッ!
直撃。
しかし、【リントヴルム】は、怯みません。
殺さない程度に加減した【神竜の咆哮】では、傷を負わせるだけです。
とはいえ、被弾面の肉がゴッソリと抉れるほどの深傷でした。
しかし、相手が守護竜の場合、どれほどの傷であっても、魔力さえ潤沢ならば、その傷は、たちどころに修復されてしまいます。
守護竜の魔力は膨大。
つまり、傷を与えても大勢に、さほどの影響はないのです。
ソフィアの【神竜の咆哮】を持ってしても、傷付く事を全く恐れない正気を失った【リントヴルム】には、脅しにもなりませんでした。
かと言って、【神竜の咆哮】の出力を上げれば、一撃で消滅させてしまいます。
一方で、【リントヴルム】の方は、一撃必殺の攻撃を躊躇なく放って来ますからね。
これでは、私達の方だけがハンディキャップを背負っている状態になります。
なかなか、悩ましいところですね。
グゥウォオオオーーーッ!
私達は、それぞれ【神位魔法】を放ちました。
全弾直撃。
しかし、【リントヴルム】は一顧だにしません。
わずかに【魔法障壁】の耐久値を削った程度です。
硬い。
殺さないように威力を調節した魔法では、とてもダメージが通りそうもありません。
これが守護竜の強さですか?
これ、ユーザーでは、仮に何万人集まっても倒せないんじゃないでしょうか?
私達と【リントヴルム】は、上空に飛翔して、壮絶な魔法戦となりました。
「おのれ。【神竜の斬撃】!」
ソフィアが【クワイタス】の刀身から、純粋な魔力の刃を飛ばします。
いっぺんに、5つでした。
ソフィアの【神竜の斬撃】は、【魔法障壁】も【防御】も貫通するので、防御不可能です。
【リントヴルム】は、【神竜の斬撃】を4つ躱しましたが、1つは避けきれず尻尾の先を斬り飛ばされます。
しかし、【リントヴルム】は、なおも怯みません。
すぐに、【リントヴルム】の尻尾の先は、【神位自然治癒】で復元されて行きます。
【リントヴルム】が【神位ブレス】を吐きながら、接近して来ました。
ファヴが【神位ブレス】を躱した先に、待ち構えていたように、【尻尾の打撃】……。
不味い。
ビターーーンッ!
ドンガラ、ガッシャーーンッ!
ファヴが【リントヴルム】の【尻尾の打撃】の直撃を喰らい吹き飛ばされ、地上に激突しました。
【リントヴルム】は追い討ちの【神位ブレス】をファヴが墜落した地点に撃ち込みます。
「ファヴ!」
「大丈夫、まだ、やれますっ!」
ファヴは、流血しながらも、すぐさま戦線に復帰します。
ウルスラがファヴの元に飛び、【治癒】をかけました。
ちっ、強い。
戦闘力も、戦闘技術も桁違いに高い。
さすがは、守護竜。
いやいや、感心している場合ではありません。
「ノヒト。もはや、滅殺するしかないのじゃ。手加減をしていて、倒し切れるような相手ではないのじゃ」
ソフィアは、焦燥感を滲ませます。
守護竜は不死身。
滅殺しても、自らの依り代である神殿や聖堂から、全ての記憶を持ったまま復活します。
しかし、私は、この【リントヴルム】を可能な限り、滅殺したくはない、と考えていました。
何故ならば、仮に全ての記憶を保持していたとしても、一度滅んで復活した個体は、前と同じ個体ではないからです。
いわば、クローンに、自分の記憶を移植したような存在。
私は、出来る事なら、ソフィアやファヴが知る、以前の【リントヴルム】のまま、正気を取り戻させてやりたいのです。
【リントヴルム】を滅殺するつもりなら、初めから、私1人で、やって来たでしょう。
ソフィアとファヴを連れて来た理由は、身内である2人に何とかして【リントヴルム】を説得してもらえないか、という考えがあったからです。
私は、【超神位魔法……呪】を【アルタ・キアラ】の刀身に纏わせ、【超神位魔法……短距離転移】で、一気に間合いを詰めました。
私の転移先に、【リントヴルム】の【尻尾の打撃】が迫ります。
反応が速いっ!
私は、【アルタ・キアラ】を一閃。
【リントヴルム】の尻尾を斬り飛ばしました。
グルアアアーーーッ!
【リントヴルム】は、【神位自然治癒】でも生えて来ない自分の尻尾を見て、怒りの咆哮を上げます。
【呪】などの【呪詛魔法】には、傷の治癒を阻害する効果がありました。
まして、私が【アルタ・キアラ】に纏わせたのは、ゲームマスターにしか使えない【超神位魔法……呪】。
守護竜といえども、【抵抗】は不可能です。
相当に痛いでしょうが、悪く思わないで下さいね。
私は、再び【超神位魔法……短距離転移】で、【リントヴルム】の背後に回り込み、【リントヴルム】の両方の翼を【超神位魔法……呪】属性付きの【アルタ・キアラ】で、斬り飛ばしました。
キュルアアアーーーッ!
【リントヴルム】は、痛みと憎しみで、甲高い悲鳴を上げます。
【リントヴルム】は、翼を失いながらも、【飛行】で空中に留まり、私に向かって至近距離から、【神位ブレス】を吐きました。
私は、それを無視……【神位ブレス】の奔流に逆らって体制を維持します。
私は、当たり判定なし・ダメージ不透過なので、どんな攻撃も無効にしますからね。
「【超神位魔法……排出】」
私は、【リントヴルム】の魔力を強制的に【排出】させました。
【リントヴルム】は、重力に抗えなくなり、もがきながら地上に落下……。
ズッシーーーンッ!
墜落しました。
私は、【超神位魔法……短距離転移】で、【リントヴルム】の落下地点に移動。
素早く、【リントヴルム】の四肢を斬り飛ばし、魔力の収束を不可能にする【複合魔法陣】を【リントヴルム】の頭部に施しました。
【リントヴルム】が私に噛み付こうとしましたが、私の身体には歯が立ちません。
私は、【リントヴルム】の牙を斬り飛ばしました。
ガキン……。
あ!
愛用の【アルタ・キアラ】が真ん中から割れてしまいました。
スペアは何本もありますが、この【アルタ・キアラ】は、私が長年使い込んで手に馴染んだモノ。
愛着があったのですが、仕方がありません……。
【神の遺物】は、全て【創造主の魔法】で【神位】の【自動修復】が【バフ】されていますが、ここまで完全に破壊されてしまうと、もう、復元出来ず廃品となります。
【神の遺物】最強とも云われる【アルタ・キアラ】を割るとか……守護竜の牙は、一体どれほど硬いのでしょうか。
【アルタ・キアラ】は、魔力を込めれば込めただけ性能が向上するというギミックを持ちます。
ゲームマスターである私の魔力は無限。
つまり、私が使う【アルタ・キアラ】は、【神剣】など【神の武器シリーズ】に準ずる最強クラスの剣なのです。
しっかし、割れてしまいました。
刃こぼれしたり折れたり曲がったりではなく、破断面が無残に粉々です。
私は【リントヴルム】の2本の牙を【収納】に回収しました。
これだけの強度がある物質なら、トンデモナイ武器が作れそうですからね。
因みに、斬り飛ばした【リントヴルム】の尻尾や翼は、【超神位魔法……呪】の効果でグズグズ・ドロドロに腐敗してしまっているので、回収しても素材には流用出来ません。
兎にも角にも、勝負あり。
私達の勝ちです。
この後、【リントヴルム】を正気に戻さなくてはいけませんが、とりあえず落ち着いて話を聴いてもらえる体制にはなりました。
ふーっ、シビれましたね。
【リントヴルム】は、間違いなく過去最強の相手でした。
【リントヴルム】が横たわる場所に、ソフィアとファヴとウルスラも集まって来ます。
【マップ】を確認すると【リントヴルム】の光点反応は、赤みが、やや薄くなっていました。
さてと、【リントヴルム】を説得出来るでしょうか……。
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