第241話。聖都サントゥアリーオ。
名前…フランク
種族…【ハイ・オーク】
性別…男性
年齢…296歳
職種…【重装剣闘士】
魔法…【闘気】
特性…【才能…鼓舞】、【攻撃力B】、【指揮】
レベル…60
世界冒険者ギルド【アトランティーデ海洋国】・【千年要塞】支部ギルド・マスター。
聖都【サントゥアリーオ】。
私達は、【サントゥアリーオ】の西城門に到着しました。
ソフィアは人化して、ウルスラを再召喚します。
【サントゥアリーオ】も【エリュテイア】と同様に人種の手による【都市結界】が施されていました。
私達は、都市西城門を【解錠】して、入街します。
かつては、夢の都とも、美の都とも、祈りの殿堂とも呼ばれたウエスト大陸随一の都市。
しかし、今は、見る影もありません。
都市の中は、【エリュテイア】で見た状況と大差はありませんでした。
異様な雰囲気です。
都市丸ごとがシャッター商店街のような状況。
【エリュテイア】と同様に家畜が半野生化したのか、馬や牛や羊が悠然とメイン・ストリート歩いています。
【エリュテイア】と違うのは、何だか、蔦のような蔓植物が一部の建物に繁茂していました。
どこかで栽培されていた植物が手入れをされずに、繁茂し放題になっているのでしょう。
私達は、【飛行】で、中央聖堂を目指します。
・・・
【サントゥアリーオ】中央聖堂。
私達は、中央聖堂の前にやって来ました。
この上階の礼拝堂に【リントヴルム】を降臨させられる魔法陣があります。
かつて、【サントゥアリーオ】中央聖堂は、【リントヴルム】に祈る祭祀の中核を担っていました。
しかし、現在、ウエスト大陸で【リントヴルム】に祈る者は、多くありません。
ゲームマスター権限で、【リントヴルム】の信徒数を調べると、何と、グレモリー・グリモワールより少ない、という驚愕の結果が出ました。
この世界は、多神信仰が正常な状態と設定されていますので、グレモリー・グリモワールの信徒が【リントヴルム】の信徒を兼ねるという事はあり得ます。
しかし、それにしても、【神格】を持たないユーザーに過ぎないグレモリー・グリモワールに信徒数で負ける本物の神、とは……。
【リントヴルム】は長らく引きこもり、ウエスト大陸の住民に何ら恩恵を与えていませんし、守護竜の役目を果たしていません。
信徒が離れてしまうのも仕方がないでしょう。
これに関しては、【リントヴルム】の責任。
自業自得でした。
「んー?」
ソフィアが、あらぬ方向へとフラフラ歩き出します。
「ソフィア。どこに行くのですか?」
「スンスン……何か匂うのじゃ」
ソフィアが鼻をヒクつかせながら言いました。
何か食べ物の匂いでも嗅ぎつけたのでしょうか?
「ソフィア。私達は、大切な用事があるのですよ。さあ、礼拝堂に向かいましょう」
「違うのじゃ……。何やら人種の気配が匂うのじゃ」
ソフィアは、スンスンと鼻を鳴らして言います。
「本当ですか?!」
そんな、まさか。
「うむ。たぶん、そんなような気がするのじゃ」
私は、サーチ範囲を広げました。
……が、人種を疑うような生体反応はなし。
私は、サウス大陸の【マッピング】サーチを経験して、サーチ能力が格段に上がっていますからね。
私のサーチによると、魔力反応は幾つも拾えましたが、人種……つまり、生体の反応ではありません。
魔力反応は、【魔法装置】の可能性があります。
「私の【マッピング】には生体反応がありません。ソフィアの思い過ごしなのでは?」
「思い過ごしではないのじゃ。匂うのじゃ。ウルスラ、探すのを手伝って欲しいのじゃ」
ソフィアは、ウルスラに言いました。
どうやら、ソフィアの言う、匂い、とは嗅覚ではなく、第六感的なモノ……つまり、勘や予感の類なのだそうです。
それ……信用出来るのでしょうか?
「ガッテン承知。【妖精女王】が命じる。【サントゥアリーオ】の妖精よ、顕れよ。★◆★◆◯△△◯……」
ウルスラが、何事か唱え始めました。
すると、どこからともなく、フワフワとした発光体が集まって来ます。
地場妖精達でした。
「◯◆★△★△★◆◯?」
ウルスラが地場妖精達に語りかけます。
「「「◆◯△★★△◯◆」」」
地場妖精達が歌うように唱和しました。
「△△★★◆◆◯◯?」
「「「★△△★」」」
「★△?◆△?」
「「「◯、◆△。……◯◆△★◯◆」」」
ウルスラ達は、人種には発声不可能な、リズムとも、メロディーともつかない妖精言語で、地場妖精達と会話しています。
「ウルスラ。どうじゃ?」
ソフィアが訊ねました。
「う〜ん、誰かがいるのは間違いないみたいだね〜。聖堂の高い所にいるらしいよ〜」
うーん。
私の【マッピング】サーチに反応がないのですから、人種はいない、と断言出来ますが……という事は……。
「ソフィア。私の【マッピング】には、生体反応はありません。そのソフィアが匂う気配というモノは、例えば、普段オラクルやヴィクトーリアにも感じるモノですか?」
「もちろんじゃろう。オラクルとヴィクトーリアは、人種なのじゃから……あ……」
ソフィアは気が付きました。
そうです。
人種のような者がいて、その者は、生体反応はない。
人種に見えても人種ではない。
つまり……。
「「【自動人形】じゃな?」ですよ」
私とソフィアは、同時に言いました。
つまり、【サントゥアリーオ】の中央聖堂には現在も起動している【自動人形】がいる、という事。
どちらにしろ、【リントヴルム】を顕現降臨させる為に、中央聖堂の上階には、これから昇る訳ですから、ついでに、その【自動人形】と思われるモノについても確認しておきましょう。
私達は、【サントゥアリーオ】の中央聖堂のエレベーターに乗り込みました。
・・・
【サントゥアリーオ】中央聖堂の礼拝堂。
私達が、エレベーターを降りて、礼拝堂に入ると、そこには予想した通り1体の【神の遺物】の【自動人形】がいました。
「あなた方は、どなたですか?」
【神の遺物】の【自動人形】が少し警戒しながら訊ねます。
「ゲームマスターのノヒト・ナカです」
「ゲームマスター……魔力反応を確認しました。紹介が遅れました。私は、【サントゥアリーオ】政府所属【自動人形】のティファニーでございます」
ティファニーは名乗りました。
「よろしく、ティファニー。私の事は、ノヒトと」
「畏まりました、ノヒト様。ゲームマスターがこちらにいらした、という事は、つまり進入不可能な【サントゥアリーオ】の【神位結界】は正常な状態に回復するのですね?」
ティファニーは訊ねます。
「はい。その予定です」
「そうですか。元に戻るのですね?私も任務を果たせて嬉しく思います」
ティファニーは、言いました。
「ティファニー。我はソフィアじゃ」
「アタシは、ウルスラ。よろ〜」
「ファヴです。よろしく」
3人も名乗ります。
「どうぞ、よろしく」
ティファニーはソフィア達を一瞥して愛想笑いをして見せました。
「ティファニー。この3人は、セントラル大陸の守護竜であるソフィアと、サウス大陸の守護竜であるファヴと、【妖精女王】のウルスラです」
「守護竜、【妖精女王】……ソフィア様、ファヴ様、ウルスラ様……。どうぞ、よろしく、お願い申し上げます」
ティファニーは、かなり戸惑いながらも、3人に対して改めて格式に見合った丁寧な礼を執り直しました。
ティファニーからすれば、何故、守護竜(しかも、他所の大陸の)が目の前にいるのか、全く意味がわからないのでしょうが……ゲームマスターが言う事に間違いがあるはずはない……と判断したのでしょう、私の言葉を信じます。
「ティファニーよ。其方は、ここで何をしておるのじゃ?」
ソフィアが訊ねました。
「【サントゥアリーオ】政府の留守居役でございます」
ティファニーは、答えます。
「【サントゥアリーオ】は、国際法上、滅亡したという位置付けになっておる。留守居役といっても、帰って来る者は、おらぬぞ。其方の管理権限者は誰なのじゃ?」
「【サントゥアリーオ】政府です」
「うむ。ならば、其方の管理権限者である【サントゥアリーオ】政府は、国際法上、もはや存在せぬ。仮に、旧【サントゥアリーオ】国民の子孫や、あるいは、旧【サントゥアリーオ】国民の本人が生存しておったとして、その者らが戻って来て国を再興しても、それは、旧【サントゥアリーオ】ではなく、新【サントゥアリーオ】なのじゃ。つまり、ティファニーの管理権限者は、どこにも存在せぬ」
ん?
ソフィアの言う事は事実ですが、そんな事をティファニーに説明する意図は何でしょうか?
「じゃから、我の所に来れば良いのじゃ」
ソフィアは、言いました。
そう来ましたか……。
ソフィアは、ティファニーが欲しかったのですね……。
「ソフィア。それは、苦しい論理ですよ。仮に、ティファニーの管理権限者が存在しないから、と言って、ティファニーをソフィアのモノにする根拠がありません」
端的に言えば、ソフィアがやろうとしている事は、泥棒、ですよ。
「じゃが、自我も感情もある【神の遺物】の【自動人形】であるティファニーを、たった1人、留守番に置き去りにするなど、可哀想過ぎるのじゃ。そんな薄情な者達の元におるより、我と共におった方がティファニーも幸せなのじゃ」
まあ、確かに、それは否定しません。
所有権が判然としなくなった【神の遺物】の【自動人形】の帰属に関しては、オラクル、ヴィクトーリア、クイーン・タナカに人権を認めた時に【ドラゴニーア】を中心とした世界15か国で国際条約が規定されました。
つまり……当該【自動人形】の自由意思を尊重する事……という事です。
「ソフィア。ともかく、ティファニーの自由意思を尊重しましょう。条約で、そう決まったのですから」
「わかっておる。どうじゃ、ティファニー、我と共に行こう」
ティファニーは、困惑しています。
「ティファニー。あなたの好きにすれば良いのです。ソフィアが言った……国際法上、旧【サントゥアリーオ】政府が消滅していて、後継国家というモノは認められない……というのは、事実です。新しい国家の【サントゥアリーオ】は、ウエスト大陸の守護竜たる【リントヴルム】が、その国家体制を決定する権限を有します。なので、【リントヴルム】と相談して、今後の身の振り方を決めれば良いのでは?」
「【リントヴルム】様が、戻って来て下さるのですか?」
ティファニーは、驚いて訊ねました。
「はい。私達は、その為に、やって来ました」
「では、【リントヴルム】様に、お伺いを立ててみます」
ティファニーは言います。
「ノヒト。余計な事は言わずに、我のモノにしてしまえば良かったのじゃ」
ソフィアは悔しがります。
「ソフィア。泥棒はいけません」
「泥棒ではないのじゃ。所有権が判然としなくなった【神の遺物】の【自動人形】の帰属は、当人の自由意思によるのじゃ。ならば、我の元に来れば、どんな楽しい事があるのかを説いて聴かせれば良いのじゃ」
ソフィアは、言いました。
「ソフィア。その国際条約にはウエスト大陸の各国は批准していません。基本的に【サントゥアリーオ】の公的資産は、【リントヴルム】の物です。復活した後の【リントヴルム】から……返せ……と言われたら、どうするのですか?」
「【リントヴルム】は妹じゃ。妹のモノは姉である我のモノ。我のモノは我のモノ……なのじゃ」
ソフィアは、キッパリと言います。
ジャ〇アン・セオリー……清々しいまでの無茶苦茶な理屈ですね。
「ともかく、ティファニーの身の振り方は、【リントヴルム】に任せます」
「欲しいのじゃ」
ソフィアは、口を尖らせました。
「ダメです。道理に合いません」
「ノヒトは、【神の遺物】の【自動人形】をいっぱい持っていてズルいのじゃ。我も、たくさん欲しいのじゃ」
ソフィアは、地団駄を踏みます。
あー、もう、こうなるとソフィアは面倒臭いのですよね。
「ソフィア。ゲームマスター本部の【コンシェルジュ】達は、公用のスタッフで、私個人の持ち物ではありませんよ。それに、人権を認められ、行動の自由があるオラクルやヴィクトーリアやクイーンと、【コンシェルジュ】達は違うのです」
「ノヒトは、【神の遺物】の【自動人形】がいっぱいで羨ましいのじゃ……」
「ソフィア。遺跡で手に入った【神の遺物】の【自動人形】は、ソフィアのモノにしているでしょう?それで納得して下さい。【コンシェルジュ】達を譲渡する事は設定上不可能なのですから、私にも、どうしようもありませんよ」
「むー……わかったのじゃ……」
ソフィアは、渋々という様子で納得しました。
はぁ〜。
手がかかる。
気を取り直して、と。
「ティファニーには一度安全な場所に避難してもらわなければいけません。これから【リントヴルム】を顕現降臨させるのですが、戦闘になる可能性がありますので」
「戦闘ですか?」
ティファニーは驚いて訊ねました。
「はい。ティファニーは、【リントヴルム】が【サントゥアリーオ】の【神位結界】の性質を変えてしまった経緯は知っていますね?」
「はい。存じております」
「【リントヴルム】が降臨した際に、私に抵抗したり、あるいは、正気を失っている可能性もあります。その場合は、最悪、戦って存在をリセットする必要があるのです」
「畏まりました。しかし、どこに退避すれば良いのでしょうか?【リントヴルム】様と、ゲームマスターであるノヒト様が戦闘になれば、どこに避難したとしても、この聖都には安全な場所などないのでは、ありませんか?」
「私の内部【収納】に入っていて下さい。問題が解決したら、すぐに外に出しますので」
「うむ。ノヒトの【収納】の中が一番安全なのじゃ」
ソフィアが言います。
「わかりました。では、よろしくお願い致します」
ティファニーが言いました。
私は、ティファニーを【収納】に回収します。
さてと、予定外の出来事で、少し横道に逸れてしまいましたが、軌道修正。
いよいよ、【リントヴルム】を復活させて、話をつけましょう。
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