第239話。大森林。
名前…ウィルバー
種族…【人】
性別…男性
年齢…39
職種…【重装剣闘士】
魔法…【闘気】
特性…【攻撃力C】
レベル…40
世界冒険者ギルド【センチュリオン】支部ギルド・マスター。
【ドラゴニーア】。
竜城の礼拝堂。
私達は、これからウエスト大陸の元中央国家の【サントゥアリーオ】に向かい、【サントゥアリーオ】の庇護者であり、ウエスト大陸の守護竜である【リントヴルム】に会いに行きます。
【リントヴルム】は、【サントゥアリーオ】の【神位結界】の属性を変質させ、人種を追放し引きこもってしまっていました。
守護竜を失ったウエスト大陸は戦乱が続き、ウエスト大陸の国々は様々な問題を抱えています。
ウエスト大陸では、守護竜【リントヴルム】は、非常に零細な信仰対象へと成り下がってしまっていました。
ウエスト大陸では、【ウトピーア法皇国】の【人】至上主義のような誤った種族差別主義や、【ブリリア王国】の妖精信仰、【ガレリア共和国】の精霊信仰、【イスプリカ】の【竜】信仰などというように、偽神信仰が蔓延っています。
もちろん、世界の理とは整合性がない、これらの思想哲学や宗教信仰は、ゲームマスターの私には是認出来ません。
それでも、穏当で平和的なモノであれば、取り締まらずに、あえて看過する場合もありますが……【ウトピーア法皇国】の標榜する【人】至上主義はゲームマスター的には、完全にアウト。
【人】至上主義も偽神信仰も、元を正せば、本物の神である、ウエスト大陸の守護竜【リントヴルム】が引きこもっているから、起きている事でした。
私達は、【リントヴルム】の引きこもりをやめさせ、ウエスト大陸の、世界の理にも、【創造主】がデザインしたゲームの世界観にも、反した異常な状態を是正しに行くのです。
レジョーネは完全武装で礼拝堂に集合していました。
ファミリアーレとアルフォンシーナさん、エズメラルダさん、ゼッフィちゃん、研修中の【アルカディーア】のドローレス皇太王女、【女神官】の皆さん、竜騎士団が揃って見送りです。
「ソフィア様、ファヴ様、ノヒト様、皆様。ご武運を、お祈り致します」
アルフォンシーナさんが祈りを捧げました。
「うむ、妹の不始末、我が姉として、キッチリと躾をして来てやるのじゃ」
ソフィアは、フンスッ、と鼻息も荒く宣言します。
「リントお姉様に、元の、お優しい、お姉様に戻って頂きます」
ファヴも、眦を決して言いました。
「行って来ます」
私は、いたって平常心。
何故なら、私は【リントヴルム】の兄弟ではありませんので。
何ら感情移入する要素がありません。
「さてと、出発しましょう」
レジョーネは、ウエスト大陸に向かって【転移】しました。
・・・
ウエスト大陸【ブリリア王国】。
【サンタ・グレモリア】の中央神殿。
私達は、【サンタ・グレモリア】に降り立ちました。
【サンタ・グレモリア】の聖職者が私達を見つけて、慌ててスマホで連絡をしています。
あれは、マリオネッタ工房の商品……スマホ・レプリカ・モデルですね。
グレモリー・グリモワールが購入していた商品でしょう。
私達は、聖職者の皆さんに挨拶をして、【サンタ・グレモリア】の役所である【アリス・タワー】に向かいました。
すると、ディーテ・エクセルシオールと、グレモリー・グリモワールの養子フェリシアとレイニールが、【魔法のホウキ・レプリカ】に跨って飛んで来るのが見えます。
が、肝心のグレモリー・グリモワールがいません。
ディーテ・エクセルシオールとフェリシアとレイニールは、私達の近くに着陸しました。
「皆様、どうされたのですか?」
ディーテ・エクセルシオールが驚いたように訊ねます。
「【サントゥアリーオ】に向かい、【リントヴルム】を正常な状態に戻しに行きます。その、ついでに寄りました。グレモリーは?」
「グレモリーちゃんは、【ノースタリア】北方の国境地帯に向かいました」
ディーテ・エクセルシオールは答えました。
「対【ウトピーア法皇国】の戦闘配置ですね?」
「はい。グリモワール艦隊は、ヨサフィーナ達が指揮して【イースタリア】の北方国境に展開中。私は、【サンタ・グレモリア】を防衛する役目です」
なるほど。
「そうですか。私達は、こちらの国家紛争には介入出来ませんが、個人的には皆さんの武運を祈っています」
「ありがとうございます」
そうこうしていると、【サンタ・グレモリア】領主であるアリス・アップルツリー辺境伯がやって来ました。
「ノヒト様、ソフィア様、ファヴ様。ようこそ、おいで下さいました」
アリス辺境伯は、恭しく礼を執ります。
「なのじゃ」
ソフィアは手を挙げてアリス辺境伯に応じました。
「こんにちは」
ファヴは微笑みます。
「早速、【サントゥアリーオ】に向かいます。慌しいのですが、これで失礼しますね」
私は、挨拶もそこそこに伝えました。
釘を刺しておかないと、饗応の宴席などが準備されそうな雰囲気でしたので。
そんな暇はないのです。
私達は、【サンタ・グレモリア】の防衛体制を軽く眺めて、当地の防衛を担当している……神の軍団の100頭の神兵を労ってから、東の【サントゥアリーオ】の方向に飛び立ちます。
グレモリー・グリモワールと多少、話しをしておきたい事もあったのですが、不在ならば仕方がありません。
グレモリー・グリモワールも今は忙しいでしょうから、【念話】でワザワザ伝えるほどの事でもないのです。
・・・
【竜の湖】の上空を飛んで、私達は、【大森林】と呼ばれる深い森の上空まで、やって来ました。
もう、間もなく、旧【サントゥアリーオ】国境。
つまり、【リントヴルム】が中に引きこもっている【神位結界】があるはずです。
ウエスト大陸の【大森林】と呼ばれる領域は中央国家【サントゥアリーオ】の国境の直近から始まっていました。
つまり、サウス大陸の【大密林】よりも、ずっと小さな規模の森です。
とはいえ、地球のアマゾンより広大な領域面積がありますが……。
このウエスト大陸の【大森林】と、サウス大陸の【大密林】の領域面積の差は、おそらく、それぞれの大陸の気候の違いと、森の周囲に人種が暮らしているか、暮らしていなかったのか、の違いなのだと思います。
サウス大陸の場合は、熱帯雨林気候でしたし、また、人種が足を踏み入れられない人跡未踏の状態で900年放置されていたので、密林が際限なく巨大に成長してしまったのでしょう。
つまり、ウエスト大陸の【大森林】も、周りに人種が暮らさなくなって、樹木が生い茂るのを放置したままにすれば、サウス大陸の【大密林】のように、森がさらに巨大化してしまうはずです。
【大森林】の上空を飛んでいますが、魔物はチラホラという程度。
サウス大陸の【大密林】のように、ウジャウジャというような大量の魔物はいません。
まあ、ウエスト大陸は、サウス大陸のようにスタンピードを起こしている訳ではありませんから当然ですが……。
私達は、チラホラと見かける魔物は無視して飛んで行きます。
【サンタ・グレモリア】の安全は、神の軍団の神兵100頭に加え、【竜の湖】に住むグレモリー・グリモワールの従魔【ヴイーヴル】のキブリと、その配下の【竜魚】達が、相当に強力ですから、放置しておいても問題ありません。
だからこそ、グレモリー・グリモワールも、【サンタ・グレモリア】の防衛指揮にディーテ・エクセルシオールを1人残しただけで、自らは遠方に出陣し、また、艦隊も前線に展開出来た訳です。
そうこうする間に、私達は、【リントヴルム】が張る【神位結界】の前までやって来ました。
・・・
【サントゥアリーオ】と【ブリリア王国】の国境。
コンコンッ……。
「ふむ、【リントヴルム】の奴め、我も排除しておるのじゃ」
ソフィアが【サントゥアリーオ】の【神位結界】の表面を叩いて言いました。
「さてと、オラクル、ヴィクトーリアは、ここで待っていて下さい」
「ノヒトよ。オラクルとヴィクトーリアは、ノヒトの【収納】に入れておいて欲しいのじゃ。そこが、一番安全なのじゃ」
ソフィアが言います。
「2人には、私達が【リントヴルム】と接触した後に、【神位結界】の状態がどうなるのか、確認してもらう必要があるので、ここで待機していて欲しいのです」
「なるほど……。確かに、そうじゃな。では、ここで待っていてもらうのじゃ」
はい。
そのつもりで、フル装備だったのですからね。
「オラクル、対処が困難な敵が現れたら、ヴィクトーリアを連れて、すぐに【ドラゴニーア】へ【転移】して退避しなさい」
私は、2人に指示しました。
「そうじゃぞ。2人とも、自らの身を守る事を最優先とせよ」
ソフィアも言います。
「「畏まりました」」
オラクルとヴィクトーリアは、完璧なシンクロ率で言いました。
「では、トリニティは、予定通りに……」
「仰せのままに致します」
トリニティは、【完全認識阻害】の兜【アイドス・キュエネー】を被ります。
トリニティの姿が空間に溶けるように消えました。
私は、先行部隊として目的の場所に送り込んでいた神の軍団の神兵が持つ転移魔法陣と、トリニティの魔力を亜空間バイパスで繋ぎます。
「トリニティ。目的地の転移魔法陣を起動させました。もう飛べます」
「はい。では、行って参ります。【転移】」
刹那。
【マップ】上から、トリニティを示す光点反応が消えました。
到着しました……これより作戦行動を開始致します。
トリニティから【念話】が伝わって来ました。
お願いしますね。
私は【念話】で依頼します。
「ノヒトよ。トリニティは、どこに向かったのじゃ?」
ソフィアが訊ねました。
「【ウトピーア法皇国】法皇都【トゥーレ】上空の高高度です。先行偵察に行ってもらいました」
「うむ、そうか」
私は、【リントヴルム】の問題が片付き次第、【ウトピーア法皇国】の査察に入ります。
直接的にはグレモリー・グリモワールの戦争の支援は出来ませんが、この査察は間接的にグレモリー・グリモワールの戦争の援護射撃となるでしょう。
「さあ、私達は、私達のやるべき事をしましょう」
「うむ、そうじゃな」
私は【収納】から【神剣】を取り出し、【神位結界】に突き立てます。
【神剣】は、抵抗なく【神位結界】を貫通しました。
私は、グルリと円を描いて、【神位結界】に直径3mほどの穴を開けます。
私は、【神位結界】の穴を通り抜けました。
「さあ、ソフィア、ファヴ、ウルスラ。穴が閉じてしまいます。急いで中に入って下さい」
「わかったのじゃ」
「はい」
「ほ〜い」
3人は、順番に、【神位結界】を通り抜けます。
・・・
【サントゥアリーオ】。
【リントヴルム】が張った【神位結界】が初期設定の【サントゥアリーオ】国境ですので、私達は、もう【サントゥアリーオ】側にいます。
まずは、進入成功。
ここから、聖都【サントゥアリーオ】に向かいます。
行程は、2時間を予定していました。
途中、【サントゥアリーオ】西の都市【エリュテイア】に降りて、少しだけ様子を見てみるつもりです。
今回は、詳しく調査をするつもりはありません。
目的は、あくまでも【リントヴルム】。
諸々の段取りは、【リントヴルム】との会談の結果如何で変化する流動的状況なのです。
ソフィアが【神竜】に現身しました。
通常移動手段としては、これが最速。
私は、ソフィアの背に座席を設置して、ファヴと2人で座りました。
「ウルスラ。一度帰還させるぞ」
ソフィアがウルスラに呼びかけます。
「はーい」
ウルスラが返事をすると、ソフィアがウルスラを帰還させました。
盟約の妖精であるウルスラは、ソフィアが自由に召喚と帰還を行えます。
ソフィアは、【飛行】と翼の羽ばたきを併用しながら、ゆっくりと高度を上げました。
「行くぞ」
ソフィアが宣言します。
ドンッ!
ソフィアが一気に加速しました。
音を後方に置き去りにして、一瞬で超音速にまで加速します。
現代地球でも、大気中で、これ程のスピードを出せる飛行物体は存在しません。
私は、当たり判定なし・ダメージ不透過なので、わかりませんが、ソフィアの加速を体験した事がある剣聖クインシー・クインに聞いた話では、強力な重力加速度の影響で血液が体の後方に偏り、視界が一瞬、真っ黒になり、やがて視力が、段々と回復するそうです。
視力が回復した後も、眼の焦点速度の限界を超えるほどで、見ている物が歪むほどなのだ、とか。
やがて、巡航速度で安定すると、それらの問題は解消するそうです。
これらは、ソフィアの【神位】の【防御】で保護され、重力慣性制御が行われているにも関わらず、余波だけで起きる現象でした。
もしも、ソフィアが保護や制御をしてくれていなければ、大半の人種は強烈な風圧やGに耐えられず加速した瞬間に即死してしまいます。
しかし、私やファヴは、肉体性能が、根本的に人種のそれより、はるかに優れていますので、そのような危険はありません。
すぐに、私達の眼前には、かつて【サントゥアリーオ】の西の都市だった【エリュテイア】が見えて来ました。
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