表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
238/1238

第238話。おにぎり。

名前…ドナテッロ

種族…【(ヒューマン)

性別…男性

年齢…56

職種…【戦士(ファイター)

魔法…【闘気】

特性…なし

レベル…25


世界冒険者ギルド【ドラゴニーア】支部の非常勤講師。

【ワールド・コア】ルーム。


 おにぎり屋。


「おにぎり、とは、種類が、たくさんあるのですね?」

 ファヴは、お品書きを見ながら訊ねました。


「おにぎりの定義は、炊いた米を手で握った物、あるいは、そういう形状に成型された米料理を総称します。つまり、その定義の範疇にあれば、どんなアレンジをしても、おにぎり、として成立するのです。なので、バリエーションは無限ですね」


「なるほど、懐が広い食べ物なのですね」


 おにぎり屋担当の【コンシェルジュ】が、お茶とオシボリを持って来てくれました。


「私は、梅、野沢菜、鶏五目ご飯、シラス・ワカメご飯、ネギマグロを下さい」


 5個は頼み過ぎたでしょうか?

 まあ、良いでしょう。


「畏まりました。本日の、お惣菜はポテトサラダ、お味噌汁は、けんちん汁です」

【コンシェルジュ】は言いました。


「けんちん汁ですか、それは嬉しいですね」


「僕は、肉巻きおにぎり、天むす、シャケ(巨鮭(ヒュージ・サーモン))、チーズ・チキン、ツナマヨネーズを下さい」

 ファヴは、熟考して吟味した具材を選びました。


「畏まりました」

【コンシェルジュ】は一礼してオープン・キッチンとなっている調理場に向かいます。


「大地の祝福の進捗は、どうですか?」

 私は訊ねました。


「順調です。あと1日あれば完了します」

 ファヴは答えます。


 ファヴは、今日も午前中サウス大陸の南の国【ムームー】で大地の祝福をしていました。

 そもそもは、私が、魔物に支配占拠されたサウス大陸を人種文明の管理下に取り戻す為に行ったサウス大陸奪還作戦の一環として【ムームー】で跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)する無数の魔物を殲滅する為に【超神位(運営者権限)魔法……粒子(パーティクル)崩壊(・ディケイ)】を使った事が原因です。

粒子(パーティクル)崩壊(・ディケイ)】は、生物なら全てを分解霧散させる防御不可能、回避不可能な必殺無敵のチート魔法ですが……魔物以外のありとあらゆる生物も分解霧散させてしまうので、結果、【ムームー】は魔物、動物、植物、細菌……など全ての生物が滅びてしまいました。


 完全な環境破壊。


 当時、【ムームー】には、最大推定数1億と予想される【超位】級の魔物が群れていた為に仕方がなかったのです。

 しかし、そのせいでサウス大陸は人種文明の手に取り戻しても、おそらく数百年単位で誰も住む事が出来ない不毛の地となってしまいました。


 サウス大陸の守護竜であるファヴは、破壊された生態系を回復する為に、この大地の祝福をして、植物を生やし、土壌を肥やして来たのです。

 その作戦行動も、いよいよ大詰めを迎えていました。


 あと、10日ほどで【ムームー】の新女王に、元【ドラゴニーア】の大神官付き筆頭秘書官だったチェレステさんが即位戴冠します。

 その後は、無人の棄地だった【ムームー】に、続々と移民や入植者が移住して、国家再建がスタート。


 同様に滅亡し【大密林】に飲み込まれていたサウス大陸の中央国家【パラディーゾ】も再興されます。


 私も嬉しいですが、サウス大陸の守護竜であるファヴにとっては、感慨もひとしおでしょう。


「僕は、サウス大陸では、米と芋とトウモロコシ主食にしようと考えています。麦は、北部では育ちますが、それ以外の場所では栽培が容易ではないようですから」

 ファヴは言いました。


「クイーンの農場でも、麦は収量が今ひとつだと聞いています」


「はい。サウス大陸は暑いですから、麦は、あまり適しません。米は、水さえ潤沢ならばサウス大陸でも良く育ちます。また、米は麦の数倍の収量が期待出来ますし、水耕ならば土壌が痩せる事も低減出来るとか。なので、こうして米料理を研究しているのです」

 ファヴは言います。


 なるほど、だから、おにぎり屋でしたか。


「熱帯では、おにぎりに合う短粒種より、長粒種の米の方が栽培し易い気もしますが……」


「はい、長粒種に合うチャーハンやピラフやパエリアなども参考としています。ただし短粒種も育ちます。クイーンが品種改良した種(もみ)を利用しますので、サウス大陸の気候にも合うはずです」


 クイーンは、900年間、たった1人で【パラディーゾ】の【タナカ・ビレッジ】で農業を続けて来ました。

 その間に品種改良されたサウス大陸の気候に合う作物は、クイーンによって多数開発されています。

 クイーンは、それらの種苗特許を取得しました。

 今後50年、それらはサウス大陸の農業に利用され、クイーンに莫大な利益をもたらすでしょう。


 サウス大陸だけでなく、全ての大陸に共通する設定ですが、大陸の中央国家には守護竜の【神位結界(バリア)】の効果によって大地は豊穣の実りが約束されていました。

 なので、中央国家では、土壌が痩せる事はないのです。

 しかし、周辺の臨海国家では、守護竜の【神位結界(バリア)】の恩恵を享受する事が出来ません。

 こういった地域では、土壌肥沃化措置が必要なのです。


「あとは、水牛の飼育を推奨しようかと。それで乳製品を賄えますし、農耕家畜としても利用出来ます。水耕田との親和性もありますし、気候的に牛よりも適応があります。900年前には、サウス大陸で大量の水牛が飼われていましたので」


「水牛の乳から作るモッツァレラは、大好物ですよ」


「僕もです。ただし、モッツァレラは、生鮮食品なので日持ちがせず、輸出加工品とはしづらいので、産業としては、どうかとも思いますが……」


「食文化の多様性は良い事です。輸出に拘らなくても、地産地消で地元の人達に流通させれば良いのですよ」


「そうですね。あと、聞く事は……」

 ファヴは、何やらメモを取り出しました。


 メモを準備しているところを見ると……どうやらファヴは、初めから、私に何かアドバイスをもらいたかったようですね。

 だから、昼食の同行を願ったのですか?

 まあ、良いですけれど、私は現代地球の知識の聞きかじりを適当に喋っているだけで、責任は持てませんよ。


「ファヴ。何か、サウス大陸の統治に関するアドバイスなら、ミネルヴァを頼ってみてはどうですか?」


「あはは、実は、ミネルヴァからは、ノヒトを頼るように、と」

 ファヴは、言いました。


 私とミネルヴァで、責任と面倒事の押し付け合いをして、ファヴは、たらい回しにされていたのですね……。


「率直に言って人種の庇護と統治、それから文明の導きに関しては、守護竜の専権事項ですので、私は、意見を控えました」

 ミネルヴァが言いました。


「それは、私も同様ですね。何か調べたいのなら、【知の回廊】の記録(アーカイブ)や、演算機能などを利用したり、ゲームマスター本部の図書館などもミネルヴァの許可を取った上で自由に使って構いません。サウス大陸の事は、ファヴが決めるべきです。もちろん、私が知り得る事は、ゲームマスターの遵守条項で話せない事以外は何でも話しますので、遠慮なく訊ねて下さい」


 ほどなくして、注文していた、おにぎりが給仕されました。


 まずは、野沢菜から……。


 ほおー、具材とするだけでなく、野沢菜が海苔の代わりとしても、おにぎりに巻いてありますね。


 美味い。

 これは、絶品です。


 次は、シラス・ワカメご飯の、おにぎり。


 ほほう、ちりめんジャコのタイプではなく、釜揚げシラスのタイプですか。

 これまた絶妙。

 磯の香りに炒りゴマの香ばしさがアクセントになっていて、実に良いです。


 私がチョイスした中では、メインに相当するネギマグロ。

 ネギトロではなくマグロのブツを漬にしているのですか……ゴロゴロとして実に贅沢。

 ほんのりと酢飯になっていて、ワサビが効いている所も、私好みです。


 箸休めとして、漬物を……。


 柴漬け、キュウリの浅漬け、と……これは千枚漬けでしょうか?

 千枚漬け……聖護院カブを、昆布と唐辛子と甘酢で漬けた物です。

 私、千枚漬け大好きです。


 美味い。


 ですが……聖護院カブにしては、シャキシャキしています。

 大根?

 いや、それにしては太いような……。

 もちろん一口サイズに切られていますが、円周のRから推定するに、これ直径が30cmくらいは、ありますね。

 日本には、桜島大根という巨大な品種もありますが……。


「この千枚漬けは、カブですか?大根ですか?」

 私は、【コンシェルジュ】に訊ねました。


「【マンドラゴラ】です」

【コンシェルジュ】は答えます。


 ……マジか〜……。


【マンドラゴラ】とは、二股に分かれた根で二足歩行する人参や大根みたいな植物系の奇怪な魔物。

 引っこ抜くと、悲鳴を上げて【混乱(コンフュージョン)】を引き起こします。

 上位種の【アルラウネ】ともなると絶望の呻き声で【恐慌(パニック)】を引き起こす難敵となりました。


 アレを食べてしまいましたか〜……。


 まあ、毒はありませんし、味も良い、アノ見た目さえ思い出さなければ、どうと言う事もありません。

 日本人は、アンコウやタコやナマコを喜んで食べるのですから、【マンドラゴラ】くらい、何ともありませんよ。


 さてと、気を取り直して、お惣菜のポテサラを……。


 人参、玉ねぎ、キュウリ、枝豆、が混ざった具沢山タイプですね。

 上に薄っすらと(まぶ)してあるのは、カレー粉でしょうか?

 いや、カレー粉に何か混ぜてありますね。

鑑定(アプライザル)】すると……粉カラシです。

 へぇ、これは、面白い。


 美味しいです。


 さあ、次の、おにぎり。


 鶏五目ご飯の、おにぎりです。


 美味い。

 不味い訳がない。


 鶏肉、人参、シイタケ、ごぼう、たけのこ……で五目。

 出汁と甘辛い味付けが、ご飯に良く染みています。


 そして、シメはサッパリと梅干し。


 美味い。

 やっぱり、安心する味ですね。

 酸っぱさも塩加減も、正に良い塩梅。

 柔らかい梅干しに、カリカリタイプの梅干しを刻んで具材とし、ご飯には大葉を刻んで混ぜてありました。

 種を抜いてくれている心遣いも、嬉しいです。


 おっと、おにぎりが美味し過ぎて夢中で食べてしまい、けんちん汁を飲むタイミングを逸してしまいました。


 しかし、具沢山のけんちん汁なら、汁物ではなく、一品料理として成立しますので、セーフでしたね。


 あー、これこれ、染みるような、この味わい。

 たまりません。


 半分ほど食べたら、七味唐辛子を振って、味変、味変。

 これも、美味い。


 完食しました……大満足。


 私、実は、おにぎりが大好きです。

 幼い頃、今と違って食が細かった私は、あまり量を食べられなかったのだ、とか。

 好き嫌いは、ほとんどなかったものの、主食も、おかずも量は食べられず、かといって、お菓子や果物を食べるでもなく、両親を酷く心配させたそうです。

 しかし、何故か、おにぎりにすると、2つも3つも、と良く食べたので、母親は、良く、おにぎりを握ったのだ、とか。

 やがて、栄養のバランスを考えて、色々な具材や混ぜご飯を、おにぎりにして、食べさせたそうです。

 そんな状態が小学校に入学する頃まで続きました。

 私の幼児期は、ほぼ、おにぎりを食べて育った、と言って過言ではないでしょう。


 ファヴも完食しました。

 ファヴは、肉巻きおにぎりとツナ・マヨが気に入ったようです。


「ごちそうさまでした。お会計を、お願いします」


「お粗末様で、ございました。お二人様で25銅貨でございます」

【コンシェルジュ】がオープン・キッチンの中から、やって来て答えます。


 ・・・


 私とファヴは、食後の、お茶で一服。


 おっ!

 食前は緑茶で、食後は焙じ茶ですか?

 何とも芸が細かい。

 さすが調理ステータス・カンストの【コンシェルジュ】。

 たかが、おにぎり屋……などとは侮れません。


「はい。いらっしゃいませ」

【コンシェルジュ】が店先側のテイク・アウトのコーナーに向かいます。


「全種類を全て買います」


 お客は、オラクルでした。


「全て、ですね。今、お包みします」


「この【宝物庫(トレジャー・ハウス)】に直接入れて下さいますか?」


「畏まりました。すぐに致します」


 全種類を全て……オラクルは食べ物を食べません。

 つまり、ソフィアの指示なのでしょう。


「オラクル、どうじゃ〜。買えたか〜?」

 ソフィアが遠くから問いかけています。


「はい。今、【宝物庫(トレジャー・ハウス)】に入れてもらっています」

 オラクルは答えました。


「ねえねえ、ソフィア様。買い占めなんてして大丈夫?また、ノヒト様にゲンコツされるんじゃない?」

 ウルスラの声がします。


「平気じゃ。買い占め禁止ルールは、他の、お客に迷惑をかけぬような配慮なのじゃ。ここには、我ら以外に客はおらぬ。つまり、他の、お客には迷惑はかからぬ。そして、店頭に並ぶ食べ物は、我らが買わなければ腐ってしまうのじゃ。勿体ないのじゃ。じゃから、この買い占めは、良い買い占めで、善意の活動なのじゃ。我らは、偉いのじゃ。ノヒトに褒められるのじゃ」


「なら、何で、さっきからコソコソと、ノヒト様にバレないように行動しているの?」


「それは、保険じゃ。もしかしたらノヒトが怒るかもしれない事を想定して、どちらにも対応出来るように立ち回るのじゃ。バレなければ、もしかしたら、の心配はないのじゃからの。完璧なリスクヘッジなのじゃ」


「さっすが〜、ソフィア様は、アッタマが良い〜」


「当たり前なのじゃ。我は、至高の叡智を持つ天空の支配者なのじゃからな……」


 私とファヴは、店先に出て行きました。


「やあ、ソフィア。買い占めをしているのかい?」


「ぎゃ〜っ!ノヒトよ、これは、違うのじゃ。そ、そうじゃ、腐ってしまうといけないと思い、食べ物を無駄にせぬ為に、止むを得ずやっている活動で、けして、食べたいからではないのじゃ」

 ソフィアは、しどろもどろ、になって弁解します。


「別に構わないよ。他の、お客さんはいないからね。ただし、この【ワールド・コア】ルームの飲食店では、料理は作られた出来立ての状態を永久に維持し、腐敗などの経時間劣化が起こらないようにする【創造主(クリエイター)】の魔法効果が働いているから、腐ったりしないし、いつも出来立ての味を維持するんだよ。お客の手元に運ばれた時か、【ワールド・コア】ルームから運び出されると、時間が流れ出すギミックなんだ。【ワールド・コア】ルーム全体に【収納(ストレージ)】機能が働いているようなモノだから、ソフィアの善意の活動は必要ないんだよ」


「そ、そうか。ならば、買い占めても良いのじゃな?」


「買い占めは、ほどほどに。何か必要なら、事前に注文をしておけば良いのですよ」


「わ、わかったのじゃ」


「ノヒト様。じゃあ、ゲンコツはなし?」

 ウルスラが訊ねました。


「なしです」


 ソフィアとウルスラは、目に見えて安堵した様子。

 2人とも大きく溜息を吐きました。


 私の【ゲンコツ】は、ゲームマスターのオリジナル技で、ダメージ判定は付かず、また、怪我や後遺症なども起こらない仕様なのですが……あり得ないほど痛いのです。

 さしずめ、折檻専用の技でしょうかね。

 現世神最強のソフィアが悶絶するくらいの鋭痛が突き抜けますが、ダメージ判定なしなので【治癒(ヒール)】をかけても効果なし……すぐには鎮痛しません。

 なので、ソフィアとウルスラは、私のゲンコツを異常に恐れていました。


 このゲンコツ……基本的に子供にはしませんよ。

 児童虐待になりますからね。

 しかし、ソフィアもウルスラも(なり)は、小さいですが、世界の創生の頃から生きているので、子供とは認めません。


 さてと、そろそろ良い時間ですね。


 いよいよ、【リントヴルム】を正気に戻す為、ウエスト大陸に向けて出発しましょう。


 レジョーネとファミリアーレは集合して、全員で【ドラゴニーア】の竜城に【転移(テレポート)】しました。

お読み頂き、ありがとうございます。


ご感想、ご評価、レビュー、ブックマークを、お願い致します。


活動報告、登場人物紹介&設定集も、ご確認下さると幸いでございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ