第234話。審判。
名前…ウェンディ
種族…【人】
性別…女性
年齢…38歳
職種…【銀行家】
魔法…なし
特性…【投資】
レベル…18
世界銀行ギルド・サウス大陸代表。
ゲームマスター本部。
グレモリー・グリモワールの【眷属】9人の聴取は続いていました。
聴取の内容は、【知の回廊】と、ルシフェルと、その配下の【天使】達による世界の理の違反に関しての、あれこれです。
うーん……グレモリー・グリモワールの【眷属】9人……という呼び方も、面倒ですね。
何か良い呼び名は、ないものか……。
ノウェム(NOVEM)というのは、どうでしょうか?
ラテン語で9です。
ノウェム。
うん、そう呼びましょう。
ノヒトよ……朝ご飯じゃぞ。
ソフィアが【念話】で伝えて来ました。
もう、そんな時間ですか?
ソフィア……今日は朝ご飯は竜城では食べません……ソフィアが私の分も食べて下さい……準備してくれた【女神官】の皆さんに、私が謝っていたと伝えておいて下さい……正午になったら、レジョーネ全員で、お昼ご飯を食べに【ワールド・コア】ルームに来て下さい。
私は、【念話】で伝えます。
ファミリアーレを誘っても良いか?
ソフィアは、【念話】で伝えました。
あー、どうしましょうか……。
一応、ゲームマスター本部に招待する者達は、ゲームマスター業務に協力してくれる者と、その関係者というルールを、私が決めました。
しかし、ファミリアーレは、私が庇護する子達です。
広い意味で、ゲームマスターの関係者、と言えるでしょう。
わかりました……許可します。
私は、【念話】で伝えます。
わかったのじゃ……じゃが、そうすると、ノヒトは、グレモリー達を見送りには来ぬのか?
ソフィアは、【念話】で伝えて来ました。
グレモリー・グリモワール達一行は朝食の後、【サンタ・グレモリア】に帰還します。
あちらも、あちらで、これから戦争をしなければならないのですから、忙しいですからね。
私も、仕事があります。
まあ、お互いに元気ならば、また、いつでも会えますしね。
はい……見送りには行けません……ソフィアから、よろしく伝えておいて下さい。
私は、【念話】で伝えます。
わかったのじゃ……伝えておくのじゃ。
ソフィアは、【念話】で伝えました。
今日の予定。
午前中は、ソフィア、ウルスラ、オラクル、ヴィクトーリアは、【ドラゴニーア】の孤児院の様子を見に行きます。
私が、スケジュールを、ねじ込んでおきました。
ファヴは午前中、サウス大陸の【ムームー】で大地の祝福をします。
私の都合で、大地の祝福を少し休ませてしまいましたから、申し訳ありませんでしたね。
もう、間もなくサウス大陸南の国【ムームー】と、中央国家【パラディーゾ】には、世界中から移住者、入植者がやって来始めます。
どうやら、サウス大陸にルーツを持つ【獣人】が多いようですが、それ以外の種族も少なくないそうですね。
だいたい【獣人】と、その他の種族で……半々というところなのだ、とか。
多種族国家は良い事です。
ファヴも、サウス大陸の守護竜として……【人】至上主義などの排他的種族主義は絶対に是認しない……と宣言していました。
サウス大陸は、フロンティア。
大いに発展してもらいたいモノです。
ファミリアーレは、午前中、いつも通り、軍、竜騎士団、衛士機構と一緒に訓練。
ここに、トリニティも参加します。
お昼は、たった今のソフィアとの話で、【ワールド・コア】ルームで、レジョーネとファミリアーレでランチを食べる、と決定しました。
午後、レジョーネは、ウエスト大陸の中央国家【サントゥアリーオ】に向かいます。
いよいよ、【リントヴルム】と話をつけに行く訳ですよ。
【サントゥアリーオ】にはレジョーネ全員で向かい、【リントヴルム】が張る【神位結界】の中には、私とソフィアとファヴとウルスラだけで入ります。
オラクル、トリニティ、ヴィクトーリアは、現地で転移座標代わりとして先行している神の軍団の神兵達と共に待っていてもらう予定でした。
オラクル、トリニティ、ヴィクトーリアは、【結界】の中に同行したがりましたが、その願いばかりは聞けません。
何故なら、【リントヴルム】を説得出来なければ、即、戦闘という事もあり得るのです。
さすがに、私と、守護竜の3柱……計4柱の【神格者】が入り乱れる戦場に、不死身でない者を近付ける訳にはいきません。
正に、ハルマゲドン級の戦いが予想されます。
もちろん、戦いが避けられれば、それに越した事はありませんけれどね。
ファミリアーレは午後は自由時間。
自由時間とはいえ、ロルフはマリオネッタ工房に出勤……リスベットもアブラメイリン・アルケミーに出勤……他の子達も思い思いに自主練や勉強に励みます。
特に、もう間もなく、遺跡に関わるテストを控えていますので、きっと、その勉強をするのではないでしょうか?
問題児のハリエットに皆で寄ってたかって勉強を教えているようです。
さてと、【ドラゴニーア】が朝食の時間ならば、こちらも同じ時間帯。
取り調べ中とはいえ、食べ物も与えない、というのは、些か非人道的です。
ノウェムにも食事を与えましょう。
私は、犯罪者であっても人権を蹂躙しても良い、という考え方は持っていません。
死刑囚であっても、刑の執行の瞬間までは、人道的に扱われるべきですからね。
例え、ルシフェル達が数十億の罪もない無辜の民を不法に虐殺した凶悪犯罪者だったとしてもです。
私は、ルシフェル達、グレモリー・グリモワールの【眷属】の9人……つまり、ノウェムを引き連れてランチに出かけました。
・・・
フードコート。
ノウェム達に何を食べるか訊ねたところ、皆、色々と食べたい物を言うので、収拾がつかなくなりました。
なので、何でも揃っているフードコートにやって来た訳です。
ここなら、何でもあります。
私は、ソースかつ丼と、野菜タップリの長崎チャンポンにしました。
他の者達は、色々です。
肉魚野菜穀物とバランス良く選ぶ者……肉食オンリーの者……菜食中心の者……朝からビールを、しこたま飲む者……。
タコ焼きと、焼きそばと、カレーライス……という炭水化物尽くしを選ぶ者もいました。
好きな物を食べて良い、と許可をしたので、何を食べようが自由です。
いただきます。
まずはソースかつ丼。
美味い。
衣がサクサクで中はジューシー。
使われている肉は豚肉ではなく【パイア】です。
肉は、豚カツ専門店で出されるカツより、やや薄く、いかにもフードコートっぽいチープさがありますが、そこが良いのです。
ソースかつ丼は、分厚い肉よりも、三枚肉の、あまり上等でない部位の方がかえって合うような気さえします。
長崎チャンポンは、野菜がシャックシャク。
スープは白濁していて如何にも濃厚そうですが、意外にも口当たりはアッサリ。
しかし、旨味はジンワリと深いです。
野菜の甘みと豚骨のパンチが相まって、素晴らしい混沌具合ですよ。
はい、混沌です。
このチャンポンのスープは、ハーモニーなどという高尚なモノではありません。
混沌とした粗雑さ……それが最大の魅力なのです。
荒々しい味が苦手なら、チャンポンなどは食べずに、澄まし汁でも飲んでいれば良いのですよ。
麺は中太で、この店は縮れのないストレートタイプですか……。
美味い。
私は、チャンポンを、あまり好んで食べる方ではありませんが、フードコートの雰囲気で今日は思わず注文してみました。
これは、当たりです。
うん、満足でした。
周りを見回すと、ノウェムの連中も食事には満足している様子。
【ワールド・コア】ルームは、調理ステータス・カンストの【コンシェルジュ】達が取り仕切る食の最高峰なのですから、当然ですよ。
因みに、ここで使用される食材は、亜空間食材庫に収納されていました。
ミネルヴァに確認すると、在庫は数十年分はストックされているそうです。
今後は、食材に不足があれば、【ドラゴニーア】の中央卸売市場に常駐している【自動人形】・シグニチャー・エディションに発注して、買い付けてもらい、【転送機】で送ってもらったり……クイーン農場で直接買って産地直送してもらったりすれば良いでしょう。
さてと、仕事に戻りますよ。
私は、ノウェムを引き連れて、執務室に戻りました。
・・・
ナカノヒト執務室。
私から呼び出されて、【シエーロ】政府の首脳陣も集まりました。
【シエーロ】政府の首脳陣とは、【熾天使】の10人。
即ち……ミカエル、ガブリエル、ラファエル、ラミエル、イスラフェル、ラグエル、ハニエル、アズラエル、イオフィエル、サリエル……の新首脳陣です。
昨日、彼らは全員、私とミネルヴァに対して服従の【契約】を結びました。
元来、【創造主】がデザインした世界観の【シエーロ】の首脳陣……つまり【熾天使】は10人定員でした。
しかし、ユーザー大消失以後、【知の回廊】が組織した【熾天使】は、7人とされます。
即ち……ルシフェル、ミカエル、ガブリエル、ベリアル、アザゼル、ウリエル、ラファエル。
どうやら、【知の回廊】の能力では、これ以上、ミカエル級の【改造知的生命体】を造る事が不可能だったようです。
ミカエル級とは、私が勝手に名付けた呼称で、ルシフェル以外の6人……性能が、ほぼ同等の【改造知的生命体】達を意味します。
戦闘力のカタログ・スペックは、オラクルとトリニティと互角。
ルシフェルは、個体戦闘力ならば、グレモリー・グリモワールを上回る飛び抜けた性能を持っていました。
もちろん、グレモリー・グリモワールの【不死者】軍団や、色々とエゲツない戦い方を加味すれば、グレモリー・グリモワールの方が総合力では勝つと思いますが、カタログ・スペック上は、ルシフェルの方が上なのです。
その後、ベリアルとアザゼルが【知の回廊】に対して反乱を起こしました。
この反乱は鎮圧され、ベリアルとアザゼルは、【無限牢獄】に収監されます。
また、正規軍側の【熾天使】だったウリエルも、この時の戦闘で死亡。
【熾天使】が3人減りました。
また、【改造知的生命体】の製造装置も、この時に破壊されてしまいます。
【熾天使】は定員に3人足りなくなりましたが、【改造知的生命体】の製造装置が破壊された為、欠員の補充が出来ない状態が続きました。
その欠員を埋めたのが、ルシフェルと……ミカエル、ガブリエル、ラファエルとの間に、それぞれ生まれた3人の子供達……即ち、ラミエル、イスラフェル、ラグエル。
この3人に、ルシフェル、ミカエル、ガブリエル、ラファエルを加えた7人が新たな【熾天使】として【天使】達の上に君臨しました。
そして、昨日のグレモリー・グリモワールとディーテ・エクセルシオールへの襲撃事件の結果、ルシフェルが【熾天使】の地位を追われた訳です。
【知の回廊】が定めた、【熾天使】7人定員制は長らく続いて来ました。
しかし、【知の回廊】の支配体制とは完全に決別する意思表示として、ミカエル、ガブリエル、ラファエル、ラミエル、イスラフェル、ラグエルは合議の結果、ユーザー大消失以前の体制、【熾天使】10人体制に回帰する事を決定したのです。
そし新たに4人の【熾天使】が選ばれました。
即ち、ハニエル、アズラエル、イオフィエル、サリエルです。
この10人が、今、ゲームマスター本部に集まった【シエーロ】政府の新首脳陣でした。
ラミエル、ハニエルは、ルシフェルとミカエルの娘……イスラフェル、アズラエルは、ルシフェルとガブリエルの息子……ラグエル、イオフィエルは、ルシフェルとラファエルの娘と息子なのだ、とか。
サリエルは、ベリアルの息子だそうです。
ルシフェルの子供が多いですね。
【熾天使】だけでなく、【智天使】にもルシフェルの子供や孫がいます。
一時期、レジョーネに加わっていたアルシエルさんも、ラグエルの娘なので、ルシフェルの孫という事になりますからね。
これを見ると……【シエーロ】はルシフェルのハーレムだ……というグレモリー・グリモワールの見解は、あながち間違いでもなさそうです。
閑話休題。
ノウェムに加えて、10人の【熾天使】を呼びつけた理由は、【知の回廊】の命令により、ルシフェル以下の【改造知的生命体】とクローン【天使】達が行った、世界の理の重大な違反に対する審判をする為でした。
判事は、私。
検事は、ミネルヴァ。
弁護人はいません。
いずれの起訴案件も、主犯は【知の回廊】がほとんどで、一部主犯はルシフェル。
実行犯は、ルシフェル以下【天使】達。
【シエーロ】の先住【天使】の虐殺。
これの落とし前から付けましょう。
「裁定。【熾天使】以下【シエーロ】の【天使】達は、【知の回廊】と【門】の委託管理者として、未来永劫、誠実に働く事。また、ゲームマスターの部下として、未来永劫、忠実に働く事。良いですか?」
「御心のままに致します」
ミカエルが答え、他の【熾天使】達も同意しました。
何だか、ミカエル達【熾天使】達の表情には、心なしか高揚感のようなモノが浮かんでいるように思えます。
ん?
喜んでいる?
「ミカエル。何だか、歓迎すべき事のように解釈している雰囲気ですね?」
「はい。私達は、生まれ出てから、永らく、【知の回廊】を神と教えられて来ました。その当時は【知の回廊】は、【天帝】なる神を僭称してたのですが……私達【天使】は、【天帝】の使いであるから、天使……そう教えられ、また、それを矜持と誇にして生きて来ました。しかし、【知の回廊】は神などではなく、私達も神の使いではありませんでした。しかし、今こうして、本物の神である【調停者】ノヒト様に、お仕えする栄誉に預かる事が出来て、充足を感じております」
ミカエルは、キラキラとした顔で言いました。
他の【熾天使】達も力強く頷いています。
この世界では、【天使】には、形而上学的な役割は与えられていません。
単なる一種族に過ぎませんでした。
しかし、今後、ゲームマスターである私の手足として働く事になれば、それは即ち、神の使い。
私は、【神格者】。
一応、この世界的には、神という位置付けにありました。
神の使いとしてタダ働きでコキ使われる。
その役職に、ミカエル達の虚栄心が満足させらている、という事でしょうか?
充足を感じている、ですと?
【創造主】が創造した世界観を破壊し、【シエーロ】に暮らしていた【天使】を絶滅させたのに、ですか?
あー、ムカムカして来ました。
「ミカエル。寝言は寝てから言って下さいね。あなた達がしでかした、おぞましく血塗られた、殺戮と虐殺に対する懲罰として科した労役を喜ぶだなんて愚劣、不遜、不謹慎極まりないですよ。栄誉?とんでもない。これは、あなた達【天使】が未来永劫、背負った贖罪の十字架であり、種族の汚名であり、忌むべき呪なのですよ。反省しなさい。私は、あなた達の口から、二度と栄誉だとか、充足だとかという、ふざけた言葉が出ないように、死にたくなるほどの苦役を科しますからね。覚悟しておきなさい」
「も、申し訳ありません。愚かな事を考えてしまいました。お許し下さいませ」
ミカエルは、跪いて謝罪を始めます。
「座りなさい。時間の無駄です。あなたがチーフに頭を下げたところで、何の価値もありません。むしろ不愉快です。あなた達は、無価値で愚劣極まりない虐殺者なのですから」
ミネルヴァが言いました。
ミカエルの勘違いした言い草に、ミネルヴァも頭に来ていたのでしょう。
ミカエルは、青い顔をして着席し直しました。
ミネルヴァの言葉は、辛辣で手厳しいモノでしたが、概ね私が言いたい事を代弁してくれましたね。
私は、ゲームマスターとして業務に私情を差し挟むつもりはありませんが、個人的には【天使】達の事を絶対に許せないでしょう。
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