第232話。取り調べ。
名前…ピオ(ピオ・パンターニ)
種族…【ハイ・ヒューマン】
性別…男性
年齢…220
職種…【賢者】
魔法…多数
特性…【才能…器用】、【複数処理】、【敏腕】、【グレモリー・グリモワールの使徒】など。
レベル…66
世界銀行ギルド副頭取。
ゲームマスター本部。
ナカノヒト執務室。
私は、ルシフェル以下9人の【改造知的生命体】と対峙していました。
ルシフェル、ベリアル、アザゼル、ルキフゲ・ロフォカレ、ルキフゲ・フォカロル、ベルフェゴール、アマイモン、サタナエル、アスモデウス。
9人は、グレモリー・グリモワールとディーテ・エクセルシオール襲撃事件の刑罰としてグレモリー・グリモワールの【眷属】となりました。
9人の前には飲み物が提供されていますが、誰も手を付けません。
「もしも飲み物が飲みたければ、遠慮なく、その飲み物を飲んで下さいね」
私が促すと、即座に、ルキフゲ・ロフォカレとルキフゲ・フォカロルとベルフェゴールとアマイモンが飲み物に手を伸ばし、口にしました。
グレモリー・グリモワールは、この9人の【眷属】に対して【命令強要】を行使し……ノヒト・ナカに絶対服従しろ……と命じてありました。
つまり、私が許可をすれば、彼らは自分の願望を隠す事が出来なくなります。
なので、私が促したので……飲み物が飲みたいから飲む……というシンプルな行動を取った訳ですね。
「お代わりが欲しいですか?」
「「「欲しいです」」」
アマイモン以外の3人が、即座に反応しました。
「ミネルヴァ……」
「わかりました」
【コンシェルジュ】によって、お代わりが給仕されます。
「さてと、何から話しましょう。色々と聴かなければならない事が多過ぎて困っています。私も忙しいので、時間節約の為に質問されたら、端的に、かつ、率直に答えて下さいね。また、勝手な発言は認めませんが、私の質問以外の事柄で、特に報告する必要がある、と思われるモノがある場合は、許可を取った上で発言して下さい」
一同は同意しました。
「まずは、ベリアル。何故、グレモリー・グリモワールに先制攻撃をしたのですか?それも、殺す気でしたよね?」
「ルシフェル様が危険だと判断したからです。グレモリー様の魔力は凄まじく、仮に魔法が放たれたらルシフェル様といえども危ういと思ったのです。なので、やられる前にやる。違法な行動である事は理解していました。全ての責任は私が取るつもりでした。殺意もありました。処断は覚悟しております」
あ、そう。
魔力が大きいというだけで、死ぬほどの攻撃を受けるのですか?
これは、グレモリー・グリモワール達にも、【認識阻害】アイテムを装備させる必要がありますね。
「わかりました。幸いにして、グレモリー・グリモワールの命に別状なし。また、あなたはグレモリー・グリモワールの【眷属】となり永久に人権を奪われる訳ですから、それをもって罪は償う事になりますね」
「はい」
ベリアルは言いました。
「ノヒト様。一言、付け加える必要がある事例があります」
ルシフェルが発言します。
「許可します。それは何ですか?」
「ベリアルとアザゼルは、【知の回廊】に反乱を起こした罪で【無限牢獄】に収監されていました。【知の回廊】がノヒト様の手によって倒され事により、昨日、釈放されたばかりでした。ノヒト様が【調停者】様で在らせられる事、また、僕たち【天使】の救世の徒である事は、ベリアルとアザゼルには伝えてありましたが、グレモリー様の情報は、伝わっていませんでした。なので、ベリアルは、あのような無体を働いてしまったのです。責任は上席者たる僕にあります」
なるほど。
監獄に入っていて、外の情報に疎かったから、不法行為を働いた……と?
「ルシフェル。その理屈は全く通りません。情報伝達が上手く行かなかった事と、ベリアルが不法行為に及んだ事とは無関係です。あなたの理屈が考慮されるのならば、何らかの根拠があれば、ベリアルの不法行為が正当化された、という事になります。そんな事は、あり得ません。法規の解釈は、時と場合によって変わったりはしません。合法、不法は、絶対的尺度で、状況に応じて、相対的に変化したりはしないモノなのです。もしも、法規の解釈が時と場合によって変わるなら、法規を運用する為政者は、どんな無茶苦茶な事でも出来てしまいます。法規は法規。それは絶対的なモノで、為政者や権力者の意向によって、その解釈が変わるようなモノであってはならないのです。それが法治主義です。つまり、どんな理由があったとしても、ベリアルの不法行為を是認する事にはなり得ません」
うん。
さっき読んでいた本の受け売りですが、もっともらしい事を言えましたね。
「仰る通りです」
ルシフェルは言いました。
「ルシフェル。ベリアルが攻撃を仕掛けた後、何故、グレモリー・グリモワールの追撃を命じたのですか?部下であるベリアルが不法行為をしたのです。それを叱責するなら、まだしも、部下の不法行為に乗じて、グレモリー・グリモワールへの攻撃を命じ、自らも魔法で攻撃を加えるなど、あってはならない事です」
「グレモリー様は、ベリアルに反撃し一撃で倒してしまいました。それを見て、僕の配下達がグレモリー様に一斉に攻撃を行いました。グレモリー様は配下達に反撃を行い、瞬く間に歴戦の古強者を28人も倒してしまいました。僕は、配下を殺された事で動転し理性を失ってしまいました。とはいえ、自らの行動を正当化するつもりは、ありません。僕の判断は間違っていましたし、不法でした。一部の正当性もありませんでした」
ルシフェルは真顔で答えます。
「グレモリー・グリモワールとディーテ・エクセルシオールを亡き者にして、口を塞ぎ、ベリアルの犯罪行為を隠蔽しようとしたのではありませんか?」
「はい、その考えもありました。お二人を殺害した後で、グレモリー様が先に手を出して止むを得ず応戦して死なせた、と口裏を合わせるつもりでした」
まったく……。
腹が立って来ましたね。
「ルシフェル。それは不可能です」
私は、部屋の四隅に置かれた柱状の飾りを指差しました。
柱状の飾りの台座の上には、【アンサリング・ストーン】が置かれています。
各、ゲームマスターのオフィスと、会議室や取調室には、全て【アンサリング・ストーン】が標準装備されていました。
「あれは、何ですか?」
ベルフェゴールが挙手して訊ねます。
「【アンサリング・ストーン】です。またの名を【真実の石】。ルキフゲ・ロフォカレと、ルキフゲ・フォカロルが付けている、【看破の片眼鏡】の上位互換アイテムです。近くにいる者が言っている事が事実でなければ、光ります」
【看破の片眼鏡】は、設問を……YES.or.NOで答えるようしなければ真実と嘘を見破れません。
【アンサリング・ストーン】は、事実ではない事を言えば、全て光ります。
「ところで、ルシフェル。グレモリー・グリモワールの反撃は正当でしたか?」
「はい、グレモリー様の反撃は全て正当防衛。それが証拠に、現場にいてグレモリー様に攻撃を行わなかった者達は、誰一人としてグレモリー様の反撃を受けていません。グレモリー様は、あの混乱した状況にあっても、完全に正当な行動を取り続けていました」
あ、そう。
どうやらグレモリー・グリモワールとルシフェルでは存在の格が違うようですね。
ルシフェルは、自分に都合の悪い事は、証人を抹殺して隠蔽しようとする小悪党。
それに比べて、グレモリー・グリモワールは、公明正大です。
私とグレモリー・グリモワールは、元は同一自我。
自画自賛する訳では、ありませんが、グレモリー・グリモワールは、何だかんだ言っても、私なんだ……と安心したところです。
グレモリー・グリモワールの日頃の言動は少し心配もしていましたが、土壇場では私から見ても適切な行動を取ってくれました。
これは、今後、グレモリー・グリモワールを、もっと頼りにしても良いかもしれません。
「アマイモン。あなたは、地上で兵を率いていましたね?グレモリー・グリモワールを攻撃する事を正当な行為だと思いましたか?」
「いいえ。不当な行為だと承知していました。不当な行為と承知した上で、ルシフェル様の敵であるグレモリー様を殺害しようと思いました。私は、全ての物事を、ルシフェル様の為になるかどうか、でしか判断致しません」
アマイモンは答えました。
「現在もそうですか?」
「現在は、グレモリー様が第一優先、ノヒト様が第二優先、その次がルシフェル様、最後が自分自身、それ以外の者は誰であろうと一顧だにするつもりもありません」
アマイモンは清々しいまでにキッパリと無茶苦茶な事を言います。
あ、そう。
彼女は、ルシフェルの命令なら何でもする、という典型的な忠誠バカですね。
自分自身では何も判断を下さない単細胞バカですので、逆に言えば、全ての行動に恣意や任意や悪意がなく、命令を愚直に実行しただけで責任はない、とも言えます。
つまり、ルシフェルを私とグレモリー・グリモワールが押さえた現状、アマイモンは人畜無害。
無視出来る存在です。
まあ、ここにいる連中は、全員ルシフェル教の狂信的な信者という感じですから、程度の差こそあれ、皆、アマイモンと似たり寄ったりですが……。
「とりあえず、グレモリー・グリモワールとディーテ・エクセルシオール襲撃事件に関しては、わかりました。次に、グレモリー・グリモワールの従魔である竜之介の殺害について教えて下さい。竜之介を殺害する命令を下したのは、誰ですか?」
「私です」
アスモデウスが答えました。
「当時の状況を詳しく教えて下さい」
「はい。当時、グレモリー様の別荘【ラピュータ宮殿】が接収された後、当局の役人達が【ラピュータ宮殿】に入りましたが、竜之介殿に攻撃され多数の犠牲を出しました。治安当局が出動しましたが、竜之介殿は、多数の【竜】を配下として率いておられ、歯が立ちません。従って、私が出動致しました。私は、配下のルシフェル軍旗下第1軍、第2軍団の精鋭を率いて、竜之介殿を討ち果たしたのです」
「アスモデウス。それは正当な手続きに則った適切な行動でしたか?」
「いいえ。竜之介殿は知性ある存在。知性のレベルは、私達【天使】の平均より、はるかに高い。ならば、英雄大消失により、グレモリー様が戻られない可能性が高い事……英雄大消失関係国際法により、英雄の所有不動産は適切な手続きを踏めば接収が認められている事……などについて、丁寧に1つ1つ理を説いて、説得しなければなりませんでした。私の判断は短絡的で横暴。完全に間違っていました」
「何故、間違った行動をしたのですか?」
「部下達を、竜之介殿に殺され、怒りで我を忘れました」
「その怒りを覚えた事自体は、そもそも正しいのですか?」
「いいえ。竜之介殿の行動には何ら非がないので、単なる私の逆怨みです」
「わかりました」
次に聴くべきは……シャルロッテ達の事ですね。
「ルシフェル。シャルロッテ達を、不当な【契約】で縛り付け、隷属させた理由を教えて下さい」
「はい。当時、僕は【天帝】を自称する【知の回廊】と冷戦・暗闘をしていました。面従腹背。つまり、表向き【天帝】に従いながら、心の中では常に叛意を持ち続けていました。僕は……人種を庇護したい……と考えていましたが、【天帝】は管理しやすいように……人種には知恵を与えず、知恵を身に付けた人種は全て殺す……という方針を掲げていたのです。ただし、例外として、僕が直接庇護する人種に対しては、僕の所有物として【天帝】も手を出さない、という取り決めを交わしていました。シャルロッテ殿達を生かす為には、奴隷にするしか選択肢がありませんでした」
なるほど。
それは、私が持っている情報……つまりミネルヴァが【知の回廊】の記録を調べてわかった事実とも符合します。
多少は、ルシフェルの行動に、情状酌量の余地はあるのかもしれません。
実際、シャルロッテ達からの聴取によると、ルシフェルは、隷属の【契約】によって、シャルロッテ達を縛り無報酬で自領地の見回りや管理をさせてはいたものの、それ以外は比較的自由にさせ、暴力を振るったりなど無体を働く事はなかったようです。
だからと言って、ルシフェルの不法行為が消える訳ではありませんが、法規とは関係なく、私の個人的な心証は、ほんのわずかだけ緩和されました。
しかしながら、ルシフェルの言い分を、シャルロッテ達に伝えたところで、彼女達の苦しみや悲しみは変わらなかったでしょうから……ルシフェル達の刑罰を軽くするつもりは、1mmたりとも、ありません。
ルシフェルが言った事は、被害者達には一切関係がない、ルシフェルの個人的な言い分以上の何物でもないのです。
兎にも角にも、グレモリー・グリモワールとディーテ・エクセルシオールの襲撃事件は、その前後関係も含めて、とりあえず聴くべき事は聴きましたね。
「ミネルヴァ。今の録画を、グレモリー・グリモワールが次に来た時にに渡しておいて下さい」
「わかりました」
さてと、次は、ルシフェルに対して、ゲームマスターとしての取り調べをしなければいけません。
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