第231話。ライセンス。
名前…ビルテ・エクセルシオール
種族…【ハイ・エルフ】
性別…女性
年齢…444歳
職種…【銀行家】
魔法…多数
特性…【才能…風魔法、世界樹の守り人】、【辣腕】、【謀略】など。
レベル…99
世界銀行ギルド頭取。
ディーテ・エクセルシオールの孫娘。
異世界転移、35日目。
未明。
【ワールド・コア】ルームの図書館。
私は、図書館の長机に座り、地球の各国の警察関連法規を調べていました。
意思決定の根拠となる参考資料がたくさんあっても、悩む事には変わらないとわかって、多少、愕然としています。
トリニティ、グレモリー・グリモワール、ディーテ・エクセルシオールは、【ドラゴニーア】竜城に戻りました。
昨夜の野良仕事は、予想より捗った為に完徹作業にはならずに済んだので、グレモリー・グリモワール、ディーテ・エクセルシオール、トリニティも数時間は睡眠を取れたのではないでしょうか。
【ドライアド】のシャルロッテや、その配下の【ハマドリュアス】達が極めて優秀だった為に、進捗が予想を上回ったのです。
現在、【ラピュータ宮殿】の浮かぶ下の地上部分のグレモリー・グリモワールの別荘の敷地には、小さな【黄金のリンゴ】の苗木が整然と植えられていました。
私が、その場で造った大量の【魔力散布機】も設置済です。
これで、上手くいけば、来年の晩夏から初秋にかけて、【黄金のリンゴ】が収穫可能でしょう。
異世界農業はイージー・モード。
1年で苗が木に育ち果実を成すなどとは、驚きの成長速度です。
また、昨晩は嬉しい出来事もありました。
シャルロッテの配下であった【ハマドリュアス】の8人が、ルシフェルとの【契約】を私がゲームマスター権限で強制破棄した後、次々に【聖格】へと昇華して、全員【ドライアド】に種族的なクラス・アップを果たしたのです。
【超位】級の魔法職が一気に9人、グレモリー・グリモワールの陣営に加わった訳ですね。
これは、大きい。
【ドライアド】などの【樹人】は、争いを好まず荒事には向きませんが、好み、の問題でしかないので、実際には必要に迫られれば戦います。
【ドライアド】はゲーム中2番目に強力な植物使役能力を持ち、魔法も【地】、【水】、【風】の3系統を駆使出来ました。
相当に強力な戦闘力です。
因みにゲーム中最高の植物使役能力を持つのは、【世界樹】。
あれは、【神位】級の存在なので、別格ですが……。
また、【ドライアド】の知性は人種最高の【ハイ・エルフ】と同等。
【ハイ・ヒューマン】や【エルダー・ドワーフ】より、ずっと知性が高いのです。
そして、寄親に対する忠誠心が極めて高いので、寄親であるグレモリー・グリモワールの為には生命を賭して戦うでしょう。
また、グレモリー・グリモワールが不在の間に子孫を増やし、多数の【ハマドリュアス】達を従えていました。
全員を、森の中から【ラピュータ宮殿】の城の中に移動させたら、ゾロゾロと100人以上が現れたのです。
全員、名前を持たなかったので、グレモリー・グリモワールは、名付けが大変そうでした。
まあ、グレモリー・グリモワールは、私なので、ネーミングセンスも、元来の面倒臭がりな性質も同じ。
「はいはい種類ごとに並んで……。あんた達は【ブドウ果樹人】か……カベルネ・ソーヴィニヨン、シャルドネ、シラー、ピノ・ノワール、マスカット、デラウェア、ピオーネ、巨峰、甲州……。はい、次は、【イチジク果樹人】……イチジク?わっかんないね〜。あー、もう適当で良いや。イチ郎、イチ子、イチの助、イチ美、イチ衛門、イチ江……」
などという事になる始末……。
兎にも角にも……【ラピュータ宮殿】の管理と防衛は盤石と言って過言ではありません。
こうしてグレモリー・グリモワールによる名付けが終わり、トリニティとグレモリー・グリモワールとディーテ・エクセルシオールは、短い睡眠をとる為に戻ったのです。
私は、もちろん眠ってはいません。
自分自身を【鑑定】しても、ステータス表示を見ても、全機能異常なし。
全く眠らなくても問題ないのです。
私は、トリニティ、グレモリー・グリモワール、ディーテ・エクセルシオールを竜城まで送った後、【ワールド・コア】ルームに1人でやって来て、図書館で資料を調べながら、ゲームマスター本部の稼働状況の確認作業をしていました。
「【コンシェルジュ】の日産はラインをフル稼働させても10体。さすがに【神の遺物】……そう簡単には創れませんね。毎日、完成した半分を外部派遣要員に振り分けるとして、体制が整うのは、1ヶ月以上先ですか……」
私は、呟きます。
「とりあえず、【地上界】の方だけなら、半月で完全な体制が整います。また、情報収集だけならば、10日以内ですよ」
ミネルヴァが答えました。
うーん。
【コンシェルジュ】は、【創造主の魔法】による創造。
製造ラインの増強は不可能です。
つまり、この日産10体という数は、どう足掻いても増やせません。
それに、【コンシェルジュ】だけを創れば良い、という訳でもないのです。
私は、【神の遺物】製造ラインで、【砲艦】など、他の【魔法装置】の生産も計画していました。
ゲームマスターの業務を、戦闘力に劣る【コンシェルジュ】達に代替させるなら、武装強化をしなければ話になりません。
ゲームマスターなら……単身乗り込んで行って……勝手に査察をして……問題があれば、即、実力行使……という有無を言わさない対応が取れます。
しかし、【コンシェルジュ】の場合……。
武力を用いて査察を拒否されたら、それを推し通れるか?
問題が見つかったとしても、その場で是正措置を取れるか?
あくまでも従わない場合、当該施設の破壊や抵抗する者の排除が可能なのか?
少し想像するだけで、色々と不具合が起きそうですね。
戦闘力など能力不足による任務の未達なら、それは仕方がない、と割り切れます。
私が改めて乗り込んで行って、無理やりにでも当事者達を従わせれば良いだけですので。
一番の懸念は、緊急措置として【コンシェルジュ】が実力行使を行う必要が発生した場合。
ゲームマスターではない【コンシェルジュ】達に、どこまでの権限を与えるのか?
これが悩みどころでした。
【コンシェルジュ】はゲームマスターではありません。
あくまでも、サポート要員。
仮に、査察を拒否され、問答無用で現場に入り、抵抗されたら?
当然、排除しなければならないでしょう。
その時、止むを得ず相手を殺さなければならないような事態だって可能性としては、あり得ます。
私は、現在、【コンシェルジュ】達に、人種(厳密な定義上は、人種以外の知的生命体も含む)の殺傷は可能な限り回避するように命じていました。
私は、【コンシェルジュ】達には、人種に対する殺生与奪許可を与えていないのです。
殺生与奪権。
物騒で血生臭い……実に嫌な権限です。
ゲームマスターには、世界の理を守る為に、世界内の、全てのユーザーとNPCを滅殺しても良い、また、世界内の、全てのユーザーとNPCの私有財産を破壊しても良い、という権限が与えられていました。
これを俗に、殺生与奪許可と呼びます。
殺生与奪許可を、ゲームマスターではない【コンシェルジュ】達に与える事に、私は大反対です。
ミネルヴァも、条件付きでの一部許可を与えるのに留めるべきだ、という意見。
ミネルヴァは、ゲームマスターの決定に反対する権限はありませんが、意見を言う権限はありました。
ミネルヴァが示した条件とは……。
攻撃を受けたら反撃しても良い。
その場合でも可能な限り殺傷せずに制圧する事。
結果的に死傷者が出た場合は、執行手続きが適切ならば止むを得ない。
今、私は、それを【コンシェルジュ】達に許可するか、どうかで悩んでいたのです。
うーん、【コンシェルジュ】は、【神の遺物】の【自動人形】。
【神の遺物】の【自動人形】には、知性と自我と感情があります。
同じ【神の遺物】の【自動人形】である、オラクル、ヴィクトーリア、クイーン・タナカには、現在、世界15か国で人権が与えられていました。
つまり、【神の遺物】の【自動人形】は、機械であると同時に知的生命体としての法的立場を与えられる存在なのです。
業務遂行の状況下で、【コンシェルジュ】が誰かに破壊されてしまったら?
人権を有する事が可能な存在ですから……破壊ではなく殺害と言うべきくもしれません。
【コンシェルジュ】が殺害されてしまったら?
私は、もちろん怒りますし、悲しみますね。
いや、私の感情など、どうでも良いのです。
任務遂行中に【コンシェルジュ】が抵抗する犯罪者に対して、殺傷の可能性があるような対抗措置が取らせても良いのか?
【コンシェルジュ】の生命を守る為には、必要な措置です。
しかし、それは、道義上どうなのでしょう?
【コンシェルジュ】は、ゲームマスターではありません。
世界の理から言って、何ら執行権を有する者達ではないのです。
その【コンシェルジュ】達に、殺生与奪許可を、部分的とはいえ、与えても良いモノなのでしょうか?
これは、難しい判断です。
例えば、こう考える事は出来ないでしょうか?
ゲームマスターは裁判官であり検察官であり刑罰執行官。
【コンシェルジュ】は、警察官。
警察官は、裁判官ではありません。
なので、犯罪を犯した被疑者を裁判所の命令に従い逮捕する行政執行権限はありますが、被疑者を裁く権限はありません。
仮に、死刑が相当だと看做される被疑者が目の前にいても、その場で拳銃で撃ち殺して良い訳ではないのです。
裁判官には、法に照らして、それが妥当ならば、被告に対して死刑判決を下す権限がありました。
つまり、国家が国民を殺しても良い、という許可を与える権限を持つ訳です。
国民を殺す許可を与える権限……これは、つまり、ゲームマスターが持つ、殺生与奪許可。
ここまでの構図は、日本と異世界に共通すると解釈出来ます。
さて、私は、【コンシェルジュ】に……攻撃を受けたら反撃しても良いが、その場合でも可能な限り殺傷せずに制圧する事……という権限を与えるか、どうかで悩んでいる訳ですが……。
これを、警察官に当てはめて考えると。
例えば、逮捕しようとした被疑者が、あくまでも法に従わず激しく抵抗した場合。
刃物や銃器や爆弾や毒ガスや……様々な凶器・武器で武装していた場合。
人質がいた場合。
速やかに制圧しなければ、市民に犠牲が出ると予測される場合。
こういう状況の時……警察官は、権限者の命令に従い、適切な手続きを踏んだ上であれば、被疑者を、拳銃で射撃する事は認められています。
結果的に被疑者が死亡した場合も、適切な銃器の使用であれば警察官は、もちろん罪に問われる事はありません。
つまり、警察官は、正当な権限の範囲で、必要に迫られれば、被疑者を止むを得ず射殺する事は、あり得るのです。
それは、正当な法執行措置であり、罪には問われません。
ならば……。
「ミネルヴァ。【コンシェルジュ】の実力行使、及び、対象の殺傷に関する許可は、日本国の警察官に認められた行政執行権限のルールを踏襲しなさい」
「わかりました……完了しました」
ミネルヴァは、即座に【コンシェルジュ】全員のプログラムを書き換えました。
結果的に、私は、ミネルヴァの意見を採用したのです。
「チーフ。グレモリーさんの【眷属】となった者達が到着しました」
ミネルヴァが報告しました。
「エレベーターを開け、執務室まで案内して下さい」
「取り調べ室ではないのですか?」
「はい。執務室に案内して下さい」
「わかりました」
「悪いんだけれど、本を棚に返しておいてもらえるかな?」
私は、司書係の【コンシェルジュ】に頼みます。
「畏まりました」
「ありがとう」
私は、腰を上げ、執務室に【転移】しました。
・・・
ゲームマスター本部。
ナカノヒト執務室。
目の前には、ルシフェル、ベリアル、アザゼル、ルキフゲ・ロフォカレ、ルキフゲ・フォカロル、ベルフェゴール、アマイモン、サタナエル、アスモデウス。
ルシフェルは、元天使長で、元【熾天使】。
ベリアル、アザゼルは、元【熾天使】。
残りの者達は、元【智天使】。
ベルフェゴールとアマイモンは女性……あとは男性です。
種族は、複雑怪奇ですね。
彼ら自身は、自己を【天使】と認識しているようですが、違います。
彼らが呼称されている【熾天使】や【智天使】という位階は、ゲーム設定上の種族位階として定められた正規のモノではなく、暴走した人工知能である【天帝(知の回廊)】が勝手に決めたモノ。
彼らの種族は、全員【擬似神格者】……つまり【改造知的生命体】です。
だからと言って、差別などはしませんよ。
私は、本来、機械である【神の遺物】の【自動人形】達……つまりオラクル、ヴィクトーリア、クイーンにも人権を認めています。
知性と自我と感情があれば、私は、それが何であれ知性体と認めて、尊重すると決めていますので。
「とりあえず、座って下さい。ミネルヴァ、彼らに飲み物を……」
「わかりました」
ミネルヴァは言いました。
すぐに【コンシェルジュ】達が、グレモリー・グリモワールの【眷属】9人に飲み物を給仕します。
さてと、話を聴かせてもらいましょうか。
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