第230話。グレモリーの新ビジネス。
本日、9話目の投稿です。
夜。
ボーリング大会は、お開き。
優勝者(?)のソフィアの名前と写真がロビーに飾られる事になりました。
ソフィアは、もう睡魔で舟を漕ぎ始め限界。
ウルスラは、既に寝落ちしていました。
レイニールも、かなり眠そうです。
さてと、帰りましょう。
私達は、【ドラゴニーア】の竜城に【転移】しました。
・・・
竜城の礼拝堂。
グレースさんが、フェリシアとレイニールを連れてゲスト・ルームに向かいます。
寝落ちしたソフィアとウルスラを、オラクルとヴィクトーリアが大切そうに抱いて寝室に向かいました。
今日ばかりは、お風呂場海戦は、勃発しないのでしょうね。
「ノヒト。僕も明日に備えて、もう休みます」
ファヴが言いました。
「そうですね。お休みなさい」
ファヴも自分のゲスト・ルームに向かいます。
「明日に備えて?何かあるの?」
グレモリー・グリモワールが訊ねました。
「はい。明日、ウエスト大陸の守護竜【リントヴルム】を復活させます」
「【リントヴルム】を?という事は、【サントゥアリーオ】の封印が解かれる、って事?」
グレモリー・グリモワールは驚きます。
「はい」
「どうやって?大森林に埋もれた【サントゥアリーオ】は、何人も寄せ付けないのに?神なら入れるのですか?」
ディーテ・エクセルシオールが訊ねました。
「【神位結界】と言えども、不壊・不滅という訳ではありません。【結界】の耐久値を上回る力で無理やり押し通る事は可能です。ただし、その出力が私やソフィアくらいでなければ出せない、というだけの事なのですよ」
「で、中に入って、【リントヴルム】を顕現させて、ソフィアちゃんや、ファヴ君みたいに、現世に存在を固定するんだね?でも、【リントヴルム】は、意思を持って国境を封鎖しているんでしょう?人種を受け入れるように説得出来るの?」
グレモリー・グリモワールが訊ねます。
「説得が不可能なら、滅殺します。滅殺された守護竜は初期化され、元の在るべき設定上の存在として復活するのですよ」
「守護竜を殺せるの?まあ、ノヒト達なら、やれるんだろうけれどね。ノヒト達にしか出来ない仕事だね?私は、応援する事しか出来ないけれど、ウエスト大陸の人種の為に頑張ってね」
グレモリー・グリモワールは言いました。
「全力を尽くしますが、なるようにしか、なりません」
「ま、そだね」
「さてと、私とグレモリーは、これから、徹夜仕事をしなければならないのですが、ディーテさんは、どうしますか?」
「同席して構わないなら、ご一緒しますわ。何をするのか、知らないけれど」
ディーテ・エクセルシオールは、同行を希望します。
「わかりました。では、行きましょう」
パスが繋がるトリニティから……私は?……という不安げな思念が伝わって来ました。
「トリニティ。あなたに何も確認しない時は、もちろん一緒に来てもらいますよ」
私が告げると、トリニティからは……安堵と喜びの思念が伝わって来ます。
私、トリニティ、グレモリー・グリモワール、ディーテ・エクセルシオールは、【シエーロ】に向かって【転移】しました。
・・・
【シエーロ】。
【ラピュータ宮殿】。
もう夜中です。
私は、【ドライアド】のカスターニョとオリーヴォ、【ハマドリュアス】のメロ、ペロ、ペスコ、チリエージョを呼びました。
「では、カスターニョとメロとペロは、セントラル大陸の【ドラゴニーア】という場所に向かいます。3人には、セントラル大陸の守護竜である【神竜】の為の供物を栽培する農場で仕事をしてもらいます。主に、果樹園の管理人をしてもらう事になりますね。オリーヴォとペスコとチリエージョは、サウス大陸の【パラディーゾ】にある【タナカ・ビレッジ】という場所に向かいます。3人には、【タナカ・ビレッジ】のクイーン農場の果樹園の管理人をしてもらいます。ソフィア農場もクイーン農場も、この世界では最も素晴らしく手入れをされている農場ですから、きっと暮らしやすいと思います。現地の担当者も……歓迎する……と言ってくれています。何も心配はありませんよ」
私が説明すると、6人の【樹人】達は、ユックリと仲間達を見回して、頷き合います。
「とりあえずね。城の南側一帯の地上部分に植林したいんだよね。300本の苗木を植える。ある程度育ったら、樹勢の良い若木を選んで間伐して、100本の果樹林にする。将来的には、1000本程度を成木として、大規模果樹園にしたいね。シャルロッテ、出来るかな?」
グレモリー・グリモワールは、シャルロッテさん達に相談していました。
「気候などは問題ありません。ただし、【黄金のリンゴ】は、大変に栄養を必要とする植物なので、土壌が相当に肥沃でなければ、すぐに土が痩せて、育たなくなります。この土地は……というより、【神位】の祝福を常時受けられるような土地でなければ、【黄金のリンゴ】の果樹林を作る事など不可能ではないか、と……」
【ドライアド】のシャルロッテさんは言います。
そうです。
グレモリー・グリモワールは、この【ラピュータ宮殿】の地上部分で、【黄金のリンゴ】の栽培を企図していました。
【黄金のリンゴ】は、土壌に含まれる大量の栄養を吸収してしまいます。
なので、守護竜の【神位結界】の中のような強力な祝福によって、豊穣の実りを約束されたような土地でなければ、林立して育つ事はありません。
一本の【黄金のリンゴ】が周囲の土壌から栄養を吸収してしまい、隣の木を枯らしてしまうからです。
しかし、【黄金のリンゴ】は、設定上、【シエーロ】でしか育ちませんでした。
【シエーロ】には守護竜はいないので、【神位】の大地の祝福を常時受けらる場所など、そう簡単には存在しません。
それこそ、ウルスラのような高い位階の妖精や精霊が住み着いているような場所などしかないのですが……。
ウルスラのように盟約を結んで受肉した個体でなければ、妖精も、精霊も、人種とは交流しません。
基本的に野良の妖精や野良の精霊は、人種を恐れるか、嫌うのです。
なので、通常、妖精や精霊は、人里離れた場所に暮らしていました。
【黄金のリンゴ】の果樹園に、妖精や精霊の援助は期待出来ません。
そもそも……【黄金のリンゴ】は栽培が不可能だ……とさえ言われているのです。
野生の【黄金のリンゴ】は、特別に土が肥えた場所で、また、魔力溜まりなどが近くにあり、周りに樹木がないような場所にポツンと生えていました。
果樹林化して、集中栽培などは誰もやった事はないのです。
グレモリー・グリモワールは、その不可能と言われた【黄金のリンゴ】の果樹林での栽培を事業としてやろうとしていました。
「シャルロッテ。例えばだけれど、【黄金のリンゴ】の木1本毎に、1つの【魔力散布機】を付ける。そして、土には定期的に、【古代竜】の血液から生成した肥料を与える。それなら、イケると思うんだよね。どうかな?」
グレモリー・グリモワールは、シャルロッテさんに訊ねます。
「なるほど、その方式なら、可能かもしれませんが……。【黄金のリンゴ】の木1本1本に、それぞれ【魔力散布機】を1台ずつ使うとなると……当然ながら、【超位】級の【魔法石】が100個必要になります。将来的に1000本に増やすならば、【超位】の【魔法石】は1000個必要になりますが……」
シャルロッテさんは、暗に……それは不可能なのではないのか……と示唆しました。
「買うよ。私、使いきれないほどの、お金があるんだよ。【超位】の【魔法石】1000個くらい楽勝で買える」
「グレモリー様……そもそも、1000個もの【超位】の【魔法石】は、まとまって売っていないのでは?それとも、お会いしなかった900年の間に事情が変わったのでしょうか?」
「うん。事情は変わった。あのノヒトが【超位】の【魔法石】をアホほど持っている。それを売ってもらうんだよ」
「そうですか、ならば、私共は、その果樹園の管理と、【黄金のリンゴ】の木の世話をすればよろしいのですね?」
「そう。頼める?」
「はい。喜んでやらせて頂きます。私共は、樹木の世話が得意でございますので」
「お願いね〜」
「お任せ下さいませ」
・・・
竜都【ドラゴニーア】南側都市城壁外。
ソフィア農場。
私は、カスターニョ、メロ、ペロをソフィア農場に連れて行って、農場長に3人の事を依頼しました。
農場長は、3人が働きやすいように環境を整えてくれると約束してくれます。
私は、農場長に頭を下げて、3人と別れ【転移】しました。
・・・
サウス大陸、中央国家【パラディーゾ】。
【タナカ・ビレッジ】。
私は、【タナカ・ビレッジ】の城門の前で、スマホをかけます。
相手は、もちろんクイーン。
すぐに、クイーンが、護衛隊長のジョーカーと【アダマンタイト・ガーゴイル】を2体引き連れて迎えに出て来てくれました。
「いらっしゃいませ、ノヒト様、皆様」
クイーンは、にこやかに挨拶します。
「クイーン。果樹園の管理人を連れて来ました。【ドライアド】のオリーヴォと、【ハマドリュアス】のペスコとチリエージョです。樹木の管理のスペシャリストです。また、3人は果樹型の【樹人】なので、果樹の管理もエキスパートですよ。働かせてあげて下さい。3人の給与は私が支払います。待遇は、陽当たりの良い部屋に住まわせてあげて、3食の食事をお願いします。食性は雑食です。クイーンの部下という扱いで結構です」
「畏まりました。クイーンです。オリーヴォさん、ペスコさん、チリエージョさん、よろしくお願いしますね」
クイーンは、3人と順番に挨拶を交わしました。
「「「よろしくお願いします」」」
3人の【樹人】は挨拶をします。
私は、3人をクイーンに預け、再び【シエーロ】に向けて転移しました。
・・・
【シエーロ】の【ラピュータ宮殿】。
私が戻ると、早速グレモリー・グリモワールが【エルダー・リッチ】達を出動させ、地面を派手に【撹拌】させていました。
ディーテ・エクセルシオールが【水魔法】で霧状の水を撒きながら、グレモリー・グリモワールと【エルダー・リッチ】200体は横並びになって、土を耕しながら前進して行きます。
人海戦術恐るべしですね。
さすがに、私も、通常の【撹拌】では、あんなに早く耕せません。
私は、超出力を出す作業なら、ソフィアと並んで、この世界最強です。
しかし、今、グレモリー・グリモワール達がやっているような、低負荷で、ひたすら手数が必要な作業は、多数の【不死者】を同時管制可能なグレモリー・グリモワールも素晴らしく得意でした。
私なら、【超神位魔法】のようなチートを使えば、一瞬ですが、あまり、私事でチートを使い過ぎると、またミネルヴァにチェックされて、やんわりと叱られます。
私は、しばらくグレモリー・グリモワールの作業を眺めていました。
「ノヒト。そろそろ良い?」
グレモリー・グリモワールが訊ねます。
「わかりました」
私は【収納】から、【古代竜】の血液が入ったオリハルコン・タンクを取り出しました。
「畑に撒く時は希釈率50倍って教えてもらったんだけれど、木の苗木でも同じなのかな?【黄金のリンゴ】の場合は、濃度を上げた方が良いかな?」
グレモリー・グリモワールが訊ねます。
「希釈率は同じです。それから1度に与える量も同じで大丈夫です。【黄金のリンゴ】に与える場合は頻度を増やします。苗木の時は、隔週1回。若木に育って週に2回。成木に育って、週に1回。実がなったら、2日に1回ですね」
シャルロッテさんが答えました。
「あ、そう。わかった。なら、ノヒト。この原液のタンクで、とりあえず月に5本買い取らせて」
「ならば、物納でお願いします。私は、【古代竜】の血液と、【魔力散布機】を無償で提供し続けますので、出来上がった【黄金のリンゴ】の3割を対価として納めて下さい」
「なら、全収量の半分を納めるよ」
グレモリー・グリモワールは、即座に物納割合を上げて言います。
「いや、半分はもらい過ぎでしょう。栽培の労力をかけるのはグレモリーの方なのですから」
「いや、こんな大量で超高品質の【古代竜】の血液を安定供給してくれるのは、世界にノヒトとソフィアちゃんだけだし、そもそも、このやり方で成功する保証もないからね。半分だよ」
グレモリー・グリモワールは、キッパリと言いました。
「わかりました」
「グレモリー様。荷が届きました」
シャルロッテさんが伝えます。
どうやら、【ハマドリュアス】の1人が正門で荷受けをしている様子。
【ドライアド】のシャルロッテさんをハブとして、【ハマドリュアス】達にはパスのネットワークが構築されています。
届いた荷物は、もちろん【黄金のリンゴ】の苗木でした。
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