第23話。衛士機構への講義。
冒険者のクラスとレベルの相関関係。
(あくまでも大まかな目安です)
ドラゴニウム(竜鋼)…レベル45相当以上。
オリハルコン…レベル40相当。
アダマンタイト…レベル35相当。
ミスリル…レベル30相当。
ゴールド(金)…レベル25相当。
シルバー(銀)…レベル20相当。
アイアン(鉄)…レベル15相当。
カッパー(銅)…レベル10相当。
レザー(革)…レベル5相当以下。
【ドラゴニーア】の兵士の平均は、レベル20。
【冒険者ギルド】を後にした私とソフィアは、早めの昼食を食べる事にしました。
午後からソフィアは公務として謁見に臨まなければいけません。
私も今日は【ドラゴニーア】の衛士達を相手に対人戦闘術の講義をする予定があります。
「ソフィア。お昼ご飯は何が食べたいですか?」
「【ジャガイモ亭】で目玉焼きハンバーグが食べたいのじゃ」
「無難ですね。でも、他にも色々とお店がありますよ」
さすがに毎日【ジャガイモ亭】というのも芸がありません。
「ふむ。ならば【竜宮寿司】か、牛丼屋か……」
「私としては、行った事がない店か、あるいは食べた事がない物が良いですね」
「食べた事がない物か?ならば、我はピッツァなる物が食べてみたいのじゃ」
おっ、ピッツァですか。
それは悪くないアイデアです。
今の私の気分的にピンと来ました。
「ピッツェリアが何処かにありますかね?」
「ふむふむ。エズメラルダによると……ピッツァが有名で良く行くのは、中心街にある【メディテレーニアン】という店……なのだそうじゃ。なるほど、チェレステが言うには……ピッツァ専門店なら西街にある【ナポリターナ】という大衆店……が最近流行っているのだそうじゃ」
ソフィアが神託を発して【女神官】の皆さん達に情報を訊くと、即座に皆が答えを返してくれます。
神聖な神託を、そんなグルメ・アンケートみたいな用途で使って、ソフィアは後でアルフォンシーナさんから怒られないでしょうか?
私は知りませんよ。
名前が上がった店は、両方とも900年前からある老舗ですね。
【メディテレーニアン】は私達ゲーム会社が創った店で、【ナポリターナ】は本場ナポリ出身のユーザー達が開店した店だった筈です。
900年前のユーザー大消失の後もNPC達の手によって営業が続いていたのですね。
何だか嬉しい気持ちです。
【メディテレーニアン】も【ナポリターナ】も、地球のイタリア料理に類するお店ですが、この世界的にイタリア料理は……【アルバロンガ】料理……と呼ばれていました。
【アルバロンガ】とは【ドラゴニーア】国内にある主要都市です。
【アルバロンガ】料理と言えば、900年前には【ガストロノミア】というお店が世界的に有名でした。
あそこは、まだあるのでしょうか?
【ガストロノミア】は、【竜都】の【ホテル・ドラゴニーア】という超高級ホテルのメイン・ダイニングにも支店を出していましたが……。
もしも、今もあるなら今度訪ねてみたいものです。
「【メディテレーニアン】は【アルバロンガ】料理の最高級リストランテ、【ナポリターナ】は気取らないピッツェリア。どちらかと言うなら、今日の気分は【ナポリターナ】の方ですね」
「うむ。我もテーブル・マナーに縛られるのは【竜城】の中だけで沢山なのじゃ」
私達は【飛行】で西街に移動しました。
【ドラゴニーア】は中心街の周りに東西南北の街区があり、それより外の都市城壁に近い街区は外縁部と呼ばれています。
東西南北の街区は、音速の【飛行】での移動を前提とするなら距離的に中心街から遠くありません。
ちょっと近所のファミレスまでという距離感です。
【飛行】の魔法は便利ですね。
【飛行】は【中位】から使用出来ますが、亜音速で【高位】、超音速で【超位】の魔法として設定されています。
音速の壁を越えるのは此方の世界でも大変という事なのでしょう。
因みに【ドラゴニーア】の交通規則では、低空での音速飛行は禁止されていました。
物体の音速移動によって引き起こされる衝撃波で、地上の人達に迷惑が掛かりますからね。
・・・
私とソフィアは【ナポリターナ】に到着しました。
店内は随分と混雑しています。
正午前からこの盛況ぶりだとすると、きっと夜の営業時間には予約がなければ食事は出来ないでしょう。
「現在テーブル席は一杯です。しばらく、お待ち頂きます。カウンター席なら、すぐご案内出来ますが……どう致しますか?」
小柄な女性の給仕係に訊ねられました。
彼女は、おそらく【人】と【ドワーフ】の混血でしょう。
「カウンター席で結構です」
「では空いているお席にどうぞ」
【ハーフ・ドワーフ】の女性給仕係は、そう告げて去って行きます。
・・・
この世界での混血の扱いは、地球の遺伝学とは全く異なっていました。
2分の1混血は存在しますが、4分の1混血は存在しません。
例えば【人】と【ドワーフ】の混血は【ハーフ・ドワーフ】と呼ばれていました。
遺伝学的にも彼らは両親双方から半分ずつ遺伝形質を受け継ぎます。
しかし、その【ハーフ・ドワーフ】が【人】と子を成すと、その子供は【人】として生まれ、遺伝的な割合として少ない【ドワーフ】の遺伝形質は失われ、失われた側の種族的特徴は子孫に受け継がれません。
逆も同様で、【ハーフ・ドワーフ】と【ドワーフ】の子は【ドワーフ】として生まれるのです。
つまり4分の1混血の場合、遺伝的に優勢な側に種族が統合される訳ですね。
また、【ハーフ・ドワーフ】同士の子供は【ハーフ・ドワーフ】として産まれました。
そして、父親が【人】と【ドワーフ】の混血である【ハーフ・エルフ】で、母親が【エルフ】と【獣人】の混血であれば、生まれて来る子供は【混血】というステータスとなり、祖父母それぞれの種族特性を4分の1ずつ受け継ぎます。
その【混血】の人物が更に【人】との間に子供を作れば、孫世代は遺伝形質の割合が高い【人】に種族が統合されました。
これは、この世界の仕様なのです。
混血が増えて世代を経るごとに徐々に種族差が曖昧となるより、【人】、【ドワーフ】、【エルフ】などの特性が後世にもハッキリ残るようにしたい……という制作サイドの考えが世界設定として反映されていました。
その方がファンタジー・ゲームの世界観として……それっぽい……からです。
人種が歴史的に交雑を繰り返した結果、世界は単一民族に統合されてしまった……という世界観では、せっかくのファンタジーが、何となく……これじゃない……感じになりますからね。
それから、この世界は、原則として異種族間での繁殖率が下がるように設定されていました。
これも、それっぽい特徴的な種族が存在するファンタジーのお約束を維持する為の仕様です。
ただし、片親が【人】ならば異種族間繁殖率の低下幅は緩和されます。
つまり、【人】は異種族間繁殖率が他の種族より高く設定されていました。
これは種族的に特筆するべき長所の少ない【人】が持つ種族的なメリットなのです。
この性質により【人】は世界内の人口比で最多を占める種族になっていました。
また【エルフ】と【ダーク・エルフ】との異種族間繁殖では、【エルフ】同士あるいは【ダーク・エルフ】同士の繁殖の場合と同様に繁殖率の低下は発生しません。
【エルフ】と【ダーク・エルフ】は、一応別種族と見做されているものの、地球でいう西洋人と東洋人程の違いしかない為です。
この場合も【エルフ】と【ダーク・エルフ】の遺伝形質が完全に混ざり合う事はなくハーフが生まれ、クゥオーターは存在しません。
異種族は繁殖率が下がるとしても、パートナーとの愛情を優先して異種族間で結婚するカップルはいます。
そういうカップルが後継を望む場合は養子を迎える場合が一般的でした。
とはいえ、セントラル大陸では人身売買は違法。
なので子供の出来ない夫婦は親戚から譲ってもらったり孤児院から孤児を引き取る事になります。
この場合も国から厳しく審査が行われました。
セントラル大陸では児童虐待は重犯罪なのです。
セントラル大陸では……子供の味方……を自称する【神竜】が、子供達の養育環境に対して、とても煩いですからね。
私もソフィアの姿勢を全面的に支持します。
繁殖に関して、もう一点だけ言及すると……繁殖力が旺盛な種族ほど寿命が短い傾向があります。
【ゴブリン】や【獣人】は基本的に一度の出産で同時に複数の子供を産む、多産な種族ですが、寿命は概ね50年。
ただし【獣人】に含まれる【竜人】や【蛇人】は例外的に少産・長寿で200年以上は生きます。
【人】、【オーガ】、【ホビット】などは基本的に授乳期間の女性は妊娠しない性質があるので、概ね2年に一度の出産が可能で、通常は一度の出産で1人の子供を産みます。
(もちろん地球の人間同様に、双子や三つ子……などの稀なケースはあり得ます)
寿命は100年ほど。
【ドワーフ】や【巨人】などは、少産ですが平気寿命は200年以上。
500年程生きる事もあります。
【エルフ】と【ダーク・エルフ】は更に少産で平均寿命は数百年以上で、【ドワーフ】よりも長命でした。
この世界では産児数と寿命の関係は、概ねこのような設定となっています。
・・・
私とソフィアは、ピッツェリア【ナポリターナ】のカウンター席の空いている場所に腰掛けましたが、ソフィアは、いつも通りテーブルの下に埋まってしまいました。
私は【収納】から椅子の上に乗せて高さ調節が出来るベビー・チェアを取り出し、店の座席に取り付けます。
これは昨夜の内職作業で製作しておきました。
「ありがとう、なのじゃ」
ソフィアは専用椅子によじ登って言います。
「ただ今、テーブルを片付けますね」
先程の【ハーフ・ドワーフ】の女性給仕係が私達が座ったカウンターに残されていた皿などを手際良く片付け最後にダスターでテーブルを綺麗に拭きます。
「我はピッツァ・ビスマルクという物が食べたいのじゃ。それを3枚頼むのじゃ」
ビスマルク……ソフィアが好きな卵が乗っていますからね。
「私はピッツァ・マルゲリータとピッツァ・カプリチョーザ……それとコーラ……この娘には赤いオレンジジュースを下さい」
「はい。ビスマルク3枚。マルゲリータ、カプリチョーザ、コーラと、アランチアータですね」
女性給仕係は確認して去って行きました。
・・・
飲み物が先に給仕されます。
ソフィアは一息に飲み干してしまいました。
ソフィアは氷をガリガリかじりながら、お代わりを要求します。
私はソフィアの為に追加で同じジュースを注文しました。
今度は一気に飲み干さず、少しずつ飲むようにと言います。
「わかったのじゃ」
ソフィアは素直に従いました。
しばらくしてピッツァが焼き上がりカウンターに並びます。
美味い!
味は紛れもなく王道のナポリ・ピッツァです。
私はピッツァが好きなのですよね。
この【ナポリターナ】も贔屓店のリストに加えましょう。
ソフィアは、もちろん3枚のピッツァを秒殺で平らげてしまいました。
ソフィアの食べっぷりを見た人達が一様に……ギョッ……とします。
最早、この奇怪なモノも見るような周囲の視線には慣れました。
私は周囲の視線を気にせず自分のピッツァを美味しく頂きます。
「ごちそうさまでした。美味しかったです」
私は【ギルド・カード】で会計を済ませました。
「うむ。また来るのじゃ」
「ありがとうございます」
【ハーフ・ドワーフ】の女性給仕係が笑顔で礼を言います。
私とソフィアは【ナポリターナ】を後にしました。
路地に入って……【竜城】に【転移】します。
・・・
私は待ち構えていたアルフォンシーナさんに、ソフィアを引き渡しました。
「ノヒト様。【ダビンチ・メッカニカ】から……見積もりが出来上がった……との連絡がありました。ご都合の宜しい時においで下さい……との事です」
アルフォンシーナさんが伝言してくれます。
おや、随分と早いですね?
まあ、私は【竜城】の相談役を名乗っていますので、先方は【竜城】の威光を忖度して最優先で案件を処理してくれたのかもしれません。
「わかりました。では明日の午前9時に伺うと伝えておいて下さい」
「畏まりました」
明日は、午前中【魔法ギルド】に向かうつもりでしたが、先に【ダビンチ・メッカニカ】に寄ってからにしましょう。
・・・
私は練兵場の役割も果たす【竜城】内の【闘技場】にいました。
衛士機構への戦闘術指導の為です。
とはいえ、私から特段教える事はありません。
彼らは優秀ですし、現代日本の警察と比較しても極めて理に適った方法で任務を遂行していました。
一般的に兵士や竜騎士に比べて、衛士は弱いと見なされています。
とんでもない。
それは誤りです。
確かに対象を破壊・殺傷する技術においては兵士や竜騎士には及ばないでしょうが、衛士は決して弱くなどありません。
衛士は対人戦闘に特化した実力行使組織です。
対象を殺さず、又なるべく傷付けずに制圧・逮捕する専門集団が弱い筈はありません。
衛士は間違いなく強者でした。
ただし、衛士達は個人の武力を頼りにするのではなく、衛士機構全体としての強さを誇りとするのです。
犯罪者と対峙した衛士は1対1で犯罪者に挑むようなスタンド・プレイはしません。
必ず応援を呼び効果的な武器や装備を用い、常に圧倒的に有利な状況を作り出して、対象を集団でボコボコにします。
衛士は卑怯と罵られたとしても、無辜の民や味方、そして犯人も含めて1人も死傷者を出さない事を是とし、それを誇りとする崇高なるプロフェショナルでした。
私は、彼らの矜持を好ましく思います。
私は衛士達に、対象を殺さずに制圧する為の魔法を、より積極的に活用するようにアドバイスしました。
【麻痺】、【昏睡】、【睡眠】などです。
これらは衛士の任務中日常的に使われていましたが、私は少し工夫をする事で、より効果的な運用が可能になる事を教えました。
私の前には強力な【防御】を張った犯人役の衛士が1人立っています。
「対象が強力な【防御】や【魔法障壁】を展開している場合、一般的な【麻痺】や【昏睡】や【睡眠】は【中位魔法】に分類される為、【中位】以上の【防御】は破れません。もちろん【麻痺】や【昏睡】や【睡眠】の出力を上げて、【高位】や【超位】相当の魔法として、【防御】や【魔法障壁】を貫通させる事は可能ですが、そのように強力な魔法を行使可能な人物は限られていますよね?そういう場合は、【超位】の【魔法中断】を刻んだ【魔法石】を使います」
私は【魔法石】に刻まれた【魔法中断】を発動させました。
私は素早く【麻痺】の詠唱を行い麻痺して倒れた犯人役の衛士に【排出】の魔法が【効果付与】された手錠をはめて拘束します。
【排出】の魔法は対象の魔力を吸い取り外部に流出させてしまう魔法。
この手錠は衛士機構で犯人拘束の為に日常的に使用されている物で、この手錠をはめられた者は魔力が吸い取られ魔法の行使が出来なくなります。
魔力の【排出】は生命維持に必要な最低限のレベルで止まる仕組みなので死に至る事はありません。
衛士機構の持つハイテク装備でした。
魔力を吸収する魔法には【吸収】というものもありますが、こちらは吸い取った魔力を溜めるという特性がある為、犯人の魔力が大きい場合には吸収された魔力の負荷で手錠が破壊されてしまう可能性があり逮捕・拘束には不向きです。
「このようにして制圧出来ます」
「衛士が高価な【魔法石】を携帯するのですか?」
衛士機構のコルネリオ衛士長が代表で質問をしました。
【超位魔法】を刻める品質の【魔法石】は大変に高価です。
これを衛士全員に装備させるのは、かなりの予算が必要となりました。
「確かに高価ですが、この【魔法石】で魔法を発動させる方法は、魔法を行使出来ない者でも【魔法石】に刻まれた魔法効果を発動させる事が出来るという利点があります。私は今回【麻痺】を自分で詠唱しましたが、【麻痺】の魔法効果を【効果付与】しておいた別の【魔法石】を使えば、魔法が使えない衛士でも強力な【魔法使い】に対抗し逮捕出来ます。衛士機構の予算は潤沢です、これは装備品として必ず配備するべきだと思います」
「なるほど一考の価値がありますね」
コルネリオ衛士長は風貌は厳しいのですが実は知性派です。
彼は、この方法の有用性に気がついたのでしょう。
殆どの場合、犯罪者より衛士機構の方が資金的に潤沢な筈です。
衛士機構より資金的に上回る個人や集団を相手にする時は、それは犯罪の取締りではなく、もはや戦争。
つまり軍や竜騎士団……最悪の場合は【神竜】の出番となる訳です。
通常の犯罪者相手には、こういう方法があると知らしめておけば犯罪抑止という意味でも効果が期待出来るでしょうからね。
・・・
魔法の後は戦闘術。
棒術、杖術、そして盾術などを指導しました。
現代日本では、逮捕術と呼ばれる特殊技術です。
この辺りは、さすがは衛士。
私の言わんとする事を、すぐに飲み込んでくれました。
「盾術は対人制圧に極めて有効です。特にデモ鎮圧などでは盾隊で取り囲んで包囲するのです。これなら相手を傷付けず制圧出来ます。性能の高い盾なら、シールド・バッシュなども有効でしょう。唯一気を付けなければならない点は、相手が魔法使いの場合です。当然の事ながら盾隊は密集隊形を取りますので、範囲魔法には脆弱です。これは別途対策が必要でしょう……」
日本の機動隊のイメージですね。
衛士達は真剣な面持ちで傾聴しています。
その後は運用面でのアドバイス。
「騎馬衛士隊を復活させてみては?」
900年前は普通にいた騎馬衛士も【ドラゴニーア】では大昔に廃止されていました。
時代の流れなのでしょうか?
【ドラゴニーア】の移動手段は飛行が一般的。
衛士機構は【翼竜】を騎獣として配備していましたが、地上では現在騎乗警らは行なっていませんでした。
「騎馬衛士ですか?」
「はい。騎馬に乗って都市内を警らするのです。騎乗すれば見晴らしが良くて監視に役立ちますし、とても目立ちます。そして、最も重要な事は騎馬衛士は格好良いですからね」
私の言葉をジョークと解釈したのか、傍聴する衛士達から、ドッと笑いが起きます。
しかし、私は真面目に言っていました。
衛士の格好良さは、端的に言って重要な事です。
大小の飛空船により公共交通機関が発達した【ドラゴニーア】の【竜都】では、特別な許可のない個人が地上で騎乗する事は交通法規上禁止されていました。
その中で衛士が騎馬により警らを行えば間違いなく目立つでしょう。
「衛士の姿をワザと市民にアピールするのですね?」
「そうです。騎馬衛士が現場に急行する際には何かサイレンのような大きな音を鳴らすのも良いですね。一般の交通は騎馬衛士に道を譲るルールとしておくのです」
パトカーや白バイのイメージでした。
「なるほど」
「街中で衛士の姿を目立たせる意味は、とても大きいですよ。善良な市民には衛士に守られているという安心感を与え、良からぬ事を企む連中には脅威を与え犯罪を思い留まらせる事が期待出来ます。あなた達衛士は制服や専用の鎧を着て目的もなく街中を巡回するだけで、治安の維持や犯罪の抑止に多大な貢献が出来ます。つまり皆さんは市民にとって存在そのものが秩序であり正義なのです。何とも素晴らしい特別な職務だとは思いませんか?」
衛士達は力強く頷きます。
「であるならば、皆さんは常に誇りと士気と職業意識を持って、品行方正な姿で職務に臨まなければいけません。衛士隊は周囲の人達に自分達の姿を見せて存在をアピールする事も重要な仕事の内。つまり、衛士にとって見栄えの良さや格好良さは必須の素養です。もしも、あなた達がシワシワの制服や汚れた鎧姿で歩いていたり、道に唾を吐くなど品行が乱れていたり、汚い言葉使いや横柄な態度で市民に対応したり、やる気がなさそうにしていたら、それを見た市民はどう思いますか?」
衛士達は自戒を込めて頷きました。
「衛士隊は、格好良く見せるのも任務の内です。あなた達、全ての衛士は紳士・淑女であり、子供達のヒーローでなければいけません。常に制服にアイロンを掛け、鎧をピカピカに磨き上げ、髪を整え髭を剃り、背筋を伸ばしてキビキビとした動きで颯爽と街中を闊歩し、子供達が憧れる格好良い衛士隊を目指して下さい。それが治安維持と犯罪抑止に必ず役立ちます」
どうやら、この私からの激励の言葉が、彼らのツボに刺さったようです。
以後、衛士達は見栄えを意識して高い士気の元、日々の任務に当たるようになりました。
お読み頂き、ありがとうございます。
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