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第229話。2人でディナー。

本日、8話目の投稿です。

【知の回廊】最深部。


 私とグレモリー・グリモワールは、ゲームマスター本部のエントランスに【転移(テレポート)】して来ました。

 エントランスから通路を歩いて、【ワールド・コア】ルームに入ります。


「お帰りなさい、チーフ。いらっしゃい、グレモリーさん」

 ミネルヴァが声をかけて来ました。


「ただいま、ミネルヴァ」


「お邪魔します、ミネルヴァ」


「皆は、どこにいますか?」

 私は訊ねます。


「夕食でイタリア料理を召し上がり、今は、食後のデザートとしてケーキ・バイキングに移動していますよ」


 ケーキ・バイキング……。

 私は、ソフィアとウルスラに、禁断の魔境を教えてしまったのではないでしょうか……。

 これから、毎食後、デザートを食べにケーキ・バイキングに入り浸るソフィアとウルスラの姿しかイメージ出来ません。


 まあ、2人は食べ物によって健康を害したりする心配はないので構いませんけれどね。


「グレモリー。どうしますか?皆と合流しますか?」


「夕食にケーキ・バイキングはキツいね……待っていてもらって、別の所で食事をしよう」


 あ、そう。


「何を食べますか?」


「そだね〜、こっちで、あまり見かけないモノがあればね……」


「なら、中華料理などはどうですか?」


「おっ、良いね。中華料理と言っても色々だけれど、何を食べる?せーの、で言ってみようか?」


「良いですよ。メニューですね?」


「そうそう、今、何が食べたいか、だよ」


「「せーの……麻婆豆腐!」」


「決まったね。四川風の辛〜いヤツね」


「山椒が効いたヤツですね」


「そうそう、アレを熱々の白いご飯に乗っけて、かっこみたいね〜」


「海老チリも頼みましょう」


「それは外せないでしょう。担々麺も食べたいね〜」


「良いですね。さあ、行きましょう」


 私達は、1つの建物の最上階に入っている四川料理の店に向かいました。

 最上階……つまり高級店です。


 地球では中華料理は、世界中で食べられますが、この世界(ゲーム)では、中華料理に類するモノは、イースト大陸の【ザナドゥ】料理なのですが、【ドラゴニーア】などでも、あまり見かけません。

【ザナドゥ】が孤立主義を貫いているからです。

 また、地球とは違い、この世界(ゲーム)には、民族主義という考え方がありませんので、必然的に【ドラゴニーア】人だとか、【ザナドゥ】人だとか、というような民族定義自体が存在しないのです。

 つまり、世界中に移住して暮らす日系人コミュニティや、華僑コミュニティのようなモノもありません。


 この世界(ゲーム)で、種族の違いと言えば、【(ヒューマン)】、【エルフ】、【ドワーフ】……など。

(ヒューマン)】の中で、【ドラゴニーア】民族だとか、【ブリリア王国】民族だとか、【ザナドゥ】民族だとか、言っても、ポカーン、とされるだけです。


 ただし、【(ヒューマン)】の中でも、大陸ごとに少しだけ外見上の特徴に違いはありました。

 例えば、ノース大陸には、金髪で青い眼の【(ヒューマン)】が多い傾向がありますし、サウス大陸には肌と髪の色が濃い【(ヒューマン)】が多い傾向があります。

 これは、遺伝的な要素というより、紫外線量などに対応する為の体質的なモノと設定されていました。

 なので、ノース大陸出身の金髪碧眼の【(ヒューマン)】の夫婦がサウス大陸に移住して子供を産むと、その子は、肌や髪の色が両親とは違う濃い色に産まれる事になります。


 不思議現象ですね。


 また、イースト大陸は、やや東洋的な容姿……ウエスト大陸は、やや西洋的な容姿……真ん中のセントラル大陸は洋の東西を合わせたような容姿に見えます。

 こちらは、髪や目や肌の色よりも、遺伝される傾向が強くなります。


 この世界(ゲーム)では外見上の違いで、偏見を持ったり差別されたりするという概念が存在しません。

 住む場所が違えば、外見が違っているのは、当たり前。

 なので、そんな些末な事は、いちいち取り沙汰される事柄ではないようなのです。


 まあ、【(ヒューマン)】同士で、違いを探すような事をしても、意味はありません。

 種族は、【オーガ】や【ドラゴニュート】や【獣人(セリアンスロープ)】や【樹人】……と、あまりにも違い過ぎて比較にもなりません。


 そもそも樹木なのに人種ですからね。

【樹人】は喫食して栄養を取る事も可能ですが、光合成もしています。

 さらに、人種という事は、【樹人】と【(ヒューマン)】は、繁殖が可能なのです。

 もはや意味がわかりません。


 なので、この世界(ゲーム)では、目の色、肌の色が違うくらいの事で、とやかく言うNPCはいないのです。


 ・・・


 私とグレモリー・グリモワールは、四川料理店に入りました。


「とりあえずビールかな……」


「なら、私も飲みましょう……」


「ビール2つと、海老チリと、鶏とカシューナッツのピリ辛炒め、それから青菜炒めも下さい。ノヒトは?」


「シェアしますか?」


「そだね〜」


「なら、酸辣湯(スーラータン)と、回鍋肉(ホイコーロー)と鶏かぶりを恐れずに……果敢に棒棒鶏(バンバンジー)も。とりあえず、それで」


「ん?バンバンジーって、四川料理?」


「私も、この店に来るまで知らなかったんですよ。あの蒸し鶏のバンバンジーは、元は四川料理だと言われているそうです」


「なるほど」


 ビールで乾杯。

 ツマミは、棒棒鶏(バンバンジー)とザーサイ。


「ぷは〜っ、やっぱり、キンキンに冷えたキリッと辛口のビールじゃなきゃね〜。こっちのエールは、不味くはないんだけれど、ヌルくて甘くて、ちょっとね〜」


「味の濃い料理と一緒に飲むならビールですね」


「だね〜」


 注文した料理が次々に運ばれて来ました。


 これは、ナイスチョイスでしたね。

 どれもこれも素晴らしい。

 組み合わせもバッチリ。

 おかげでビールが進みます……ビールの、お代わりを……。


 ノヒト……我らはボウリングなる遊戯に興じる事にしたのじゃ……夕食を食べ終わったら、こっちに来るのじゃ。


 ソフィアが【念話(テレパシー)】で伝えて来ました。


 了解です。


 私は、【念話(テレパシー)】で答えます。


「ん?どした?」


「ソフィアからです。皆は、ボウリング場にいるそうです」


「あ、そう。あのソフィアちゃんて、本当に面白いよね。現世最高神の【神竜(ディバイン・ドラゴン)】だって言われても信じられないよ」


「まあ、あの娘は、頭が少し()()なので、信じられないでしょうね」


「お風呂でさ、あの子達、毎日海戦ゴッコして遊んでいるんだってよ。昨日、誘われて私達も一緒にやったんだけれど、結構熱くなったよ。ソフィアちゃんと、ウルスラちゃんが、無双してた。2人のウミガメ戦術で見事にしてやられたなぁ〜」


 ウミガメ戦術?

 密集可変陣形がイワシ戦術、横陣砲列陣形がタツノオトシゴ戦術、一撃離脱がサバ戦術……というのは、オラクルから教えてもらいましたが……ウミガメ戦術とは?


「まあ、一応、ソフィアは、戦術ステータスもカンストしていますからね」


「ソフィアちゃん……ノヒトと一緒にやりたい……って言ってたよ。一緒にやってあげれば良いのに……」


「海や湖でなら、ともかく、お風呂は不味いですよ。服を脱ぎますからね。ソフィアやウルスラだけなら、私は保護者枠で問題ないでしょうが、ソフィアの入浴には、必ず【女神官(プリーステス)】達が多数同伴します。さすがに、それは……」


「ははは……確かに【ドラゴニュート】の女子はボンキュッボンだからね〜」


 私は、若い頃は、モデルみたいにスリムなタイプの女性が好きでしたが、中年になってからは、たおやかなタイプの女性も……ゲフン、ゲフン。


「それは、そうと、艦隊も【サンタ・グレモリア】に運びました。【ウトピーア法皇国】方面は、どうするのですか?」

 私は、華麗に話題を変えました。


「まずは、あちらさんの出方で4つのパターンがある。主力を【イースタリア】に、ぶつけて来るか……【ノースタリア】に、ぶつけて来るか……2軍に分けて同時攻撃をして来るか……両方無視して王都【アヴァロン】を一気に叩くか……だね。ピオさんとディーテ達は、2軍に分けて来るって予測しているよ」


 2正面作戦は、愚策なのですが……。


「どうして、そう思うのですか?」


「【ウトピーア法皇国】の連中は【ブリリア王国】を舐めきっているからだよ。多正面作戦をしても、圧倒出来ると考えている。それから、根拠はもう1つ。私は、【ウトピーア法皇国】軍の諜報部隊の士官を【眷属】にした。彼女が、その2正面作戦を前提に偵察していたんだよ」


 なるほど。


「ならば、片方を艦隊で叩いて、もう片方を、あなたが叩くのですね?」


「だね。それで撃滅してから、【ウトピーア法皇国】に攻め込む。軍事基地と軍需工場を爆撃する。それは、世界(ゲーム)(ことわり)的には、どう?軍隊以外の一般市民NPCが犠牲になるかも、だけれど……」

 グレモリー・グリモワールは、眉間にシワを寄せました。


「問題ありませんね。敵に先に攻撃させた後に反撃するなら、世界(ゲーム)(ことわり)的にも、戦時国際法的にも、合法です。ただし、可能な限り、市民の犠牲は抑える方向で配慮してもらいたいとは希望しますけれども」


「わかった」


「で、勝利条件は、どう設定しているんですか?全面戦争をすれば、あなたが勝つでしょうが、【ブリリア王国】にも、あなたにも、【ウトピーア法皇国】を占領統治するまでのリソース(余力)はないでしょう?」


「うん。勝利条件は2つを考えている。とりあえず敵の軍隊と軍需工場を叩いて、物理的に継戦能力を奪うのは、2つともに共通する。次に、プランAは、敵の親玉……つまり法皇をさらって来る。法皇の身代金代わりに、北西の遺跡(ダンジョン)とその一帯の領土を割譲させる。プランBは、徹底的に【ウトピーア法皇国】の産業インフラを破壊した後に、同じく、北西の遺跡(ダンジョン)とその一帯の領土を割譲させる。ただし、プランBは、敵の市民の犠牲が増えるから、あまり、やりたくはない」


 ウエスト大陸の北西の遺跡(ダンジョン)は、オルフェーシュチ遺跡(ダンジョン)ですね。

 元は、【ブリリア王国】と【ウトピーア法皇国】の国境地帯にあり、2国間条約で、共同管理されていましたが、先の戦争で、【ウトピーア法皇国】が実効支配を確立させてしまい、現在は、実質【ウトピーア法皇国】の領土となっていました。


 遺跡(ダンジョン)鉱山説という学説があります。

 これは、遺跡(ダンジョン)から産出されるアイテムや素材が、半ば鉱山資源のように国家を富ませる、というモノ。

 遺跡(ダンジョン)を国内に持つ事は、非常に有用なのです。


 グレモリー・グリモワールは、戦争に勝って、【ウトピーア法皇国】から、遺跡(ダンジョン)をぶん取ってやろうという算段なのでしょう。


 悪くない落とし所なのではないでしょうか?


 何故なら、仮に領土を割譲させた場合、その元【ウトピーア法皇国】領の統治は、困難を極めるはずだからです。

 ただでさえ、多種族に寛容な国柄の【ブリリア王国】と、【(ヒューマン)】至上主義の【ウトピーア法皇国】とは、考え方が全く違います。

 一国二制度や、植民地政策などを推進しても、将来の破綻が目に見えています。

 最悪の場合、反乱やテロなどが頻発して、爆弾を飲み込むような事になりかねません。


 その点、遺跡(ダンジョン)なら、人は住んでいませんので、そういった問題は無視できます。

 なるほど。


「ならば、理想は敵の法皇を捕まえて捕虜にする、という事なのでしょうが……そんな事が可能なのですか?」


 もちろん、私になら可能です。

 問題なのは、それがグレモリー・グリモワールに可能なのか、でした。


「法皇は、【ウトピーア法皇国】の法皇都【トゥーレ】の中央教会から一歩も外には出ない。つまり、【トゥーレ】中央教会に行けば、絶対にいるって事でしょう。敵の本丸に突入して引きずり出して連れてくりゃ良いっしょ?」


 何と、短絡的な……。


「私は、国家紛争には介入出来ませんからね」


「わかってるって。もう、十分、助けてもらったよ」


 何だか、物凄く嫌な予感がしますね。


「麻婆豆腐と担々麺を下さい。後、ライス大盛りも」

 私は、シメを注文しました。


「私も、麻婆豆腐と担々麺と大盛りライス下さい」

 グレモリー・グリモワールもシメに入ります。


 ・・・


「お待たせ致しました」

【コンシェルジュ】が、料理を配膳してくれます。


 おーっ!

 四川料理の王道。

 日本人も大好き、麻婆豆腐。

 熱々の、ご飯に乗っけて……。


 アチチ……ウマーーッ!

 麻婆豆腐……最高っ!


 毎日はいらないですけれど、時々、無性に食べたくなる中毒性がありますよね。


 あー、もう面倒だ。

 ライスを麻婆豆腐の中に、投入して、混ぜてしまえ。


 ふと、グレモリー・グリモワールを見ると、全く同じ行動をしていました。


「あははは……お行儀が悪いけれど、私達2人だけなら、構わないよね〜」


「ですね」


 麻婆豆腐ライスをかっ込みます。

 美味いっ。


 お後は、担々麺。

 担々麺も至極。


 いやぁ〜、満足です。


 会計は、私は無料。

 グレモリー・グリモワールの支払い分を2人で割り勘にします。


「ごちそうさま〜。満腹だよ」


「ごちそう様でした。ありがとう」


「ありがとうございます」


 私達は、調理から給仕まで1人でやってくれていた【コンシェルジュ】に礼を言って、四川料理店を後にしました。


 ・・・


 私とグレモリー・グリモワールは、ボウリング場に向かい、皆と合流します。


「ノヒト、遅いのじゃ」

 ソフィアが言いました。


「お待たせ、ボウリングはどう?面白い?」

 私は、ボウリングの貸し靴に履き替えながら訊ねます。


「面白いのじゃ。おっ、我の番じゃな。ノヒト、我の華麗な投球を見ておれ」

 ソフィアは、ボールを両手で抱えました。


 そして、ソフィアは、レーンの反対方向に歩き出します。

 えっ?

 どこに行くのですか?


 ソフィアは振り返り、レーンに目がけて駆け出しました。

 あー、助走距離を稼ぐ為に、後ろまで下がったのですね。


 タッタッタッ……ピョーン……ゴロゴロゴロ……ポイッ、ゴォッ、ズドッコーーンッ!

 シュタッ!


 はぁ?!


 なんちゅう、メチャクチャな投げ方を……。


 ソフィアはボールを抱えて走り、ボールを抱えたままジャンプして、ボールごと転がりながら、レーンの手前でボールを投げ、轟音を響かせて、ストライクを取り、着地を決めました。


 このボウリング場全体が不壊・不滅のオブジェクトでなければ、成立しない投球フォームです。

 大砲の弾も斯くや、という超豪速球。

 あんなのを喰らえば、【古代(エンシェント)(ドラゴン)】でも殺せるでしょう。


 この球技は、果たしてボウリングなのでしょうか?


 見れば、ソフィアのスコアは、220点、280点、300点、300点、300点、300点、300点、300点……。

 あんなメチャクチャな投げ方で、どうして、パーフェクト・ゲームなんか取れるのでしょうか?


 聞けば、ソフィアは初め、遊び方を説明してくれたボウリング場担当の【コンシェルジュ】に習った通り、理想的なフォームで投げていたそうです。

 しかし、いかんせん身体が幼稚園児体型な為に、上手くいかず、やがてオリジナル投法にチェンジ。

 そして、パーフェクト・ロードを爆進し始めたのだ、とか。


 いや、まあ、ルールの範疇でなら、どんな投げ方をしても構いませんよ。


 私は、ディーテ・エクセルシオール、フェリシア、レイニール、グレースさんのいる、一般人チームに合流しました。


 前ゲームの4人のスコアは、216、208、194、180ですか?

 地球人的感覚ならば、4人とも相当上手いのですが、ソフィア達のデタラメさを見た後なら、ホッとします。


 いつもなら早寝早起きのフェリシアとレイニールも、今日ばかりは、夜更かしOKなのだ、とか。


 楽しそうで何よりですね。

 こうして子供達が笑っていられる世界であれば、と願います。

お読み頂き、ありがとうございます。


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